“個の時代”のアーティストたちとと
もに イープラスの新事業・エージェ
ントビジネスが目指すもの~代表取締
役会長・橋本行秀氏インタビュー

株式会社イープラスが、アーティストやその会社に向けた「エージェントビジネス」を開始した。契約アーティストとして発表されたのは、上野耕平(Sax)、角野隼斗(Pf.)、紀平凱成(Pf.)、大井健(Pf.)、髙木竜馬(Pf.)の5名と、反田恭平(Pf.)が代表を務める株式会社NEXUS。アーティスト自身が夢を実現し、それぞれの個性的な活動をさらに輝かせるため、イープラスがフレキシブルにアクティブにバックアップしていく。
イープラスといえば、2000年からネットに特化したチケット販売のビジネスを行ってきたが、ここ数年は横浜赤レンガ倉庫でのフェス「STAND UP! CLASSIC FESTIVAL」や、お洒落で居心地のよいライブレストラン「eplus Livingroom Café and Dining」、コロナ禍においていち早くスタートしたチケット制動画配信サービス「Streaming +」の運営など、ユニークな企画力でさまざまな音楽空間を提供している。
なぜ今、エージェントビジネスなのか。これからどのような展開をしてゆくのだろうか。今回SPICEでは、アーティストらのインタビューを交え、全四回にわたってエージェントビジネスをひも解いていく。第一弾は、イープラス・代表取締役会長の橋本行秀氏。このビジネスの根幹となるビジョンを聞いた。(取材・文/飯田有抄)
■なぜ今、エージェントビジネスなのか
——プレイガイドを主軸としてこられたイープラスが、アーティストのエージェントビジネスをなぜ今始めたいと考えられたのでしょうか?
その背景には、時代の変化があります。プロモーションの主体はインターネットへと移行し、広く視聴されるメディアもテレビからネットに移りつつある。アーティストたちの新しい才能は、そういう時代の中で育ってきています。そうした変化の中で、従来の業界慣習に囚われず、新しい動きを見せるアーティストが生まれてきたのです。
例えば、反田恭平さんは、大手の会社から独立して自分の会社を作りました。ひと昔前までは考えられなかったことです。彼のようなアーティストとどのような付き合い方をすれば、お互いにとって良い構造を生み出すことができるのか。何か新しい取り組み方のフォーメーションを考えていかなければならない。その思いが、今回のエージェントビジネス開始のきっかけとなりました。
また、ネット時代のアーティストという面での代表的な存在は、YouTuberピアニストたち。数十万人から100万人以上のフォロワーがいるアーティストでも、大手プロダクションに所属していません。なぜなら、彼らは自分たちでプロモーションできるから。ネットを駆使して、やりたいことはみんな自分でできてしまうし、ファンも集められる。YouTuber恐るべし、ですよ。旧来型のプロモーションを提示しても「ほかに何をしてくれますか?」と問われてしまう。そういう時代です。
こうしたYouTuberピアニストたちをはじめ、今の若いアーティストと話をしてみると、みんなそれぞれに新しい価値観や夢を持っているんですね。ジャンルや慣習に囚われず、自由に柔軟に、得意なことで伸びている。彼らをひとつの価値観や管理下に置くようなイメージでは、もはやビジネス・モデルは成り立ちません。
■「対等な関係」と「対話」を基本に相互発展を
——新しいビジネスの構造を作っていく上で、イープラスだからこそできること、強みとなるのはどんなところでしょうか?
今は、「ソリューションの時代」と言われます。それはコロナの問題が起こってますます加速したと言えるでしょう。業界における課題に対して、解決方法の提案者になっていかなければいけない。そのためには、「横軸」と「縦軸」で考える必要があると思っています。
横軸とは、イープラスがベースとしてきた事業、つまりプレイガイドに求められる機能です。例えば、美術展などでも今はコロナ対策として、制限入場、時間帯入場、当日券の非接触入場など、さまざまな対応が求められています。それをチケット販売の機能の中で「どうにかできないの?」と求められる。また音楽祭では、当日券、飲食代金、物販代金の支払いがすべて分かれていたものを、「アプリ一つですべて決済できないの?」「並ばなくても買えるようにならないの?」といったニーズがある。そうした希望に応えられるソリューション力で、お客さまにメリットを与える形が必要だと思っています。それが横軸となる取り組みです。
一方の縦軸とは、アーティストやコンテンツそのものに直接関わることです。たとえば、物販の開発、コンサートツアーのセッティング、音源制作、マネジメントにファンクラブの運営など。これまでイープラスはやってこなかった部分ですが、突然ポンと「やってみよう」となったわけではなく、プレイガイドとして横軸の機能を積み重ねてきた経緯から、今ならアーティストと対等な関係で向き合いながら、コンサートの企画・運営・配信に加えレーベル事業、ファンクラブ運営、マーチャンダイジングなど縦軸のソリューションも提示していけそうだ、と思ったのです。
――今回のエージェントビジネスにおいては、「アーティストとの対等な関係」を強く意識されていますね。
