postman 初フルアルバム『HOPEFUL A
PPLE』レコ発ツアー 有観客+配信の
TSUTAYA O-Crest公演をレポート

『HOPEFUL APPLE』Release tour 2020「万有引力」 2020.9.26 TSUTAYA O-Crest
7月1日に初のフルアルバム『HOPEFUL APPLE』をリリースしたpostman。レコ発ツアーのうち、7~8月に予定していた公演は残念ながら開催見合わせとなったが、9~10月の東名阪公演は日程を変更することなく、各会場の感染症対策ガイドラインに沿った形での有観客ライブとして開催された。以下のテキストは、生配信も行われた9月26日、東京・TSUTAYA O-Crest公演のレポート。
カラフルな照明がステージを照らすなか、寺本颯輝(Vo/Gt)、兼本恵太朗(Gt)、岩崎圭汰(Ba)、いわたんばりん(Dr)が姿を見せた。衣装は全員上下白。4人とも、来場者限定特典として観客にも配られたフラッグを振っている。
postman 撮影=TAKAGI YUSUKE
寺本が手を上げると、それを合図にして会場が一旦暗転する。始まった1曲目は「蒼」。寺本と兼本が向かい合ってギターを鳴らすなか、寺本が歌い始め、順にリズム隊も合流し……と、ドラマチックな幕開けだ。憂いを帯びたサウンドを響かせると、一言挨拶を挟み、2曲目は「探海灯」。ここでバンドサウンドの激しさがもう一段階増した。頭をブンブン振りながら演奏する岩崎は、熱い気持ちが音や身振りにそのまま出るタイプ。コーラスをするためにマイクに戻るのがいつもギリギリだったりする。対して、兼本はクールな表情。と思いきや、ギターソロで気持ちが高ぶったのか、ステージに引いてある「ここから前に出ないようにしてください」の線を一瞬はみ出してしまい、寺本に注意されていた。
「探海灯」のあとには、2018年リリースの1stミニアルバム表題曲「干天の慈雨」が続き、新旧の楽曲が並ぶ。ガイドライン上声を出せない観客のなかには、リズムに合わせてフラッグを振っている人も。そんなフロアの様子を見て、後のMCでメンバーが「船の乗組員みたい」と言っていた。『HOPEFUL APPLE』のアートワークには林檎を乗せた帆船が描かれていて、リリース時、寺本は「その“希望に満ちた林檎”を乗せた僕等の船の名前は「HOPEFUL APPLE」と言います。長い永い旅の始まりです。どうか最後まで見届けてやってください。もしくは僕等と共に旅を。」とコメントしている。フラッグを配布することにしたのは、もしかしたら“声を出せないとしたら、どうやって盛り上がってもらおう?”と考えた結果なのかもしれないが、結果的に、アルバム構想時に思い描いていたイメージが具現化しているのが興味深い。
postman 撮影=TAKAGI YUSUKE
最初のMCでは、寺本が、2週間前の大阪公演が半年ぶりの有観客ライブだったこと、アルバムのレコ発ツアーであるためライブで鳴らすのは初めての曲がたくさんあることに言及。「僕らは楽しんだもん勝ちという感じでやるので、みなさんも好きなように楽しんでください。ですが、次の曲は手拍子がほしいと思っています」と「浮蜘蛛」へ繋げた。手拍子がほしいと言っても、速いテンポで急き立てる曲ではなく、グルーヴで聴かせる渋い曲。次の「Hot Apple Tea」も含め、この2曲には、いわゆるギターロック的なアプローチに留まらない、音楽に意欲的なバンドの姿勢が表れていた。「浮蜘蛛」で寺本がミスり「歌詞も不安定~♪」と自分でツッコんでいたのも、2曲を繋ぐベースソロも、「Hot Apple Tea」でそれぞれの旋律が絡み合って波を生んでいく感じも、ライブならではの要素だ。
一転、「東京のみなさん、元気ありますかー! 配信チケットのみんな、元気ありますかー! 久々に懐かしい曲やりたいと思いますけど、みなさん盛り上がる準備できてますかー!」と岩崎が元気に煽ってからの「Moongaze」は、デビュー前からあった曲でド直球のギターロック。今の4人が鳴らす王道のサウンドには、あのときの青さとはまた違う説得力がある。「セレクティブサンクション」は、ギターとベースが一斉に掻き鳴らすイントロからしてインパクト大。スキャットを通り越してシャウトに近い調子になっている寺本を筆頭に、白熱していく終盤の展開にも胸を熱くさせられた。直後の「GOD」はこの日のひとつのハイライトといえるだろう。太いギターリフと刺すような真っ赤な照明、途中にはソロ回しも。それぞれ熱の入った演奏をしつつ、気持ちよさそうに楽器を鳴らしていたし、バンドとして一塊になれているのも伝わってきた。
postman 撮影=TAKAGI YUSUKE
2度目のMCに入るなり、「やっぱり距離があっても音楽は楽しいし、ライブ、楽しいでしょ? 楽しいですか? 楽しんでます?」(寺本)と観客へ前のめり気味に尋ねる様子からは、バンド自身が大きな手応えを感じていることを読み取れた。観客が同調の意を込めて拍手したりフラッグを振ったりすると、「よかったです、ありがとうございます」と寺本。「僕はこういうもの(=ライブ)が必要な人間で、4人ともそういう人間の集まりなので。できたことがまず純粋に嬉しいし、そんななか、来てくれてありがとうございます」と目の前の観客に改めて感謝を伝えた。
