潜在的なオルタナティブ性が
開花したトム・ウェイツ中期の
傑作『レイン・ドッグ』
アサイラムからアイランドへの移籍
本作『レイン・ドッグ』について
バックを務めるのはラウンジ・リザーズのジョン・ルーリー、マーク・リボーをはじめ、ウェイツの音楽を愛するローリング・ストーンズのキース・リチャーズ、イギリスきっての名ギタリストであるクリス・スペディング、ホール&オーツのバックを務めるG.E・スミスとミッキー・カリー、ルー・リードのバックでお馴染みのロバート・クワイン、ニューヨークの最先端ミュージシャンであるボビー・プレヴィット、キング・クリムゾンやピーター・ガブリエルのバックメンとして知られるトニー・レヴィンなど、豪華なメンバーが参加している。
中でも、このアルバムで世界的に知られることになるマーク・リボーのアバンギャルドなギターワークは、ウェイツの狙いを100パーセント表現しているといっても過言ではなく、リボーとマイケル・ブレアのふたりは本作を聴いたエルビス・コステロに請われ、彼のバックメンとしても活躍する。
収録曲は全部で19曲、「ハング・ダウン・ユア・ヘッド」のみ妻のキャスリーン・ブレナンと共作、他は全てウェイツのオリジナル曲。アルバムの構図は前作と似ていて、断片的な素材や実験的な小品をコラージュ的に配置している。違うのは「ハング・ダウン・ユア・ヘッド」「タイム」「ダウンタウン・トレイン」といったアサイラム時代を彷彿させるキャッチーなナンバーが収められているところだろうか。また、「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」と「タンゴ(原題:Tango Till They’re Sore)」の2曲は、ジャームッシュのスタイリッシュな映画『ダウン・バイ・ロー』(‘86)のサントラにも収録されており、この映画はウェイツとジョン・ルーリーが主演を務めている。
本作で一番知られているだろう「ダウンタウン・トレイン」にリボーは参加しておらず、G.E・スミスとロバート・クワインがギター、トニー・レヴィン(Ba)、ミッキー・カリー(Dr)、ロビー・キルゴア(Key)、マイケル・ブレア(Per)という面子でのレコーディングだ。ちなみにこの曲が知られている理由は、89年にロッド・スチュワートがカバーし世界的に大ヒットしたからである。
アサイラム時代の作品では『クロージング・タイム』と『土曜日の夜(原題:The Heart Of Saturday Night)』('74)の2枚の出来が傑出していると僕は思うが、80年代のウェイツの傑作と言えば、本作が一番に挙げられるのではないだろうか。
TEXT:河崎直人