コロナ禍においてイープラスは新しく動画配信サービスを立ち上げましたが、こうしていち早く有料の配信コンサートを開始したのは、4月の時点で反田さんが配信に挑戦したことが大きなきっかけとなっています。イープラスにとっても、アーティスト側から多いに触発されることで、新たな模索が次々と始まっているのです。
契約を結んだ5名1社のアーティストたちは、みんな若くて、先進的な考え方と自分の夢やビジョン、高いセルフプロデュース能力を持っている人たちです。自立性を持って自由に活動を進めてもらい、情報は共有し合い、対等に話し合える関係性を築けるアーティストたちです。コンテンツそのものは彼らが持っているので、われわれは、彼らが1人ではできないこと、例えばプレイガイドの顧客データをベースに組み立てる全国ツアーのブッキングなど、ビジネスプランナーの立場から対話し、利益配分もオープンかつ柔軟に対応していきます。
■「クラシック」そのものを広げていきたい
——事業開始にあたって契約を結んだアーティストや企業は、クラシック音楽の分野の方々ですね。
今回契約をしたアーティストたちの顔ぶれからは一見、いわゆる「クラシック音楽に特化」した形に見えるかもしれません。しかし、僕はこれまで「クラシック」という言葉が示してきたジャンル自体を、広げていきたいと考えているのです。
横浜の赤レンガ倉庫での音楽イベント『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL』では、「CLASSIC」という言葉を使っていますが、オペラ、ミュージカル、アニメ音楽、ポップス、クロスオーバーなども含んでいます。これは、「大人も子どもも楽しめる」という切り口で「クラシック」を広げることを目指していました。クラシックを軸としながら、そこに多様な音楽性を取り込んでゆくことで、「クラシック」と呼ばれる既存のジャンルそのものに広がりが生まれるのではないかと思うのです。そこにこそ、新しいマーケットが生まれ、新しい音楽ファン層がどっと増えるのではないかという期待がある。その意味で僕は、「クラシック」はブルーオーシャンだと思っています。個々のアーティストたちの自由で積極的な表現力を生かすことで、それが実現できるのではないかと考えています。
また、アーティストの中にも、既存のジャンルの垣根に囚われない活動を展開したいと願う人もいます。例えば、角野隼斗さんは「かてぃん」という名義も用い、二つの顔で活動を展開中です。彼は「クラシックでダメだったからジャズやポップスやアニメを弾いている、と捉えてもらっては困る。だから、クラシックでも一流である必要がある」と言います。彼のように、高いアレンジ力とオリジナル性に富んだ表現で聴かせることのできるアーティストたちは、従来のクラシック音楽ファンも含め、より幅広い層を開拓していくのではないかと思います。
——「クラシック」の枠を広げ、ファン層やマーケットを拡大することがこのビジネスの根幹にあるのですね。
もちろん、伝統的なクラシック音楽の興業のあり方も、ファン層もあった上での話です。ですが、これまでの「クラシック」のコンサートには、あまり子どもたちの姿はありませんでした。子どもがいたとしても、親が連れてきています。一方、YouTuberピアニストたちのコンサートなどはその逆で、子どもが親を連れてきているんです。子どもたちは、演奏される曲のことも全部よく知っている。「知っている」というのはとても大切なのだということを、YouTuberピアニストたちはわかっています。「みんなが知っている」流行りのポップスなども、ピアノ音楽としてうまく取り入れている。そして、あんなに「ピアノってすごい!」と熱狂させ、ファンを増やしている。伝統的なクラシック音楽だけをいくらやっても、子どもたちにはあまり響かないこともあります。やはり敷居を高くせず、家族みんなで楽しめるものというのは、忘れずにいたいですね。
エージェントビジネスの目的は、「儲かるビッグアーティスト」を育てることではありません。「クラシック」の拡大とマーケットの変革です。そのためには、反田さんのように、クラシック一筋でその業界を変えていこうとするアーティストも、角野さんのようにジャンルをこえていこうとするアーティストも、彼らはそれぞれに必要不可欠な存在です。こうした様々な視点を持つ”革命児”が自由に活動を続けられるように、僕らは、アーティスト一人ひとりのビジョンや個性にプライオリティを置き、そのビジョンに邁進できる環境・ソリューションを提供したいと考えているのです。このビジネスは、イープラスが業界を横断するプレイガイドとして培ってきた経験があるからこそ取り組めることで、同時に、プレイガイドができる役割の一つだと考えています。
■若い音楽家たちへのメッセージ
音楽を学び、音大を目指す人たちは、みんなプロ志望だと思います。でも、本当にプロとしてやっていけるのは一握りですし、上に行くほど狭き門となります。僕らとしては、プロとして活動できる人たちの間口を広げたいですし、音楽家にはセルフプロデュース能力を磨いてもらいたい。もう「上手ければいい」という時代は終わっています。音楽家にとっても時代は、自ら欲しいものを勝ち取っていく時代です。そうした若い人たちのチャレンジをイープラスは応援していきたい。対等なパートナーとして、ともに業界を盛り立てていくことができれば嬉しいです。

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