ホリプロプロデューサー陣が語る、新
企画「ミュージカル クリエイター プ
ロジェクト」に見出す希望

「今だからこそ、未来に向けて新たな挑戦を!」
そう力強く銘打たれた新企画「ミュージカル クリエイター プロジェクト」。コロナ禍でエンターテインメント業界に様々な壁が立ちはだかる中、ホリプロで誕生した画期的なプロジェクトだ。世界で通用するオリジナルミュージカルを創出することを目標に、音楽部門と脚本部門それぞれでプロアマ問わずクリエイターを募集している。
今回、2020年6月に始まったこの意欲的なプロジェクトの発起人を含む6名のプロデューサー陣(井川荃芬、梅津美樹、鵜野悠大郎、住田絵里紗、柳本美世、堀内美穂)が集まった。この6名にプロジェクトの詳細や現在の応募状況、そしてこれからのエンターテインメント業界に馳せる熱い想いをリモートインタビューで伺った。
未来を見据えたプロジェクト
ーー早速ですが、「ミュージカル クリエイター プロジェクト」が一体どんなプロジェクトなのか教えてください。
井川:まずプロジェクトを立ち上げた経緯からお話しさせていただきます。新型コロナウイルス感染拡大の影響で自粛期間に突入し、全ての舞台公演が止まりました。私の場合は『デスノート THE MUSICAL』が大阪公演と福岡公演を残して中止に。1981年の日本初演から毎年上演していた『ピーターパン』も、今年は全公演中止という状況になりました。
こうした状況下ですぐにできることを考えたとき、「オリジナルミュージカルならこのような状況下になった時に、もっと色々なものをお客様に届けられるようになるのではないだろうか」と思ったんです。ホリプロとしても、以前から「世界に通用するような日本のオリジナル作品を生み出していきたい」という想いがありました。ですが、本格的にミュージカルを作るには最低でも3年はかかります。そう考えると、興行までを目指してクリエイターの方たちと出会う場というものは簡単には作れません。そこで、日本発のオリジナルコンテンツを作るために、まずはクリエイターさんと出会い、共に成長できる場を作りたいと考え、「ミュージカル クリエイター プロジェクト」を企画するに至りました。
井川荃芬
ーーなるほど。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてということは、企画自体が立ち上がったのは公演中止が相次いだ2020年3月〜4月頃だったのでしょうか?
井川:そうですね。4月末に会社に企画を出し、是非やりましょうということになりました。
堀内:コロナ禍において、エンターテインメント業界にいる自分たちがやることの原点に戻って考えさせられている中で、井川がこのプロジェクトを立ち上げました。私は彼女のようにクリエイターをみつけることなんて、到底思い浮かびませんでした。私自身、業界の状況に落ち込んでいた部分もありましたが、このプロジェクトはこれから先の未来を見据えている。ひと筋の希望が見えたような気がしたんです。井川をはじめ、若くて考え方が柔軟で才能溢れるプロデューサーがこの部にいて、すごくおもしろい会社だなと改めて思いました。
手を挙げた6名のプロデューサー
ーー井川さんが最初に声を上げてプロジェクトが誕生したんですね。今ここに6名のプロデューサーがいらっしゃいますが、それぞれこのプロジェクトに賛同して集まった方々ということでしょうか?
