これぞ、なきごとなロックナンバー「
ラズベリー」に秘めた想いを語る「な
きごと的模範解答みたいな曲です」

ふたりの近況と10月4日(日)に配信リリースされた新曲「春中夢」を掘り下げた前編に続き、今のなきごとを紐解く二本立てインタビューの後編は、本日10月25日(日)にリリースされた新曲「ラズベリー」について聞く。まさに、これぞ、なきごと。名もなき感情に言葉を与える水上えみり(Vo.Gt)のセンスが光り、岡田安未(Gt)とのギターが次々に表情を変えてゆくヒリついたロックナンバーだ。このインタビューの公開される前日には、10ヵ月ぶりの主催有観客ライブ『1st Digital Single " 春中夢 " Release Live』を終えたタイミングになるが、取材は9月上旬に実施したものなので、その内容には触れていない。引き続き、コロナ禍で感じたことを聞きつつ、最後は心温まる家族とのエピソードで締めくくる。
●バンドを見つめ直す良い機会だったと思います●
――ちなみに自粛期間中って音楽は聴いてました?
水上:正直、一時期はあんまり聴いてなかったんです。でも、ラジオはずっと聴いてましたね。
――自分から能動的に「この曲を聴こう」と選ぶというより、自然と流れてきて耳に入ってくる音楽を求めていた感じ?
水上:そうですね。この時期って昔の曲を流す番組が多かったと思うんですよ。それで、「うわ、松任谷由実、やっぱりいい!」とか、ハッとさせられてましたね。
――岡田さんは?
岡田:私も、あんまり聴いてなかったかな。特に3月とか4月のころは、音楽を聴く気力もなくて。家は静かな空間にしておきたかったんです。もともと音楽は移動中に聴くことが多かったりもするから、聴くタイミングもなくて。でも、しばらく聴かないでいると、寂しくなって、ふとした瞬間に流したり、また消したりしてましたね。
――それって、仕事として聴くというよりも、ある意味、音楽との向き合い方がフラットになった状態だったと思うんですけど、そこで感じたことはありましたか?
水上:やっぱり音楽はBGMなんだなと思いました。バンドをやってて、音楽を主軸に生きてると、常に音楽に囲まれた生活になりがちなんですけど。ふつうの生活を送っていたら、ただバックミュージックとして流れてるものになるというか。もともと私はバンドをやる前から、ずっと音楽を聴いてたし、自分のなかで音楽は大きな存在だったけど、一般的には、思いのほか音楽の優先順位は低いんだなと感じましたね。
――その事実を受け止めて、どう思いましたか?
水上:ショックでした。「あ、自分の感覚はズレてたのかもしれないな」と。でも同時に、自分と同じように、音楽を大切にしている人もいて、「ライブがないと、嫌だ、生きていけない」という人がたくさんいることも知れたんです。だから、音楽を好きな人は、これからも音楽を糧にして一緒に乗り越えていこうねという感覚でしたね。あと、この時期、改めてなきごとのCDを聴いてたんですよ。「nakigao」『夜の作り方』「sasayaki」を聴いて。めちゃくちゃ良いバンドだなと思いました(笑)。
――それは、どういう意味で再認識したんですか? 社会全体が沈んだムードのなかでも、ちゃんと聴き手に寄り添えることを歌ってたからでしょうか?
水上:いや、情勢とかは関係なしに、ふつうに良い音楽をやってるなと。
岡田:シンプルにね。
水上:たぶん1回、自分がなきごとじゃなくなったみたいな感覚だったんですよ。なきごとの外の人になったときに、「なきごと、めちゃくちゃ良いバンドじゃん」と思えた。当事者じゃない目線でバンドを見つめ直す良い機会だったと思います。
――そう言えば、ふたりのツイッターを見てると、定期的になきごとへの愛情みたいなのが呟かれてましたね。岡田さんは「私が1番のファン」と書いてたし。
岡田:自分に言い聞かせてたという節はありましたね。改めて言葉にすることによって、それを感じたかったというか。目でも意味を捉えているんでしょうね。
●「ラズベリー」「春中夢」は、なきごと的模範解答みたいな曲ですね●
――そういう時期も必要なのかもしれないですね。では、新曲「ラズベリー」の話を聞かせてください。これも7月のスタジオ入り以降に作った曲ですか?
水上:そうです。10月にデジタル配信を出すと決めて作りはじめました。
――まず、曲のとっかかりはどんなところだったんですか?
