『#オンラインライブハウス_仮』が問
う、アフターコロナのライブの意味と
役割ーー発起人・柳井貢×Shangri-L
a店長・キイリョウタ対談

未曽有の新型コロナウイルス禍により多大なる影響を受けたライブハウスの現状を打開すべく、この春立ち上げられた画期的なプロジェクト『#オンラインライブハウス_仮』。「お家にいながら、オンラインでライブに行こう」をテーマに、Zoomウェビナーというプラットフォームを駆使し、オンライン上の仮想空間を舞台にライブ配信を行う同企画は、5月6日にオンライン_梅田Shangri-Laにて行われたSundayカミデの20名限定オンラインワンマンライブ『online ピアノ KISS!!!』を皮切りに、現在までに10公演が開催されている。そこで、この前代未聞のプロジェクトの発起人である柳井貢(ヒップランドミュージックコーポレーション/MASH A&R)と、前述の第1回公演のホストを務めた梅田Shangri-La店長キイリョウタによるスペシャル対談を実施。『#オンラインライブハウス_仮』に関する様々な考察や体験談はもちろん、20年来の旧知の仲である2人が遠慮なく意見を交わす光景は、オンラインでありながらその現場には確かな熱があることを感じさせる。アフターコロナの音楽シーンに投げかける、ライブの意味と役割とは――?
大阪梅田Shangri-La
●とにかく動き出したら変化が起こるやろうなとは思った●
――『#オンラインライブハウス_仮』を始めた経緯は、柳井さんのnoteに詳しく記されているのでそちらを見てもらうとして、まずは2人の関係性というか、なぜこの2人で対談をするのか、『#オンラインライブハウス_仮』はなぜShangri-Laから始まったのかを聞きたいなと思うんですけど、付き合いはもうだいぶ長いでしょ?
キイ:柳井がClub STOMPの店長をやってたとき、僕がSunday(カミデ)さんを介してミュージシャンとして出演させてもらって。
柳井:もう20年とはいかないけど。僕がSTOMPを辞めてヒップランドに入ったら、(キイのバンドは)そこからリリースしてるアーティストでもあったので、また関係は変わって続く期間があり。その後、キイさんが梅田RAINDOGS('10年に閉店)で働いた時期もありながら、そこからキイさんがShangri-Laに移る流れの中で、事務所の人とライブ会場の人という立場になったのがここ10年ぐらい? いろいろと良いことも悪いこともある中で今日っていう感じですね。
キイ:えっ? 悪いことあった?
――ハハハ!(笑)
柳井:悪いことは別にないけど、小競り合いはするやん(笑)。
キイ:そう? ないよ、大丈夫!(笑)
――でも、お互い立場は変わっても続けているからこうやって会うわけで。最初はね、『#オンラインライブハウス_仮』は何で関西から始まったんだろうともすごい思ってて。
柳井:ね! 僕も不思議なんですよ。ここまで寄せたくはなかったんですけど(笑)。まぁ僕がやっぱり関西出身やから、「柳井が言ってることに耳を傾けてみようか」とか、「ちょっと一緒にやってみようか」と思ってくれる人が関西に多かったのかなと。もう1つは、要は諦めたくもないし、ええ具合のテンションが今の関西/大阪にはあった。その2つぐらいしか理由が思い浮かばないですけど。
――『#オンラインライブハウス_仮』の説明会は関係者なら誰もが受けられる環境だったけど、面白がって話がポンポン進んだのが関西のライブハウスだったという。
柳井:そうですね。あと、FM802とか。
――関西ってライブハウスもFM局もイベンターもみんな知り合いみたいなところがあるのに対して、東京は大き過ぎて細分化してるのも関係があるかもしれないですね。キイくんは最初にこの試みを聞いたときにはどう思いました?
