シンガーソングライター・和 -IZUMI
-、配信ライブを開催 歌人の枡野浩
一と工藤吉生による公式レポートが到
着
2020年のパチンと弾けて落ちたピンクのバラの花びら
枡野浩一(歌人)
あ、このたび「和 IZUMI」さんに改名されたんですね。ツイッターはなんとなく見ていたのですが、ライブのキャッチフレーズのような言葉だと誤解していたので、毎日新聞社のネットニュースで改めて知って驚きました。
正直ちょっと心配になり、「夫・榊英雄」のところが「元夫・榊英雄」になっていないか、公式サイトを確認してしまいました。今のところ大丈夫だったようで、ひと安心です。
でも、どんな選択をされるとしても、和さんと「同じ学年」で、すでにバツイチの私ですから、どんな未来も、そっと見守りますね。
橘いずみから榊いずみへ。だまし絵のような華麗な改名にやっと慣れたところだったのですが、公式サイトの「2020.8.8」に書かれた改名決意表明の文章、沁みました。女優の樹木希林さんの昔の芸名(テレビ番組企画のオークションで売ったそうです)を今ではだれも会話に出さない、みたいな感じに、これから少しずつ皆に浸透していきますように。
私は演劇を観るのが好きなのですが、オンライン配信された演劇が苦手で。まったく観なくなってしまいました。なんか別物になっちゃうんですよね。でも音楽は演劇とどうちがうのか、オンラインのライブ、よいですね。
これは渋谷クワトロの客席フロアで演奏しているのですか。本来のステージに当たる部分に飾ってあった絵、神秘的でした。香川理馨子(RIKAKO)さんがいずみさんとのライブペインティングで以前描かれた一枚とのこと。
客席はないけれど、カメラマンが時々うつりこんでいるのも新鮮でした。ライブ配信しながらカメラを切り替えたり、照明が切り替わったり、スタッフのかたが演奏メンバーと同列に重要であることを再確認できた感じで。
ライブ開演前の通しリハーサルにこっそり忍び込ませてもらったような、テレビ演奏収録の現場に立ち合っているような、不思議な「独占感」を味わいながら観ていきました。全員の表情が大きくはっきり見えるのも吉。
ライブアーカイブは終電から始発までの無音の時間に聴こうと思ったけれど、仮眠をとり、朝になってからライブを聴きました。それが珍しい味わいで思いのほか楽しかった。
ここはワンルームの小さな部屋と同じくらいの広さのベランダがあり、バナナの木やバラを育てています。『失格』を初めて聴いたときのことを思いだしました。当時私は音楽誌のライターで、レコード会社からもらった試聴用カセットテープをウェークマンにいれ、移動中の駅のホームでセカンドアルバム『どんなに打ちのめされても』を聴いたのでした。
パチンと弾けて落ちたピンクのバラの花びら、という言葉が出てきたときの驚き。それを今と同じように、電車の通過音と共に噛みしめていたのでした。ピンクのバラの花びらが弾けて落ちるときの容赦なさは、当時より今のほうがよりリアルにイメージできます。
高橋みなみさんも歌っていた『わたしの証明』、好きです。短歌にしたくなりました。
あなたは歌う
「愛を語る
人に限って
愛を知らない」
また、年老いた母が倒れて短期入院するという出来事も同時に起こってしまい、なんとも騒がしい一日だったのです。ライブ配信を観ていた人、これから観る人は、どんな日々の中で和さんの曲を耳にしているのでしょう。
ゆうべはそのかたと私と旧友と三人で、珍しくお酒も飲んで打ち解けたあと、一人になって阿佐ヶ谷の「よるのひるね」という深夜営業の店でコーヒーを飲みました。店をやめようとしていたけれど先日再開することになったばかりの店長と、「若いころ好きだったけど大人になってから魅力がわからなくなってしまった小説」の話をしました。和さんの歌は、今の年齢になって聴いても、おもはゆく感じるようなところが皆無で嬉しかったです。
あの日のお答えもよく覚えているけれど、ここには書きません。2020年の今はどう考えているのか、いずれ直接伺える日がくるのを楽しみにしています。ライブのアーカイブは一週間、何度でも聞けるようなので、昼間とか、阿佐ヶ谷の仕事場でも聞いてみますね。
工藤吉生さん。くどう・よしお、と読みます。第一歌集『世界で一番すばらしい俺』が今年たいへん話題になった期待の新鋭歌人。
彼は高校時代に校舎四階のベランダから飛び降りるという自殺未遂事件を起こしたことがあり、そのことが歌集の題材にもなっているのですが、不安定な青春時代の支えのひとつは「橘いずみ」の音楽だったというのです。
《膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺》
というのが表題作ですが、ほかにも、
《美しく映る鏡があるならばそれには映らないよう走る》
といった、和さんファンにも響くような短歌をたくさん詠んでいます。和さんには一冊、事務所経由でお送りしたそうなので、お時間あるときにぜひ目を通してみてくださいね。
というわけで、工藤吉生さんに代わります。
和さん、新型コロナきびしき折から、くれぐれもご自愛ください。また、遠くない日に。
工藤吉生
そんなことを気にしているオレは工藤吉生(くどうよしお)41歳。歌人だ。七月に『世界で一番すばらしい俺』という短歌の本を出した。短歌って、57577のほうで、季語のないほうですね。半端なファンで申し訳ないけど、和(いずみ)さんのライブをレポートするのでぬらっとお付き合いください。
和-IZUMI- 2020 「風が誘う場所へ」~橘いずみ、榊いずみ、そして和(いずみ)へ~
のライブがおこなわれた。
何度も何度も何度も何度も聴いた曲だが、聴くたびいつも思う。からんできた奴らは何者なのかと。友達はなんで幽霊みたいな顔をしてたのか。それらは火事で死んだ女となにか関係あるのか。
ここで短歌を一首(短歌は「一句」じゃなくて「一首」ということになっている)。
ような顔した
友達に
死んだ女の
話聞かせる
和(いずみ)さんははじける笑顔だ。
ここで短歌を一首。
利口ではない
強くない
アスファルトへと
したたるこころ
世界は広い。見たことも聴いたこともない楽器や音がある。
つづいて、パソコンをひらいてチャットを見る和(いずみ)さん。ライブ配信ならではの一コマだ。
ここで一首。
言いつつずっと
続けてる
パチンコ屋にも
そんな人いる
人は年を取ると「ほっといてくれよ!」と叫ばなくなるものだ。だから輝いているように聴こえる。
そんなことを考えていたら短歌ができた。
くれよ!」と叫ぶ
声を聴き
令和二年の
夜にくつろぐ
最後の最後の歌はまるでいずみさんに直接語りかけられたかのように胸に響いてくる。いずみさんと自分の、一対一だ。何度も聴いて知りつくしている歌詞のはずだけど、胸の奥まで沁みてくる。
最後に一首。
少しはうまく
なったかな
昔と同じ
空を見上げた
SPICE
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