水上:えっと……ペンを借りてもいいですか? (「raz bliut」という単語を書いて)これ、読み方がわからないんですけど、こういう感じの言葉があって。
――ら……ぶりゅー? フランス語?
水上:日本人が作った英語なんでけど、日本語には訳せないらしくて。意味は、かつて恋をしていた、愛していた人に抱く感傷的な感情を表すものらしいんです。読めないから、ラズベリーでいいやと自分のなかで決めちゃって。
――ハハハ(笑)。
水上:で、ラズベリーの花言葉を調べたら、「後悔」とか「嫉妬」とか、そういう意味が出てきたから、そこから曲を書きはじめてみたんです。
――「raz bliut」みたいな不思議な言葉って、どこで出会うんですか?
水上:はっきりとは覚えてないんですけど、わりと普段から、わからない言葉が出てくると、調べるようにしていて。そのなかで、「これ、読めますか?」みたいなのを見つけたので、こんな言葉があるんだ、おもしろいなと思ったんですよね。
――「後悔」とか「嫉妬」って、わかりやすく名前を与えられた感情だと思うけど、この「ラズベリー」で歌われるものは、ひとことでは言い表せない感情なんですよね。後悔とも、嫉妬とも、悲しみ、寂しさとも少しずつ違うけど、すごくわかる。
水上:今は好きじゃないけど、昔、恋人だった人に対する、なんとも言えない気持ちみたいなものですよね。街ですれ違っちゃったり、ツイッターで見かけちゃったりして、何とも言えない感情だなというのがあって。それは自分のなかで後悔だったのか、せいせいした、すっきりした気持ちなのか、それとも決別の寂しさなのかわからなかったりして。そういうのを織り交ぜて書いたものなんです。それと同時にこの曲には、いまのコロナの情勢のなかで感じたことを噛み砕いて入れたりもしてるんですね。
――<何もかも無くなって>の部分ですかね。
水上:そう、無気力な状態ですよね。あと、マスクのことなんですよ。<このままじゃ寂しくて>はマスクをしたままだと、相手の感情がわかりづらいな、みたいな。
――<明日の天気もこの痛みもアテにはならない>というのも、先の見えない不安定な心境を表していると。何を信じていいのかわからない状況ではありましたからね。
水上:そうなんですよね。だから、そっちのほうで解釈すると、歌詞の意味が変わるんです。最後に転調するサビのところに、<粉かぶる>という歌詞が出てきて、それが空耳で「コロナ禍」にも聞こえるんです。ここは「塵かぶる」に直したほうがいいかな?と、岡田に相談したりもしたんですけど。
岡田:正直、その歌詞の感覚は私にはわからないんですよ。だから、相談されても全然答えられなくて。えみりの意のままにと。
水上:たぶん3年後とかに聴いたときは、「塵かぶる」のほうが通じると思うんです。「埃をかぶったノート」ということなんですけど。でも、なんで「粉にしたんだろう?」と考えたときに、あ、コロナだったんだと思い返せたほうがいいと思ったんですよね。
――いま、あえてコロナ禍の感情を歌にしたい部分もあったんですか?
水上:この状況になって、なきごとが最初にリリースする作品だから、そういう感情を歌にすることもあっていいかなというのはありましたね。
――あと、歌詞で気になったところで言うと、<宝物>と書いて「ごみのやま」、<塵山>と書いて「たからもの」と読ませるところ。
水上:サビで出てくるんですけど、これは順番も大事ですね。最初に<宝物>と書いて、「ごみのやま」と歌ってるんですけど、これは最初、人から見たら、宝物だけど、自分のなかではいらないものだったものが、時が経つにつれて、その思い出も含めて、自分のなかでは、すごく大切なものになっていくということを表したかったんです。
――このあたりの言葉のチョイスには、あいかわらず妥協がないですね。
水上:「ラズベリー」は自分でもきれいに書けたなと思ってます。「春中夢」もなんですけど、なきごと的模範解答みたいな曲ですね(笑)。
●やっぱり歌ってないと、私はダメだなとすごく思いました●
「ラズベリー」ジャケット写真
――この曲、サウンドの情報量がとても多いですよね。メロディの裏で次々に雰囲気が変わっていくし、岡田さんのギターの聴きどころも多い。
岡田:ギターのリフを考える時点では、「ラズベリー」は大変でしたね。家に持ち帰って、ずっと考えてたんです。で、レコーディングの前日に、えみりに「いいのない?」と泣きついて(笑)。結局、イントロはえみりが考えてくれました。
水上:ただ、私は著しくギターが下手なので(笑)。テンポを半分ぐらいに落として弾いてものを送ったんですよ。あれ、めちゃくちゃ難しくて、速く弾けないんですよ。なのに岡田がレコーディングで速く弾いてるから、「すごい!」と思いました。
岡田:もらったとき、実際に音に合わせて弾いてみたら、めちゃくちゃ速いじゃんとびっくりしました。レコーディングでは、なんとか弾けましたね(笑)。
――曲作りのときって、えみりさんはゼロ→イチの人だから、「こういう曲を作りたい」という起点になるじゃないですか。一方、岡田さんは、えみりさんのイチを解釈して、いかに膨らませていくかという作業だから、すごくバランス感覚が必要だと思うんですよね。
水上:(岡田に)いつもお世話になってます(笑)。
――ハハハ(笑)。そのあたり、岡田さんは、自分が得意だなという自覚はありますか? いつも曲を聴かせてもらって、歌への絶妙な寄り添い方をするなと思うんですけど。
岡田:時と場合によりますね。すごく上手くできたときは、「おもしろい!この作業、好きだな」となるんですけど、スランプのときは凹みまくってます。今回のレコーディングで言うと、「春中夢」は、まあまあできたかなと思うんですけど、「ラズベリー」は地獄でしたね(笑)。
――その地獄からはどうやって抜け出したんですか?