井川:はい。プロジェクトをやるとなったときに、手を挙げてくださった方々です。
柳本:私はミュージカルはそんなに詳しくないのですが、新しいクリエイターさんと出会いたいという想いが前々からあったので、すぐに手を挙げました。以前から未来により良い作品を届けるには、良いクリエイターを育てることが大事だと思っていました。ただ現実的にクリエイターを集めるオーディションってなかなか難しいだろうな……と考えていたところにこの企画があったんです。クリエイターさんと一緒に成長していきながら仕事ができたらいいなと思っています。
柳本美世
梅津:私も仕事をしていく中で、クリエイターの方と出会う機会が少ないと感じていました。もちろんいつもホリプロがお世話になっている方々はいらっしゃいますが、改めてクリエイターの方々と出会うのはなかなか大変で……。新しいクリエイターの方に出会いという想いからこのプロジェクトに参加しました。これまでの現場で重ねてきた経験、そこで得たことを活かし、オリジナルコンテンツを作って発信していきたいと思い参加しました。
住田:私は韓国発のミュージカル『フランケンシュタイン』の日本初演と再演に関わらせていただいたのですが、こういうパワーがある作品を作り出したいと思っています。熱狂を巻き起こせる、そんなオリジナルミュージカルを一緒に作っていけるクリエイターを探したいと思い、このプロジェクトに参加させていただきました。
住田絵里紗
ーーせっかくですので、プロジェクトメンバー6名それぞれ自己紹介をお願いできますか? ホリプロに入社されたきっかけ、これまでに担当された主な作品、個人的に好きな作品などを教えてください。
堀内:私はホリプロ入社以前からこの業界で仕事をしていて、2000年に入社しました。初めてホリプロで企画した作品は、2011年の三浦大輔さん演出の『ザ・シェイプ・オブ・シングス~モノノカタチ~』でした。ミュージカル作品は『ピーターパン』と『ウーマン・イン・ホワイト』で制作につき、『キャバレー』では1回目は制作として、2回目はプロデューサーとして関わりました。最近の作品ですと、『ピカソとアインシュタイン〜星降る夜の奇跡〜』、『笹本玲奈20thアニバーサリー・コンサート「Breath」』、『カリギュラ』、朗読劇『僕とあいつの関ヶ原/俺とおまえの夏の陣』などがあります。
『ピカソとアインシュタイン〜星降る夜の奇跡〜』右:ピカソ役 岡本健一 左:アインシュタイン役 川平慈英 撮影:宮川舞子
柳本:私は以前、銀河劇場で営業やプロデューサーの仕事をしていました。ホリプロが銀河劇場を手放すことが決まり、2016年にホリプロに移ったんです。2018年の『密やかな結晶』が、ホリプロで初めてプロデュースした作品です。その後は『レインマン』、彩の国シェイクスピア・シリーズ第34弾『ヘンリー5世』、『アジアの女』。今年は彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』を予定していましたが、残念ながら中止となってしまいました。
『アジアの女』(左から)山内圭哉、吉田鋼太郎、石原さとみ  撮影:宮川舞子
学生時代からお芝居が好きで、ストレートプレイを中心に観てきました。仕事でもミュージカル作品にはあまり関わっていないのですが、芝居に音楽が加わると場が盛り上がるというか、気持ちが高まりますよね。芝居を作りながらそういうところに魅力を感じていました。ストレートプレイとミュージカルを分けるのではなく、一つの表現としてミュージカルを捉えたいと思っています。
梅津:私は元々ミュージカルが好きだったのですが、まさか自分が裏方をやることになるなんて思ってもいませんでした。初めて観たのは、小学校低学年のときの劇団四季の『ライオンキング』。その後は続けて『アニー』、『ピーターパン』など他にも色々観ました。
ホリプロに入社したきっかけですが、実は学生時代に弊社所属のタレント(笹本玲奈)の付き人をしていたんです。その頃に知り合ったホリプロの方から「制作を手伝ってほしい」とお話をいただきました。
それで、2008年に『ピーターパン』で初めてホリプロ作品の制作に関わったんです。その後入社したのは2011年4月。それ以来10年近くずっと『ピーターパン』を担当させていただいています。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』2019  撮影:渡部孝弘
他にも『スクルージ~クリスマス・キャロル~』、『ラ・カージュ・オ・フォール』、『アリス・イン・ワンダーランド』、『スコット&ゼルダ』、『プラトーノフ』などにも関わりました。
住田:ホリプロの物販のアルバイトをしていたのですが、当時の部長から「制作を手伝ってみないか」とお話をいただいたのがきっかけで、ホリプロで働くようになりました。再演の『フランケンシュタイン』は、初めてプロデューサーとして担当した作品です。その前は『スウィーニー・トッド』や『ピーターパン』、『スクルージ~クリスマス・キャロル~』にも制作として関わっていました。
『スウィーニー・トッド』左:市村正親 右:大竹しのぶ  撮影:渡部孝弘
一番好きなミュージカルは『エリザベート』です。実は私元々役者をやっていまして、宝塚の『エリザベート』を観たのがきっかけで、宝塚を目指していた時期もありました。役者のときにオーディションで「一発芸ありますか?」と言われ、エリザベートとフランツの一人二役を演じて笑いを取り、出演を勝ち取ったこともありました(笑)。 『エリザベート』なら一人で全役、3時間上演できます(笑)!