ここで「(A) throb」を演奏したのは、寺本曰く、「この期間で今まで作った曲を演奏したり聴き直してみたりすると、解釈が変わってきていて」「傷ついたとき、悲しいとき、何かを乗り越えたいときには音楽が必要だとこの曲に改めて気づかされた」とのこと。一層やわらかく滑らかになった演奏、大切な言葉をより大切に歌うようになったボーカルから、バンドのまっすぐなメッセージを受け取ったのだった。続けて、青と紫の光のなか、「紫陽花」を演奏。因みに、11曲目の「OLD TALE」以降、いわたんばりんが眼鏡を外していたが、その理由はアンコールで明かされた通り。演奏中、スティックが自分の眼鏡に当たり、片方のレンズがどこかへ飛んでいってしまったそうだ。
postman 撮影=TAKAGI YUSUKE
「魔法が解けるまで」、「光を探している」と初期曲を続けて演奏したあとは、再び最新アルバムに戻り、「転げ回れ」へ。「転げ回れ」には<転げまわりながら歌おう>という歌詞があるため、律義に「唄わなくていいよ!」と付け加えていたが、パンキッシュなビート、および“終わったと思いきやカウントとともにもう一度アウトロが始まる”というライブアレンジによって、こちらの鼓動も自然と高鳴った。ライブの後半に差し掛かってからは、メンバーが笑顔を見せる場面も多くなっていたが、特に「揺らめきと閃き」では、晴れやかな表情がカメラに抜かれることが多かった。歌詞をアレンジし、1番では<ここで生きてみせるよ>という決意を、2番では<生きてくれよ>という願いを追加。ラスサビ前は音源より数小節長く、その間掻き鳴らされるギター・ベース・ドラム。助走をつけて、高く飛ぶ。
「僕らは音楽しか取り柄がないというか、生きる道がないというか、そんな不器用な男の集まりです。そんな足りないものだらけの僕らの歌を聴いて下さい」(寺本)と紹介されたのは「愁吟」。悩み嘆くことを意味し、かつ“吟”の字を含んだ“愁吟”という単語は、思えば「明るい歌詞の曲を書いたことがない」と語るソングライターがいるこのバンドによく似合っている。暗闇でも歌い続けるのは、裏を返すと、希望を信じている気持ちが消えていないからに違いない。
ラストのMCでは、寺本がエレキを鳴らしながら、改めて、今ライブをできる嬉しさ、観客や関係者に対する感謝を言葉にする。なかでも、待ってくれている人がいることが嬉しい、という話のあとの「そんなバンドのボーカルでいることが幸せです」という発言は印象的だった。「ラスト1曲。音楽がある世界でよかった、この場所が大好きだっていう曲を唄って終わります」と、最後に演奏されたのは『HOPEFUL APPLE』の最終曲でもある「六芒星」。<この広い星の上で この歌が届く距離に今 君が生きていてくれてよかった/この永い時の中で この声が響く 今がただ/愛しい 愛しい 愛しいのさ>というフレーズに想いを馳せずにはいられなかった。
postman 撮影=TAKAGI YUSUKE
アンコールでは、まず寺本が一人で登場。「配信、親も見てるのにすごい泣いてしまった~! そんななかで、ここから僕の弾き語りゾーンなんですよね、すっごい嫌です(笑)」とこぼしつつ、『HOPEFUL APPLE』で唯一の弾き語り曲「君影草」を唄った。有観客ライブの生配信を行う場合、アンコールは放送しないパターンも珍しくない。それにもかかわらず、今回放送することを選んだのは、今は会えない人へのメッセージソングともとれる「君影草」、そしてこのあと披露されたコロナ禍で生まれた新曲「羽根にして」も含めて、配信で観ている観客にも届けたかったからなのではないだろうか。「羽根にして」は、鬱屈とした感情を疾走感に変換したような、負けん気の強いアッパーチューン。これは確かに、初お披露目はライブがいい。
いわたんばりんがその場に立ち上がり、兼本と岩崎も握った拳を突き上げるなか、「夢と夢」を鳴らして終了。険しい日々の中でも握りしめ続けていたいもの。おそらく4人は――そしてライブを観ている観客たちは、今同じものを思い浮かべていることだろう。最後に手を繋いでお辞儀をするときにもソーシャルディスタンスを気にしなければならなかったり、チューニングをしているときの観客の無言ぶりが何だか恥ずかしく感じられたり、従来のライブとは明らかに勝手が違うし、変わってしまったものもある。しかし、それでも握りしめていたいものが僕らにはあるのだと、確かめ合うためのライブだったのだ。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=TAKAGI YUSUKE

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着