ソロピアノの可能性を拡げた
キース・ジャレットの
『ケルン・コンサート』

キース・ジャレットという
類い稀なアーティスト

『ビッチェズ・ブリュー』の録音後、マイルスのグループにキース・ジャレットが加入、コリアとともにキーボード要員として活動する。このメンバーでロックの殿堂であるフィルモア・イーストに出演し、ロック好きの観客の度肝を抜く演奏を繰り広げ、ロック界にも食い込む活動を行なうようになる。ジャレットはマイルスのグループに加入する前、サックス奏者のチャールス・ロイドのグループに在籍しており、ライヴ盤『フォレスト・フラワー』(‘67)での生ピアノの演奏に大きな注目が集まり、マイルスに呼ばれることになった。この『フォレスト・フラワー』はロックファンにもアピールする内容で、僕が中学生の頃にジャズの良さを知るきっかけとなったアルバムとして忘れることができない。

ロイドやマイルスのバックを務めていた頃ジャレットは、ビル・エバンスの叙情性と美しさ、そしてゴスペルやカントリー、フォークに影響された泥臭さが共存するという類い稀なスタイルを持っていた。また、マイルスのグループでエレピやオルガンを弾くようになってからは、ソウルやファンク的なニュアンスも身に着けることになり、彼のジャズマンとしての存在感は高まっていく。

ECMの北欧的なイメージ

ジャレットがマイルスのグループにいる時に出会ったのが、ECMレコード(69年に設立されたばかりのドイツのインディーズレーベル)のオーナー、マンフレート・アイヒャーで、アイヒャーはジャレットの生ピアノを生かすため彼にはソロでのレコーディングが必要だと考えていた。ECMレコードのテーマは“沈黙の次に美しい音”であり、それをアイヒャーは探し求めていたのである。まず、アイヒャーはチック・コリアに声をかけ、即興ソロピアノ作『チック・コリア・ソロ Vol.(原題:Piano Improvisations Vol.)』『チック・コリア・ソロ Vol.2(原題:Piano Improvisations Vol.2)』(‘71)を制作し、その半年後に続いてジャレットのソロピアノ作品『フェイシング・ユー』を制作している。このアルバムでは彼のクラシックピアノのテイストと先にも述べたゴスペルの泥臭さが混在した作風となっており、ジャレット独特の魅力に溢れた仕上がりになっている。ただ、“沈黙の次に美しい音”という意味では、『チック・コリア・ソロ』のほうが相応しい仕上がりであった。ジャレットにとってライバルとも言えるコリアの作品を超える作品を作りたかったはずで、それにはECMのイメージを彼なりに構築する必要があったと思う。

ECMの魔力というか、このレーベルが持つ独特の「北欧の寂寥感」を思わせるイメージは、アーティストの作風すらレーベルのカラーに寄せてしまうようなところがある。だからこそECMのファンは、このレーベルからリリースされるアルバムを信頼しているのである。もちろん、ECMと言ってもアート・アンサンブル・オブ・シカゴやエヴァン・パーカーといった泥臭い前衛ジャズのアルバムもリリースしているから一概には言えないが、それでもECMの“北欧の冬”感は揺るぎないイメージとして存在するのである。

OKMusic編集部

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