鵜野:私は幼い頃に病気で入院してしまって、その時病室でディズニー作品のビデオをよく観ていました。当時のディズニー映画はミュージカルシーンも多く、それもあって、親がミュージカルに連れて行ってくれたんです。ちょうどその頃から日本でもディズニー作品の上演が始まったので、どんどんミュージカルにハマっていって……。一番最初に観た作品はホリプロの『ピーターパン』。ホリプロというと一般的には芸能事務所ですが、僕にとっては『ピーターパン』を制作している会社というイメージが強かったです。それで就職活動をする中で、ホリプロを受けて新卒で入社しました。
これまでに担当してきたのは、ほとんどミュージカルやミュージカルコンサートです。9月に開幕する『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』、2021年に再演する『パレード』も担当しています。他に、『ロミオ&ジュリエット』や、安蘭けいさんや石川禅さんといったミュージカル俳優のコンサートも経験させてもらいました。
『パレード』 撮影:宮川舞子
井川:私が初めて観たミュージカルは、幼稚園のときに観た『ピーターパン』です。ホリプロへ入社する大きなきっかけとなったのは、高校生のときに大学の入学祝いとして母と一緒にアメリカへ行ったことですね。当時ラスベガスで開催されるセリーヌ・ディオンのショーと、ブロードウェイのミュージカルがどうしても観たくて、母に頼み込んだんです。以降、学生時代は頻繁にニューヨークへ行くようになり、「こんな世界最高峰のエンターテインメントを日本でやれないだろうか」「こういう場所に日本の文化を届けられる日がきたらいいな」と考えるようになりました。
ホリプロだったら作品を作れるし、作品を通して役者を育てることもできる。いろんな可能性がある会社だと思い、2008年に新卒で入社しました。6年半ほどマネジメント業務を経験してから制作の部署へ異動し、大変ありがたいことに『スリル・ミー』、『デスノート THE MUSICAL』といった栗山民也さん演出の作品にガッツリ関わらせていただきました。他に『ビリー・エリオット』日本初演時のオーディションやトレーニング、『メリー・ポピンズ』を担当してきました。
『デスノート THE MUSICAL』左:夜神月役・村井良大 中:エル役・髙橋颯 右:死神リューク役・横田栄司 (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
国内外問わず、ミュージカルへ、ミュージカル作品を創りたい方ならどなたでも!
ーー「ミュージカル クリエイター プロジェクト」は、2020年6月5日にTwitterを通して発表されました。プロジェクトに対する反響や、2020年7月現在の応募状況などを教えてください。
梅津:このプロジェクトでは音楽と脚本をそれぞれ別の枠で募集しているのですが、合わせると40〜50作品ほどきています(※インタビューを行った7月上旬時)。応募時のメッセージからも、すごく熱い想いを持っていらっしゃることが伝わってきます。台本にミュージカルの香盤表までつけて送ってくださる方もいました。
梅津美樹
井川:新作に限らず過去にアマチュアで上演したことがあるような作品も応募可能なので、現時点でここまで応募があるのかもしれません。
梅津:日本の方が中国のアーティストさんを推薦する、という形の応募もありました。
ーー応募は日本に限らず、世界中どこからでも可能なのでしょうか?
井川:はい。応募する方は、日本在住でなくてももちろんOKです。ミュージカル作品を作りたい方ならどなたでも大歓迎です。
条件は
1.ミュージカルを想定した内容であること
2.テーマは自由 (オリジナル・実話など何でもOK)※原作がある場合は、著作権フリーであること
3.日本語での上演ができるもの
4.海外からの応募可

です。既にアメリカに在住されているからの応募もきています。
ーー現時点で応募されている方の年齢層など、傾向は見えてきていますか?
柳本:傾向はまだ見えていませんが、一番若い方は現役の学生で専門学校に通っている方ですね。逆に一番年上ですと58歳の方もいます。
ーー応募作品の審査はどんな方が行い、どのように選考を進めていく予定ですか?
住田:審査はここにいる6人のメンバーだけで進めていくわけではなく、ホリプロの公演事業部としてプロデューサー陣や制作陣全員が審査員となって進めていこうと考えています。
井川:まだどういう作品が集まるかわからないこともあって、今後の審査は様々なやり方が考えられると思っています。もし優れた作品があれば、すぐにでもホリプロの役者さんを集めてリーディングをしてみるのもいいでしょうし。また、楽曲と脚本それぞれが素晴らしく寄り添うものがあれば、組み合わせて一緒にクリエーションしていくのもありかなと思います。そういったいろいろな審査の中で、社長や役員が一緒に作品をみていくこともあるかもしれません。
私たちがやっていることは希望の光だと信じたい
ーー今回のプロジェクトは「世界に向けた“オリジナルミュージカル” の創作を目指す」ものですが、あえて “ミュージカル”に焦点を当てたのはなぜなのでしょうか?
