「浅草九劇」発オンライン演劇第1弾
、 柄本明ひとり芝居『煙草の害につ
いて』初日直前レポート

コロナ禍による劇場公演の中止や延期が続く演劇界では、新たな活路を見出そうと、インターネットで舞台映像を配信する試みが相次いでいる。東京・浅草の劇場、浅草九劇も2020年6月、ネット配信に必要な機材と人材を備えた常設のオンライン劇場としてリニューアル。第1弾企画として、柄本明のひとり芝居『煙草の害について』が、6月5日(金)、6日(土)にオンラインで有料生配信される。4日の通し稽古では、71歳の柄本が喜怒哀楽のメリーゴーラウンドを約1時間ぶっ通しで演じ、老いた男の人生悲喜劇を浮かび上がらせた。「オンライン演劇を通じて演劇に興味を持ってもらえたら」と願う柄本へのインタビューを交え、通し稽古のレポートをお届けする。
浅草九劇 外観
リニューアルされたばかりの劇場に足を踏み入れた。95席あった客席は取り外され、ミキサー卓やパソコン、画面を切り換えるスイッチャーなどの機材が並ぶ。8台のカメラに4本のマイク。撮影スタジオを思わせるような雰囲気だった。柄本がひょっこり顔を出した。「え!? 報道の人たち、見ていくの? これじゃあ、練習にならないなぁ…」。ぼやきなのか、本気モードのスイッチが入ったのか、どちらだろう。戸惑ううちに、あっという間に姿は消えていた。
浅草九劇 ホワイエ
舞台の前面に、シーツのような大きな灰色の幕が下りていた。「うたと講演の夕べ」の文字入り。暗転して幕が上がると、男が登場した。くしゃくしゃの白髪頭にあごひげ、つぎはぎだらけの燕尾服。古ぼけたアコーディオンで弾き語りを披露した後は、もったいぶって演台へ。『煙草の害について』という演題で威厳たっぷりに語り出すのだが…。
柄本明(撮影:加藤 孝)
この一人芝居は全編、講演シーンで終始する。何か事件が起きるわけでもないが、くるくると変わる男の調子が全く飽きさせない。建前と本音。表と裏。相反するようなものが実は渾然一体であることを示して、男の人生のおかしみと悲しみを浮き彫りにした。
柄本明(撮影:加藤 孝)
講演という本題から次第に外れ、男は問わず語りに33年間連れ添う妻への愚痴を吐き出していく。音楽学校と全寮制の私立女子校を経営する妻に尻をしかれている男は、妻のことを、愚かだ、けちだ、意地が悪いとこき下ろす。学説を語る際のボソボソという口調が、打って変わって生き生きしてくるのがおかしい。この名調子は、綾小路きみまろといったところだ。その一方で、妻との歳月が「人生で最良の年月だったと言えるでしょうね」ともしみじみ語るのだ。一体、どっちが本音なのか? 
アンビバレンスなのは態度でも。講演を粛々と語るのとは裏腹に、脇の下や足を掻いて落ち着かない。痰を吐くのにスピーチ原稿の紙を使い、ぐしゃぐしゃに丸めて床に放り投げる。その原稿の紙が講演で必要だと知ると、「あー、やっちまった」とこぼしながら、床から拾って読み上げる。ぐしゃぐしゃになって文字はちゃんと読めず、「分子」を「ワケコ」とするなど、すっとぼけた口調で言い間違えを連発。見ていた報道関係者が、必死に笑いをこらえていた。
柄本明(撮影:加藤 孝)
また別のシーンでは、うずくまって嗚咽していたかと思えば、「えへへへへへ」と笑いながら立ち上がる。騒ぐ若者に一喝するかと思えば、妻が会場に来たのではと脅える。とらえどころのない男の内面の深淵を見た気がした。
視界が限られるオンライン演劇では朗読劇が多い印象だが、この一人芝居で柄本は全身を使って演じていた。熱演に応えるかのように、カメラマンは画面分割されたモニターをのぞきながら撮影していた。本番では、8台のカメラが追う柄本の姿が、スイッチャーで切り換えながら生配信される。本格的な設備とスタッフを投入した浅草九劇のオンライン演劇が、新たな観客層を掘り起こすのか、目が離せない。
柄本明(撮影:加藤 孝)
柄本にオンライン演劇やコロナ禍に見舞われた演劇に対する思いなどを聞いた。
ーーコロナ禍で演劇界が苦境に立たされている中、無観客でのオンライン演劇のオファーを引き受けたのはなぜですか? 
使命感とか挑戦とか、そういう特別な思いはなかったですね。お客さんがいないだけで、舞台で上演するのは一緒ですから。ただ、違和感はありますけど。(劇場公演ができないなら)オンライン演劇も手段の一つだと思いますね。
ーー今回の作品『煙草の害について』は、アントン・チェーホフの原作を、自ら構成・演出・出演した一人芝居です。93年の初演以来、再演を重ねています。この柄本版についてご紹介してください。
チェーホフの作品は大変好きですね。オリジナルの戯曲は上演時間15~20分なんですけど、それにチェーホフの他の作品(『可愛い女』『三人姉妹』など)から使えそうな部分を加えて、1時間弱の作品にしました。
ーーコロナ禍で文化芸術が「不要不急」のものと見なされ、劇場は真っ先に活動を自粛しました。こうした世の中の風潮について、どうお考えですか?
文化芸術や娯楽は、生きているもの。だから絶対に不要不急のものでないと思う。確かにごはんとは違うから、それがなくても生きていける人はいる。それでも、やっぱり不要不急のものではない。ものすごく必要なものだと思いますね。だから、オンライン演劇という知恵も出てくるわけで。文化芸術や娯楽が死ぬということは、人間が死ぬのと同義語だと思っています。
柄本明(撮影:加藤 孝)
ーー劇場公演がなくなり、仕事を失った演劇人も多いです。
どう生きるべきなのか、まだ分からない。われわれ俳優によって、先が見えないのが苦しい。
ーーオンライン演劇を展開するのも、一つの道ですか?
手段としては、こういうことをやっていくべきでしょうね。(劇場公演も)お客さんは少なくても、やった方がいい。そして、お客さんの数をだんだん増やしていく。こうした緩やかな段階を踏んでいくのかなと思っています。
ーーオンライン演劇は、今まで劇場に足を運んだことがない人が演劇と出合うきっかけにもなるのでは?
とりあえず興味として見てもらって、面白いと思ってくれたら、劇場が再開された時に来ていただければ。ただ、オンライン演劇はオンライン演劇。芝居本来の面白さは、劇場に行くこと。それぞれの劇場の雰囲気は全部違うし。そういうのも含めて演劇体験ですから。それがないのは、非常にもどかしいし、残念。でも、オンライン演劇で、劇場の空気をいくらかでもお客さんに届けられたらいいなあと思いますね。
柄本明(撮影:加藤 孝)
柄本明ひとり芝居『煙草の害について』のチケットは公式サイト(https://asakusa-kokono.com/)から購入可能だ。

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