YOASOBIが牽引する小説×音楽だけに
はとどまらない新たなカルチャーのお
もしろさ【SPICE×SONAR TRAXコラム
vol.11】

2019年12月にリリースされたYOASOBIのデビュー曲「夜に駆ける」は、本稿を書いている8月上旬時点でYouTubeのMV再生回数が5500万を突破。リリースから半年以上が経過しても、オリコンの週間シングルランキングやBillboard JAPAN Hot 100のトップ5圏内にとどまるロングヒットとなっている。TikTokの人気曲ということもあるが、そもそもはYOASOBIという音楽ユニットのユニークな創作コンセプトが鍵になっていると言えるだろう。
YOASOBIは、ボーカロイドプロデューサー出身のコンポーザーAyaseと、ボーカリストのikura(シンガーソングライター幾田りら)によって結成された。2人は「小説を音楽にするユニット」というコンセプトのもと楽曲製作を行い、「夜に駆けて」は物語投稿サイトmonogatary.comに投稿された「タナトスの誘惑」(星野舞夜・作)という短編小説を原作にしている。同サイトは、挿絵の投稿や人気ランキングといったインタラクティブ性の高いシステムも特徴的だ。
つまり、YOASOBIの楽曲は、小説を背景にすることで、リスナーがより深く物語を共有し、感情移入しやすい構造の中で人気を博しているということになる。恋愛小説も、ポップソングも、それ自体は決して真新しいものではないけれど、ユーザーが積極的に関わることのできるプラットホームのおかげで、それぞれの作品の魅力がさらに引き出され、拡大しているというわけだ。
7月20日には、YOASOBIの4作目となるデジタルシングル曲「たぶん」がリリースされた。原作は、しなのによる同名小説。離別した恋人たちという切ない情景でありながら、意外性のある場面設定やどこかコミカルですらあるテンポ感の筆致など、優れた作家性を受け止めさせる恋愛小説だ。YOASOBIがmonogatary.comで原作を募集した「夜遊びコンテストvol.1」の大賞作品であり、ここでもインタラクティブなおもしろさが発揮されている。
これまで、エモーショナルに動き回るメロディとアップテンポな推進力を基調としてきたYOASOBI楽曲だが、「たぶん」はミディアムテンポのファンキーなトラックが用いられ、うっすらと切なさを宿しながらも抑揚を控えめにしたメロディは、原作小説を丹念に汲み取ったようなタッチだ。離別の悲しみと諦観が綯い交ぜになり、ただただ過ぎゆく時間の中にその感情を浮かべるような楽曲だからこそ、その奥ゆかしい表現がなおさら切なさを増幅させている。今後も優れた原作小説は、YOASOBIの音楽性そのものを大きく広げてゆくはずだ。
「たぶん」のミュージックビデオに先行して公開されたティザー映像には、部屋の空隙を強く実感させる360°アニメーションとikuraによる朗読がフィーチャーされ、物語の世界観を膨らませている。また、原作小説のコミカライズや小説集の刊行、原作募集の第2弾などさまざまなプロジェクトが進行中だ。これからもYOASOBIは、ユーザーとクリエイターたちの集まるカルチャーをリードしてゆくのではないだろうか。
文=小池宏和
YOASOBI「たぶん」MV

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