西片梨帆

西片梨帆

【西片梨帆 インタビュー】
連れ出してくれる人がいるだけで
人って変わる

連れ出してくれる人がいるだけで
こんなに変われるんだと知った

2曲目の「リリー」は勢いのある爽快な楽曲で。

もともと原作がコミックのドラマ主題歌の話があって。これに関しては歌詞もすごく考えました。その漫画はいろいろなタイプの男性に対して、主人公の女の子が罵倒していくという話だったんですけど、女の子は本当に好きな人を探してるんだろうなと思ったんです。その姿を花に例えたら何になるのかと思って調べたら、リリーには“純白”みたいな花言葉があったので、それをもとに作ろうと。サウンドに関しては“勢いのあるものにしてほしい”とリクエストがあったからこういう感じになりました。編曲担当のkeebowさんはインディーズ時代からずっと一緒にやってきた方で。他の曲はスタジオ内で完成させたんですけど、keebowさんとはオンライン上で“こんな感じがいいです”とやり取りしました。

「片瀬」は好きな人との心のやり取りを描いたエモーショナルなナンバーですが、この曲については?

これは20歳くらいの時に書いた曲で、それまでは自分の思考の中にいることが好きだったから、外側の世界にあまり気持ちが向かなかったり、視線が行かなかったりしたんです。正直に言うと、海とかを見てもきれいと思ったことがなくて…。それは地元がニュータウンだったので、無機質な建物が並び、道もずっと一直線で続いているようなところで育ったことが影響しているんだと思うんですけど。で、20歳くらいの時に好きな人と片瀬江ノ島まで海を見に行くことがあって。その好きな人は何に対しても純粋で、子供のまま大人になったみたいな人だったんですよ。だからか、その人と一緒に海を見た時、初めて“すごくきれいだな”と思えたんです。その海がきれいという事実よりも、私自身が海を“きれいだな”と思えたことが嬉しくて、その時にちょっと自分が変わった気がしたんです。

それはすごい転機ですね。

それまでは家で体育座りしていたような気持ちだったけど、連れ出してくれる人がいるだけで、こんなに人って変わるんだなと思って。だから、その日のことは今でもすごく覚えていて、宝物みたいに大事にしています。さらにもうひとつ話があるんです。その時に、ちょうど会社員の友達が心の病になってしまって、会社を辞めてずっと部屋にいるということを聞いて。その友達が“一緒に住んでいる恋人がいつも帰り道にお花屋さんで花を一本買ってきてくれて、その花を生けて窓際に飾るのが毎日の楽しみなんだよね”と言った時に、すごくその子の気持ちが分かってリンクしたんです。この曲はその女の子にも捧げた曲だし、私自身もその経験をして変わったという曲なんです。そういう意味でも歌う時はすごく大事にしているし、編曲はMETAFIVEのゴンドウトモヒコさんなのですが、“話し声を入れたい”とか“サビではこうしたい”とか、じっくりやり取りをして作っていきました。

曲の冒頭に話し声を入れたいと思われたのはどういった理由から?

今までは自分と会話をしていたけれど、人と会話をすることで変わっていったことを音でも表現したかったんです。

まさにミニアルバムタイトルとリンクする話でもあります。

“彼女と会えなければ孤独だった”とタイトルを決めた時、この曲は絶対に入れたいと思いましたね。

そして、「嫉妬しろよ」はストレートな恋愛の歌ですよね。

当時は一緒に音楽を始めた友達がみんなメジャーデビューしたり、レーベルに所属したりして、周りがすごく頑張ってる分、“なんで自分はこうなんだろう?”と思っていて。恋愛に依存して、彼氏の家に入り浸っている時期に書いた曲です(笑)。今、この曲はYouTubeで公開されているんですけど、当時の私の気持ちと近いメッセージやコメントが書かれているのを見ると、“あぁ、懐かしい気持ちだな。私はこの感情を知っている”と思うんですよ。今では好きになることと依存することは違うと分かっているし、こういうもろに入り込むことはもうないだろうから、その時にしか書けなかった曲だと思ってます。

「23:13」は今作の中では比較的新しく、今の西片さんにもっとも近い曲だそうですが。

昨年の夏か秋、とても憧れていた人がいた時に書いた曲になります。その人に“私は西片の曲を聴いても何も思わない”と言われて。

ええ!?

