武田真治が
アーティストとしての才能を
如何なく発揮した
衝撃のデビュー作『S』

いち早く時代の要請に答えた嗅覚

M7「Seen 37」も注目である。作曲は高木 完。もちろんアレンジにも彼が参加しているし、この楽曲においてはほぼプロデューサー的な立場で臨んでいると言っていいだろう。何とも形容し難いスペイシーなサウンドをバックに(※強いて言えば、坂本龍一の「千のナイフ Thousand Knives」っぽい雰囲気)、武田のサックスをはじめ、さまざまなサウンドが鳴っていくという構成。オリジナリティーあふれるサウンドメイキングは、日本のヒップホップ黎明期より活動を続ける高木 完ならではのものであろう。武田のサックスも他楽曲に比べて堂々としている印象もあるが、その辺は高木氏の手腕によるところもあるかもしれない。楽曲もさることながら、この時点で彼を招いたこと自体も注目に値するのではなかろうか。リリースされた1995年と言えば、EAST END×YURIが2ndシングル「MAICCA -まいっか-」が発売された年で、その前年には「DA.YO.NE」、そしてスチャダラパーと小沢健二のシングル「今夜はブギー・バック」が発表されている。日本のヒップホップがメジャーになってきた、まさにその時である。そこで高木 完を招くというのは、機を見るに敏だったというか、彼のアーティストとしての嗅覚が確かな証拠だったと言える。RIP SLYMEがインディーズデビューし、キングギドラがアルバム『空からの力』でデビューした1995年に、アルバム『S』が発表されたというのは偶然ではなく、武田真治が時代の要請に答えた結果だったとも言えまいか。

さて、アルバム『S』の概要を主に参加ミュージシャンから解説してみたが、何よりも大切なのは、そのサウンドの中心にいる武田真治の存在感である。最後にそこを推し、強調しておきたい。正直言って、若干粗いと思う演奏がなくはないけれども(※収録したのが22歳頃だと考えれば、その辺は目をつぶってもいいと思うが)、どのテイクにおいても実に生々しい音を聴くことができる。これはサックスに限らず管楽器の特徴であろうが、人が直接息を吹き込んで鳴らす楽器なだけあって、感情が生々しく出て、プレイヤーの人となりが露わになるとはよく言われる。『S』収録曲にもそれがある。M2「Froggy!」では不良っぽいカッコ良さ。M5「恋をしようよ」ではスウィートな印象。M9「FREE YOUR SOUL」ではアーバンでセクシーな雰囲気。まだまだあるが、当時の武田真治のタレントイメージを損ねることなく、しっかりと人間味が伝わってくるプレイを聴くことができる。変則的な演奏は少なく、概ねポップであるところにも好感が持てるところだ。[中学時代から熱心に練習を重ね、将来はサックスプレイヤーになることを夢見ていた]といい、[ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに応募した動機も、俳優やタレントを目指してのことではなく、サックス奏者としてデビューの足掛かりになると思ったためと明らかにしている]そうで(※[]はWikipediaからの引用)、『S』から聴こえてくるサックスの音色にはそうした積年の想いが詰まっているようでもある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『S』1995年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Blow Up
    • 2.Froggy!
    • 3.YOU AND ME MAKE LOVE
    • 4.FAT RAT STRUT
    • 6.MOTOR WAY
    • 7.Seen 37
    • 8.TETROMECCA
    • 9.FREE YOUR SOUL
    • 10.サファィアを手に入れろ
    • 11.バハマの2人
『S』('95)/武田真治

OKMusic編集部

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