キイ:ライブ配信に関してはやるつもりだったので、3月の頭ぐらいから5〜6社ぐらい研究してて。ただ、うちの会社(=LD&K)として足並みを揃えなあかんところもありスピード感が遅かったんですけど、柳井に確認したらいつでもいけそうな感じだったんで、とにかくやってみようと思ったのが一番です。もちろん信頼してる柳井がやってたのは僕の中では大きいです。これは第1回目のSundayさんがライブのMCでも言ってたんですけど、柳井は場所を用意するのがすごく得意な人で。柳井がSTOMPにいたときも、「ステージがフラット過ぎてやりにくいから、ちょっと高さがいるんちゃう?」って言ったら、次に出たときはもうこれぐらい(=約15cm)なんですけどステージを作ってくれてたり(笑)。第1回目は僕と柳井の共通認識でSundayさんに声をかけたんですけど、Sundayさんも「今でもこうやってステージを用意してくれるところは変わってないな」と言ってて、ホンマその通りで。僕の中ではあの日一番良いMCだったなと。
――なるほどな~。なぜShangri-Laなのか、なぜSundayカミデだったのかが分かりました。納得!
キイ:柳井って歯に衣着せぬ言い方をするヤツなんで、「カチン!」とくることは山ほどあるんですけど(笑)、本当のことしか言わないから信用できるんですよね。立場的に部下ができても動き方自体は変わってないのを見てて、より信用できる、頼りになるなというのはあったんで、真っ先に僕が飛び付いたというか。「やろか!」とすぐに日程を出しただけの話です。
――いや、いきなりめっちゃえ良い話やこれ(笑)。
キイ:これが今日の全てです。もうインタビューを終われます(笑)。
――そう考えたらオンラインとは言え、現場にはちゃんと熱があって。やっぱりそうじゃないとできなかったというか。
キイ:そもそも僕はライブハウスの人間なんで、そりゃあ普通のライブの方が良いに決まってるんですよ。その上で、じゃあやらないままでいくのか……正直、僕がミュージシャンだったら出来なかったと思うんですよね。オンラインをどんな体感でできるかイメージも湧かないし、自信もないし、これ一発でもし失敗したらダメージの方が大きいと思うんで。でも、Shangri-Laの今の状況と、自分も部下がいる立場でとにかく何かしたいなとこの2カ月ぐらいずっと思ってたので、渡りに船じゃないですけど、すぐにやろうと。やっぱり自分1人では不安やったのはあります。YouTubeとかでライブ配信を見てきたつもりでしたけど、一緒にできるチームを作れるなと思ったのは大きいですね。僕が対等に相談できる相手が柳井だったので、それはよかったというか、やりやすかったですね。
――柳井さんが4月22日にTwitterで、「大枠の仕組みが固まったから知り合いに企画送りつけまくってる」と最初につぶやいてから、4日後にテスト配信、その2日後にSundayさんで1回目をやる告知というスピード感で、発案から2週間で開催までこぎつけてるのはすごいなと。
柳井:さっきのキイさんの「1人では不安やった」とか「チームを作れると思った」に結び付くんですけど、自分はただ仕組みを思い付いただけで、運用に関わるかどうかも決めてなかったんですよ。あとはスピード感みたいなことで言うと、僕がこれまで関わってきたアーティストが、結構瞬発的なことをやりがちというか(笑)。例えば、キイさんが「2カ月後の週末にいきなり2日もキャンセルが出て、マジ腹立つわ」みたいなつぶやきを……まぁそこまでダイレクトなつぶやきはしてないけど(笑)、そういうことを見かけたら、「それ何日? じゃあ誰とやる? その代わりホール代安くしてな」みたいなフットワークで仕事をする性分も持ってたりもするんで。空家賃ほどもったいないものはないし、ミュージシャンはやっぱり人前で演奏してなんぼなので。全部の公演が「半年前に日程を切って、告知は4カ月前」とかじゃなくても、お客さんが少しでも来てくれて仕事が成り立つならそれでええやん、みたいな部分もあるんですよね。
――なるほどね。それはライブハウスとマネジメントの気持ちが分かる柳井さんならではですね。
柳井:大々的じゃなくても、とにかく動き出したら変化が起こるやろうなとは思ったんで。それこそ、そういう訳の分からん話に付き合ってくれそうなSundayさんに一番最初相談して、まずはやることを優先に進めたんですけど。ただ、キイさんと打ち合わせしてる中で自分のポジションは要るのかみたいな話になったとき、「実際はその場所を使わずに何を持ってライブハウスとするのか、自作自演だけで分かってもらえるのか。そこは柳井なり、この仕組み、この考え方を提唱する人間がおった方が成り立つんちゃうかな」みたいに言われて、なるほどなと。僕もそこで改めて自分がこの仕組みの中で果たすべき役割が再認識できたので、プレイガイドとの取引とか、著作権使用料の申請手続きとか、一旦Zoomのウェビナーを使うことになったから、関わる人に教えてあげられるだけの知識を蓄えたり……最初は中枢的な存在になれたらいいかなというところから始まった感じですね。
●ライブハウスにいるだけでは感じられなかった、スペシャルな空間は確実に演出できた●
――実際にオンラインライブをやってみてどうでした?
