「豊岡演劇祭2020」平田オリザ+中貝
宗治豊岡市長会見レポート~「芸術文
化活動を再開する、全国のモデルケー
スになれば」

既報の通り、これが第一回目となる「豊岡演劇祭2020」が、当初の予定通り2020年9月に開催されることになった。主宰する劇団「青年団」ごと拠点を移した平田オリザを始め、有力なアーティストが続々と移住し、学校教育にも演劇の授業を取り入れるなど、舞台芸術を通じた町おこしが注目される豊岡市。そのシンボルとなるイベントだけに、規模を縮小してでもとにかく幕を開けることに決めたようだ。
去る7月1日に、演劇祭のフェスティバルディレクターを務める平田と、演劇祭実行委員会会長でもある中貝宗治豊岡市長の会見が[江原河畔劇場]で行われた。この劇場も新型コロナの影響で、3月末のプレオープン以来閉ざされたままだ。また記者会見も、遠方の記者への配慮兼三密回避のため、ZOOMによるオンライン会見も同時に行われた(筆者はオンラインで出席)。時節柄、演劇祭の内容そのものに加え、コロナウイルス対策やそれが及ぼす影響面も話題となった、会見の模様をレポートする。

会見は、中貝市長のあいさつから始まった。今この時期にアートイベントを行う意義と同時に、豊岡市は現在、小さくても世界に尊敬される「小さな世界都市」と、テクノロジーによって新しい形の地域コミュニティを作り上げる「スマートコミュニティ」の目標を掲げており、その実現のためには「豊岡演劇祭」の存在が重要だということを語った。
中貝宗治豊岡市長
「このコロナ騒動で、アートは相当大きな打撃を受け、その存在価値について罵詈雑言を浴びせられることも現実に起きていました。しかし豊岡の人たちは、2004年の台風23号の大水害の時、アートがどのように人々を支えたかということをよく知っているはず。この演劇祭が、長い自宅待機を耐えた人々を受け入れる、最初の大きなイベントになるわけですが、アートが人々と街をどのように支え、変えていくのかを見ることができるのではないかと、大いに期待をしています。
今回の演劇祭は“回遊型”で、観客はいくつかの会場を渡り歩くことになりますが、その移動手段をどのように確保し、そのためには何をどう解決するか? などを実証したい。その結果を、地域の人々のつながりを、テクノロジーが支える街作りに活かしていこう……という作戦を立てています」
続いて平田から、今回の演劇祭について説明があった。海外カンパニーの公演や、あるいは日本人演出家との合同公演などの、国際色の強い催しはほぼキャンセル。「第一回を確実に成功させなければならないのと、ちょっと無理なお願いもできるので(笑)」ということで、青年団演出部出身者や平田の教え子を中心に、高い実績を持つアーティストで固めた内容に変更したという。
平田オリザフェスティバルディレクター
公式プログラム参加団体と演目は、以下の通り。
■青年団『眠れない夜なんてない』『ヤルタ会談』『思い出せない夢のいくつか』
■中堀海都+平田オリザ 室内オペラ『零(ゼロ)』
