中川晃教、眠っている劇場の目を覚ま
す! ~「中川晃教コンサート2020 f
eat. 『チェーザレ 破壊の創造者』」
開催直前インタビュー~

明治座キモ入りのオリジナルミュージカルとして大きな注目を集めながら、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて中止となったミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』が、「中川晃教コンサート2020 feat. ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」として待望の“復活”! ミュージカルに出演予定だった横山だいすけ、山崎大輝、井澤勇貴、近藤頌利をゲストに迎え、生と配信の2形態で作品の世界観を届ける。公演中止とともに休館していた明治座の再スタートの場ともなるコンサートに向けて動き出した今、中川の胸に去来するものとは――。
「トークゲストもタダでは帰しません(笑)」
――初日を目前に控えたタイミングでの中止決定から、『チェーザレ』をフィーチャーした中川さんのコンサート、という形で“復活”するまでには、きっと紆余曲折があったことと思います。まずはそのあたりの経緯からお聞かせいただけますか?
このミュージカルで明治座さんの新たな一ページを刻むんだ、という気概を持って取り組んでいた『チェーザレ』が中止になった時には、やはりある意味、やる気がある日突然に途切れてしまったような思いがありました。何らかの形で作品に日の目を浴びてほしい気持ちがある一方で、色々なことを考えると、それは今ではないのではないかという慎重な考えも生まれてきて…。とはいえ一個人としては、これはほかの作品も同様ですが、まずは企業の皆さんの方針が決まるのを待っているような状況が続いていたんですね。そんななか、東京都の規制がだんだんと緩和されていって、『チェーザレ』の息吹を入れ込んだ中川晃教のコンサートという切り口を、明治座さんのほうから提案していただいたんです。
中川晃教
正直、全く想定していない切り口だったので最初は驚いたんですが、あとから嬉しさがこみあげてきて。だってこれって、僕がこれまでにも明治座さんでコンサートをやらせていただいてきてたからこそ生まれたアイデアじゃないですか。経験ってこういう時に実を結ぶんだな、明治座さんでコンサートやってて良かった!って思いました(笑)。
――なかなかない形でのコンサートのなかで、中川さんご自身がこだわりたいこと、大切にしたいことなどは?
一度もお見せすることはできなかったけれど、『チェーザレ』はほぼ完成していて、稽古場にあったセットを劇場に入れるかどうかっていう、瀬戸際のタイミングでの中止決定でした。そういう意味では、劇場は今、『チェーザレ』という舞台の幕を開けられないまま時が止まっている状態。『チェーザレ』とともに眠った明治座という劇場の、その一瞬の眠りから覚める瞬間っていうところを、大切にしたいなっていう思いがありますね。本公演という形ではないけれど、明治座さんが新たな一ページを刻もうとした情熱は確かなんだって、感じてもらえるようなコンサートにしたいと思っています。
“時が止まっている”“眠っている”っていうのは、ここ数日色々な打ち合わせとかで伺った、ほかの劇場でも感じたこと。衣裳がいつでも着られる状態で置いてあったりして、急に中止になったからそのままになっちゃってるのか、それともいつ再開してもいいようにそうしているのかは分からないけれど、色々な人たちのギリギリの思いみたいなのを感じるんですよ。そう考えると、明治座さんの新たなスタートを飾るコンサートだっていうことに改めて重みを感じて、身の引き締まる思いで準備に取りかかっているところです。
中川晃教
――具体的には、どんな内容のコンサートになるのでしょうか。『チェーザレ』だけでなく、名作ミュージカルやご自身の楽曲も歌われるそうですね。
今のところ、『チェーザレ』からは僕が4曲程度と横山だいすけさんが1曲。ほかに、『銀河鉄道999~GALAXY OPERA~』『SHIROH』『モーツァルト!』などの楽曲も歌わせていただく予定です。山崎君、井澤君、近藤君はトークでの参加になるんですが、歌ナカに台詞が入る曲がいくつかあるから、役柄に合わせた動きをちょっとやってもらってもいいのかなあとも思ったり。たとえば《祈り》っていうすっごく素敵な曲があるんですけど、ある役が自害した時に「彼の魂を救ってください」って神に祈る曲だから、歌ってる横でちょっと誰かに倒れていただこうかなとか(笑)。その辺はまだこれからですけど、『チェーザレ』の世界観を感じてもらえるコンサートにするための協力はしてもらいたい。タダでは帰さないつもりです(笑)。
――ちなみに、音楽は生演奏ですか?