井川:単純に、私がミュージカル好きだからです(笑)。日本発の『デスノート THE MUSICAL』の初演、再演と携わってきた中で、オリジナルコンテンツを作る大変さとおもしろさを感じました。我々が海外のミュージカル作品の権利を買うときは既に成長しきった作品を扱うことになるのですが、オリジナル作品では再演を重ねるごとにお客様と共に成長させてもらっているという感覚があるんです。
また、演出家の栗山さんとお仕事をしたことの影響も大きいです。栗山さんは『スリル・ミー』のことを「ストレートミュージカル」と仰るくらい、お芝居としてミュージカルを捉えていらっしゃいました。歌と芝居を分けないということもすごく学ばせていただきました。『デスノート THE MUSICAL』初演時のこともよく覚えています。まず作曲のフランク・ワイルドホーン、歌詞のジャック・マーフィー、脚本のアイヴァン・メンチェル、そして日本の制作スタッフでディスカッションをして、そこに栗山さんのアイディアが加わるという形で作り上げていきました。話し合う中で時にはお互い譲れないポイントというものがあり、意見を戦わせることも。創作過程を間近で見ながらオリジナルミュージカルを作る上でのポイントを学ぶことができたので、その経験を活かしていきたいです。
ーー「ミュージカル クリエイター プロジェクト」を経て、将来的にどんな世の中になって欲しいと考えますか? 舞台関係者・観客(市場)に対しての想いも含めてお聞かせください。
鵜野:私は演劇、中でもミュージカルばかり担当していますが、ミュージカルと言うと、日本はブロードウェイ、ウエストエンドなどのいわゆる“本場”に比べて劣っていると見られがちなところがあります。でもブロードウェイで上演される作品が全て最高の作品かというと、決してそうではないと思います。日本で上演される作品にはその良さがあって、海外で上演される作品にはその良さがある。個人的には、日本で上演されるものはその時代の考え方や文化、流行に寄り添っていることも多いと感じます。ミュージカルを高尚なものとして構えてしまうのではなく、もっと多くの人に気軽に観てもらえるようになったらいいなと思います。
鵜野悠大郎
堀内:演劇やミュージカルがもう少し身近に感じてもらえるようになってほしいですよね。これには我々にも責任があると思っています。コロナ禍ですごく感じたのは、演劇は一般の方にとっては興味があることではないんだということ。批判されるような局面もあり、落ち込みました。東日本大震災のときにも思いましたが、私たちのしていることは「必要じゃない」と言われたら必要ではないんです。何のためにやっているのかと自問自答しながら、やはりこれは「希望の光」なんだと信じたい。歌やセリフに励まされたり、エンターテインメントに救われることってあると思うんです。ミュージカルをもっと身近に感じてもらって、作品の持つメッセージをもっともっと多くの人に広めていきたいです。
ーーコロナ禍を経て、今後演劇の在り方そのものも変わっていくかもしれません。そこに向けた新たなクリエーションも出てくると思います。そういったことも踏まえ、最後にプロジェクトの募集の呼びかけをお願いします。
井川:音楽を作るのが好きな方、脚本を作るのが好きな方は、たとえミュージカルを観たことがなくても気軽に応募していただけたらと思っています。コロナ禍において、配信形式の作品がすごく増えてきています。このプロジェクトも、もしかしたら最初はリーディングや配信という形になるかもしれません。ただ、演劇はお客様のエネルギーをもってして完成するものだと改めて感じているので、最終的にはやはり劇場で生の舞台を観ていただきたいという想いがあります。これまでミュージカルに興味がなかった方が自宅で配信作品を観て、いずれ劇場から作品を届けられるようになったとき、生の舞台を感じてもらえるきっかけのプロジェクトになったら嬉しいです。ほんの少しでも興味がありましたら、私たちと一緒に新しいもの作りをしてみませんか?
「ミュージカル クリエイター プロジェクト」への作品は2020年9月30日(水)23:59 まで応募受付中。
取材・文 = 松村蘭(らんねえ)

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