キイ:まずは今後のライブの在り方というものに、ものすごく可能性を感じたというか。人数制限=キャパシティを設定することもそうなんですけど、それによってオンライン上にいかに密な空間ができるかを体感できたので。100人以内のイベントならチャットのコメントを拾えるし、「あなたに向けてやってるよ」という空間は、演者もお客さんも主催してる側もすごい緊張感なんですよ。いずれライブが再開できる日が来たとしても、例えば全国ツアーの東名阪だけ前日にオンラインライブをファンミーティングみたいな感じでやれるなとか、お客さんも演者も楽しめる空間が新たにできたなと。
――体感したことで、新しいアイデアも湧いてきたと。
キイ:実際は家で見てるだけなんですけど、Sundayさんのときなんかは夕暮れどきで雰囲気も良かったし、陽が沈んでいく感じも意外とドラマチックで。ただ、ちょっと物足りないのは「演者側の体感」なんですよね。お客さんの空気感が全然分からないから、ライブをやってる感覚がなかなかない。これはSundayさんに関しても、その後にやった(セカイイチ・岩﨑)慧に関しても課題だなと思いました。そこは僕がMCで入って「こんなこと言われてるけどどうなん?」とかチャットを読み上げたり、何とでも持っていけるところは無限の可能性があるなと思いましたけど。でもね、そういう課題はもちろんあるにせよ僕自身、ライブを見てめっちゃ感動したんですよ。ライブハウスにいるだけでは感じられなかった、スペシャルな空間は確実に演出できたなと。
柳井:僕は今キイさんが言ってくれたみたいな希望というか可能性というのが半分、課題の洗い出しみたいなところが半分で。オープンしたてのお店と一緒で、「うわ、めっちゃトイレに人が並ぶ、ここの動線考え直さなあかん」みたいに(笑)、シミュレーションし切れてない部分がやっぱり出てくるので。あと、付け加えると、そのオンラインライブの空間にたどり着くまでのお客さんの中に入ってる前提情報だったり経験値が、鑑賞時間の精神状態に与える影響は割と大きいんじゃないかなと思って。例えば「プレイガイドで買うところは普段のライブと近いな……チケットが当たった! 落ちた!」とみたいなことを言いながら、チケット買って、次に来るのは「Zoomのウェビナーって何?」という部分。要はちょっと行き慣れてないライブハウスに頑張って行く感じ(笑)。そして、そのハードルを越えてドキドキしながらログインしたら……Sundayさんのときは画像だけは出してたんですけど、音を貼り付けてなかったんですよ。だからお客さんからすると、画面が固まってるのか単に待たされてるだけなのかが分からない(笑)。音声がめっちゃ大事だなというのは1回目で分かりましたね。
――実質2回目の『#オンラインライブハウス_仮』となった『FM802弾き語り部 リモート編♪』のライブレポートをしたときは、開演前にBGMが流れてたり、ライブの趣旨の説明があったりと、Sundayさんのライブを受けてすぐに改善されてましたね。
柳井:演者側もお客さん側もそうなんですけど、良し/悪しではなくて「違い」。要は大阪城ホールにBUMP OF CHICKENを見に行くのと、Shangri-Laにセカイイチを見に行くのはいろんなことに「違い」があるはずで。オンラインが便利であることは特性ではあるんですけど、全部がシームレスになって、ワンストップモデルで視聴と管理が簡単で、というふうになっていくと、その「違い」がどんどんなくなっていく。そうなった結果、もはや生である必要があるのかもちょっと怪しくなってきてる。僕も事務所の人間としてもちろん勉強はしてるんですけど、便利一択になるのはちょっと違う気がするなぁと。半分、希望というか自分の趣味かもしれないですけど、やっぱりローカル性とかアナログ性は必要な気がして。
――便利になればなるほど、それをより感じますね。
