フレデリックがアコースティック編成
の無観客配信ライブでみせた姿 「ど
ういう環境であれ、音楽を鳴らせてい
ることが幸せ」

FREDERHYTHM ONLINE「FABO!!~Frederic Acoustic Band Online~」 2020.7.18
コロナ禍におけるライブができない状況での苦渋の選択だった無観客の配信ライブが徐々に定着しつつある中、配信ライブに挑むバンドがそれぞれに趣向を凝らすことで、配信ライブは従来のライブの代替などではなく、さまざまな可能性を試す場というか、機会という意味でチャンスになってきたという印象もある。この日、『FREDERHYTHM ONLINE「FABO!!~Frederic Acoustic Band Online~」』というタイトルを掲げ、自身初の無観客の生配信ライブを開催したフレデリックは、音楽で遊ぶことを楽しもうと謳っているバンドだ。当然、この状況でいつもどおりのライブをしたってつまらないから、逆手に取って、配信ならではの楽しみ方を提案してみようと考えていたに違いない。
そして今回、フレデリックが考えた配信ライブにふさわしいやり方がアコースティックだった。彼らのファンならフレデリックがFAB!!(Frederic Acoustic Band)と称して、時折、アコースティック編成のライブも行っていることはご存じだろう。それを配信することで、どれだけおもしろい効果が生まれるか、開演前に三原康司(Ba/Vo)、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)の3人がライブの注目ポイントをそれぞれに語る映像を流しながら、メンバー自身、やってみなければわからないというところもあったんじゃないか。しかし、序盤の3曲が終わったところで、「Frederic Acoustic Band Online、通称FABO!!へようこそ!」と三原健司(Vo/Gt)が挨拶したとき、バンドには確実に単にアコースティックの一言にとどまらない……というか、その言葉から多くの人が思い浮かべる想像を超えたものにできるという自信があったに違いない。それは配信ライブを視聴しているオーディエンスに健司が語りかけた言葉からも窺えた。
フレデリック 撮影=AZUSA TAKADA
「久しぶりのライブ。しっかり今のフレデリック、進化したフレデリックを見せていこうということで、今回、アコースティックという形でやらせていただきます。アコースティックと言ってもいろいろな形、いろいろな楽しみ方があります。最後までフレデリックの世界を楽しんでください」
実際、1曲目の「ナイトステップ」から彼らはシンセを大胆に使ったエレポップ・ナンバーを、エキゾチックでジャジーなアレンジに変えてオーディエンスを驚かせたのだが、やはりジャジーにアレンジした「KITAKU BEATS」から康司がバイオリン・ベースで奏でた跳ねるベースラインと高橋のリムショットでつなげたイントロに面食らった「リリリピート」では、テンポなどオリジナルが持つ曲の印象はほぼ変えない代わりに赤頭がエレキから持ち替えたガット・ギターのナイロン弦のやわらかい響きをはじめ、音色の違いでリアレンジを楽しませたのだった。
スタジオにセッティングした洒落たインテリアが飾られたリビングルーム。高橋以外はソファーに座ったまま、向かいあった4人がアイコンタクトを取りならが音を奏でる、というリラックスしたシチュエーションも、オーディンスそれぞれに自宅で楽しむ配信ライブにぴったりだ。
フレデリック 撮影=AZUSA TAKADA
ファンキーな「まちがいさがしの国」から繋げた「イマジネーション」、バラードにアレンジした「VISION」、康司がリード・ボーカルを取ったレゲエ調の「もう帰る汽船」と敢えて大胆にジャンルの違う4曲を披露した中盤が終わったところで、思わず健司がため息まじりに呟いたのが「あー、楽しい」。それに康司が「めっちゃ気持ちいいね」と応え、始まったトークコーナーでは、「コメントで、イントロドンって来てて」とオーディエンスが投稿したコメントを、高橋が紹介する。
「イントロを聴いただけじゃ、何の曲が始まるのかわからないところがおもしろいらしい」
「今回、アコースティク・アレンジで初めてフレデリックの曲を聴いたという人もいるかもしれない。そういう人がその後、オリジナルを聴いて、(アレンジの違いに)びっくりするっていうのが俺らからしたらおもしろい」
と言った健司に「けっこうびっくりすると思う」と赤頭が合いの手を入れる。「そこにアレンジする醍醐味がある」と言った健司の言葉を受け、「『ナイトステップ』、びっくりしました。確かに(と頷く)。『リリリピート』、わからなかった」と高橋がオーディエンスのコメントを読み上げた。フレデリックとしては、オーディエンスの驚きの言葉は、まさにしてやったりだったはず。歌の魅力をしっかり際立たせた上でアピールしたアレンジの違いが今回の配信ライブの大きな見どころだったことは言うまでもないが、そんなアレンジが実現できたのは、メンバーそれぞれのバックグラウンドの幅広さとプレイのスキルがあったからこそ。そこもしっかりと記憶に残しておきたい。
