夭折の天才ギタリスト、
トミー・ボーリンが残した
ソロデビュー作『ティーザー』

ジェイムス・ギャングへの参加

ボーリンのギタリストとしての評価は日に日に高まり、ジョー・ウォルシュが在籍していたことで知られるジェイムス・ギャングに加入する。ジェイムス・ギャングはウォルシュのギタープレイで売れ、ウォルシュが脱退した後に加入したドメニク・トロイアーノも優れたギタリストであったから、若いボーリンにその役が務まるかと案じられた。ボーリンは『バング』(‘73)と『マイアミ』(’74)の2枚のアルバムに参加するものの、音楽性が合わず脱退する。この2枚のアルバムは佳作だと言えるが、ボーリンのギタープレイがなければ平凡な結果に終わっただろう。

本作『ティーザー』について

ジェイムス・ギャングを抜けた後、彼はソロアルバムの制作をスタートさせていたが、いろいろなアーティストからセッションに呼ばれることも増え、疲労は募っていた。ディープ・パープルから誘いがあったのもこの頃で、彼は疲労感を癒やすために薬物に手を出し始めていた。

本作『ティーザー』のレコーディングは、デイブ・サンボーン、デビッド・フォスター、ヤン・ハマー、ジェフ・ポーカロ、ポール・ストールワース(アティチューズ)ら、豪華なメンバーを迎えてロスで行なわれた。少し遅れてディープ・パープルの『カム・テイスト・ザ・バンド』(‘75)のレコーディングがドイツのミュンヘンでスタート、ボーリンは多忙な毎日を送ることになった。

本作に収録されているのは全部で9曲。2曲のインスト以外はボーリン自身がリードヴォーカルを取っている。前述したように彼の幅広い音楽性を的確に表現するためには、やはりスタジオミュージシャンの力を借りるのがベストだと思うが、本作はその意味で各ミュージシャンが適材適所に配置され、狙い通りのサウンドが展開されている。一流のミュージシャンと互角の腕を持つ彼だけに、どの曲も水を得た魚のように生き生きとプレイしている。

「ザ・グラインド」は彼の代表作と言ってもいい曲で、レイドバックした彼のヴォーカルとサザンロック風のドライブしまくるスライドギターが決まっている。インストの「ホームワード・ストラット」はファンクをベースにしたジャズ/フュージョンナンバーで、多重録音の彼のギターが主役である。ここでもサザンロック的で秀逸なスライドが聴ける。「サヴァンナ・ウーマン」では、大きな影響を受けたジャズギターのソロ演奏を見せる。「ピープル、ピープル」ではレゲエっぽいトロピカルなフレーズを披露し、インスト「マーチング・パウダー」でもラテンパーカッションとシンセを生かしたジャジーなアプローチがあったりするなどバラエティーに富んでいて、リスナーのことをよく考えた曲の構成になっている。最後の「ロータス」はハードロックからレゲエ風のサウンドへと展開し、後半部分はキレの良いギターソロでフェイドアウトする。

そして…

ボーリンはこの後、2ndソロアルバム『プライベート・アイズ』を76年の9月にリリースし、ツアー中の12月4日未明、薬物の過剰摂取により死亡する。まだ25歳の若さであった。

TEXT:河崎直人

アルバム『Teaser』1975年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ザ・グラインド/The Grind
    • 2. ホームワード・ストラット/Homeward Strut
    • 3. ドリーマー/Dreamer
    • 4. サヴァンナ・ウーマン/Savannah Woman
    • 5. ティーザー/Teaser
    • 6. ピープル、ピープル/People, People
    • 7. マーチング・パウダー/Marching Powder
    • 8. ワイルド・ドッグス/Wild Dogs
    • 9. ロータス/Lotus
『Teaser』(’75)/Tommy Bolin

OKMusic編集部

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