柳井:そこをオンライン上の世界で表現できれば役割も生まれるし、他人の言葉まじりで言わせてもらうと、役割だけじゃなくて意味を作れるかどうか。「コロナで動けないからYouTubeライブでスーパーチャット(=投げ銭)をやります」では、意味を感じられる設計がちょっと少ない気がして。そこにあえての不便さだったり、限定性だったり、不公平さを用いることで意味を感じやすくなり、それがよりパフォーマンスを楽しもうとするモチベーションにつながり、その方が楽しめるというサイクルが生まれるのかもしれないなって。
――技術面の話をすると、LANケーブルやPCのスピーカーを変えたら音や映像が良くなるのかなみたいな楽しみがあるのと同時に、そこに対する物足りなさみたいなものは、PCスペックに作用されちゃうところはあるでしょうし、1つの課題でもありますよね。
柳井:そこに関してはいろんな意見交換ができたら面白いなと思ってるんですけど、たまたま自分の考えに近い取り組みができるのがZoomのウェビナーだっただけで、優れたプラットホームがあれば全然乗り換える気もあるんですよ。ただ、他は全部、いかに便利か、いかにハイクオリティか、いかにセキュリティが高いかの3つで勝負してるんで、ヘタしたら商売が違うぐらいの感じで。実際にそちらでやったことのあるアーティストを1回『#オンラインライブハウス_仮』に呼んで、「やってみてどうやった?」と聞いてみたい気持ちもあるんですよね。
●結局は「人」だと思うんですよね●
『#オンラインライブハウス_仮』インタビュー模様 左=キイリョウタ/右=柳井貢
――あと、単純に思ったのは、オンラインShangri-La、オンラインBIGCAT、オンラインJANUSとかって、実際の場所ではなく「概念」じゃないですか。例えば、背景をShangri-Laのステージ画像にすることでお客さんに会場をイメージしてもらうこともできますけど、あえてそれをしないのには何か意図があるんですか?
柳井:そこは追求してもいいし、ぐらいの感じですかね。僕はキイくんに「部屋の壁にShangri-Laに飾ってるポスターをペタペタ貼ったらええやん」とは言ったんですよ。でも、キイくんの中に実際に店に行けるようになったときとオンラインとの違いを出すためだったり、何かしらのプランなり読みがあって、このテンションを今は選んでると思うので。その部分は僕の立場から「こうあるべきですよ」とまでは言いたくなくて、この概念空間での演出方法すらもある種、各ライブハウスの個性でもあるなと思ってるので。
――他の(オンライン)ライブハウスとの差別化というか、実店舗には勝手に出てくる小屋の特色というか。
柳井:そうですそうです。ヘンな話、オンラインだと場所の違いが何もないので、出演者が『#オンラインライブハウス_仮』をやりたいなと思ったとき、どのライブハウスでやるのかは結構シビアな選択になり得るんですけど、各々がスタイルを作ってもらって、長けた喋りと絡みでみんなと番組っぽく作るライブハウスがあってもいいし、その部分はこの新しい形での店舗間競争をしてくれる方が面白いなって僕自身は思っています。
キイ:そこに関して言うと、Shangri-LaがShangri-Laであるために僕が何をしたらいいかは10年やってきて分かってきたつもりで。そこをどうオンラインでも伝えられるかが重要にはなってくると思うんですけど、ライブハウスってやっぱり店長で変わるところはあるので、結局は「人」やと思うんですよね。もちろん会場としてのShangri-Laは唯一無二ですけど、そこをミュージシャンやお客さんと共有して伝えることに今は全ての重きを置いてるので。
――まずはそのスピリットというか。
キイ:そうそう。ただね、ポスターは試しに家の壁に貼ってはみたんですよ。モニターを見ながら画角も考えて「うわ、めっちゃカッコえぇな! 最高やな!」と思ってたら、あまりにも汚な過ぎて次の日に嫁に全部剥がされて(笑)。
