くるり佐藤征史とGRAPEVINE西川弘剛
が お互いの出会いを含めたエピソー
ド、現在の音楽シーンの変化を語る

ともにデビューから20余年、歩みを止めることなくロックシーンの第一線で活躍し続けてきたGRAPEVINEくるり。同じ関西出身であることに加え、本人たちも認める通り共通点を持っていることから、彼らを近しい存在と考えているロックファンも少なくない。それにも関わらず、何故かこれまでステージを共にする機会が、あまりにも少なかった両者の共演がこの春、GRAPEVINEの対バンツアー『GRUESOME TWOSOME』の大阪公演で実現する。対バンライブは2014年の豊洲PIT以来だから実に6年ぶり。近しい存在でありながら、実は正反対の魅力を持っている彼らの久々の邂逅を祝って、ライブ前にGRAPEVINEの西川弘剛(Gt)と、くるりの佐藤征史(Ba.Cho.Vo)への対談を実施。出会いを含めた両者のエピソードから、現在の音楽シーンの変化まで、いろいろ語ってもらった。
――GRAPEVINEとくるり。近しい存在だと考えているファンも少なくないようですね。
西川:デビューが1年違いなのかな。共通点もいろいろあって、根岸(孝旨)さんにプロデュースしてもらったり、あらきゆうこ(Dr)さんに参加してもらったり、エンジニアのトム・デュラックとレコーディングしたり、結構近いところで活動していたとは思うんですけど。
佐藤:トム・デュラックともやってたんですか? それこそデビューした当時、何かの雑誌で合同のインタビューをやりましたよね。
西川:やりましたっけ?
佐藤:やったんですよ! でも、自分らもまだ二十歳そこそこで、その当時は、関西出身だからとか、そんなもので括られたくないみたいな意識のほうが強かったから、そんなの関係ないと、お互いツンケンしてたと思うんですけど(笑)。そういえばGRAPEVINEの新しいアルバム(『ALL THE LIGHT』)を聴かせてもらって、ギターソロがあるバンドやなと改めて思いました。最近ちょっとまた増えてきたかもしれないけど、一時期、若いバンドってギターソロってあまりなかったじゃないですか。
西川:そうですね。
佐藤:あとは洋楽がルーツにあるという。J-POP、歌謡曲がルーツじゃないというのがすぐわかるし、90年代のルーツを持っているというのも、すごく近いところにはいるなと思います。でも、自分たちは、メンバーがころころ変わっているんですが、GRAPEVINEはずっと同じメンバーで続けているので頭が下がります。あとGRAPEVINEも、くるりもバンドとして、そんなに器用じゃないと思うんですよ。だから、何か新しいことをすごくがんばってやってるけど、結局は自分たちっぽくなっちゃうと言うか、そういう印象はありますね。

西川弘剛(GRAPEVINE)

――西川さんは、くるりに対してはどんな印象がありますか?
西川:すごく尖っていて、躊躇なく何にでも挑戦できるフットワークの軽さを持ちつつ、根本的には、すごくシンプルなバンドという印象もあって。それはメロディのせいなのかもしれないですけど、そこを両立している。つまり、シンプルなものと凝っているものが混在しているんです。そういうバンドって、他にいないんですよね。
佐藤:内橋和久さんという即興系のギタリストと一緒にやってた時があったんですけど、繁君(岸田)が書いてくる曲に対して、「結局、お前の歌、全部フォークやな」と(笑)。たぶん、GRAPEVINEもそうだと思うんですけど、アコギ1本で弾き語りできる音楽というのが基本にある。
西川:そこは曲を作る時の最初のコアな部分なんですよ。他の部分は後から盛ってはいけるんですが、コアな部分はバンドとしてなかなか変われない部分なのかもしれないし、変えちゃいけない部分かもしれない。ただ、くるりは変えることに躊躇してないと思うんです。「変えられるんだったら、変えてもいい」という気持ちはあると思うんですが、いかがですか?
佐藤:ここ数年は、新しいアルバムを作るのが、大変になってきましたよ。若い頃は、いろいろなことから刺激を受けて、新しいエッセンスを取り入れながらアルバム作りに臨めてたのですが、原動力みたいなものがよほど大きくないと、ガラッと変われなくなってきた。それで、一番最近のアルバム(『ソングライン』)は、今まであえてやろうとしてこなかったけど、自分たちっぽい、原点回帰のようなアルバムを出そうと思って制作しました。本当に10年前、20年前の曲とかを今録って出したような。それを作ってから「じゃあ、次どうしよう?」となった時に、やっぱりなかなか大変だなと。
西川:客観視しているということですか? 自分たちっぽいものをというのは。
佐藤:そうですね。例えば自分たちだったら、「ばらの花」みたいな曲の作り方ってわかるじゃないですか。
西川:同じような曲なら作れちゃいますもんね。
佐藤:それはやる意味もないと思ってしまうのですが、毎回、何か新しいものに繋がっていくという感覚でやってます。
西川:でも、それは大変ですよね。
佐藤:大変ですよ。
西川:若い頃のほうが自分の中身が少ないから、もっと簡単に何かに影響を受けてたと思うんです。誰かの新しいアルバムを聴いただけでも感動して、影響を受けてたけど、それがどんどん減ってきてますね。

