短命ながらもハードロックファンを
唸らせたテンペストの
デビュー作『テンペスト』
本作『テンペスト』について
収録曲は全部で8曲。ほとんどのナンバーでホールズワースの超絶テクニックが登場、本作をリリース当時の73年に聴いたリスナーは、世界一上手いロックギタリストが現れたと思ったのではないか。僕も「エリック・クラプトンはもちろん、ジェフ・ベックよりも上手いのでは?」と驚いたものだ。冒頭の「ゴルゴン」ではプログレっぽい静かなスタートをするものの、途中からホールズワースのハードなギターリフが登場して王道のブリティッシュハードロックへと展開、抑えてはいるが冒頭からすごいソロが聴ける。クリームの「サンシャイン・ラブ」に似たリフで始まる「フォイヤーズ・オブ・ファン」や「ブラザーズ」「アップ・アンド・オン」「ストレンジハー」では、当時のロックの技術を軽く超えるギターテクニックが登場している。6分40秒におよぶ最後の「アポン・トゥモロウ」では、ホールズワースによるエレキバイオリンが聴ける。他にもヴォーカルがメインの「暗黒の家(原題:Dark House)」「灰色と黒色(原題:Grey And Black)」などがある。
この作品は何と言ってもアラン・ホールズワースというジャズ系のギタリストが超絶ロックギタリストとして登場したことに大きな意味がある。それまでのロックギターが多くの場合に情感で勝負していたところを、ホールズワースは理論と技術をもとにソロを組み立てて勝負している。そのことが本作以降のハードロックギターに多かれ少なかれ影響を与えることになるのである。それだけロック界にとって、ホールズワースの出現は大きな意味があった。
本作リリース後、テンペストにはこれまたすごいギタリストのオリー・ハルソール(元パトゥ)がグループに参加、一時期ツインギターとして活動するのだが、残念ながらその時の音源は正式リリースされていない。その後、ホールズワースは脱退し、2枚目の『眩暈(原題:Living In Fear)』(‘74)はハルソールひとりでギター(ホールズワースに勝るとも劣らないスーパーギタリスト)にキーボードにシンセにと八面六臂の活躍であった。
テンペストは演奏面では素晴らしかったもののセールス的に芳しくなく、結局これら2枚のアルバムをリリースしただけで解散することになった。しかし、ホールズワースとハルソールというふたりの並外れたギタリストを擁したグループとして、今後も忘れられることはないだろう。
TEXT:河崎直人