柳井:ハハハ!(笑)
キイ:でも、この不自由さも悪くないなと僕は思ってて。最初はお客さんもちゃんと化粧をして画面の前で待ってたけど、「自分は映らんのんかい!」みたいなこととか(笑)、まだ初めてのものに対してのドキドキが絶対にあって。例えばmixiが始まったとき、Twitterが始まったとき……しかもコミュニティがまだすごく小さい頃の、何十人何百人単位の発信からしか文化は生まれないと僕はホンマに信じてるので、『#オンラインライブハウス_仮』をやることにはすごく意味があるし、今後、何かの役に立ってくると思ってるんで。あとは柳井が言ってた通り、音が良くて映像も綺麗なプロ仕様の環境をひたすら求め出すと、小さいライブハウスはどこも勝てないんで。そういう意味でも、MCにしても、出演者との絡みにしても、肩肘張らない空間を演出していきたいなとは思ってますけどね。だから付き合いの長いSundayさんと慧に出てもらったのはありますし。
――実店舗のスタンスと地続きでありながら、オンラインはオンラインでそれぞれに個性が出てくるというか。
キイ:そうですね。例えばSTOMPしかりRAINDOGSしかり、そういう場所のミラクルは知ってるつもりなんで、そこから広げていく、広がっていく……今やからこそできるし、やってよかったなぁというのはありますね。
●オンラインだからこそ「あなたに対してやってるんですよ」というスタンスを伝えていけたら●
――オンラインでありながらあえてキャパ設定をすることにより親密感が生まれるのは間違いないなと思いつつ、350人キャパのShangri-Laにオンラインだと50人とか、800人キャパのBIGCATに100人とか、今は実店舗よりも大幅にキャパが少ないじゃないですか。これは入場やチャットも含めてフォローできる数値を探ってる感じですかね?
柳井:探ってるのと、最初は概念を啓蒙する上で極端にしてるのもあります。例えばリアルなShangri-Laでも、演者側がお客さんが目視できるレベルで言うと……いきなり画面上に350人の顔が並ぶのもね。それをやるにはもうちょっと概念が定着して、そこにないものをみんなで信じられないと難しそうだなと思って。まずは呼ぼうと思えば全員の名前が呼べるみたいな規模からやっていかないと、自分自身も本当にそこに意味があるのかどうかが不安だったというか。
――お客さんからしたら、「オンラインなんだから逆にキャパ以上のたくさんの人が見られるはずなのに」と思ってしかるべきなので、そういうことだったんですね。
キイ:何でこのキャパ設定をやってるかは毎回MCで話そうとは思ってるんですけど、例えばその30人なり50人にちゃんとメッセージを伝えられてたら、それが100人になったときでも、200人になったときになっても、その人は来てくれると思ってて。不特定多数じゃなくて、オンラインだからこそ「あなたに対してやってるんですよ」というスタンスを伝えていけたら、すごい意味はあるかなと。
――ちゃんと意図を汲んでくれる仲間を作っていくというか。
キイ:トラブルに対応できるかとか、システム的なことも重々あるんですけどね。もちろん、売上のことはいろいろありますし(笑)。
――そう! そこも気になってたんですよ。やっぱりね、Shangri-Laに20~30人が入ったとしても、という話じゃないですか。
キイ:そういうことなんですよ。それはもちろんあるんで……そこはすごい難しいところですね。
――でも、それぐらい新しい仕組みのスタート地点に立ち会ってるってことでしょうね。