佐藤征史(くるり)

――GRAPEVINEはアルバムを作るのが大変だと思ったことはありますか?
西川:「これはやったことがある」というのが足枷になることはありますね。でも、「やったことはあるけど、またやってもいいかな」と思えるものもあるんですよ。その辺は、少しは楽になったかもしれない。昔は、仕上がりが先に見えてしまうと言うか、「こうやって、こうしたら80点の曲にはなるな」と想像できちゃうと、やる気がなくなるということがあったので、そこを変えてもらうためにプロデューサーを結構変えてました。くるりの場合は、メンバーが変わることによって、刺激になっていると思うのですが、人が変わるとすごく影響を受けるんですよ。音楽からもそうですけど、人間からのほうが影響を受けることが多くて。単純に楽しいですしね、変な人も多いから。
佐藤:ハハハ(笑)。この人は合わんかったなみたいな人はいましたか?
西川:いやいやいや(笑)。結構、年上の方ばっかりだったので、すごくアクが強いと言うか、キャラクターにクセがあるんですよ(笑)。それに負けないようにがんばりました。
西川弘剛(GRAPEVINE)佐藤征史(くるり)
――西川さんと佐藤さんの最初の出会いは覚えていますか?
佐藤:おそらくさっき言った合同取材だったと思うんですよ。
西川:僕は憶えてないです(笑)。
――その後、お互いの印象がはっきりしてきたのはいつ頃でしたか?
佐藤:うーん。デビューの近い西のバンド同士、あんまり仲良くしなかったですからね。一番憶えているのが、2013年だったかな、THE BACK HORNとGRAPEVINEとくるりでスリーマンライブをやった時に、楽屋で麻雀やってたんですよ。
西川:やりましたよね? 一緒に。
佐藤:やりましたけど、「何やってるんだろ? この人たち」と思ってました(笑)。
西川:当時、麻雀がすごく流行って、ライヴ前に楽屋でやってたんですよ。佐藤君も麻雀が大好きだと言うから、「ちょっとだけやろうよ」と誘ったら、さくっと負けちゃって(笑)。その日のライブのことは全然憶えてないですけど、本番前にどよーんとしたことだけは記憶にありますね。
佐藤:申し訳ないです(笑)。それ以外に西川さんと何か一緒にやったとか、どこかでお会いしたとか、実はそんなになくて、ちょっと怖いイメージがありましたね(笑)。
西川:でも僕ら、デビューした時、当時のディレクターに「たぶん西川君、好きだと思うよ」と聴かせてもらったのがくるりだったんですよ。
佐藤:インディーのアルバムなんですかね?
西川:確かインディー時代のCDで、そのディレクターもくるりが好きだったと思うのですが、聴かせてもらってすごくいいなと思いました。その後も聴き続けましたからね。作品が出るたび。
佐藤:ありがとうございます(笑)。

西川弘剛(GRAPEVINE)

