【畠中 祐 インタビュー】
『憂国のモリアーティ』に捧げる
シングルにしようということで作った
TVアニメ『憂国のモリアーティ』のオープニング主題歌を中心に、カップリング曲も『憂国のモリアーティ』からインスパイアされて制作された5thシングル「DYING WISH」。畠中 祐の新たな一面が表現された同作について語ってもらった。
背中を押すけれども、
そっち側には行っちゃいけない
「DYING WISH」はまるでオペラのようなクラシカルな要素とダンスビートが組み合わさった、独特な世界観の楽曲ですね。
はい。イントロからロンドンの霧がかかった景色が見えてくるような不穏なムードを醸しつつ…という感じで。『憂国のモリアーティ』の物語自体の始まり方がすごく衝撃的なので、これから始まる舞台を一緒に見届けようと、聴いてくれる人を誘っているような重厚感がありますね。
初めてチャレンジする世界観の楽曲で難しかったのでは?
はい。これまでのシングル表題曲は僕が好きなソウルミュージックやダンスミュージックが中心だったのですが、今回はそういう曲じゃないし、MVにダンスシーンがないのも初めてです。いつもとはまったく違うんですけど、これはこれですごく楽しかったし、チャレンジをさせてもらえたと思っています。
具体的にどういうところが難しかったんですか?
今回は畠中 祐の音楽とはまったく違う方向性で、TVアニメ『憂国のモリアーティ』という作品にどういうかたちで寄り添うかでした。この作品的にはまだ階級社会で、貴族が台頭していた19世紀のロンドンという明確な世界観があったので、それにどう寄り添うのかがレコーディングでもポイントになりました。僕が今まで歌ってきたダンスミュージックや僕自身のイメージとあまりにもかけ離れていたので、そこに自分をどう寄せていけばいいのか悩みましたね。
主人公のウィリアム・ジェームズ・モリアーティは『シャーロック・ホームズ』シリーズに出てくる悪役をモチーフにしたダークヒーローのような存在ですよね。
そうです。ウィリアムは世界を変えたいと思って犯罪を犯していくんです。みんなのためだとはいえ、犯罪者なので決して共感してはいけないんですけど、物語を読み進めていくと、ウィリアムにどんどん共感してしまう自分もいて。というのも、物語で描かれている貴族たちがとにかく悪い奴ばかりなんですよ。そういう悪を懲らしめるという点ではヒーローだけど、ウィリアムのやっていることは悪という。だから、今回の歌詞も完全に突き放すわけではなく、ウィリアムたちの行く末を見届ける立ち位置を意識したというか。共感しつつ背中を押すけれども、そっち側には行っちゃいけない…すごく微妙な立ち位置で歌いました。
気持ちの入れどころが難しいということですね。
難しい上に、前シングル「HISTORY」(2020年8月発表)の制作と同時進行だったので、“どうしよう〜”という感じでした(笑)。全然違う世界観なので。
メロディーとかノリとか、曲自体も難しかったですか?
これもすごく難しくて。転調の仕方も独特だし、Dメロでまったく違う雰囲気になったり、一曲の中で表情の変化が激しいんです。だから、何度も録り直させてもらって、すごく丁寧にレコーディングさせていただきました。
一番こだわったのはどういうところですか?
やはりDメロにこだわったというか、そこが好きなところですね。急に曲調が変わるし、ウィリアムたちの気持ちを後押ししたいと思える瞬間で。それは犯罪であって絶対に許されないもので、神に背く行為になるかもしれないけど、“僕は背中を押すよ”というような気持ちでしたね。そういう切なさとかもどかしい気持ちを表現したパートがお気に入りだし、力を入れて歌いました。
一曲で映画やドラマを観ているような壮大さがありますね。
ウィリアムの人生を俯瞰するじゃないけど、側で見守るような感じですね。
でも、登場人物や世界観を想像して自分の中でイメージを作り上げるのは、声優として役を作るのと近いのでは?
確かに近かったと思います。「DYING WISH」という曲を歌うにあたって、自分がどの立場に立てばいいのか、どれだけ入り込んでいいのか、そういうことを考えるのは役作りっぽくて面白かったです。
歌い方や声の感じもいつもとは違う雰囲気なのですが、声色を少し暗めにしようとか考えましたか?
意図的に声を変えようという意識はなかったです。それをしてしまうとキャラクターソングになってしまうと思ったので。なので、ウィリアムのことを考えて歌ったら、自然とこうなりました。何か暗いものを背負わざるを得ない曲だったんですよ。
作曲編曲のラスマス・フェイバーさんのことはご存知でした?
いえ。今、ラスマスさんがどこにいるのかを訊いたら“ヨーロッパにいるよ”と言われて、“この曲は海を渡ってきたのか!?”と、まずそこに衝撃を受けました(笑)。でも、こういう曲を僕に歌わせようと思ってくれたのが嬉しくて。それに応えたいと思って、大変ではありましたが楽しみながらチャレンジさせていただきました。
MVは英国紳士風の衣装でチェスをやっていて、演技っぽいところもあるのが観どころですね。
そうなんです。チェスのルールも知らないのに(笑)。今まではダンスしているMVがほとんどで、こういう少しお芝居をするような撮影は初めての経験だから新鮮で楽しかったですよ。台詞もなかったし。ダンスがない分、細かい表情を意識することができましたね。
物語調になっているそうですが、どういう物語を表現しているんですか?
ざっくり言うと捕らえた少年をどうするか…という内容です。僕の立ち位置や結論はMVを観てくださった方に委ねるので、みんなの感想を聞きたいですね。
“DYING WISH”というも意味深なタイトルですね。
これもどう訳すのか、みなさんにお任せしたいです(笑)。この曲は最終話を迎えた時、改めて歌詞を読みながら聴いてほしいので。
伏線みたいなことが?