吉田兄弟が20周年にして三味線の新た
な可能性に挑む公演『三味線だけの世
界』ーー三味線の新たな一面と伝統的
な面の両方を見せたい

12月10日(木)に大阪・新歌舞伎座で行われる『吉田兄弟 20周年記念 三味線だけの世界』。バンド編成をはじめ、ギタリストのMIYAVIやピアノトリオのH ZETTRIOらとのコラボレーションなど、三味線の枠を超えた表現を精力的に行ってきた二人が、20周年記念コンサートでは三味線1本で勝負する。開催を前に来阪した兄の良一郎に、コンサートにかける想いを聞いた。
●弟と二人だけのコンサートは修行のよう●
――まずは、『吉田兄弟 20周年記念 三味線だけの世界』に向けての意気込みをお願いします。
コロナ禍の影響で公演延期や中止が多いなか、新歌舞伎座さんで演奏させてもらえることを本当にうれしく思います。僕は新歌舞伎座の空間がとても好きで、和ものをやるにはピッタリなんですよね。今回は20周年ということで、あえて三味線だけでどこまで可能性を見せられるかという挑戦でもありますし、この『三味線だけの世界』というのは5歳からずっと一緒にやってきた僕たちが大切にしてきたタイトルでもあって。「津軽じょんがら節」に限らず、関西の皆さんに「こんな可能性もあるんだよ、こんな色も出せるんだよ」というところを見てほしいですね。完全に二人だけなので、僕たちにとっては修行のような公演です(笑)。20年間やってきて、デビュー当時の自分たちと今の自分たちでは音色の響きも全く違いますし、大阪では毎年のようにコンサートをやってまいりましたので、進化具合を見てほしいと思います。
――コンサートの構成を教えてください。
基本的には三味線二人なので、二人の合奏から始まって、バンドでやっているものもあえて三味線だけでやったりとか、お互いのソロのコーナーもあります。僕と弟はカラーが全く違って。僕はどちらかというとメロディで攻めていく感じで、弟はリズムだったり、縦ノリな感じで攻めていきます。そして、終盤はお約束の「津軽じょんがら節」を約16分間、演奏します。そこがある意味、この『三味線だけの世界』の見どころですね。「津軽じょんがら節」にもソロがあって。「津軽じょんがら節」は20年間、ほぼアドリブでやっています。それこそ、お客さんとのキャッチボールですね。僕たちが演奏して、お客さんが拍手で応えて、また僕たちが応えていくという、そのキャッチボールが大阪はすごくしやすいです。正直、デビューした当時は「大阪の反応はつらいかも……」と思っていたのですが、僕たちを認知していただいてからは、ものすごく演奏しやすい場所になりました。リピーターの方が「ここ!」というタイミングで感じで拍手してくださって、僕たちもフレーズで応えていけるので。
――弟さんと二人だけのステージは修行のようだということですが、そこをもう少し詳しく教えてください。
完全に二人だけで1時間半以上のコンサートをやるという意味での難しさがあります。僕の調子が悪かったら弟もすぐ気付くと思いますし、弟の調子も「今日は調子いいかな、悪いかな、今日はこのノリかな、このテンポだな」というのを常に感じるんです。そして、会場のノリや空気感も僕たち二人だけで作り上げないといけない。バンド編成とか、キーボードやギターとか入ると、いろんな雰囲気が作れて伝わりやすいと思うんですけど、そこも難しいですね。
――二人というのは原点ではありますが、コラボやバンドでやればやるほど二人で演奏するというシンプルな形の難しさに気付いたということでしょうか?
そうですね。コラボやバンドでやればやるほど三味線の新たな可能性を感じますし、伝統的な難しさや重要さも感じます。だからその両面を見せたいんですよね。伝承しなきゃいけない部分と革新的な部分、その両面を見せるのが吉田兄弟の役目だろうなと思っています。両面を見せるところでの難しさがありますが、それができるアーティストも少ないと思います。それこそ、ロックとかクラシックを演奏する時と「津軽じょんがら節」を演奏する時では三味線の構え方が変わるんですよ。音楽の種類とかジャンルによって、心の持ちようも構え方も微妙に変わります。ロックっぽい曲だと三味線の構えがギターっぽくなったり、ちょっと足を閉じてやってみたりとか(笑)。
――その変化は客席から見てもわかるものでしょうか?
