ゲストにチェリスト宮田大を迎え、オ
ール・ドイツプログラムを披露~反田
恭平×MLMナショナル管『Hand in ha
nd Vol.3』昼公演レポート

2020年7月18日(土)、浜離宮朝日ホールにて、ピアニスト・反田恭平がプロデュースするコンサート『Hand in hand Vol.3』が開催された。今回は昼と夜の2部構成。反田率いるMLMナショナル管弦楽団の「マラソンコンサート」と題し、メンバーたちによる室内楽の充実したプログラムが組まれた。
コロナ禍におけるコンサート自粛期間に立ち上げられたオンライン・コンサート・シリーズ『Hand in hand』も、スタッフ、出演陣のさまざまな工夫により、無事3回目の開催となった。今回は昼夜それぞれに「配信チケット」のほかに「100席限定チケット」が販売され、会場には間隔を開けて客席が用意された。入場時にはマスク着用の協力が呼びかけられ、手の消毒、検温を経て客席へ。ロビーでの混雑を避けるために休憩はなし。筆者も会場の2階席から鑑賞した。
昼の部は13:30の開演。反田と岡本誠司(Vn. MLMナショナル管弦楽団コンサートマスター)そして皆神陽太(Fg.)によるプレトークでスタートした。メンバーそれぞれが久しぶりのステージでのアンサンブルであること、3日間の集中的なリハーサルが行われたことや、ホール音響の広がりが新鮮に感じられたことなどが語られた。
「『Hand in hand』の1回目は木管楽器、2回目は2台ピアノをお届けしてきましたが、今回は室内楽に焦点をあて、重量級のプログラムを用意しました。今日のコンサートを聴いていただければ、室内楽アンサンブルの形式や流れ、音楽作りについてがわかります。リハーサルは本当に充実していて、僕はこの一週間で4kg痩せました(笑)」
反田はリラックスした様子でそう語りプレトークを締め括った。引き続き全体のMCも反田自身が務め、演奏前の奏者インタビューも行った。ここからは、1曲ずつ、紹介していこう。
■バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 ト短調 BWV1001 より アダージョ(Vn.岡本誠司)
昼の部の公演は、ドイツの作曲家たちの作品によってプログラムが構成されている。1曲目は、岡本誠司がたった一人でステージに立ち、無伴奏でバッハのアダージョを聴かせた。1音1音が静寂から生まれ、そして静寂へと帰っていく。ゆったりとリリカルな調べが心に染み入った。
■ドレーゼケ:ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ホルンとピアノのための五重奏曲 Op.48より第1楽章(Vn.島方瞭、Va.長田健志、Vc.水野優也、Hr.鈴木優、Pf.反田恭平)
2曲目は、なかなか演奏されることのないレアな編成、レアな作品だ。演奏前のトークでは、ホルン奏者の鈴木優も今回初めて知ったとのことだが、「でもこの編成は響きがとてもいい」と語った。
作曲者のドレーゼケはブラームスと同時代人の作曲家。「自然の景色が目の前に広がるような作品」と反田が紹介したように、実に爽やかで明朗な曲想だ。弦楽器が艶やかにメロディーを受け渡すように奏でる中、ホルンは柔らかな厚みをもって中声部やベースを奏でる。反田のピアノはキラキラした響きで全体のハーモニーを牽引する。楽章の締めくくりは実にシンフォニック。これはぜひ全楽章聴いてみたい。今後のMLMのコンサートでも取り上げてほしい一曲だ。
■ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 Op.8(特別出演Vc.宮田大、Pf.反田恭平、Vn.岡本誠司)
ここでスペシャルゲストの登場だ。チェリストの宮田大である。宮田と反田は桐朋学園大学での先輩・後輩の関係にあるが、初めて言葉を交わしたのは、反田がロシアへの長期留学に向かう成田空港で偶然出会った時だとう言う。演奏前のトークでは反田が「一緒に写真を撮ってくださいとお願いした」という和やかなエピソードが紹介された。
岡本、宮田、反田のアンサンブルで聴くブラームスは、パッションとエレガンスが同居する素晴らしいアンサンブルであった! 冒頭のピアノ、そして続くチェロの序奏により作品の世界が会場いっぱいに広がった。岡本のヴァイオリンが入り、3つの楽器が揃うと、喜びと輝きに満ちた響きに包まれた。三者三様、伸びやかに歌い上げながらも、厚みのあるまとまりを聴かせる。第2楽章のコントラスト、第3楽章の滑らかなアダージョ、第4楽章の熱情は、それぞれに気迫が込められ、まさに熱演であった。
演奏を終えた反田は「本気で弾き合えことは財産」と語った。コンサートの自粛が長引くにつれ、響きの潤沢なホールでアンサンブルする機会を失った奏者たちは、やはり合奏する上での耳のコンディションが変化してしまうという。集中的なリハーサルを経たこの共演が、彼らにとってかけがえのない瞬間であったことが、その演奏から十分に伝わった。
■モーツァルト:ファゴットとチェロのためのソナタKv.292(Fg.古谷拳一、Vc.水野優也)
ここで2つの低音楽器によるアンサンブルが登場。なんというプログラミングの妙だろう。ファゴットとチェロのみの二重奏である。この編成による作品を筆者は初めて聴いたのだが、古谷拳一のファゴットと水野優也のチェロによる息ぴったりの演奏が実に楽しかった! 古谷によれば、モーツァルトがもっともファゴットに興味を示していた時期の作品であり、水野によれば、チェロに特化した作品をあまり残していないだけに、チェロ奏者は喜びを持って演奏できる作品であるという。 
「低音楽器」というイメージを緩やかに崩してくれるような、キビキビとユーモラスな第一楽章、素朴でほのぼのとしたテーマが美しい第3楽章、跳躍進行と装飾的な音型が生き生きとしたロンド形式の第3楽章。どこをとってもモーツァルトらしい天真爛漫さを感じられる演奏であった。
■R.シュトラウス:メタモルフォーゼン(弦楽七重奏版)(Vn.岡本誠司・大江馨、Va有田朋央・長田健志、Vc.水野優也・香月麗 、Cb大槻健)
昼の部の締めくくりである。岡本によれば、「メタモルフォーゼン」は、MLMナショナル管結成時から、「いつか演奏したい」と思い続けていた作品とのことだ。この日演奏されたのは七重奏編曲版であるが、一人一人のソリスティックな音色がしっかりと違いに絡み合いながら、23人の弦楽合奏版に引けを取らない厚みある響きを聴かせた。絶妙に移り変わる明暗のハーモニーを交替させながら、息の長いフレーズを繋げてじわりじわりと大きなうねりを生み出し、しめやかに全体を締め括った。会場からは(およそ100名とは思えないほどの)大きな喝采が贈られ、昼の部が締め括られた。
取材・文=飯田有抄

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