岡田:「忘却炉」と似た引き出しで作れたことで、うまくハマったなと思います。
――前編のインタビューでは、他にも何曲かレコーディングをしてたような話もありましたけど、未発表の曲がけっこう溜まってるんですか?
水上:はい。「春中夢」と「ラズベリー」は、コロナの自粛期間に思ったことが強く出てるんですけど、これをあんまり引っ張りたくないというのもあって。次回からは、コロナとは関係なく、日々、自分が思うことを出していけたらと思っていますね。
――今回インタビューの前編後編で、3月から現在までのことを振り返りましたけど。コロナ禍の一連の日々のなかで、1番の気づきは何だったと思いますか?
水上:自分が音楽をはじめてから、これだけライブをしなかった時間は初めてで。音楽から離された状態のなかで、自分の考えをリセットすることができたのかなと思いますね。改めてお客さんを目の前にして歌いたいと思ったし、あの、めっちゃキザなんですけど……やっぱり歌ってないと、私はダメだなとすごく思いました。
――岡田さんは?
岡田:私もバンドから離れて、音楽から離れてみて、生きてる心地がしなくて。単純に音楽が好き、バンドが好きだったから、今までバンドをやれてたんだなと分かりました。最初はギターを弾こうと思えなかったんですけど、でも、途中から自分のケツを叩くために、目標を探して弾くようになって。少しずつ音楽を回復していったんですよね。
――途中で見つけた目標というのは、曲作りのこと?
岡田:と言うより、「こういう曲を弾けるようになりたい」ということですね。
水上:『スプラトゥーン2』の「弾いてみた」をやってたよね。
岡田:そうそう。ゲームの曲ですね。かっこいいなと思って弾いてみました。
――なるほど。それこそ、きれいごとっぽく聞こえるかもしれないけど、この半年はふたりにとって何が大切なのかを思い知らされる期間だったんですね。
水上:そうですね。それで言うと、いま、私、家族愛に満ち溢れてるんですよ。
――どういうことですか?
水上:7月に実家に帰ったんですけど、もうそこにずっといちゃうみたいな。
岡田:帰りたくなくなっちゃうの?
水上:と言うか、敷布団が用意されるの。たぶんお母さんも寂しかったみたいで、「泊まる」と言ってないのに、勝手に布団が敷かれてて。
岡田:帰らせる気ないんだ。お母さん、かわいいね(笑)。
水上:そのときに久々に手料理も食べて。お母さんが作るミートボールスパゲティは美味いなと思いましたね。それで帰り道に、私、泣いちゃったんですよ。帰りたくなくて。実は、その前に喧嘩をしてたんです。ちょっと人には言えないぐらい大きな喧嘩だったんですけど。そのあとに久々に会えたというのもあって、なおさら、「お母さん、好きだな」と思ったら泣いちゃって。ボロ泣きでしたね。
岡田:ちなみに、私もお母さんとは離れて暮らしてるんですけど、すごい連絡をしてくれて。「体、大丈夫?」とか。「もう、年なんだから、お母さんのほうが気を付けないと」みたいなことを言い合ってましたね。
水上:いいねえ(笑)。
岡田:2人とも愛を感じたね。
取材・文=秦理絵

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