女性リードギタリストを擁した
ラマタムのデビューアルバム
『ラマタム』
女性ハードロックギタリスト、
エイプリル・ロートン
60年代の後半からエース・オブ・カップス、ファニー(スージー・クワトロの姉妹、パティ・クワトロが在籍)、バーサ(のちにヴォーカリストとして知られるローズマリー・バトラーがベーシストとして参加)など、活躍していた女性ロックグループはいくつかあった。中でも、バーサはハードなプレイを聴かせていたグループだが、それでもリードギターについて言えば線は細かった。当時は、まだエリック・クラプトンやジミー・ペイジのように弾ける女性はいなかったのである。それだけに“男性顔負けのプレイ”と言われていたエイプリル・ロートンのプレイは聴いてみたかった。
本作『ラマタム』について
収録曲は全部で9曲。アルバムはロートンとピネラのツインギターが印象的なハードロックナンバー「ウィスキー・プレイス」から始まる。僕は本作で初めてロートンのギタープレイに接したわけだが、彼女のギターワークは想像以上にハードな演奏であった。途中のアグレッシブなギターソロはノリといい、フレージングといい、まさに逸材としか言いようのないプレイだ。続く「ハート・ソング」は少しフォーキーな香りのするミディアムテンポのナンバー。サリバンのフルートとピネラのクリーントーンのギターが西海岸っぽさを演出しており、後半に登場するロートンのプログレっぽいフレーズが攻めている。「アスク・ブラザー・アスク」では、ウィッシュボーン・アッシュを思わせるピネラとロートンのツインリード、そして同じフレーズを繰り返すコーラスが聴きものだろう。「ホワット・アイ・ドリーム・アイ・アム」は美しいメロディとコーラスが中心のソフトなナンバー。「ウェイソー」は1、3曲目と同様、ピネラとロートンのツインギターが前面に出たハードロックナンバーで、跳ねるベースのグルーブ感が素晴らしい。前曲ではサックスを吹いていたサリバンが、ここではキーボードソロを弾いている。静かな「チェンジング・デイズ」に続いて、長いイントロから突如激しいツインリードギターが現れる「ストレンジ・プレイス」は、ファンクっぽいリズムとジャジーなサックスが肝である(ここでもスミスのベースはいい仕事をしている)。8曲目の「ワイルド・ライク・ワイン」は、サザンロックのテイストも少し感じられる乾いたアメリカンロックで、この曲でのギターソロはピネラだろう。そして最後の曲は、左と右に振り分けられたピネラとロートンのギターが唸りまくる「キャント・シット・スティル」。途中の3分ほどがふたりのギターソロに当てられていて、アルバムの最後に相応しいナンバーである。
本作は商業的には成功しなかった。それは、この時期にはアメリカ産のハードロックはまだ少なかったからであり、ラマタムの新しいスタイルは登場するのが早すぎたのかもしれない。そういう意味で本作は、のちに成功するモントローズやエアロスミス、ヴァン・ヘイレンなど、後進のアメリカン・ハードロック・グループに大きな影響を与えたのである。
その後のエイプリル・ロートン
■エイプリル・ロートン公式サイト
http://www.aprillawton.com/
なお、2010年に女性ロックグループ、ファニーのジューン・ミリントンはロートンがトランスジェンダーであったとインタビューで述べている。また、2012年にはツイステッド・シスターのディー・スナイダーが、ラマタム加入前にロートンが加入していたグループ、ブルックリン・ブリッジ(トム・サリバンもメンバー)在籍時には男性であったと語っている。トム・サリバンはそのあたりの事情はもちろん知っているだろうが、ロートンが優れたギタリストであったというだけでいいのではないか。
TEXT:河崎直人