気づく人は気づくと思います。ただ、袴なので見えないかもしれないですけど(笑)。そういうふうに構え方に変化が表れるのも、津軽三味線が日本の伝統を超えて、1つの楽器として進化しているからだと思うんです。そこが自分たちも不思議です。だからこそ、ロックやスパニッシュ要素などいろんな引き出しを開けるのが僕たちの役目で、そこを見てほしいのがこのコンサートです。
――デビュー当時と今では音色の響きが変わっているとのことでしたが、ご自身のなかでどう変わったのでしょうか?
若い時は良くも悪くも勢いで弾いていたところがあり、調子も良い時と悪い時がはっきり出てしまっていました。21歳でデビューして、27、8歳のころにその限界を感じたというか、ちょっとこれは厳しいなと考え始めて。そこからさらに1音、1音を追及することに立ち向かっていきました。今はどんなウォーミングアップをしたらいいのか、どの曲が一番自分の練習曲になるのかというところにも向かっていますし、音色はどんどん変わっています。
――今年はコロナ禍で公演が中止になり、いろいろと大変だったと思うのですが、活動自粛期間はどのように過ごされていましたか?
3月ぐらいから公演が全部中止・延期になって、自分たちが音楽を発信する、伝える場所がなくなりました。僕たちも一度だけ配信ライブをやりましたが、日本の皆さんはもちろん、世界の皆さんに観てもらえるというメリットはありながら、デメリットとして、キャッチボールが全くできないんですよね。やっぱり津軽三味線の真髄はそこなので。いいプレイをして、お客さんが拍手をしてくれて、僕たちもプレイで返していく。全く反応がないという難しさを改めて感じました。先が見えないなか、家で練習をしていても、今、どこに向かって練習しているんだろうと感じたり。テレビアニメ『ジビエート』のオープニングテーマ曲である「GIBIATE」という作品をSUGIZOさんと一緒に作って、そのプロモーションを世界各地でおこなう予定だったのですが、それも全部なくなったので、さあどうすると。9月から、ようやく少しずつライブも行われるようになり、僕たちも半年ぶりにコンサートをしましたが、「ちょっとリハビリが必要だぞ」というのは感じましたね。グルーブ感やコンサートの最後にむかってのドライブ感がかなり落ちていると、言葉に出したわけではないですけど、僕も弟も感じていたと思います。
●三味線は不器用なところが武器。そこが勝負どころ●
――昨年末でデビューから丸20年が経って、今、21年目になりました。この先、10年後、20年後の豊富を教えてください。
まず『吉田劇場』(YouTubeで配信中)というプロジェクトでMIYAVIさんやH ZETTRIOさん、華風月さん、Creepy Nutsさんなど、ジャンルが違う方々とコラボレーションしていて。たくさんコラボレーションをしてきましたが、全部受け身だったんです。でも20周年を機に僕たちからオファーをして、やりたいアーティストとセッションして行こう、コラボしていこうと思うようになりました。また、20年間いろんなことを積み重ねてきて、コラボレーションの難しさも実感してきました。コラボレーションは三味線が生きなきゃ意味がない。ただメロディを弾くだけでは三味線が死ぬんです。ましてやコラボするときはお互いが生きなきゃいけないので。そうなった時に、僕たちが常に考えなきゃいけないのは津軽三味線らしさ。三味線だからできるフレーズで、どうコラボしていくかということ。ギターっぽいことをしているのでは三味線である意味がなくなってしまうので。20年を超えたタイミングからは、これまでの経験を生かして、さらなる可能性を見つけるためにコラボレーションしていきたいし、その可能性を見てほしいです。
――それがさらに次へとつながって行くということですね。
そうですね。今後、25周年、30周年に向かっていくため、受け身ではなくて、さらに攻めていきたいなと思いますし、正直、歳も取ってきましたから、いつまでも速く指を動かせるとは限らないので……(笑)。三味線は不器用なんですよ。弦は3本しかないし、フレッドがないので正確な音を出すのも大変だし、皮は破ける、弦は切れる、メンテナンス含めて本当に大変な楽器です。だけど、日本ならではの良さが詰まっていて、その不器用なところが武器といいますか、そこが勝負するところだと思っています。
取材・文・撮影=Iwamoto.K

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