■鈴木忠志、高田みどり、SAMGHA/真言聲明の会『羯諦羯諦』
■岩井秀人(WARE)『いきなり本読み!in 豊岡演劇祭』
■変わりゆく線『四つのバラード』『diss__olv_e』
■Q/市原佐都子『バッコスの信女─ホルスタインの雌』※第64回岸田國士戯曲賞受賞作品
■五反田団 新作『ぬかりのない船』(仮)
■cigars『庭にはニワトリ二羽にワニ』『キニサクハナノナ』※志賀廣太郎演出作品
■東京デスロック『Anti Human Education 3』(仮)
■マームとジプシー『(演目未定)』
昨年の「第0回豊岡演劇祭」は[城崎国際アートセンター]と[出石永楽館]2ヶ所の開催だったが、今回は[江原河畔劇場]を中心に6ヶ所の施設を会場に使用する。また豊岡市の入口となる江原駅前にはフェスティバルセンターを設けるとともに、各所で現代美術家の作品展示も行う予定。市の中心部・豊岡駅エリアでもシンポジウムの開催や、ミニシアター[豊岡劇場]とタイアップし、演劇祭参加者関連作品の上映&トークショーを計画しているそうだ。
「豊岡演劇祭2020」で13年ぶりに再演される、青年団『眠れない夜なんてない』より [撮影]青木司
平田いわく、豊岡演劇祭の公式プログラムで重視するのは「集客力」と「バランス性」。関西圏の演劇ファンをメインターゲットにしつつも、演劇にあまり親しみのない地元の市民に来てもらうことを踏まえ、話題性がありつつエッジも利いているという、多様な人々が集まりやすいラインアップにすることを、目標に掲げている。
「あまり先端的なものを並べてしまうと、地域の住民からも遊離してしまいますし、集客面も厳しい。しかしありきたりのものだったら、わざわざ演劇祭でやる意味がない。そのバランスを重視するということです。今はまだ出演者を公表できませんが、発表したら“確かにこれはバランス重視だ”と思っていただけるのでは」
野外劇での上演が決定している、鈴木忠志、高田みどり、SAMGHA/真言聲明の会『羯諦羯諦』より
そしてもう一つの特徴は、豊岡市の広域にまたがった6つの会場を、観光しながらめぐっていくという、回遊型の演劇祭になることだ。その中には日本有数の温泉地・城崎や、日本そばでも有名な城下町・出石(いずし)もあり、演劇祭のついでというには贅沢な名所ぞろい。実は演劇祭をきっかけに、観光のリピーターを増やすのも大きな狙いだと、平田は語る。
「豊岡は観光が基幹産業なので、観光とアートが密接となって、地域経済と結びつく演劇祭にしました。自然に触れたり、温泉を楽しんだりと、様々なアクティビティを組み合わせてほしいです。昨年の第0回の時は“一度(豊岡エリアに)来てみたかった”という声が、すごく多かった。特に東京の人たちにとって、城崎はちょっと遠いんですが、アートという非常に強いトリガーがあれば、せっかくなら一回来てみようと思ってくれるんです。で、来てみると当然素晴らしさがわかって、多くの人たちが“もう一度来たい”とおっしゃってくださいました。