柳井:人数は需要さえあれば増やせると思うんですよ。でも、それって結構シビアにファンの数に依存するんですよね。あと、無料モデルないし、入口が一旦無料の投げ銭システムはそんなに抵抗はないんですけど、ちょっと自分が危機感を持っているのが、オンラインだから値段を安くするという状況が起こっているのが、本当にそれでいいのかは結構心配していて。音とか映像のクオリティの体感値になるとは思うんですけど、逆に価値が下がってるばかりかと言うと違って、家にいながら移動もせずに見られるのもある種の価値だし、キャパ設定がない公演なら(人気アーティストでも)いつでも買おうと思えば買えるのも価値だし。ちゃんとアピールすべき価値があるのに、何となく不安だからって価格崩壊が起こってるのは、ちょっと冷静じゃないなと。そこに対抗する選択肢の1つとして、パフォーマンスを見る以上は価格破壊を起こさない最低限の設定は作っておきたい。結果的に消費者が受け取ってる印象が安かろう悪かろうになってませんかというところで、もうひと踏ん張りしたいのはありますね。
――尺の短さとかは関係あります? それはオンラインと生で見るのとの体感時間の差もあるかもしれないですけど。
柳井:その辺りは研究、実験、検証かな(笑)。いずれ演者とお客さんの感覚の平均値みたいなものが出てくるのかなと。例えば、高いイタメシ屋に行って、パスタの量がちょっとだからって怒らないじゃないですか?(笑) 何か価値を感じてもらえたり、満足度をどういう形で提供できるのかは実際のライブでも考えていくべきなんですけど、オンライン上のこういう動画配信、もしくはコミュニケーションをどうデザインしていくのか、ということなのかなぁ……。
――ちなみに今後はバンドでのライブ配信できるようになるんですか?
柳井:実店舗なり特定の場所に集まることへの懸念が下がってくれば全然やれるかなぁと。今後で言うと、まずはDENIMSが自分たちのスタジオからやろうとはしてますね。
*インタンビュー当時はスタジオから実施する予定でしたが、記事公開時までに動きがあり、14日はShangri-Laから実施することになりました。
●何とかして生き残らないとダメですね●
梅田Shangri-La
――緊急事態宣言が解除され、オンラインもオフラインも含めて、ライブハウスの立場、マネジメントの立場で、どうなっていくのか、どうしていきたいのかで言うと?
キイ:とりあえずライブハウスに言えることは、もう元には戻れない。ライブハウスって三密を楽しむような場所なんで、そこの課題はすごくあって。一番は換気の問題。ライブハウスって地下にあることも多いし、換気扇はあっても飲食店にあるようなやつじゃないし。今後はそういうことにも対応したライブハウスができていくと思うんですけど、現状では真逆のことをしていかないとダメなんで……。でも、こういう配信とか、新しいビジネスモデルが増えていってるのも音楽業界だからこそと思ってるところもあるので。雑草魂じゃないですけど、各ライブハウスがそれぞれ必死になってYouTube配信をやったり……元々ライブハウスの人間ってね、足並みを揃えたくないというか、そういうことがイヤやからライブハウスで働いてるところもあるじゃないですか(笑)。例えば、ビジネス的にはまだまだ厳しいですけど飲食店で言ったらテイクアウトが増えたみたいに、どんどんいろんなアイデアが立ち上がってる状態なんで。これはこれでまとまったときにすごいことになるんちゃうんかなと、僕は前向きに思ってますけどね。ただ、実際に潰れるところも出てくるんで、そこはちょっとシビアには考えていかないといけないなと。
――でも、現場からそういうタフな発言が聞けるのは嬉しいですね。そう思うしかないというのもあるけど。
キイ:みんな考えてると思いますよ。関西はどこのライブハウスもホンマ元気でしょ? そういう意味では、『#オンラインライブハウス_仮』に対して大阪からめっちゃ声が上がったのも、何となく分からないこともないし、成るべくして成ってると思う。僕はもう必死で「何かせな! あ、柳井おった!」みたいな感じでしたけど(笑)、今、声を上げてないところだってめちゃくちゃ準備してるし、いざ喋ってみたらめちゃめちゃ喋る、みたいなね。Pangeaの吉條(壽記)さんもそうやし、CONPASSの西岡(猛)くんもそうやし、みんなそれぞれ。
