SURFACEの
才気あふれるデビュー時を
1stアルバム『Phase』から検証する

バラエティー豊かなギターロック

『Phase』のサウンド面も見ておこう。SURFACEは椎名慶治(Vo)と永谷喬夫(Gu)のふたりとは言え、その基本はバンドサウンドである。強いて言えば、ブラックミュージックのテイストを注入している楽曲が多いとは言えるものの、ユニット的な形態ゆえにか、何かひとつのジャンルに強くこだわっている印象はない。そして、これもヴォーカル&ギターのスタイルならではのことであろうが、どの曲もギターを強調する展開が必ずあることも、サウンド面での特徴である。

弾き語りでもイケそうなナンバーでありながらもビートをしっかりと効かせたM1「空っぽの気持ち」、ホーンセクションをあしらってリズム&ブルースの香りを注いだM2「さぁ」から始まり、M3「なにしてんの -Sweet Horn Mix-」、M4「ふたり」ではシティなのかアーバンなのか分からないけれどキラキラとしたシャレオツなサウンドを披露。かと思えば、M5「FACE TO FACE -がんばってます-」ではラップ風のコーラスやジャジーなエッセンスを取り込んだり、M6「線」ではラテンのフレイバーをまとっていたりと、単調に聴かせない工夫がなされている。M7「バランス」、M8「ひとつになっちゃえ」はハードロック的なアプローチ。M9「それじゃあバイバイ -Phase Mix-」では再びブラスを聴かせるとともに絶妙なグルーブを醸し出し、M10「まだまだ」ではアップライトベース的サウンドも印象的な、これまたジャジーなサウンドを聴かせてくれる。そして、ブルージーで落ち着いた雰囲気のM11「冬の終わり」、わりとプレーンなバンドアンサンブルで迫るM12「ジレンマ」で締め括る。ひと口に言えば、どれもリズミカルでダンサブル、ファンキーなロックチューンということになるだろうが、それぞれ楽曲毎にいろいろと工夫が施されていることがはっきりと分かる仕様だ。

ギターはM1「空っぽの気持ち」で刻まれるアコギから随所でその楽曲を彩るいい仕事をしている。M4「ふたり」のシティポップ感(※アーバンポップ感かもしれない)は間奏やアウトロでのギターソロがそれを増長しているし、M6「線」のスパニッシュな感じのギターあってのことだろう。M7「バランス」でのリフやギターソロからLed ZeppelinやRed Hot Chili Peppersを想像してしまうのは安易だろうし、それらを彷彿させると言ってしまうは流石に持ち上げ過ぎだろうが、少なくとも古今東西のロックと彼らがやろうとした音楽は地続きであることが分かる。また、これも個人的に思うこと…と前置きするが、ギターが楽曲を彩りつつも、それが過剰じゃないところに好感が持てる。本作収録曲での永谷のプレイは決して控えめではないが、これ見よがしでもないと言えばいいだろうか。冗長でなく、丁度いい感じなのである。その辺が関係してもいるのだろう。この『Phase』の楽曲はタイムが全て4分以内なのだ。最も長いのがM4「ふたり」で、それでも3分54秒。凡そ3分半程度で、ポップミュージックとはどういうものであるのかをしっかりと踏まえているかのようである。そう考えると、今さらながらに好感度が増すところではある。

歌詞に見る等身大の時代性
キャッチーなメロディー、ダンサブルで彩り鮮やかなロックサウンドに乗る歌詞は、基本的には前向きさを露呈しつつ、M10「まだまだ」でM9「それじゃあバイバイ」の歌詞を自ら引用してみせるなど、なかなか面白いことをやっている。

《アッカンベーしてさよなら 胸をはって無茶をやれ/変に迷い悩むのは 時間のムダってもんでしょう/今が楽しいから あなたも自由に/生きるようにしてみたら? それじゃあバイバイバイ》(M9「それじゃあバイバイ」)。

《まだまだ 歌い続けよう 自分のために/答えはその先にあるはずだから/「胸をはって 無茶をやれ」って/そういえばこりゃ僕が言ったセリフだ》(M10「まだまだ」)。

また、当時の彼らの世代の等身大のライフスタイルが描かれたものが多く見受けられるのも見逃せない。それは今になって思うと、2000年頃の日本の世相を映しているかのようにも思える。

《学生時代からの親友さえ/3ヶ月以上も音沙汰がない/こんな夜中に洗濯機回す/渦の中に思い出消える》《ドアノブにぶら下げた/コンビニ袋の中に/空き缶ばかりがまた増えてゆく》(M1「空っぽの気持ち」)。

《しこたま飲んで 騒いでみても/君はガードが固い/勢い任せに ぶっちゃければ/今すぐホテルに 連れこみたい》《あぁもうじれったい 裸になっちゃえ/何もかもさらけ出せば 楽になれんだろう?/ゼロになれんだろう?/愛をぼったくれホラホラ/いくら出してでも 僕が買ってやる》(M8「ひとつになっちゃえ」)。

今となっては流石にM8はコンプラ的にアウトな内容だろうが、M1で綴られている悲哀を加味すると、そこに、バブル崩壊のあと、ITバブルも崩壊して、本格的かつ急速に景気が悪化していた当時の混乱っぷりを見るようでもある。椎名がその辺をはっきりと意識していたのかどうかは分からないけれども、少なくとも肌感覚で不穏な空気を感じ取っていたことはうかがえる。音楽家に限らず、優れたアーティストは予想を切り取り、未来を予見するというが、こうした歌詞はSURFACEが優れたロックバンドであることを示しているかのようだ。ここでもまた彼らが、世が世であれば天下を奪るバンドであったことを感じてしまうのであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Phase』1999年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.空っぽの気持ち
    • 2.さぁ
    • 3.なにしてんの -Sweet Horn Mix-
    • 4.ふたり
    • 5.FACE TO FACE -がんばってます-
    • 6.線
    • 7.バランス
    • 8.ひとつになっちゃえ
    • 9.それじゃあバイバイ -Phase Mix-
    • 10.まだまだ
    • 11.冬の終わり
    • 12.ジレンマ
『Phase』('99)/SURFACE

OKMusic編集部

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