武田真治が
アーティストとしての才能を
如何なく発揮した
衝撃のデビュー作『S』
いち早く時代の要請に答えた嗅覚
さて、アルバム『S』の概要を主に参加ミュージシャンから解説してみたが、何よりも大切なのは、そのサウンドの中心にいる武田真治の存在感である。最後にそこを推し、強調しておきたい。正直言って、若干粗いと思う演奏がなくはないけれども(※収録したのが22歳頃だと考えれば、その辺は目をつぶってもいいと思うが)、どのテイクにおいても実に生々しい音を聴くことができる。これはサックスに限らず管楽器の特徴であろうが、人が直接息を吹き込んで鳴らす楽器なだけあって、感情が生々しく出て、プレイヤーの人となりが露わになるとはよく言われる。『S』収録曲にもそれがある。M2「Froggy!」では不良っぽいカッコ良さ。M5「恋をしようよ」ではスウィートな印象。M9「FREE YOUR SOUL」ではアーバンでセクシーな雰囲気。まだまだあるが、当時の武田真治のタレントイメージを損ねることなく、しっかりと人間味が伝わってくるプレイを聴くことができる。変則的な演奏は少なく、概ねポップであるところにも好感が持てるところだ。[中学時代から熱心に練習を重ね、将来はサックスプレイヤーになることを夢見ていた]といい、[ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに応募した動機も、俳優やタレントを目指してのことではなく、サックス奏者としてデビューの足掛かりになると思ったためと明らかにしている]そうで(※[]はWikipediaからの引用)、『S』から聴こえてくるサックスの音色にはそうした積年の想いが詰まっているようでもある。
TEXT:帆苅智之