――そうか、FM大阪の新番組『SKETCH〜また会おうライブハウスで〜』にキイくんも出演してたもんね。
キイ:あれもすごいよかったですよ。やっぱにっしゃん(=西岡)がめちゃめちゃ喋る。「そんな喋る?」と思うぐらい喋ってましたよ、彼(笑)。
――ハハハ!(笑) でも、独立独歩で我が道を行くライブハウスの方々が交流できたのも、こういうことが起きたからでもあるから。
キイ:震災のときもそうでしたが、やっぱり元には戻れないけど、新しい価値観とかやり方がまた出てくるんで。この業界にもあかんところは山ほどあるじゃないですか。そこも淘汰されていくに決まっていて、それも含めてあかんところは直して、より良いものになっていくようにしか動きようがないと思うんで。それはすごい楽しみやなとは思ってます。
――柳井さんはどうでしょうか? まぁ答えがないから難しいんですけどね。全ては可能性でしかないから。
柳井:まずは現実を受け止めていく柔軟さというか、読みもへったくれもないですけど、Wスタンバイどころか10パターンぐらいの選択肢を何となく想像する中で、でも決め込み過ぎず、フットワークを軽く。ただ、自分の仕事のベースで言うと、プロダクションみたいなところにいると、本当に難しくて。契約形態まで引っくるめて、変化が起こる可能性はあるなぁとは思っています。
――ライブの売り上げをメインにアーティストの活動を設計してたら、何もかも変わってきますもんね。
柳井:そうなんですよ。もちろん契約形態にもよるんですけど、まず固定費がかなり出ていっちゃうんで。でも、全く動けません。でも、約束してるからお支払いします、となると=(事務所の資金が)底を尽きるまでという話になっちゃうんですね。底を尽きるのを待つのかどうするのかは、考えるか考えないかを考え始めたぐらいです(笑)。
キイ:ハハハ!(笑)
――確かにそうなると、アーティスト契約の仕組み自体が変わっていくし、それに伴っていろいろ変わる。
柳井:その中で自分が思ってるのは、やっぱり各々がその状況に合わせて、生存能力の高い人が生き残っていく世界になっていくと思う。事務所任せな演者が生きていくのはどっちにしてもこの先大変だと思うし、事務所側もいかに囲わないかというか、アーティストは金のなる木じゃないのを改めて認識した中で、どういう部分の責任を共有して、どういう部分を自由にするかを考えるいいキッカケになったかなぁと。会場周りの話で言うと……僕も含めて元々は「ネクタイ締めるのイヤだし、何か面白そうな仕事がしたいな」から始まってるし(笑)、でも、そういう世の中のちょっとニッチな世界で、ある種の文化をずーっと支えてきた人たちなんで。
キイ:言ったら、3月の段階では「ライブハウスなんか潰れたらええやん」という声もあったじゃないですか。でも、Shangri-Laでクラウドファンディングをやったらこんなにも応援してくれる人ばっかりなんだと。『#オンラインライブハウス_仮』もクラウドファンディングも、体感したからこそ分かったこともあるんですよね。
――そういう人たちが背中を押してくれるからには、まだまだ諦めないぞということですね。
キイ:そうですね、だから何とかして生き残らないとダメですね。
――『#オンラインライブハウス_仮』もまだ始まったばかりなので、ここからブラッシュアップもされつつ、どうなっていくのかをを楽しみつつ、期待してきたいなと。本日はありがとうございました!
取材・文=奥“ボウイ”昌史

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