サザンオールスターズが配信ライブで
示した“サザンの42年間”と“配信ラ
イブの未来”

サザンオールスターズ 特別ライブ 2020 「Keep Smilin' ~皆さん、ありがとうございます!!~」

2020.6.25 横浜アリーナ
サザンオールスターズのデビュー42周年記念日に行われた配信ライブは、何から何まで特別だった。コロナ禍で会場に観客を入れない状況でのステージだからこそ、見えてくることがたくさんあったからだ。ここではテーマを2つにしぼってレポートしていこう。“サザンオールスターズの42年間”と“サザンオールスターズが示した配信ライブの未来”だ。まずは“サザンオールスターズの42年間”について。42年かけて築き上げてきた総力を結集した人間味あふれるライブだった。
象徴的だったのは「真夏の果実」だ。暗転した会場に波の音のSEが流れてウクレレのあの音色が鳴り響いた瞬間に、全ての客席の背に掛けられたリストバンド型ライトが光った。その数は約万を超える(一つの座席に2つずつでの計算)。その光景の美しさは“言葉に出来ない”ものであり、“忘れられない”ものとなった。すべての座席にリストバンドを設置したスタッフの心意気に胸が熱くなった。そしてこの2万の輝きは画面越しの観客の思いを代弁するものでもあると感じた。これは彼らの42回目の誕生日を祝うバースデイケーキのロウソクの灯火みたいなもの。桑田が感極まりながら歌っている。桑田だけではない。メンバー全員がスタッフと画面越しの観客の思いに応えるような温かな演奏を展開。この瞬間にしか生まれない空気が漂っていた。これこそが生のライブの醍醐味だ。
「真夏の果実」が終わると、アリーナ中央の天井に設置されたミラーボールから光のシャワーが降り注いだ。その真下に聖火台があり、炎が燃え上がっていた。始まった曲は「東京VICTORY」だ。桑田の歌声がアリーナ内に響き渡り、メンバーがこぶしを挙げながらコーラスしている。これはバンドから観客へのエール。おそらく何十万人が画面越しに一緒にこぶしを挙げていたのではないだろうか。“夢の未来へ”“みんな頑張って”といったフレーズが力強く響いてきた。この聖火台の炎もバースデイケーキの超特大のロウソクの灯火。彼らが42年間で積み上げてきたものは名曲の数々だけではない。リスナーとの絆、そしてスタッフとの絆だ。「シャ・ラ・ラ」は観客と再会する日が来るようにという願いの歌のようだった。歌に思いが託されてリスナーに届くことによって、絆はより強固になっていく。
なぜサザンオールスターズは42年間、こんなにも多くの人々に愛され続けてきたのか。この日見えてきた答えのひとつはバンドの覚悟と使命感だ。彼らは人々の思いを受けとめてステージに立っていた。だからこそどの歌も特別な輝きを放っていたと思うのだ。アンコールラストの2曲「ロックンロール・スーパーマン~Rock'n Roll Superman~」と「みんなのうた」も、この瞬間この場所で歌われる必然性を強く感じた。「みんなのうた」の冒頭での“あなたに守られながら私はここにおります。笑顔を見せてください。また逢う日まで待ってます”という歌声に胸を揺さぶられた。たくさん約束をして、その約束を果たし続けてきた42年間だ。
サザンオールスターズ 撮影=岸田哲平
もうひとつのテーマ、“サザンオールスターズが示した配信ライブの未来”についてもふれておこう。この配信ライブは彼らにしかできないものだった。メンバーはもちろん、ミュージシャン、ダンサー、スタッフなど、総勢400人が約1ヵ月かけて準備し、入念にリハーサルを重ねて、実際のツアーを超える大掛かりな照明、映像を導入し、40台のカメラを駆使して展開したステージだったからだ。規模も予算も労力も破格。昨年彼らが3月から6月にかけて行ったツアーの動員数が約55万人だから、その数にせまる観客が同時に、このステージを目撃したことになる。
