反田恭平×MLMナショナル管、各国音
楽を繋ぎ「マラソンコンサート」を駆
け抜ける~『Hand in hand Vol.3』夜
公演レポート

ピアニスト・反田恭平が「重量級」と捉えた室内楽作品がオンパレードの『Hand in hand Vol.3〜MLM管弦楽団マラソンコンサート』、夜の部を聴いた。この回もオンライン配信と同時に、100名限定の客席も設けられた。筆者は2階席から鑑賞してのレポートである。
昼の部はドイツ作品によるプログラムであったが、夜の部は様々な国の作品で構成された。プレトークで反田は「夜の部はさらに大きな編成の作品もお楽しみいただきます。MLMナショナル管弦楽団は約一年ぶりにみんなで集まることができました。みんなの成長ぶりを感じながら演奏できるのが楽しみです」と語った。
■ボッケリーニ:八重奏曲「ノットゥルノ」ト長調 Op.38-4(G470)(Vn.大江馨・桐原宗生、Va.有田朋央、Vc.水野優也・香月麗、Ob.浅原由香、Hr.庄司雄大、Fg.皆神陽太)
冒頭の一曲は、昨年のMLM管弦楽団旗揚げ時にも演奏されたボッケリーニの八重奏曲の全楽章である。感染症拡大防止のためにステージを広く使って、8名の奏者が感覚を開けて半円形状に並んで演奏された。演奏前にオーボエの浅原由香が語ったとおり、弦楽器と管楽器との歩み寄りが聴きどころであるが、それぞれの楽器の音色を巧みに引き立てあう見事なアンサンブルがなされた。優雅かつ技巧的な第3楽章、軽快なフィナーレはとりわけ素晴らしかった。
■チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番より 第2楽章 アンダンテカンタービレ(Vn.岡本誠司・島方瞭、Va.有田朋央、Vc. 香月麗)
単独でも演奏されることの多い有名な楽章である。岡本が積極的に艶やかなメロディーラインをリードし、歌心に溢れたハーモニーが形成されてゆく。4人それぞれの声部の役割を聴き合いながら、全体の強弱表現が豊かでダイナミクスの変化が美しい演奏で、長いコンサートの一服の清涼剤のような、爽やかなひと時となった。
■グリンカ:大六重奏曲より第1楽章 アレグロ(Vn.大江馨・桐原宗生、Va.長田健志、Vc.水野優也、Cb.大槻健、Pf.反田恭平)
チャイコフスキーに続けたのは、ロシア近代音楽の父と呼ばれるグリンカの大六重奏曲である。「大」とあるように、反田によれば「ロシア的な壮大さや哀愁のあり、クレムリンのような大聖堂を彷彿とさせる」作品だ。元気なピアノの和音に続き、すぐに弦楽器群が続く華やかで短い序奏でスタート。伸びやかなメロディーと伴奏、音階が次々と登場するなど、古典的な様相を見せたかと思えば、次々と長調と短調とを行き来して、ドラマティックな展開を見せて行くあたりはロマン的。洒落たハーモニーとエネルギッシュな曲想を、反田のノリノリのピアノが牽引し、メンバーと息の合った快演を聴かせた。

■フィンジ:弦楽合奏のためのロマンスOp.11(Vn.1 桐原宗生・島方瞭、Vn.2 岡本誠司・大江馨、Va有田朋央・長田健志、Vc.水野優也・香月麗、Cb.大槻健)
今回も興味深いプログラムが並ぶ『Hand in hand』だが、演奏曲は事前にMLMのメンバーからの希望を募ったという。イギリスの作曲家フィンジのこの作品を希望したのは、ヴァイオリンの桐原宗生。「学生時代に授業で知り、演奏してみたいと思ったものの、よく取り上げられる弦楽アンサンブルといえばモーツァルトやドヴォルザークのセレナーデばかり。この機会にと、一か八かの思いでリクエストしてみたら、なんと通りました!」と喜びを語った。
これは聴き手としても実に嬉しいチャンスであった。クラシック音楽ファンの中には実は密かに好きな人も多いフィンジだが、コンサートの実演で聴ける機会はなかなかない。

果たして、弦楽合奏らしい魅力たっぷりの、暖かで伸びやかな「ロマンス」が繰り広げられた。民謡のようにどこか懐かしく親しみのわくメロディでありながら、切なく胸にこみ上げるような響きに、たっぷりと心満たされる演奏だった。
■ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19(Pf.& Cond.反田恭平、 Vn.1 岡本誠司・大江馨、Vn.2 桐原宗生・島方瞭、Va.有田朋央・長田健志、Vc.水野優也・香月麗、Cb.大槻健、Fl.八木瑛子、Ob.荒木奏美・浅原由香、Hr.庄司雄大・鈴木優、Fg.皆神陽太・古谷拳一)
「マラソンコンサート」と銘打ったコンサートのトリを飾るのは、反田が「弾き振り」を行うベートーヴェンの2番の協奏曲全楽章である。3日間のリハと当日朝からのゲネプロと本番、そして気を抜くことなく送り届けられる生配信。今回の『Hand in hand』のクライマックスを飾るにふさわしい作品だ。
コントラバスとフルートを除いては各パート2名ずつというコンパクトなオーケストラの編成であるが、ピアノとのアンサンブルが実に素晴らしかった! きめ細かいニュアンスまでが息ぴったりに織りなされるオーケストラ、そして指揮と連続的に奏でられる反田のピアノとが、極めて自然な一体感を獲得しており、ピアノだけになったとき、オーケストラだけになったとき、また両者がともに協奏する場面での音量的なギャップによる違和感や、音の立ち上がり方のタイムラグ的な異質感がまるでない。反田&MLMらしい生き生きとした瑞々しい感性が充満しているのだ。
第2楽章のアダージョも、この編成ならではの柔らかさ、そして凛々しさをもって、ピアノとオーケストラの弱音から弱音への受け渡しが見事であった。集中力を切らさぬまま、いまだ古典的な手法で書かれたベートーヴェンの爽やかな終楽章で、勢いをもって幕を閉じた。
「完全燃焼しました! 来年は大きなツアーもできればと考えています」
そんな反田の頼もしい一言に、会場からは大きな拍手がおくられた。おそらくオンライン配信の画面からも、音楽祭のように充実した1日を過ごした、若き音楽家たちの清々しい笑顔が届けられたに違いない。
最後にはアンコールも用意されていた。ハイドン作曲の交響曲第45番「告別」第4楽章だ。奏者が一人一人退席してゆくというユーモラスなこの楽章。最後は指揮台にたった一人残された反田が客席をクルリと振り向き暗転、という演出で終わり、客席からは笑いが起こった。最後までエンターテイメント性も忘れない反田のプロデュースに、再び会場は湧いたのだった。
充実の『Hand in hand』であるが、まだまだ通常通りのコンサート開催が厳しい中での実施である。会場来場者および多くのオンライン視聴者からのエールが、反田のさらなるエネルギーとなって燃焼されてゆくことだろう。
第4回の『Hand in hand』は、反田がたった一人で臨むリサイタルのステージだ。サントリーホールでのリサイタルも昼と夜との2部公演。まったく内容の違うプログラムが展開される。8月23日を楽しみに待ちたい。
取材・文=飯田有抄

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着