L→R キダ モティフォ(Gu&Cho)、吉田雄介(Dr)、中嶋イッキュウ(Vo&Gu)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba&Cho)

L→R キダ モティフォ(Gu&Cho)、吉田雄介(Dr)、中嶋イッキュウ(Vo&Gu)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba&Cho)

【tricot インタビュー】
私たちにとって“10周年”は
ただの“今日”でしかない

チャレンジの方向性が
さらに自由になった

リモートで曲作りをしたあと、レコーディングはみなさんでスタジオに入ってやったんですよね?

吉田
そうですね。緊急事態宣言が明けてからのレコーディングはいつも通り、みんなでやりました。

今、おっしゃった生感という意味では、アフロファンクなところもある“箱“の演奏の熱量はすごいですね。

中嶋
あれは完全に吉田さんの性癖です。
吉田
あははは。僕がやりたいことをやっているだけですね。

パーカッションは吉田さんが叩いているのですか?

吉田
はい、僕が叩いています。デモを作る時も家で叩いて、怒られました(笑)。

最後の「體」もパーカッションが入っていますね。

吉田
最後の最後にドラムを叩かずにパーカションで終わるという(笑)。

えっ、ドラムも入っていますよね⁉

吉田
あれは1曲目から9曲目までのドラムをサンプリングして貼ってるだけなんです。

そうなんだ! やっぱ変なバンドだ(笑)。吉田さんはロックバンドであることを意識したとおっしゃっていましたが、3人がそれぞれに心がけていたことはあったんですか?

キダ
前作ぐらいから頑張って変なことをしなくなった。どうしても何かしてやらなきゃみたいな気持ちがずっとあったんですけど、いい意味でそんなに頑張って出すもんでもないって思うようになって。だからって面白くなることを放棄したわけではなく、あくまでも自然体で楽しいことをやっている感覚が強くなってきましたね。
ヒロミ
前作から一曲一曲、みんなで話し合うことが増えた気がします。“この曲はこういう感じにしてもいいんじゃない?”とか、そういう話し合いが増えて、アルバムを通してよりは一曲一曲をそういう見方で作るようになったのが良かったと思いますね。だから、雰囲気が全曲違うのではなく、それぞれがゼロから作ったものが違うというのもあるんですけど、言葉でイメージを統一するようになったことで、曲の魅力が際立ったり、雰囲気が変わったり、思いがけずにすごくやさしい曲ができたりして。特に「炒飯」がそうなんですけど、当初の予定ではメジャーなポップソングだったのが、一番やさしい曲になりました。今までにない部分が出て良かったと思います。

中嶋さんは?

中嶋
前作はメジャーの1stアルバムということで、最初のご挨拶みたいなものをイメージしていたんですけど、今回は本当にやりたいことをやるべきだし、もっと自由度を高めてもいいし、遊んでもいいという想いがありました。常にチャレンジ精神は持っているんですけど、これまで以上にこれまでやったことがない…例えば3人でヴォーカルしたり、今回はギターを弾かずに歌に徹している曲がこれまでで一番多かったり、あえて自分ひとりでハーモニーを重ねたりとか、チャレンジの方向性がさらに自由になったと思います。

中嶋さん、キダさん、ヒロミさんの3人で歌ったのは「サマーナイトタウン」ですよね。3人の掛け合いからハーモニーを重ねるところがすごくいいですね。

中嶋
大好きですね、そういうの。先行配信で2曲目に出させてもらったんですけど、周りからの反応も良かったです。
吉田
みんなが歌っているのって日本人は好きじゃないですか(笑)。
中嶋
かけ合いも含め、いろいろな人が歌っている曲で、楽しくならないわけがないし、それで暗くなる人はあまりいないと思うんですよ。メンバーのノリも良くて、“私、歌いたくない”ってこともなく、“ひと肌脱ぎましょうか”みたいな感じで歌ってくれたんで、レコーディングも楽しかったです。

ポップな曲になりましたね。

中嶋
最初のデモの段階ではもうちょっと賑やかしの曲になると思ったんですけど、かなり大人っぽく落とし込めたと思います。これでをひとりでツルッと歌ってたら、ここまでポップに聴こえなかったかもしれない。大人っぽくなった上で、3人で歌うことだけは曲げなかったのがすごくいいバランスにとまとまったのかな? カッコ良く伝わる感じが良かったと思います。

曲順は中嶋さんが決めたとおっしゃっていましたが、1曲目の「おまえ」は《悲しみも痛みも寂しさも悔しさも/歌うしかないのさ》という歌詞がtricotの改めての所信表明にも思えます。

中嶋
前半はワクワクしつつ、テンションをアゲたかったので、CDをかけた瞬間にバーン!と殴られるみたいな、元気なスタートにしたいと思って。絶対に1曲目は「おまえ」しかなかったですね。自粛明けすぐにアレンジを固めて、レコーディングしたということもあり、勢いあまった感じはあります。もともとはこんなに激しくも速くもなかったんですけど、3カ月半振りにみんなに会って、“じゃあ、どんなアレンジしていく?”って、ああでもないこうでもないとやっている時に吉田さんが“これいいんちゃう?”とドラムをパーン!って叩き始めて。
吉田
“そのままAメロに入っちゃえ”って言ったもんね。
中嶋
そのまま最後まで走りきったんで、tricotにありそうでなかったハジけ方をした曲になりました。
吉田
先輩が“もっとテンポを上げたい”と言ってくれて。
キダ
ギターをかき鳴らしたかったんですよ。
吉田
“えっ、上げれるなら上げたいわ”と思ってテンポを上げたら、全員がすんなり“上げよう!”となったから、全員が上げたいと思ってたんですよ(笑)。
キダ
かき鳴らしたい欲がそこで出ましたね。
中嶋
3カ月半の積りに積もったみんなの楽器弾きたい欲、大きな声で歌いたい欲がそのまま入った曲ですね。

