中村獅童、取材会で『吉例顔見世大歌
舞伎』『義経千本桜』への意気込みを
語る

中村獅童が、2020年11月1日(日)に東京・歌舞伎座で初日をむかえる『吉例顔見世大歌舞伎』の第四部、『義経千本桜』「川連法眼館(以下、四の切)」にて佐藤忠信/源九郎狐を演じる。獅童は、開幕に先駆けて取材会に出席した。配役は、獅童の佐藤忠信/源九郎狐、市川染五郎の源義経、市川團子の駿河次郎、澤村國矢の亀井六郎、中村莟玉の静御前というフレッシュな顔ぶれだ。
「超歌舞伎」や『あらしのよるに』など独自の存在感を発揮してきた獅童だが、古典演目の主役を歌舞伎座で勤めるのは、今公演がはじめてとなる。『四の切』で思い出す勘三郎の言葉、歌舞伎座での初めての古典の主演舞台を若手俳優とつとめる思いなど、胸中を聞いた。
■『四の切』は勘三郎から
「『四の切』には、一番思い入れがある」と獅童は言う。振り返るのは、初めて佐藤忠信を演じた2001年11月の平成中村座の試演会(本公演とは別に、若手が大きな役に挑戦する公演)だ。
「勘三郎のお兄さんに大変お世話になりました。お弟子さん方は皆さん覚えがいい。私はできなくて怒られてばかりでした。なんでできないんだ! と毎日怒鳴られて。そのうちプレッシャーで、体が細くなってきてしまって。映画『ピンポン』の撮影後でしたから、スキンヘッドに近い状態。ガンジーみたいになっちゃったねって言われながら、また怒鳴られる(笑)。楽屋にいるのも辛くて、その日はギリギリに楽屋入りしたくらいでした」​
そして迎えた本番。花道から出た獅童を、喝采が包んだ。
「緊張が吹っとびました。平成中村座の空気や、お客様の温かい空気もあってものすごい拍手。『主役だ!』って気持ちがノッて。(笑)。そこから先は無我夢中でした。カーテンコールまでやっていただいて、諸先輩の皆さんも涙、涙。勘三郎のお兄さんも泣きながら『今日のお前のは、型じゃなく気持ちだった。悔しいけれど私はあんな風には演じられない』って。同時に『でも、それを25日間できてはじめてプロなんだよ』とも教えてくださいました」​
狐忠信を演じる時は、「母を思い慕う気持ちだけでやりなさい」と教わった。翌年、新春浅草歌舞伎で、はじめて本興行で忠信を勤めた時もその思いはあった。
『義経千本桜 川連法眼館』源九郎狐=中村獅童(平成15年1月浅草公会堂) (c)松竹
「でも、上手くやろうという思いを、見破られたのでしょうね。勘三郎のお兄さんに言われました。『まずいね、まずいよ。君の一番いいところはハートを出せること。ハートが出せなかったら、良いところはひとつもないよ。命がけでやってちょうだい』って。型だけでも気持ちだけでもだめ。パッションですよね。やぶれかぶれになることを教えてもらいました。お兄さんがこんなに早く亡くなってしまうなんて思いませんでしたが……。当時の台本には、教わったことが全部書いてあります。それをもとに、勉強し直しています」
当時の勘三郎の言葉を、しばしば勘三郎の口調をマネて振り返り、「思い出は尽きません」とこぼしていた。今回の『四の切』は、若手世代との共演になる。先輩としてどう接したいか問われ、獅童は答えた。
「なんでできないんだ!! ってやってみたいよね(笑)。今は先輩方もみんな穏やかだから、一人くらいいてもいいんじゃないかな。いかにもな先輩がね」
そう言う表情は優しく、架空の大幹部役を演じて見せ、一同を笑わせていた。
予定されていた取材予定時間を鮮やかにオーバーし、エネルギッシュに思いを語った。
■人の心はアナログだから
自粛期間中、舞台に出られない悔しさはありつつ、家族と良い時間を過ごせたと語る。また、今年8月には初音ミクとの超歌舞伎『夏祭版 今昔饗宴千本桜』で、無観客ながらオンラインで23万5千人を動員した。
「今までやってきてよかったと思いました。無観客でも皆さんメッセージをくれる。それを本番中にも観られる位置に、モニターを置いてもらいました。これまで生のライブでやってきて、客席のサブカルチャーが好きなお客様たちが、超歌舞伎で涙してくれるところをずっと観てきました」​
これまでの経験があったからこそ、無観客でもつながりを感じられたと獅童は言う。「ロックコンサートのような一体感」とも語った。それが獅童だけの感想でないことは、ディスプレイを埋めた視聴者たちからのコメントが証明していた。
「世の中はデジタルになりました。でも人の心はアナログですし、歌舞伎もアナログ。人の気持ちが通ったデジタル歌舞伎には、意味があると思います。往年の歌舞伎ファンの方々がいてくれてこそ、今の歌舞伎があります。でも時代的に、今は、高齢の方に劇場にきてとは言えません。若い世代の観客を、私たちが育てていかないと。それも歌舞伎俳優の使命だと思っています」​