フレデリック 撮影=AZUSA TAKADA
そして、4人のトークの話題は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ライブや出演予定だった夏フェスが中止になってしまったことに移り、それでもフレデリックは音楽を鳴らすことをやめずに曲を作り続け、その中から、「されどBGM」という、こんな状況だからこそ今一度考えた音楽に対する思いを歌った新曲を7月8日に配信リリースしたことにも及んだのだが、それが新曲披露の前フリだったのだから心憎い。
「新曲『SENTIMENTAL SUMMER』を急遽ワンコーラスだけ。夏フェスでやりたかった夏の曲です。大事に聴いてください」
健司がそう紹介した「SENTIMENTAL SUMMER」は、赤頭がエレクトリック・ギターで奏でるキラキラとした音色が夏の日差しを思わせながら、健司と康司が重ねるハーモニーがどこかせつないタイトルどおりのバラード・ナンバー。これを夏フェスで披露できなかったバンドの無念を、たとえワンコーラスだけでもオーディエンスと共感しながら、そこから一転、曲が持つ感傷を吹き飛ばすように康司のベースに高橋が応え、始まったジャム・セッションから。「後半戦に突入します!」と健司が声を上げ、なだれこんだのが「ふしだらフラミンゴ」。
曲が持つR&Bの成分を強調しながらタイトな演奏がぐっと勢いを増していき、おどけた調子もある中で演奏の熱が上がる。そこから繋げた「シンセンス」のファンキーな演奏でその熱はさらに上昇。ハンドマイクでエモーショナルに歌い上げる健司が放つ言葉は、この状況に対して、果敢に立ち向かっていこうという決意にも感じられた。そして、「いいね! 温まってきたね。楽しいね。行きますか!」と健司が3人に声をかけ、赤頭がお馴染みのリフを奏でた「オドループ」では、まさかそれまで緊張していたとは思わないが、解き放たれたように4人の顔に笑みがこぼれたのだった。
フレデリック 撮影=AZUSA TAKADA
「今後もしっかり、音楽を好きなみなさんに、より音楽を大好きになってもらえる方法を考えていきます。ずっと音楽を鳴らしつづけていきます」
健司が語ったそんな思いを込め、「終わらないMUSIC」を、今日はしっとりと聴かせ、本編は終了。アンコールを求めるオーディエンスの投稿に応え、戻ってきたメンバーを代表して、「今後もフレデリックらしく、いろいろ遊びながらオンライン・ライブも楽しんでいこうと思っています」と健司が語った言葉からは、自身初の無観客生配信ライブに大きな手応えを感じていることが窺えた。
「ライブハウスのライブもいろいろ考えるけど、オンラインでも遊びたい。今回はアコースティックでやりましたけど、一手間も二手間もかけ、また違う工夫を凝らしてやりたいと思います」
アンコールの1曲目に選んだのは、「かなしいうれしい」。それは、これからも悲しい思い、うれしい思い、その両方をその都度噛みしめながらバンドは前進しつづけるというメッセージだったのだと思う。音楽で遊ぶことを謳いながら、前述の「シンセンス」「終わらないMUSIC」、そしてこの「かなしいうれしい」と、音楽に向かう自分たちの思いもちゃんとメッセージとして届けることを忘れないのがフレデリック。それが彼らの音楽をより聴きごたえあるものにしていると思うのだが、じゃあ、この日、彼らが最後の最後に選んだ曲には、どんなメッセージが込められていたのか?
フレデリック 撮影=AZUSA TAKADA
「どういう環境であれ、音楽を鳴らせていることが幸せです。フレデリックはどんどん音楽で進化していきたい。みんなを音楽で楽しませたい。そのためにいろいろなアプローチを続けると思います。一手間も二手間もかけたアプローチを受け付けない人もいるかもしれない。でも、音楽を深く楽しんでもらうことをやっていくのがフレデリックです。これからも俺たちのやり方を楽しんでほしいと思います。終わりたくないけど、ラスト1曲、この先を歌って終わりにしたいと思います」
健司がそう語ってから演奏したのが「CLIMAX NUMBER」。89~90年生まれの彼らが90年代のJ-POPにオマージュを捧げたようにも聴こえるフレデリックの冬の歌を選んだのは、これから来たるべき秋~冬には実際会えるようにという願いを込めたのか(10月10日~全国ツアーを開催する予定だ)、<ふたりにしか聴こえない 最後のナンバーだ>という歌詞に意味があったのか。それとも単純に最後はポップな曲で終わりたかったのか。彼らからの宿題をずっと考えながら、フレデリックの音楽を楽しんでいる。そんなことも含め、ライブの余韻をしばらく味わうことができそうだ。

取材・文=山口智男 撮影=AZUSA TAKADA
フレデリック 撮影=AZUSA TAKADA

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