意識が異世界や別世界にコネクトしているように思えて、日常生活に根差しているような歌詞も面白いです。

中嶋
練りに練るというタイプではなくて、いつも音が先にあって、そこに自分が一番気持ち良いとか、カッコ良いと思う言葉をデザインしていく、コーディネートしていくみたいな気持ちで書いてるので、それは今回も変わらないんですけど、その時その時の自分の気持ちというのは自ずと反映されてしまうのかな? 自分のことを歌いたいとか、“これを伝えたい!”っていうのはなくて、理想としてはファンタジーや妄想力が大事かなと。自分じゃない人のことを歌いたい、場合によっては人じゃなくてもいいと思っているんですけど、その割に今回はシンプルな歌詞も多かったと思いました。珍しく普段使う言葉で書いた曲もあるんですよ。「炒飯」はそうですね。

その「炒飯」の終盤の《危ぶまれる生活でも 期待したい未来 あたしたちは生きる そんなこんな時代》は、今だからこそなんじゃないかと。

中嶋
ちょっと匂わせてみました(笑)。もともとそこは違う歌詞だったんですけど、言葉が刺さったら、より曲がいろいろな人を救うんじゃないかと思ったので。2020年に出たアルバムという感じも出したかったし、淡々とした曲の中で、実は何かを訴えられてたらカッコ良いと思って、歌録りの日の午前中に変更したんです。

人魚姫をモチーフにした「Laststep」は他の曲と歌詞の書き方がちょっと違うと思ったら、10年11月に出したデモの収録曲の再演なのですね。

中嶋
配信ライヴでリクエストを募って、多かった順に1位から10位まで演奏するという企画があったんですよ。そこに「Laststep」もランクインしていたんですけど、“そう言えば、この曲のアコースティックバージョンは音源が出ているけど、バンドバージョンって最初のデモしかないよね”って話から、限られた人しか持っていないので再録したいなと。いい曲だし、入れるなら10周年の今じゃないかってなりました。言ってみれば、曲のほうから“入れてよ”って寄ってきましたね(笑)。

最後に難しいとは思いますが、おひとりずつ今回のアルバムの推し曲を教えてもらえないでしょうか? 

中嶋
私は「幽霊船」が好きです。もともとデモの段階から雰囲気が私の趣味にぴったりだと思ってたんですけど、そこからさらにアレンジが加わって、より華やかになったんですよ。もとはサビがなくて、AメロとBメロの繰り返しになる予定だったんです。でも、ちゃんとした曲にしたいというか、この曲なら“アルバムの中の一曲”というよりは“人に伝わる曲”になるんじゃないかということになって、サビを加えることでより華やかになったんですけど、それでも変わらずに好きですね。
吉田
僕は「炒飯」です。完全に趣味ですけど、このテンション感が好きなんです。さんざん上げたり下げたりする曲をやってきて何やねん!って感じですけど、あんまりアガらないのが好きなんですよ(笑)。どの曲にも言えるんですけど、歌詞とリンクしているテンション感が好きで、歌詞のテンションに合わせてドラムもアレンジも作りたいと思っているんです。「炒飯」はそのリンクしている感じがすごく出ている。日常のようで日常でないようで、淡々としてるようで動いている。動きがなくて、ただ淡々としているのは面白くないんですけど、淡々としているけど、ちょっとずつでも何か変化していて、最終的に大きな振り幅はないものの、確実に何かが変わったみたいなテンション感が好きで。この曲はそういうアレンジがtricotでできたと思います。
キダ
私は「WARP」ですね。展開を繰り返さずに、もうどこまででも行ってしまう感じがいい。

「WARP」のベースは「あげない」と同様、エフェクトをかけたベースが印象的ですね。

ヒロミ
初めてオートワウを使いました。だから、ベースを弾いていて一番気持ち良いのは「WARP」なんですよ。でも、シンプルにいい曲やなと思うのは「幽霊船」ですね。 
中嶋
ヒロミさんのベースから作った曲ですもんね。
ヒロミ
Aメロとか歌とかメインで弾いているベースのフレーズをネタとして送ったものに、みんなが音を重ねて広げていきました。
中嶋
エモさも含め、まさにヒロミさんらしい良さが出ていると思います。

取材:山口智男

アルバム『10』2020年10月21日発売 8902 RECORDS/cutting edge
    • 【CD+Blu-ray】
    • CTCR-96004/B
    • ¥5,500(税抜)
    • 【CD+DVD】
    • CTCR-96005/B
    • ¥4,000(税抜)
    • 【CD】
    • CTCR-96006
    • ¥3,000(税抜)
tricot プロフィール

トリコ:2010年9月1日に中島イッキュウ(Vo&Gu)、キダ モティフォ(Gu&Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba&Cho)の3人で結成。直後に自主レーベル、BAKURETSU RECORDSを立ち上げる。結成2、3年目から、ARABAKI ROCK FEST、京都大作戦、FUJI ROCK FESTIVALなど数多くの大型ロックフェスへ参戦。14年以降は、欧米、アジアに活動の幅を広げ、ツアー開催、フェス出演など多数行なっている。17年に吉田雄介(Dr)が加入。19年シングル「あふれる」でメジャーデビュー。20年1月にメジャー1stアルバム『真っ黒』をリリースし、10月に結成10周年を記念した2ndアルバム『10』を発売する。tricot オフィシャルHP

「悪戯」MV

「おまえ」

「右脳左脳」MV

OKMusic編集部

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