近畿最古の芝居小屋[出石永楽館]を有する城下町・出石 [撮影]吉永美和子

私のフェスティバルディレクターとしての狙いは、もちろん来年のフェスにも来たいと思わせることですが、もう一つは“フェスティバルがない時期にも来たい”と思わせること。もっとゆっくり温泉に入りたい、スキーをやりにいこう、海水浴もいいらしい、とか。豊岡の魅力を知って、もう一回来ようと思っていただくフェスティバルに育てていきたいです」
記者の質疑応答では、演劇祭の内容のみならず、新型コロナウイルスの対策や、未だ感染者が後をたたない地域から人が大量にやって来ることに対する、現地の人々の反応などの質問が多く聞かれた。まずコロナに関しては、地元の旅館や観光関係者が定める感染症対策をベースに、厳格なガイドラインを設けるという。地元の反応については、中貝市長が以下のように語った。
「豊岡演劇祭2020」会見より(左から)中貝宗治豊岡市長、平田オリザフェスティバルディレクター
「この演劇祭に限らず、普通の観光でもお越しいただくことに、今は嬉しさと不安の両面があります。街全体が感染予防のガイドラインを守りつつ、一定の数値を保ちながらやっていくということを、住民の皆様とコミュニケーションを取りながら進めていくことは不可欠。(反対の声は)特に聞いてませんが、何をするかよくわからないから、積極的な批判もないというのが実態だと思います。
演劇祭がこの町にどういうインパクトを与えるのかは、第一回を観ていただけるとおそらくわかるだろうし、人々の意識はガラッと変わると思う。演劇やアートが、自分たちの町を良くすることについて、直感で確信を持っていただけるのではないか。まずは第一回を成功させて、市民の皆さんが評価をする方向に、ぜひ持っていきたいと思います」
そして平田は、今この時期に演劇祭を敢行することが、地元の経済と日本の文化、その両方の回復のきっかけになることをもくろんでいると言う。
海外からの評価も高い温泉地「城崎温泉」 [撮影]吉永美和子
「今現在、城崎や神鍋(※スキーで有名な高原)の皆さんが、頑張ってコロナ禍から回復していこうという時に、演劇祭をやっぱり中止するという選択肢はないだろうと。観光業界の皆さんと連動しながら、演劇祭が豊岡の経済を復興する一つの起爆剤になってくれればと思います。
まだ東京や大阪は大きなフェスが難しいかもしれないし(注:東京で「フェスティバル/トーキョー20」開催が発表されたのは、会見の数日後)、豊岡のように感染者数がゼロ、あるいは少なかった地域から、安全対策を取りながら開放していくのは非常に重要。慎重に対策をしながら、どこまでやれるかを探っていきたいです。逆に言うと、非常に商業的なものだと手探りというわけにいかない。今回のように地域に支えられ、地域経済とともに歩んでいくものなら、一歩一歩地に足のついた形で、芸術文化活動が再開できるのでは。それが全国の、一つのモデルケースになればいいと思います。
(文化活動を)全国一律で止めてしまうのは危険なことで、私たちはその多様性を確保するためにも、この豊岡から芸術復興の灯をともしたい。お隣(鳥取県)でも[鳥の演劇祭]が9月に無事開催ということで、連動して両方見られるアクセスも考えたいと思っています」
「豊岡演劇祭2020」メイン会場となる[江原河畔劇場] [撮影]吉永美和子
そしてこの演劇祭が目指す形について、中貝市長と平田はそれぞれこうコメントした。
「この演劇祭は、城下町や温泉街で行う演劇、河畔や町ナカでの演劇と、非常に多様性を実感していただけます。豊岡にはいろんな地域があり、そのいろんな場所に演劇があることを楽しんでいただくだけでも“面白いなあ”と思ってもらえるのでは。そして“生きてるって本当にいいよね”と実感ができる演劇祭にしたいし、なればいいなと思っています」(中貝市長)
「地方創生は人口減少対策がメインになるんですが、その一つの柱が“豊岡に住む価値を見出す”ということ。私たちアーティストは、見慣れた風景や当たり前に思っていた生活に新しい視点を与えて、それを形や言葉にすることで、再発見をしてもらうのが仕事です。この演劇祭を通じて、地域の方々が自分の地域の魅力を再発見して、最終的に地域を誇りに思うようになってほしい。そうすることで、(豊岡が)世界が憧れる町になっていく。その一番の中核として、この演劇祭を育てていきたいと考えています」(平田)
[江原河畔劇場]ロビーで[撮影]に応じる、中貝宗治豊岡市長(左)と平田オリザフェスティバルディレクター(右)
昨年の「第0回豊岡演劇祭」では、広域にまたがる各会場間のアクセスの整備に課題が残ったが、今回は会場が増えて移動が細切れになる分「第0回より周りやすくなるはず」と平田。前回も実施されている演目に合わせたバスの増発の他、モビリティ面での新たな試みに加え、今回の演劇祭用に、公演のスケジュール管理と移動手段の検索に、観光ガイドまでセットにしたサービスを開発中とのこと。実現すれば、会場の移動も含めて楽しめるという平田の理想を、多くの人が気軽に実現できることになるだろう。
各公演の公演日程や会場、出演者などの詳細は、7月下旬にオープンになる予定。また公募で選ばれた「フリンジ」参加団体も、7月末に発表される。演劇祭が開かれる頃には、今よりもコロナの状況が良くなっていることを祈りながら、豊岡までのアクセスや宿泊施設などをチェックしつつ、続報を待とう。
豊岡の自然をイメージした「豊岡演劇祭2020」のメインビジュアル
取材・文=吉永美和子

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