理由を訊いたら、“私はひとりでも生きていけるし、誰かに依存したり、想いを馳せなくても大丈夫だから”と言われて。それで納得したんですよね。その人の人生が縦だとしたら私は横にいて、決して交わるところはなく、これからもずっとそうやって生きていくんだなって。そしたら、とてもつらく思えてきて。それが23時13分だったんです。

本当にそれはつらい…。

私は好きな人が好きなものを自分も好きになることで、自分のアイデンティティーになったりしてて…いろいろなものを取り入れるのが私らしさなんですよ。でも、その人はその人として確立しているから、自分が入るところがまったくないんです。私が今23:13に感じている孤独は、多分この人には一生分からないと思った時に書いたので、《わたしなんて いらない》とか《とおくで笑ってる》というのは、“私とはずっと交らないところであなたは生きているんだろうな”という想いからなんです。でも、最後に《Give me》と言ったのは“本当はあなたのことが欲しいんだけれど、見ているだけでいいや”という。

すごいなぁ。

でも、私は今まで“西片さんの曲はすごいね”と言われ続けてきたところもあったので、“何も思わない”と言われて、逆に興味があったんですよ。すごく面白い体験だったし、今も鮮明に思い出せるぐらい、その時の濃かった思い出がありますね。

「23:13」で影響されない人とのことを描きつつ、最後の楽曲は《男は元カノの成分で8割型出来ているらしい》と歌う「元カノの成分」で、“私はこういう人なのよ”と西片さんらしさで締めているんですね。

誰かとぶつかったり、共有したりすることで生まれる楽曲がほとんどなので、「元カノの成分」で締めたのはそういう意味がありますね。

西片さんのこれまでがギュッと詰まったアルバムになっていると思いますが、ご自身にとってはどんな作品だと感じていますか?

インディーズの時は制作からお金関係のことまで全部自分でやっていたから、初めて制作に集中できたというか。コロナになったのは不運と言えば不運ですけど、孤独になれたことに対して“良し”ととらえれば、すごくいいタイミングでリリースできたと思っています。あとは、ファンの方からメジャーデビューすると変わるんじゃないかと思われるのが一番不安で、制作している時はずっと気にしてたんですよ。でも、私は誰かに何かを言われたとしても決して左右されないと思うので、この作品を通して今まで好きになってくれた人に“私はずっと変わらないんだよ”ということを伝えたいです。そして、これから出会う人も多分いっぱいいると思うから、私の曲がそれぞれの生活や人生の中に入っていくようなアーティストになれたらいいなと思ってて。それの第一章としてこのミニアルバムを制作できたことはすごく良かったと思うので、いろいろな人に聴いてほしいです。

取材:キャベトンコ

アルバム『彼女がいなければ孤独だった』2020年9月23日発売 日本コロムビア
    • COCB-54301
    • ¥2,300(税抜)
西片梨帆 プロフィール

ニシカタリホ:2015年に“梨帆”名義で活動を始め、初めて作った曲で「出れんの!?スパソニ!?」に応募し、 『SUMMER SONIC 2015』のステージに立つ。19年活動名義を“⻄片梨帆”に変更し、ソングライティングだけでなく執筆活動やデザインなど、幅広く活動。楽曲以外にも、舞台の脚本を手がけたり、自身の書いた小説をZINEにして販売するなど、独特の活動スタイルで異彩を放っている。20年9月にアルバム『彼女がいなければ孤独だった』でメジャーデビューを果たす。西片梨帆 オフィシャルHP

「黒いエレキ」MV Teaser

「元カノの成分」MV

OKMusic編集部

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