浅井健一がUAらと結成したバンド、
AJICOにしか発揮できない真価を
『深緑』に見る

全編に溢れるアンサンブルの妙味

なぜバンドであったのか。AJICO結成の首謀者は浅井で、彼がUAを誘い、UAが彼女自身のソロでもサポートをしていた椎野恭一(Dr)をメンバーに推挙。ふたりの間で“ベースはアップライトが弾ける女性”と決めていたそうで、あるイベントでTOKIE(Ba)を観た浅井が直接声をかけて、後日4人でセッションしたことから始まった。AJICOがよくある1、2曲だけの企画ものではなく、バンド結成に至ったのは、首謀者である浅井がバンドを組みたいと思い、UAもそれに共感したからに他ならないわけだが(※馬鹿みたいな文章ですみません…)、1stアルバム『深緑』を聴いてみると、“本当にバンドがやりたかったんだろうな”と思えてくるし、もっと言えば、その音像からはこのメンバーで音を出してみたかったことがよく分かる気がする。[ほとんどバンドとヴォーカルが一緒の一発録りで録音している]ことにも由来するのかもしれないが(※[]由来Wikipediaからの引用)、どの楽曲でも各パートの音が実に生々しい。そして、それらの音がどのように折り重なってアンサンブルを作り上げているのかが分かるように録音されているように感じられる。

全曲そうなので例を挙げるまでもないけれど、ここはM6「GARAGE DRIVE」を見てみよう。イントロはギターの音だろうが、弦を弾いてる感じではなく、弦をこすって鳴らしているような、ノイジーで不思議な音から始まる。そこからリズム隊が加わり、もう一本、別のギターも鳴っていく。メインヴォーカルは浅井で、彼のハイトーンの歌声に呼応してか、ギターの音も甲高い。ベースラインは独特のうねりを持ちながら楽曲を支え、タンバリンが独特のダンサブルさを醸し出す。スネアの音も鋭角的で、この「GARAGE DRIVE」は『深緑』収録曲中、最もR&Rなナンバーと言えるだろうが、幻想的なUAのコーラスが決してアグレッシブなだけではない、特有の空気感を生み出しており、ひと工夫どころか、ひと癖もふた癖もあるナンバーに仕上がっている。最後はドラムのシンバルの残響音の、文字通り残った響きが去っていく感じもとてもいい。

また、AJICOのアンサンブルを語るうえで外してはならないのは、1stシングルにもなったM11「波動」、そのアウトロではあろう。いや、終盤の歌のない部分なので便宜上、アウトロとは言ったものの、3分にも及ぶ演奏なのでそう呼ぶには忍びないというか、ここもまた楽曲の中心とも言えるセクションである。エレキのアルペジオから始まるサビ出しで、2番からリズムが入るという、楽曲が進行するに従って、どんどん3ピースの音が絡まっていくスタイルなので、その後半3分はバンドアンサンブルが楽曲中、最も複雑な箇所ではある。ただ、“複雑”とは言ってみたものの、それは明らかに“密集した”とも“ごちゃごちゃした”とも違う、抑制の効いたひしめき合いと言おうか、ひと筋縄ではいかないバンドアンサンブルであることは間違いない。おそらくアドリブであり、インプロビゼーションに近い演奏ではあろう。だが、こういうところにAJICOがバンドであることが凝縮されているとは思うし、このバンドの象徴でもあると言えると思う。

OKMusic編集部

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