amazarashi新アルバム『ボイコット』
―動け、拒絶しろ、先へ行け

amazarashi新アルバム『ボイコット』レ
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2020年3月11日(水)、amazarashiの5枚目のフルアルバム『ボイコット』がリリースされる。初回生産限定盤には、秋田ひろむ(Vo, Gt)のアコースティック・パフォーマンスを収録した映像、年末に出演したライブ映像、MV、秋田ひろむの小説が、付属する予定だ。
(アルバム収録曲『とどめを刺して』MV)

フルアルバムのリリースは、2017年12月の『地方都市のメメント・モリ』以来、2年3ヶ月ぶりとなる。「待ちくたびれた」というファンも多いかもしれない。だがこの間、amazarashiは自身初の武道館公演『朗読演奏実験空間 新言語秩序』を大成功させた他、3枚のシングル『月曜日』『リビングデッド』『さよならごっこ』をリリースするなど、日本の音楽シーンをフルスピードで駆け抜けてきた。

特に、最新のテクノロジーを取り入れ、監視社会をテーマとした武道館ライブは、アジア最大のクリエイティブアワード「Spikes Asia Festival of Creativity」金賞、国内最大のクリエイティブアワード「ACC TOKYO CREATIVE AWARD」金賞、世界最大規模のクリエイティブアワード「Clio Entertainment」銀賞、そして、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞するなど、国内外で数々の賞に輝いた。
新アルバム『ボイコット』には、武道館ライブのテーマソングだった『リビングデッド』と『独白』も収録されている。疾走感みなぎる前者に対し、後者は切迫力と衝迫力が凄まじく、どちらも圧巻である。

本記事ではまず、『ボイコット』に封入される秋田ひろむの小説『雨天決行』を取りあげたい。これは彼の半生を綴った自伝的小説で、高校時代からamazarashi結成までの過去が描かれている。そして、次に取りあげる新アルバムも実は、過去を問い直すというストーリーラインを備えている。小説を片手に、歌を口ずさみ、ぼくらはamazarashiと共に、過去を巡る旅に出る。


小説ゆえの誠実さ――『雨天決行』

amazarashiは、青森県在住の秋田ひろむを中心とする覆面ロックバンドである。2009年11月の活動開始以来、絶望と希望、醜さと美しさ、都市と星を歌いながら、鋭敏な言語感覚で独自の詩世界を切り開いてきた。

新アルバム『ボイコット』には、秋田ひろむが自身の半生を題材にした自伝的小説『雨天決行』が封入されている。「小説」と銘打たれてはいるが、amazarashiというバンドが実名で登場する(!)ことから、事実にかなり近い内容が描かれていると見てよいだろう。

小説には、彼が実際に経験したと思しき出来事や、それにまつわる感慨がいくつも書かれており、そこには、後の歌詞に取り入れられたものも含まれている。現実とフィクションとの接地点を探すのも、ファンには楽しい作業かもしれない。

本記事では、『雨天決行』の詳しい内容には触れない。別の角度から、この小説について考えてみたい。これほど事実らしく書かれている文章が、なぜ「小説」と名付けられているのか、その理由にすこし考えを巡らせてみたいのだ。

これはぼくの穿った憶測でしかないが、思うに、秋田ひろむが自分の気持ちに対しあまりにも誠実だから、「小説」と名付けざるを得なかったのではないか。過去の感情や出来事を今書く、という行為に100%紛れこむ勘違い、思い入れ、記憶の捏造、嘘、つまりフィクションに自覚的だからこそ、たとえそれが実際に起きた出来事だったとしても、それを「小説」と命名しなければならなかったのではないか。

秋田ひろむは『独白』でこう朗誦している。「私が私を語るほどに 私から遠く離れてしまうのは何故でしょうか?」。語っても語っても、事実には手が届かない。むしろ語れば語るほど、事実が遠のくように思えてくる。それでは、いま語られたことは一体なんだろう。事実でなければ、なんだろう。――この疑問は、いやしくも書くことに真剣に取り組んだ者であれば、一度は考えたことがあるはずだ。秋田ひろむは、それを「小説」と呼んだ。そういうことではないだろうか。