中村獅童
■若手起用の思いとは
歌舞伎の興行が叶わない期間、何より心配をしたのは、お弟子さんたちのことだった。
「私たちは映像の仕事に声をかけていただくなど、生活ができています。でも出演が決まらないお弟子さんたちは、そうもいきません。この状況で夢や希望を持ちなさいと言われても限界がある。主役だけでなくお弟子さんも、皆で熱意をもったから、平成中村座やコクーン歌舞伎は成功したと思っています。この状況で、彼らのモチベーションをどう保つのか」
この課題に対し、獅童はすでに、獅童なりのアクションをとっている。8月の「超歌舞伎」では中村獅一と澤村國矢を、さらに11月の歌舞伎座第四部『四の切』では澤村國矢を大抜擢した。
「他のお弟子さんたちが、これ(大抜擢)を観て、『真ん中に立てることがあるんだ、がんばってみよう』と思ってくれるかもしれない。お弟子さんたちへのメッセージでもあるんです」
獅童の父親は、早い段階で歌舞伎の世界からはなれた。後ろ盾のない獅童は、19歳の頃、「獅童さんが歌舞伎座で主役をとるのは難しい」と言われたこともあった。
「そのような経験をしましたから、(お弟子さんたちが感じるであろう)見えないゴールを目指すつらさ、夢を見続ける苦しさは分かるつもりです。私が諦めなかったのは『夢を見続ければ叶う』という信念があったから。じゃあどうすればいいのか尋ねたら、『名前を売ってください』って言われたんです。そこから私の、オーディション人生がはじまりました。いっぱい受けていっぱい落ちました」​
松本大洋の原作をもとに、宮藤官九郎が脚本をつとめた、2002年の映画『ピンポン』に出演。ドラゴン役の怪演で、日本アカデミー賞、ゴールデン・アロー賞(映画新人賞)、ブルーリボン賞、日本映画批評家大賞、毎日映画コンクールの各新人賞5冠を受賞しブレイクした。歌舞伎でも、大きな役が付くようになった。浮かれている暇はなかったという。
「見える世界が変わりました。加速していく中村獅童に追いつくのに精一杯でした」
そして、いよいよ歌舞伎座の舞台で、歌舞伎の三大名作のひとつに数えられる『義経千本桜』の主役を勤める。古典の主役が初めてという事実は、記者たちを驚かせた。獅童は「一番古い番頭にまで『そうでしたっけ?』って言われました。お前くらいは把握しておいてくれよ! って思いました」と冗談めかして続け、一同を笑わせた。
■歌舞伎の舞台に立つ、ということ
中村獅童
「とにかくいい芝居することばかりを考えていた時期があった」と獅童は言う。しかし大病をきっかけに、少し変わったことがあった。手術を経て、復帰に向けて一歩ずつ進んでいく過程や再び舞台に立った姿は、多くの人に力を与えたことを実感したからだ。
「自分が舞台に立たせていただくことで、誰かを勇気づけられることがある。人に見ていただく仕事なんだと、あらためて思いました。復帰後最初の舞台で、熱い拍手を聞いて、自分の居場所は病院じゃなくて舞台だ! って。それからは、いい芝居をすることはもちろん、今まで以上に、お客さまに楽しんでいただくことを意識するようになりました。映画も演劇もチャレンジしますが、やはり歌舞伎はやっぱり歴史の重みがちがいます。演じるにあたって、ご先祖様……と思うのは歌舞伎の古典の役だけ」
最後に、11月1日(日)より始まる『吉例顔見世大歌舞伎』に向けてコメントした。
「歌舞伎は、一生をかけて役を演じることができます。年をとれば深みが出る。歌舞伎には深みが大事です。でも今しかできない演技もあります。30代、40代とやってきて、この先も50代、60代の獅童の忠信をやらせていただけることがあるかもしれない。忠信を初めて演じてから17年。1人の人間として生きていれば、私にも色々あります。技術、鍛錬と同時に、自分が何を感じ、どのような思想で芝居をしているか。そのすべてで、全身全霊でお役にぶつかるのが私の仕事です。いまの獅童が、どうやるか見ていただければ幸いです。生きて生きて精一杯、命がけでぶつかるものがあるって幸せです。爺さんになって死ぬときに、こういう風にやってきてよかったと思えるかが大事なんじゃないでしょうか」​
『吉例顔見世大歌舞伎』は、2020年11月1日(日)~26日(木)の上演。
自身のパネルをみて「なつかしい!」と獅童。

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