Suchmosが全曲新曲・アーカイブなし
のライブ配信で示唆した、音楽との向
き合い方

LIVE WIRE「Suchmos From The Window」 2020.07.19 Shibuya WWW LOUNGE
茅ヶ崎のやんちゃな、そして誰より音楽に対するリスペクトを胸に抱いた6人の青年が結成から7年を経て、いまどんな地平にいるのか。ワンマンライブとしては昨年9月の横浜スタジアム以来。Suchmosにとって初の生配信ライブは、彼らが1stアルバム『THE BAY』のリリースパーティを行い、チケットをソールドアウトさせたShibuya WWW LOUNGEで開催された。いわば本格的な活動の原点とも言える場所だ。
Suchmos 撮影=小見山 峻
よくぞあのスペースに6人分の機材を入れたなというのがティーザーを見た時の感想だった。そして全編新曲。アーカイブなし。ライブってそういうもんでしょう?というスタンスを思い知る。横スタ以降、第二章を表明するはずだった多彩な共演者を迎えるツアーが中止になるなど、バンドは必然的に新たなモードに入らざるを得なかったのか。もしくは対バンツアーも新曲満載にするつもりだったのか。それは私にはわからない。ただ、すでに以前の音楽性からベクトルを大いに変化させたアルバム『THE ANYMAL』以降のSuchmosである。常に今向き合っているサウンドや作品を提示する以外に意義を感じないのだろう。
Suchmos 撮影=小見山 峻
定刻に、50年代風の画角と質感のモノクロのSF映画が映し出される。そのままモノクロ粗めの映像でメンバーのいるフロアへ。6人が円形に向き合う陣形だ。いきなりガレージっぽいギターリフ。画面には「サルスベリ」というタイトルが流れる。曲が進むにつれ、グラムロックのニュアンスも加わる。そういえば今回、全編でKCEE(DJ)はギターを弾き、サンプラーやスクラッチは一切なし。剥き出しの生々しいバンドアンサンブルだったことは大きな変化だろう。向き合う6人はラフなムードで、演奏後、早速HSU(Ba)がタバコに火をつける。WWWのLOUNGEがすでに懐かしい。不思議な気分だ。続くナンバーはSF的なアメリカーナ、もしくは80sのAORも彷彿とさせ、現実感が薄い。それでいてカッチカチにタイトなOK(Dr)のスネアがこのバンドのキモを支える。「Underworld」と題されているのはSF味と無関係ではないのかもしれない。
Suchmos 撮影=小見山 峻
奇妙に時代が交錯するのは次の「ナイトホークス」も同様だった。基本的にサイケデリックなフレージングとコード進行を持っている。ユニークだったのが歌詞で、おそらく「お前にiPodに入れてもらったシナトラを聴きながら」と聴き取れたノスタルジーと、サビの存外ポップなメロディのギャップ。明確に誰のペンによるものかはわからないけれど、おそらくYONCE(Vo/Gt)だろう。彼のストーリーテリングはさらに独特な世界へ突入している。土埃の匂いがしそうなアメリカンロックか?と思いきや、TAIHEI(Key/P)の教会音楽的なオルガンが入り、アウトロにむけて全員のサウンドのボリュームがあがっていく「Stand By Mirror」もこれまでになかった曲想である。乾いたアメリカっぽいロードムービーがいつの間にか英国的なロックオペラに変異していたような時空の歪み。一言でそれをサイケと言ってしまうのも何か違う。やはり2020年の今描かれるSFと捉えるのが個人的にはしっくりくる。
Suchmos 撮影=小見山 峻
TAIKING(Gt)のリフと音色に90年代のレッチリ、つまりジョン・フルシアンテの面影を見たと思ったら、後半はザ・フーに代表されるブリティッシュビートへ変化していった「DroneDrome」も、この6人によって更新されたロックだった。そう。絶妙に洒脱な音色を挟みながら、前景化してくるのは70年代までのロック。KCEEがサンプラーを一切使わない反面、TAIHEIがシンセで作るストリングスサウンドを多用していたのも面白い。ちょっとモンドな側面が70年代ロックの解体とオリジナルの構築に一役買っている印象だ。
Suchmos 撮影=小見山 峻
全曲新曲のライブはどこか爆音試聴会にも似て、緊張感を伴うのだが、マイペースにリハーサルをしているように見えるメンバーもその実、緊張感はあるだろう。モニターを介して緊張感で繋がっている感覚もある。この感覚はどの曲も知らないレコードに針を落とす時の気持ちに限りなく近い。ライブでもあるが、音楽そのものに向き合う気持ち。今やストリーミングがポピュラーになり、新曲も手軽にスマホの画面をタップすれば聴くことができるが、そこにはない緊張感に気づいた。
Suchmos 撮影=小見山 峻
そんな感覚にハマりすぎたのが「Ghost」と題された曲。メジャーキーとマイナーキーを行き交うコードに幻惑されつつ聴こえてきた歌詞は「21世紀なまりのイントネーションで」とか「インターフェースの向こう側にある景色」「もはや哀れみを感じることすら哀れ」というもの。人の目やマジョリティをあらかじめ意識してSNS上に投下される、忖度まみれの発信にリンクするような表現じゃないか。このテーマでデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』ばりのコンセプト・アルバムが作れそうだ。この歌の主人公の意識は真っ当なのに、今の世の中では異星人であるかのような怖さがあった。ロッキンソウルなリズムとジミヘンの「パープル・ヘイズ」すら想起させるKCEEのギターソロが痛快な「To You」と合わせて、ソリッドな2曲が続いた。
Suchmos 撮影=小見山 峻
Suchmos 撮影=小見山 峻
後で気づいたのだが、バンドのインスタグラムのストーリーにアップされていた歌詞らしき手書きの一文が「Magic Time」だった。フィクションとノンフィクションが交差するような歌詞には「河西のオヤジ」(河西はYONCEの名字)が登場したり、どうやら競馬や競艇で勝ったりすったりしている様子が出てくる。夕焼けと夕景の間の時間。懐かしい思いがサーフロックとサイケデリックが交錯する曲調の中で浮かび上がる、そんな曲。今回の新曲の中ではHSUの横に動くフレーズが明快に聴こえる1曲でもあった。Suchmosらしい原風景を描いた新しいあり方と言ったところだろうか。
Suchmos 撮影=小見山 峻
「あっちゅう間でしたね。いつになるかわかりませんが皆さんの前で会える日を待ってます。またどっかのライブハウスでいいことしましょう」とYONCE。メンバーと向き合ったライブで真面目なMCにツッコミが入る雰囲気がレアだ。ラストは去年からのモードを引き継ぐ中期ビートルズっぽいアンサンブルの「Dizzy」というナンバーに乗せ、再びYONCEが「2020年、梅雨の切れ間の俺たちは今、こんな感じです」という言葉を残し、シンプルに約1時間のライブは終了。まさに続くバンドの日々の瞬間をモニターという窓から確認したような時間。シンプルだが、その手法と内容はSuchmosというバンドの音楽への向き合い方を、音楽そのもので示唆した饒舌な時間だった。やっぱり痛快なバンドだと思う。

取材・文=石角友香 撮影=小見山 峻
Suchmos 撮影=小見山 峻

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