サザンオールスターズが配信ライブをやったことで、有料配信ライブのハードルが上がったと感じたミュージシャンもいるかもしれない。だが、それぞれのやり方でそれぞれにしかできないライブをやることが重要だと思うのだ。コロナ禍になってから数多くの有料配信ライブが行われている。その局面は短期的な支援から長期的に持続できる表現形態のひとつへと移行しつつある。やり方の答えはひとつではない。それぞれのミュージシャンのスタンスや個性に適したやり方がきっとあるはずだ。試行錯誤の一つ一つが音楽の未来へとつながっていくだろう。有料配信ライブを定着させるためにクリアーすべきハードルがあることも見えてきた。列挙すると、以下の7つ。配信ライブをやる意義と必然性、ライブとしてのクオリティーの高さ、高音質・高画質の安定的な提供、ライブならではの臨場感、画面越しの観客との一体感、観客がいないことを逆手にとったクリエイティブな工夫、そして未来への視線だ。
この日のサザンオールスターズはそのすべてを見事にクリアーしていると感じた。例えば、ライブをやる意義と必然性は以下のとおり。デビュー42周年をファンと一緒に祝う。ファンとスタッフへの感謝。コロナ禍で困難に直面しているライブスタッフの労働機会の創出。医療をはじめとするエッセンシャルワーカー、困難な状況を乗り越えるために尽力している人への感謝。さらには治療と研究開発にあたっている医療機関に役立てるために収益の一部の寄付。
サザンオールスターズ 撮影=岸田哲平
ライブとしてのクオリティーはどうか? 1曲目の「YOU」から「みんなのうた」まで22曲、王道ともいうべき名曲、人気曲、ライブでの定番曲が並んでいて、42周年のお祝いにふさわしい内容で、1本きりなのに、いや1本のみだからこその集中力の高さを感じさせるステージだった。「希望の轍」に込められた思いの数々、「夕陽に別れを告げて〜メリーゴーランド」の表情豊かな歌と演奏、「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」「フリフリ'65」などでのファンキーなグルーヴ、「シャ・ラ・ラ」での桑田と原のかけ合い、「Bye Bye Me Love(U are the one)」での生命力あふれるバンドサウンドなどなど、あげるとキリがないのだが、どの曲も完成度の高さと臨場感とが見事に両立していた。
もう一つふれておきたいのはコロナ禍という状況を逆手にとった演出だ。会場内に観客がいないというマイナスをプラスに変えるべく、バンドとスタッフが総力を結集してステージを作りあげていた。全座席に掛けられていたリストバンド型ライト、客席の上空を飛び交うフライングカム、アリーナのど真ん中に設置された聖火台、「マンピーのG★SPOT」でのダンサーのGマークのマスク、スタッフ全員のハンドクラップ、客席を占拠してのダンス、さらにはスマイルマークが書かれたスタッフのマスクなどなど。こうした工夫そのものが逆境を乗り越えるための大きなメッセージだと感じた。
「早くみなさんにお会いしたいです。声が聞きたいです。笑顔が見たいです。みなさんがいないと寂しいです」と終演直後のMCで桑田が語っていた。それは本音だろう。ライブはなにものにも替えがたいものだ。しかし音楽が離れた場所にも届いていくことをこの配信ライブが証明していたのではないだろうか。音楽は不屈であり、自由なものであり、愛と希望のかたまりできていることをこの日披露された歌の数々が雄弁に示していた。「みんなのうた」の冒頭で桑田は“人生は世の中を憂うことより、素晴らしい明日の日を夢見ることさ”と歌っていた。そう、夢見よう。このコロナ禍という事態からもきっと音楽文化の新しい芽が伸びてくるだろう。この日の笑顔の先にはきっと明るい未来が待っているに違いない。
取材・文=長谷川 誠
サザンオールスターズ 撮影=岸田哲平

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