文化を絶やすな。リニューアルを遂げ
た月見ル君想フ店長が語るライブハウ
スの現状と新たな挑戦

店舗リニューアル、コロナ禍でのライブ配信、新店舗のオープンなど、7月末から8月にかけて大忙しのライブハウス、青山・月見ル君想フ。このコロナ禍で身動きが取れず行く手を阻まれる事業者が多い中で、進むべきビジョンをいち早く明確にして突き進んできているように見える。世の中が混沌とする中、なぜここまで「攻め」の姿勢をとることができるのか、その裏側にはどんな努力と想いがあるのかを月見ル君想フの店長、タカハシコーキ氏に聞いた。

ライブハウス業は常にサバイバル

ーコロナの影響はどうですか。
3月のライブはほぼキャンセルでした。でも、実はその後に撮影や無観客のイベントを募集してもう一回枠を埋めなおしたんですよ。激安で会場をレンタルして、3月はそれで乗り切りました。それでも4月以降は完全にストップしてしまったので、4月の売上は僕の月給いかなかったですね。やばいですよ、個人の月給いかないくらいの売上。
ーでは、4月がピークでしたか。
4月が一番悪かったですね。5月は、家賃分ギリギリいったかどうかくらい。少しずつ良くはなってきてはいます。
ー月見ル君想フ(以降、月見ル)は海外アーティストのライブが多かった印象です。アーティストとの調整も今まで相当大変だったのではないでしょうか。
年内の海外案件は全部とびました。来日の案件だけでなく、月見ルが海外に向けて仕込んでいた案件、ツアーも全て中止となり、完全に1,2年は目処が立たない状態ですね。
2月末に青山エリアで開催した<BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVAL>の時は、出発前日までアーティスト側と来日すべきかどうか電話で議論していました。実はアーティスト側からの出演キャンセル連絡は一件もなかったのですが、中国・広東省のアーティスト、Power Milkだけは土地柄的に大事をとって辞めておこうという話になり、収録映像をフェス会場で流すことにしたんです。本来は現地からの生配信ライブをやりたかったのですが、タイムテーブルや人員を考えて断念しました。他のアーティストについては、飛行機に乗る直前まで電話で状況を確認して、「空港も飛行機も危ないから気をつけて!」といった会話を繰り返していました。
ーとはいえ、無事に開催できてよかったですよね。フェスの直後から本格的に自粛の動きが広まっていったと記憶していますが、その後はいかがでしたか。
フェスが終わって、それから急遽スタッフみんなでミーティングをした時に初めて、今後ライブハウスの運営ができなくなる危機感を共有しました。うちには中国人、台湾人のスタッフがいて、中華圏の動きをすでにウォッチしていたこともあり、日本より1ヶ月早く中国全土の公演が中止になっている状況やライブ配信を積極的に利用している状況を見て、すぐに配信設備を整えるためのミーティングを重ねていたんです。そして、初めてライブ配信を行ったのが3月4日でしたね。
ー月見ルは業界の中でも先駆けてライブ配信を行なっていた印象でした。中華圏の動きを見ていたというのは、重要なポイントの1つですよね。
そうですね。そして、3月中はサービス、収益化の観点からどの配信プラットフォームがいいのか色々試してみたのですが、結果どこも合わずで。試行錯誤が4月頭まで続きました。それから、たまたまフェスのサイトを作っていて馴染みのあったホームページ作成ツール「Wix」で動画配信できることを知ったんです。チケットを売って、動画制作して、配信するまで全部できるんです。自分たちで全て管理できるという強みがあるので、うちはWixでオリジナルサイト「MoonRomantic Channel」を作って、4月10日にWix経由で初めてライブ配信をやりました。
ー配信に関わるほぼ全てのフローを月見ル内で完結させていたということですね。
そういうことです。びっくりするのが、外部のプラットフォームを利用した場合、例えばとある配信系サービスだと約40%を手数料で持っていかれるんですよ。
ー40%?!
要は、売上の40%をプラットフォームに支払い、残りの60%をアーティストと箱とスタッフ全員で分けなければいけません。自社プラットフォームのメリットの一つは、売上100%をアーティストと箱で半分ずつに分けることができることです。配信を初めた当初から、アーティストにもきちんと還元できるように、ずっと半々でやっています。
ー今現在、政府からの金銭的な支援はあるのでしょうか。
配信事業に対しては、購入機材の一部が助成されるような制度は出来てきました。ただ、自粛に対しての営業保証は、東京都の感染拡大防止協力金以来ありません(2020年8月現在)。
大前提として、配信は今のライブ業界を完全に救うものではないんです。生ライブの良さを補えるものではないことを理解しつつ、僕らができることは何かを考え、文化の発信を止めないことが一番大事だと思っています。スタッフやアーティスト、お客様にきちんと還元できる場を作ることがライブハウスの本来の役割なので、その循環をいかに続けていくかということを基本的に考えてやってきています。
政府としては、「配信をサポートしていけばライブハウスはOKだ」みたいな流れがあるんですよ。今、僕らは配信をガンガン進めている方だと思うのですが、政府の思惑に利用されたくないという思いがあります。その辺は、きちんと実態を理解してほしいです。
ーライブ配信のメリット、デメリットについては、どうお考えですか。
コロナによって全国ツアーがキャンセルになり、配信に切り替えたことでライブを見ることができたお客さんがたくさんいたのは事実ですが、本来であれば全国を回るはずだったその1ヶ月間の労働がたった1日にまとまってしまった。アーティストやサポートミュージシャン、スタッフの1ヶ月分の仕事が1日の仕事としてしかお給料をもらえない。詳しい事情はさておき、ライブ配信は産業的には問題もあると思っています。
一方、これまでライブハウスに行ったことがなかった人や、行きたくても行けない人からは感謝の声が沢山届いています。配信を利用して客層を増やすことで、ライブ業界全体の底上げにもつながる可能性を秘めているとも思っているので、ポジティブに向き合っていきたいです。
もともとライブハウス業は「サバイバル」なんですよ。そういう意味で言うと、今もコロナ前も大変なのは変わっていないと言えば変わってないです。今までも相当大変でした(笑)。いい意味でとらえれば今は進化していく時だと思うので、前向きにチャレンジしたいと思います。逆境の時こそ攻め時だと思っているので。
ー夏になったら収まるだろうと言ってたのに、全然収まる気配がないですよね。
当初は3、4ヶ月厳しい状況が続いてその後は少しずつ元に戻ると予想されていました。いまだにどの会場もキャパの半分すらお客さんを入れられない状態が続いていて、スケジュールも大して稼働できているわけではない。それでは確実に持たないです。
大きな会社だとライブハウスを続けるということ自体がビジネス的に見込めないので、そうなると普通撤退しますよね。会社としては当然の判断です。経営者が身を削って「文化を守る」と言っているのは、小さい箱が多いです。なんとか持ちこたえてほしいところですが…。
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