PSY・Sが
最重要ユニットである証明!
意欲的コンセプトアルバム『ATLAS』

バラエティー豊かなコンセプト作

…と、M1「Wondering up and down 〜水のマージナル〜」でのっけから興奮してしまったアルバム『ATLAS』なのだが、本体もなかなか意欲的な作品である。アルバム自体の構造を先に述べると、M2が「WARS」でラストのM10が「WARS -Reprise-」である。“Reprise”と言えば、The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を思い出すところだが、あちらが“Reprise”のあと、アンコール的に「A Day In The Life」が収められているのとは対照的に、『ATLAS』ではM2「WARS」~M10「WARS -Reprise-」の前に「Wondering up and down 〜水のマージナル〜」が配置されている。まぁ、PSY・Sが『Sgt. Pepper's~』を過度に意識したところはなかったのだろうけれども、M1とM2~M10とが分けられている格好なのだから、そこに何らかの意図があったことは確実だろう。『ATLAS』はコンセプトアルバムであることは間違いない。

『ATLAS』が意欲的な作品だと述べた理由はもう一点ある。収録楽曲がバラエティーに富んでいるのだ。M2「WARS」からいきなりレゲエである。もちろん(何が“もちろん”なのか分からないけど)、そうは言ってはジャマイカンな感じではなく、レゲエ特有の淡々としたリズムが楽曲全体にスリリングさを加味しているような印象。メロディー自体は決して明るくはないけれどもポップはポップでありつつ、間奏以降、後半に進むに従ってギターが不協気味に鳴っていく様子がさらに緊張感を増していくようなナンバーである。ひと筋縄ではいかない楽曲だ。M3「ファジィな痛み」はアルバムと同時発売の11thシングル。シングルらしいか…と問われると微妙な感じだけど、キャッチーでありつつ、どこか憂いを秘めた感じのメロディーで、これもなかなかの秀作である。サウンド自体はさすがにシングルと言うべきか、ビートの効いたJ-ROCKに仕上がっており、漠然とした印象では、『ATLAS』以前のPSY・Sを踏襲している感じがある。

続く、幻想的で浮遊感のあるスローなM4「Stratosphere 〜真昼の夢の成層圏」は、ギターの響きが少しばかりケルトっぽく、どちらかと言えばヨーロッパ風なイメージ。それに対してM5「遠い空」は、どちらかと言えば米国寄りかもしれない。イントロで乾いたギターのアルペジオが聴こえてくるものの、鍵盤やリズム隊が重なっていくにつれて、ドシッと腰を落ち着いた感じのサウンドになっていく(米国的と言っても、全体に大味感はまったくないことだけは付け加えておきたい)。

M6「(北緯35°の)heroism」はアップチューン。疾走感とシンセが奏でるキャッチーな旋律はパッと聴き、現在のJ-POPに分類されてもおかしくない感じもするが、今のJ-POPとは一線を画すのは歌メロと歌唱によるところだろうか。これは私見だが、この「(北緯35°の)heroism」に限らず、PSY・Sのメロディーは、歌、楽器に限らず、其処此処に1980年代前半の日本ニューウェイブの匂いがあるような気がする。ニューロマの影響下にありつつも、アングラ感を隠し切れなかった、ポストパンクの雰囲気と言ったらいいだろうか。楽曲を構成する要素のすべてにおいてその匂い、雰囲気があるとは言わないが、ちょっとしたメロディー展開やコード進行において、個人的には琴線が刺激される瞬間がある。

OKMusic編集部

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