夭折の天才ギタリスト、
トミー・ボーリンが残した
ソロデビュー作『ティーザー』
ジェイムス・ギャングへの参加
本作『ティーザー』について
本作『ティーザー』のレコーディングは、デイブ・サンボーン、デビッド・フォスター、ヤン・ハマー、ジェフ・ポーカロ、ポール・ストールワース(アティチューズ)ら、豪華なメンバーを迎えてロスで行なわれた。少し遅れてディープ・パープルの『カム・テイスト・ザ・バンド』(‘75)のレコーディングがドイツのミュンヘンでスタート、ボーリンは多忙な毎日を送ることになった。
本作に収録されているのは全部で9曲。2曲のインスト以外はボーリン自身がリードヴォーカルを取っている。前述したように彼の幅広い音楽性を的確に表現するためには、やはりスタジオミュージシャンの力を借りるのがベストだと思うが、本作はその意味で各ミュージシャンが適材適所に配置され、狙い通りのサウンドが展開されている。一流のミュージシャンと互角の腕を持つ彼だけに、どの曲も水を得た魚のように生き生きとプレイしている。
「ザ・グラインド」は彼の代表作と言ってもいい曲で、レイドバックした彼のヴォーカルとサザンロック風のドライブしまくるスライドギターが決まっている。インストの「ホームワード・ストラット」はファンクをベースにしたジャズ/フュージョンナンバーで、多重録音の彼のギターが主役である。ここでもサザンロック的で秀逸なスライドが聴ける。「サヴァンナ・ウーマン」では、大きな影響を受けたジャズギターのソロ演奏を見せる。「ピープル、ピープル」ではレゲエっぽいトロピカルなフレーズを披露し、インスト「マーチング・パウダー」でもラテンパーカッションとシンセを生かしたジャジーなアプローチがあったりするなどバラエティーに富んでいて、リスナーのことをよく考えた曲の構成になっている。最後の「ロータス」はハードロックからレゲエ風のサウンドへと展開し、後半部分はキレの良いギターソロでフェイドアウトする。
そして…
ボーリンはこの後、2ndソロアルバム『プライベート・アイズ』を76年の9月にリリースし、ツアー中の12月4日未明、薬物の過剰摂取により死亡する。まだ25歳の若さであった。
TEXT:河崎直人