市川染五郎と市川團子が歌舞伎座で『
四の切』に挑む 『吉例顔見世大歌舞
伎』取材会レポート

東京・歌舞伎座で11月1日(日)、『吉例顔見世大歌舞伎』が初日の幕をあけた。第四部では『義経千本桜』「川連法眼館(以下、四の切)」が上演されている。
歌舞伎三大名作のひとつに数えられる『義経千本桜』の四段目のクライマックスにあたるのが「四の切」だ。配役は、中村獅童の佐藤忠信/源九郎狐、市川染五郎の源義経、市川團子の駿河次郎、澤村國矢の亀井六郎、中村莟玉の静御前。開幕前に、染五郎と團子がリモート取材会に出席し、芝居やお互いへの思いを語った。
■『四の切』の魅力
染五郎は2019年11月に、父・松本幸四郎と『連獅子』を勤めて以来、約1年ぶりの歌舞伎の舞台だ。出演が決まったときの心境を、「とにかくうれしく思いました。本当に大きな役です。自分がやらせていただいていいのかと不安もありましたが、うれしいという気持ちが大きかった」と振り返る。團子もまた、今年1月、おじの市川猿之助と『連獅子』を勤めて以来の舞台となる。「1月の『連獅子』で新たな発見がありました。3月に奈良の平城宮跡で『連獅子』を勤めさせていただく予定でしたが、そのチャンスがなくなり悔しかった」という。
本作の見どころを、染五郎は「実は狐の佐藤忠信が、その正体を明かしてから」とコメントした。團子も「徐々に“狐”が溢れ出してしまう面白さがある」と続き、「衣裳がきれいで、視覚的にも面白く見やすい」ともアピールした。
■義経役、染五郎
染五郎は『勧進帳』の義経を、過去に2度演じている。しかし『四の切』の義経は、今回が初役。幸四郎に教わっているという。
「義経は『四の切』の登場人物の中で、一番位の高いお役です。堂々とした存在感を出せればと思います。そのためにも台詞は一つひとつ落ち着いて、と言われています。小学5年生ごろから声変りが始まって、一応終わったと思うのですが、まだ音域が狭く、高い音を出しづらいです。古典には、抑揚をつけたり唄のような台詞まわしもあるので、高い音が課題です」
『義経千本桜 川連法眼館』源義経=市川染五郎(令和2年11月歌舞伎座) (c)松竹
古典ならではの心構えを問うと、次のようにコメントした。
「台詞が七五調の場合、リズムにのって台詞が早くなりがちです。自分が思うよりもゆっくりめに、と教わりました。(弥次喜多や三谷かぶきなど)台詞が現代語の新作歌舞伎の時は、意味や感情を掴みやすいです。でも古典歌舞伎の場合、台詞の意味から調べないといけません。父から、歌舞伎の演目や役を解説する本のコピーをもらい勉強をしたり、過去の映像や写真、劇評を読んだりして、自分の中でお役のイメージを膨らませます」
「義経は大好きな人物」と染五郎。
■駿河次郎役、市川團子
團子もまた初役で、駿河次郎を演じる。駿河は、義経の家臣で四天王と呼ばれる人物の一人だ。澤村國矢が演じる赤っ面の亀井六郎とは、同じ四天王でも対照的なキャラクターとなる。
「お稽古は楽しいです。市川猿弥さんに教わり、國矢さんとも一度あわせて稽古しました。駿河は僕より年上の大人の役です。亀井は高い声ですが、駿河は低くどっしりとした声。立廻りや、身の捌き、声で、大人の感じを出したいです。ゆっくり、しっかり、きっちり。止めすぎてもいけないけれど、台詞が流れないように、と言われています。古典の役は、台詞がない間も目線を下げず、基本的には2階席の提灯辺りを見る。これをきちっとやるようにとも教わりました」
『義経千本桜 川連法眼館』駿河次郎=市川團子(令和2年11月歌舞伎座) (c)松竹
『四の切』は、澤瀉屋と縁の深い演目だ。
「じいじ(祖父の猿翁)と猿之助さんでは、芸風が少し違います。どちらが好きとは選べませんが、澤瀉屋の型が好きです。派手な動きが多く視覚的に楽しい演目です。YouTubeって視覚的に楽しませるものが多いと思うのですが、それを「楽しい、見たい」と思う現代のお客さんには、澤瀉屋の『四の切』の面白さが通じるところもあるかなと思います」
狐忠信の「狐っぽい動きはかわいらしいですよね」と團子。
■染五郎と團子、そういう関係です!
取材会では染五郎と團子の、それぞれ15歳、16歳らしいリアクションもみられた。ここからは、一問一答形式でレポートする。
ーーコロナが与えた歌舞伎界への影響を、どうご覧になりますか?
染五郎:今は四部制なので一部一部が短いです。初心者の方でもご覧いただきやすいと思います。個人的には、7月にオンライン配信の『図夢歌舞伎』に出られたことが嬉しかったです。「この時期に一人でも多くの方に歌舞伎を見ていただくには」と父が考え、この時期の状況をプラスに考え、逆手にとって、この時期だからできることをやらせていただきました。
團子:良いと思ったことは、業界全体が新しい方向に向かっていると感じられること。『図夢歌舞伎』もですし、猿之助さんのオグリの動画、YouTubeチャンネル「歌舞伎ましょう」でのトンボの仕方なども。歌舞伎の舞台の物語以外のところを、配信できる時代になったんだなと思いました。マスクをつけた状態での稽古は本当に苦しいです! でも全体でみれば、プラスなことが多い気がします。
ーー染五郎さんと團子さんは、お互いにどのような印象を抱いていますか?
