横浜にDance Base Yokohamaがグラン
ドオープン~“新しいパフォーミング
アーツの拠点”として始動

2020年6月25日(木)にDance Base Yokohama(愛称DaBY=デイビー)がグランドオープンした。「プロフェッショナルなダンス環境の整備およびダンスに関連するあらゆるクリエイター育成に特化した事業を企画・運営するダンスハウス」である。横浜発の“新しいパフォーミングアーツの拠点”を称するだけに大いに注目していきたい。
■横浜・馬車道に新たな文化施設が誕生
DaBYは、再開発の進む横浜・馬車道の北仲地区にできたばかりの商業・文化施設であるKITANAKA BRICK&WHITE(北仲ブリック&ホワイト)に入る。運営・管理は2019年3月に設立された一般財団法人セガサミー文化芸術財団で、「日本の文化・芸術活動、特にコンテンポラリーダンスの発展に寄与することを目的として」活動している。
アーティスティックディレクターは愛知県芸術劇場のシニアプロデューサーでもあり、国内外のパフォーミングアーツに通じる唐津絵理。ダンスを伝導していく役割として設けられたダンスエバンジェリストに小㞍健太が就き、最初のアソシエイトコレオグラファーを鈴木竜が務める。
アクティングエリア 提供:Dance Base Yokohama
DaBYの所在するKITANAKA BRICK Northは、横浜市認定歴史的建造物である旧横浜生糸検査所附属専用倉庫を復元した建物。横浜高速鉄道みなとみらい線の馬車道駅直結で、JR・横浜市営地下鉄の桜木町駅からもほど近く、アクセス抜群だ。
レンガ造りの建物の3階にエレベーターであがると、ガラス越しに中が見えるエントランスがあらわれる。入ってすぐ横の窓からも明るい光が差し、居心地のいい場所だとすぐに感じた。
アーカイブエリア 提供:Dance Base Yokohama
歴史的建造物の復元建築という性質のため、内部は窓や天井高などの構造を生かした。建物の中に建物があるような「ボックス・イン・ボックス」の仕様だが、壁面は白でまとめられ、爽やかな開放感がある(空間設計:一色ヒロタカ+小澤成美+森詩央里+オンデザイン)。
施設の中心にアクティングエリアを配し、周囲の廊下にライブラリーなどのアーカイブを配置した。バックヤードには、楽屋やシャワー、キッチンを完備する。平台を用いた机や客席、裏側に収納を備えた可動式の鏡などデザインのセンスもよく、空間へのこだわりが半端ない。
(右から)唐津絵理 小㞍健太 (c)Takayuki Abe 提供:Dance Base Yokohama
■創作・トライアウトの場を日常的に
DaBYのコンセプトは「つくる」「そだてる」「あつまる」「むすぶ」の4つ。そのことはグランドオープンを記念したプログラムからもよく伝わる。
まず「つくる」に関して、プロフェッショナルなクリエイターによるダンスの創作およびトライアウトを定期的に行う。6月25日(木)、26日(金)には、レジデンスコレオグラファーの平原慎太郎が、トライアウト&オープンブレスト新作『えんえん』を発表した。約10日間の滞在で創作した新作の初期型で、上田秋成の怪異小説「雨月物語」を参考にしながら平原自身がテキストを書き、それを平原らが語りながら展開していく趣向だった。上演後にはゲストも交えた公開ブレインストーミングを行い、秋の本公演に向けて練り上げる。日本のダンス界で、じっくり試行しながら創作できる環境は限られるのでDaBYは貴重な存在だ。
トライアウト&オープンブレスト 平原慎太郎新作『えんえん』ゲネプロ (c)金子愛帆 提供:Dance Base Yokohama
なお、6月30日(火)〜8月8日(土)および9月の一部期間には、コロナ禍におけるアーティスト支援としてDaBYを無償提供し、公募により17組が利用する。オープンからしばらくの間は利用者の声を聞き、今後の事業に反映していく方針だという。
トライアウト&オープンブレスト 平原慎太郎新作『えんえん』ゲネプロ (c)金子愛帆 提供:Dance Base Yokohama
■可能性の芽を、育んでいく
「そだてる」という点も重視する。6月27日(土)に小㞍が指導するクラスが公開された。日本人男性として初めてネザーランド・ダンス・シアター1(NDT1)に入団し、フリーランスになってからも国内外で活躍している小㞍が、プロフェッショナルまたはその志望者を対象に週に二度教える(6~7月は紹介制 / 8月以降はメンバー登録制)。この日のクラスは1時間半ほどであったが、通常はバレエ、コンテンポラリー、即興による三本立てで約2時間行っているという。
プロラボ「クラス」 (c)金子愛帆 提供:Dance Base Yokohama
6月28日(日)には「ダンスの枠を超えた様々なプロフェッショナルによる専門的なワークショップ」を催す一環として、プロラボ「クローズドリーチ」を公開。小㞍と森永泰弘(サウンドアーティスト/DaBYゲストアーティスト)、堂園翔矢(コンピュテーショナルデザイン/DaBYゲストアーティスト)が対話し新たな展開を模索する。
プロラボ「クローズドリサーチ」 提供:Dance Base Yokohama
■気軽に集い、自由に交流できる場に
「あつまる」という面では、誰に対しても開かれた風通しのいい場所である点を打ち出す。6月27日(土)に催された「オープンラボ」は、「ダンサー言葉で踊る」と題し、「ダンサーが自身の活動を言語化して紹介するトークイベント」で、記念すべき初回のゲストは山本康介だった(聞き手は小㞍と唐津)。
山本は英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で約10年踊ったのち帰国し、指導・振付・テレビ解説など多彩に活躍中で、今春刊行された著書「英国バレエの世界」(世界文化社)も好評。トークでは、ピーター・ライトやデヴィッド・ビントレーという英国バレエの大物たちとのエピソードや、ダンサーのセカンドキャリアについての話題で盛り上がった。トークのあとには交流会が催され、登壇者、舞台関係者、観客による垣根のない交流が見られた。
オープンラボ vol.1「ダンサー言葉で踊る」 (c)金子愛帆 提供:Dance Base Yokohama
■民間運営の強みを生かして
「むすぶ」に関しては、これから。「国内外のダンスを専門とする劇場や団体を結ぶハブ」を目指し、「多様な団体と協同することで、ダンスを通じた社会貢献を実現」したいという。
横浜にはダンスやバレエを取り上げる劇場・ホールが多く、「TPAM-国際舞台芸術ミーティング in 横浜」も開かれる。DaBYはコロナ禍でオープンが約2か月遅れるという多難な船出となったが、ダンスの街・横浜に誕生した民間運営によるダンスハウスという特徴を生かし、“新しいパフォーミングアーツの拠点”として機能していくだろう。
Dance Base Yokohama(DaBY)内覧会ムービー
取材・文=高橋森彦

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