はい! 今のところ、ピアノ、ベース、ギター、ドラムのフォーリズムで行く予定です。本公演は、明治座さんが初めてオーケストラピットを稼働させることが目玉の一つになっていたから、コンサートでもそうできないかギリギリまで考えたんですけど、ソーシャルディスタンスを守るとやっぱり不可能で。でも稽古用に録った、すんごいクオリティのフルオーケストラの音源はあるので、映像を使う演出の時に流したりはするかもしれません。そのあたりも、まだこれからですね。今回、リハーサルをこの劇場でやるんですよ。スタッフの皆さんと一緒に、本番を想定しながら作っていくことができるので、色んな可能性を探るリハーサルにしたいと思っています。
「配信は、チャンスなのかもしれない」
――ゲストの皆さんについて、印象や稽古場でのエピソードなどをお聞かせください。
横山さんが演じる予定だったハインリッヒ7世は、僕が演じる主人公チェーザレに、生きた時代は違うけれども大きな影響を与えた人物。教皇と皇帝、どちらがトップに立つのが世界の平和のためなのか、ずっと自問自答しているチェーザレに、ひとつの指針を与えてくれる人なんです。そんなハインリッヒ7世が歌う《皇帝》は、もう聴いてるだけで鳥肌が立つくらい壮大な、劇中でもハイライトの一つとなるナンバー。横山さんの歌声を含めて本当に素晴らしかったので、今回横山さんにこのコンサートに参加してくださるって最初に聞いた時は、本当に嬉しかったです。歌を聴くだけで舞台を想像していただける説得力という意味で、横山さんの歌声っていうのはすごく、皆さんに聴いていただきたいものですね。
中川晃教
山崎君は…何て言えばいいんだろう(笑)。かわいいね、頑張ろうね!っていう、どうしてもお兄さん目線になってしまう人ですね。彼にとって今回が初めてのミュージカルで、僕にとってもチェーザレ役は色んな意味で挑戦だったし、ジェネレーションギャップもあるしっていうなかで、稽古の最初のうちは正直、付き合い方に悩んでました(笑)。でも中盤になって、僕のよーく知ってる先生が彼のボイストレーナーでもあるって分かってからは心の距離が近づいて、チェーザレとアンジェロとしての関係性もでき始めて。このまま努力を続けていけば、彼はきっと舞台上で“化ける”と思っていたところで終わってしまっているから…「ちゃんと歌、練習してるんですか?」っていうのが多分、今回のトークの第一声(笑)。
井澤君と近藤君はWキャストで、二人が演じる予定だったドラギニャッツォというのは、ある場面で急転直下の展開を迎える人物です。急に加速する場面って、台本を丁寧に追うだけでは足りなくて、だからこそ俳優の持ってるものっていうのがすごく出ると思うんですけど、井澤君と近藤君ではやはり全く違っていて。井澤君はもう、稽古場からすんごいおしゃれでかっこいい人だから、居方とかちょっとした仕草とか着こなしも素晴らしいんですよ。近藤君は近藤君で、そういうのも見ながら自分なりの魅力的なドラギニャッツォを構築していたんですけど…歩き方がちょっと、その…(笑)。せっかく長身なのにもったいないよ!って、鏡の前で歩き方の練習をしたことが印象に残ってます(笑)。
――4人とも、会うのは3か月ぶりくらいになる感じですか?
そうです、稽古場でギリッギリまでみんなで作り上げて、「じゃあ次はオケ合わせでね!」って言って別れた“あの日”以来。中止が決まってからは、会えなかっただけじゃなく、LINEとかもなんだかできなかったんですよね。みんな意気消沈して無念さを抱えているのが分かっているから、なんて言葉を送ればいいのか分からなくて。この間、久しぶりに再会したスタッフの方にそんな話をしたら、やっぱり「分かる」っておっしゃっていました。だから今回、皆さんと再会して、同じステージに立てるのが本当に楽しみです。
中川晃教
――最後に改めて、“生+配信”という新しい形で届けられる今回のコンサートに向けて、意気込みや今の思いをお聞かせください。
配信はアーカイブが残るので、いつでも観られるっていう、今までにはなかったことが起こるわけですよね。何か状況が変わって、“今のベスト”を探る必要が出てきた時に、それは“今のベスト”であって“本当のベスト”ではないって最初は思っても、やってみたら案外すごく良かったってことはいっぱいあるなって、僕はよく思っていて。配信にはそんな可能性があるのかもしれない、これはチャンスなのかもしれないって、今すごく感じています。
どんな良さがあるかはやってみなければ分からないけれど、少なくとも今回の配信からは、このご時世でもなんとか『チェーザレ』を届けようとした人たちの“思い”を感じていただけると思います。最初に言ったように、僕にはこういう形のコンサートっていう発想すらなかったわけだから、僕一人の思いで実現するものじゃなかったことは確実で、そこには明治座のスタッフの皆さんの思い、それに応えようとする僕の思いがある。配信という新しい形を取ったことに、そのことが現れていると思うんです。
それともうひとつ、今回の過程を通して「自分は一人じゃない」って改めて感じた時に思ったのが、お客様のことでした。今までは、ミュージカルの魅力はライブであることにあると思ってきたけれど、ライブで観ることができるお客様もできないお客様も、すべての皆様があってのミュージカルなんですよね。だとしたら、ライブじゃなくても、どこにいても味わえる魅力を持った自分をイメージしていく時代が来たのかもしれない。今回の配信は、自分の新たな目標を見定めるきっかけにもなるような、そんな気がしています。
中川晃教
スタイリスト:Kazu(WORLD STYLING)
ヘアメイク:井上 京子
取材・文=町田麻子 撮影=鈴木久美子

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