染五郎:お芝居への情熱がすごいです。『四の切』をやりたいとずっと言っていましたし、本当に好きでやっているんだなと感じます。
團子:染五郎さんには、クールなイメージがあると思いますが、歌舞伎の話をしていると、内側から「本当に好きなんだな」と感じられます。僕にはない視点も持っていて、冷静に客観的に、全体が見える役者さんなのだなと思います。あとは、僕が隣でボケまくるのを苦笑いしてるところが好きです。たぶん心の中で笑ってくれているんだと思います。
(染五郎、無言でほほ笑む)
團子:そういう関係です!(一同、笑)
ーー以前、2人で登壇されたトークイベントで、團子さんは進路に迷った時期もあったとお話されていました。現在の心境をお聞かせください。
團子:小学5、6年生の頃は深く考えていませんでした。ダメなことですが、舞台というより拍手が好きだったんです。歌舞伎のカッコよさを知り、拍手よりも歌舞伎が好きになりましたが、進路に迷ったときがあって。でも去年、じいじの本を読み、じいじにも映画監督になりたいと悩んだ時期があったことを知りました。「悩むのは変なことじゃないんだ!」と決意が固まりました。
(左から)市川團子、市川染五郎
■いつか、あの時一緒にやったねと
ーー染五郎さんは、團子さんの初舞台の翌年、2013年10月の国立劇場『春興鏡獅子』で、團子さんとはじめて共演されました。
染五郎:歌舞伎の役者さんで、ここまで仲がいいのは唯一なので。父は「いつか、あの時一緒に胡蝶をやったねと言えるように」と言っていました。将来そんな話ができるのは単純にうれしいです。
團子:照れる、照れる(顔を覆い、画面から消えかける團子)
ーー仲の良いおふたりですが、お互いに「ここは負けない」という部分はありますか?
團子:身長は! 負けないぞ!(一同、笑。取材時、染五郎173㎝、團子177cm)。ただ、身長があると女方をやるために腰を折らないといけなくなります。それって歌舞伎的に、負けてるってことかもしれません(笑)。
ーー染五郎さんはいかがでしょうか。
染五郎:……しゃべらなさ、です(一同、再び爆笑)。
ーー遠慮や我慢をされているわけではないのですよね?
染五郎:単純に性格の問題ですね。
團子:僕には無理だ(笑)。
ーー染五郎さんのお父様・幸四郎さんは、歌舞伎の妄想に定評がおありです。染五郎さんも色々考えを巡らせるタイプなのでしょうか。
染五郎:そこは本当に……受け継いでしまいました(笑)。何でも歌舞伎につなげて考えてしまうんです。絵や映画もそうですし、歌舞伎とは関係のない日常で、目に入ったものでも、つい「これを歌舞伎にしたら」とか。
ーーかねてよりお好きとおっしゃっているマイケル・ジャクソンも?
染五郎:『操り三番叟』に、マイケルのパントマイム的な動きを活かせるんじゃないか……とか考えますね。
(左から)市川團子、市川染五郎
ーー團子さんは、昆虫には関心がないそうですが、お父様の中車さんから受け継いだと感じるものはありますか?
團子:昆虫は興味ありませんが(笑)、芝居のこととなると無限にやりたくなります。父だけでなく、じいじや猿之助さんもだと思います。カッコつけた言い方をすると、ストッパーがない。体育の授業のマラソンなら、とっくに足が止まるところでも、『連獅子』なら全然動けてしまう。そこは受け継がせていただいたと思っています。
ーー團子さんがお好きなものについても、お聞かせください。
團子:BTSはカッコいいですね。外出自粛期間中、「DNA」のテテのパートを踊れるようになりました。 テテが好きです。いっくん(染五郎)はテテに似てると思っています。眼福です!
染五郎:全然……(首をかしげ、笑う)。
團子:毎日推しに会えてる気分です!
ーー今後、歌舞伎でもプライベートでもやってみたいことをお聞かせください。
染五郎:一番やってみたい役は『勧進帳』の弁慶です。その思いだけでやってきました。でも襲名を機に、女方も立役もできる父をみて、幅広いジャンルの役をできる役者になりたいとも考えるようになりました。歌舞伎以外のことも、色々挑戦していきたいです。
團子:『四の切』の忠信に憧れますが、最近は舞踊劇『黒塚』の思いが強いです。月の下での踊りが本当に好きで。何十年後のいつかの話で言えば、K-POPのダンスなどのように、4~5分と短くてキレキレの日本舞踊があってもいいなとか、グラフィックと合成された作品をやれたらいいなとか考えます。僕でなくとも、どなたかにやっていただけたら可能性が広がるのかなと。でも今は、古典をたくさん勉強させていただきたいという思いが、一番強いです。
(左から)市川團子、市川染五郎
『吉例顔見世大歌舞伎』は、11月26日(木)まで。中村獅童の佐藤忠信/源九郎狐、染五郎の源義経、團子の駿河次郎、國矢の亀井六郎、中村莟玉の静御前。17年振りとなる獅童以外、いずれも初役、新しい風を感じる座組だ。ぜひ足を運んでほしい。

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