――そして、GRAPEVINEとくるりがGRAPEVINEの対バンツアー『GRUESOME TWOSOME』の大阪公演で久々に共演するわけですが。
西川:そろそろやってもいいんじゃないかなと思ったんですよ。しかも、関西で。『GRUESOME TWOSOME』では若いバンドともやってるし、上の人たちともやってるし、そのタイミング、タイミングでやりたい人を選んでいるんです。もちろん、今バリバリに売れてるような人たちともやってますけど、くるりと久々にやるのもおもしろいんじゃないかなと。同じレーベルですし。
――今回、若い世代では、Tempalayと札幌で対バンしますね。
西川:かっこいいですよね。自分のところの会報で、「最近、何を聴いてますか?」と聞かれて、Tempalayと答えたんですよ。同じ事務所なんで、気軽にブッキングしてもらえるんじゃないかと思って(笑)。
佐藤:たぶん僕が去年、一番聴いた邦楽の曲が、『サ道』ってドラマのエンディングテーマだったTempalayの「そなちね」という曲だったんですよ。初めて聴いたとき、スタレビ(スターダスト☆レビュー)かなと思って。サビだけしか流れてなかったんですけど、調べたら若いバンドなんだと思って。ちゃんと聴いたら、イントロとかAメロとかはサイケな変なことやってるのにサビであんだけ開けていて。
西川:そうなんですよね。
佐藤:いい意味でダマされたと思ってから、すごい好きになっちゃって。
西川:けっこう凝ってるでしょ? 曲の構造と言うか、展開は、すごく飛ぶんですけど、どことなく80年代と言うか、昭和な感じがすごくあるんですよ。そこがおもしろくて。歌謡曲っぽいところもあるし、その割にはロック・バンドっぽいところやプログレっぽいところもあるし。
佐藤:さっき自分たちのこと器用じゃないと言いましたけど、自分たちは、「こんな事できたらおもろいな!」とその時、盛り上がってもなかなか曲でリリースするところまで持っていけないんですよね。そういうのを、若いバンドの子らは偏見とかジャンルとか退けて、考えられるんだなというのを、Tempalayだけじゃなく、いろいろなバンドを聴きながら、思ったりしますね。
西川:バンドって、似たような曲ばっかりやっているイメージがあるじゃないですか。最近のバンドってそんなことないんですよ。バリエーションに富んでいる。昔は、いつまで経っても同じ曲をやってるようにしか聴こえないバンドもたくさんいましたけどね(笑)。
佐藤:ハハハ。誰とは言いませんけど、アルバム1枚持ってればいいってバンドも、いましたからね。それじゃサブスクで聴いている人たちには、すぐ飛ばされちゃうんですもん。大変な時代になりましたね、いろいろ(笑)。
西川:パソコン上で作れることになってから、そういうのが増えたというのもあると思うんですよね。コラージュしやすい。
佐藤:最初からリミックスみたいなものですもんね。
西川:なんだったら他の曲から持ってきて、貼り付けて、すぐに聴いてみるってことが家でも簡単にできますしね。それを頭の中でやるのは相当大変なことなんで、昔は簡単にはできなかったんです。

佐藤征史(くるり)

――ところで、GRAPEVINEから誘われたくるりとしては?
佐藤:単純にうれしいですよ。また一緒にやってもらえるんだと。同世代のバンドとフェスで一緒になったりすると、「今度、一緒にやりましょうよ」と言うんですけどね、なかなか実現しないじゃないですか。それこそ若いバンドから誘われのもうれしいですけど、同世代の人たちからやりたいと思ってもらえるというのは光栄だと思います。3年ぐらい前だったかな。夏フェスで自分たちが出演者の中で最年長ってことが、2、3回あったんですよ。それがすごくショックで。
西川:あー、イヤですよね。「先輩、先輩」と言われるのって居心地悪いじゃないですか。
佐藤:でも、今回はGRAPEVINEパイセンと同じステージに立てる。なんだか、ほっこりしますね(笑)。正直、GRAPEVINEのCDを全部聴いてるわけではないんですけど、聴くた度、ちょっとずつ違う。たまにレッド・ツェッペリンぽくなる時があるじゃないですか(笑)。ライブはそういうところが多いやろなという気がして、観るのも楽しみです。どういう曲やるんかなと楽しみにしながら待ってます。

西川弘剛(GRAPEVINE)佐藤征史(くるり)

――お互いのファンを食ってやろう、と?
西川:いやぁ、そんな気持ちはないですよ(笑)。
佐藤:共存していけたらいいなと思ってます。ライブっていいなと思ってもらえたら(笑)。
西川:くるりは観る度、メンバーや編成が変わっているから、次はどんな感じが観られるのかすごく楽しみですね。
佐藤:6人編成でやります(笑)。
西川弘剛(GRAPEVINE)佐藤征史(くるり)
取材・文=山口智男 撮影=森好弘

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