彼のこの誠実さは、過去を遡行する『ボイコット』の各楽曲にも染みこんでいる。秋田ひろむは、それを「歌」と呼ぶ。


amazarashiオン・ザ・ロード

新アルバム『ボイコット』には、明確なストーリーラインがある。物語は、「応答せよ」と過去に呼びかける『拒否オロジー』で始まり、「ざまあみろ」と過去に叫ぶ『未来になれなかったあの夜に』で終わる。amazarashiが過去の「色々」の一つ一つをつまびらかにする旅に、ぼくたちリスナーは同行してゆく。

amazarashiは止まらない。過去に遡行し、潜り、叫び、悲しみ、浮上し、もがき、走り、泣き、さよならと言い、うつむき、拒絶し、逃走し、事故り、故郷を出奔し、また走る。この絶え間ない移動そのものが、『ボイコット』の一つのテーマだと、ぼくは感じた。

前回のアルバム『地方都市のメメント・モリ』に、『ハルキオンザロード』という楽曲が収録されていたが、英語で「オン・ザ・ロードon the road」とは、どこかへ移動してゆく途上を指す。『ボイコット』におけるamazarashiは、まさに「オン・ザ・ロード」だ。

ちなみに、『ハルキオンザロード』という曲名の直接の由来は、アメリカの作家ケルアックの伝説的小説『オン・ザ・ロード』(1957年)だろう。語り手の「ぼく」が、「非行青少年」のディーン・モリアーティと共に、アメリカ大陸を何度も横断するこの長篇小説は、『ハルキオンザロード』の歌詞に明らかに影響を与えている。
(画像出典:Amazon)

『地方都市のメメント・モリ』の別の歌『リタ』に登場する女性リタも、『オン・ザ・ロード』に登場する女性リタから着想を得たのかもしれない(ただし、完成したamazarashiの歌では、リタにケルアックの登場人物のイメージはなく、むしろ日本語の「利他」の意味が重ねられていると考えたほうがいい)。

新アルバムにも、ケルアックの小説の影響を聴き取ることができる。たとえば『死んでるみたいに眠ってる』では、『オン・ザ・ロード』の中心人物ディーン・モリアーティの名前が直接歌い込まれている。また、『拒否オロジー』では、「ミズーリを疾走する」光景が描かれているが、これも『オン・ザ・ロード』をすぐさま想起させる(もちろん、ミズーリはアメリカ合衆国の州の名前だ)。

そもそも、故郷を出てどこかへ向かうという、『ボイコット』に多く歌われているモチーフ自体が、『オン・ザ・ロード』的だと言える。

では、どこへ?

『オン・ザ・ロード』の若者たちは、明確な目的をもたず、ほとんど衝動によってのみ、アメリカ大陸を移動しつづけた。amazarashiはどこへ向かうのだろう?

なるほど、未来のことは誰にも分からない。だが少なくとも秋田ひろむは、「振り向くな 立ち止まるな」と歌う。彼にとって大事なのは、目的地というより、ただひたすらにどこかへ向かう、動きそのものなのかもしれない。それが理由だろうか、『ボイコット』での彼の歌声は、普段にも増して強く、野太く、雄々しく聞こえた。まるで時速160キロでアメリカ大陸をぶっ飛ばす、ビートニクのように。

しかし、動きつづけるということは、別れつづけるということでもある。だからこそ、『ボイコット』はエネルギーに満ちていながらも、夕立ちの後みたいに悲しい。


amazarashiは拒絶する

『ボイコット』のもう一つのテーマは、拒絶=ボイコットである。強制への、忍従への、嘘への、慣例への、制度への、過去の自分自身への、拒絶である。

拒絶のテーマは、『拒否オロジー』という曲名に端的に表れている。これは、「ソシオロジーsociology」(社会学)や「アルケオロジーarchaeology」(考古学)など、英語で「〇〇学」や「〇〇論」を意味する接尾辞「(オ)ロジー(o)logy」と日本語の「拒否」からできた新造語で、さしずめ「拒否論」とでも換言できるだろう。

秋田ひろむは以前、「ヒガシズム」という新造語も発明したが、これも、英語で「〇〇主義」を意味する接尾辞「イズムism」と日本語の「日が沈む」を掛け合わせたものだ。

さて、拒絶というテーマは、『拒否オロジー』の冒頭でも前面に打ちだされる。秋田ひろむは既成の価値観に挑戦するかのように、驚きの行動に出る。咳払いをするのだ。ただちにぼくは、次の逸話を思い出した。かつて、ロックバンドBUMP OF CHICKENは、デモテープを収録する際、藤原基央(Vo, Gt)の咳を録音してしまった。だがその楽曲を後にCDに収録する際も、咳を削らずにあえて残したという。

たしかに、遠く離れた誰かへ向かい、「応答せよ」と呼びかける『拒否オロジー』が咳払いで始まるのには、必然性がある。臨場感を醸しだす効果がある。それでも、音楽のアルバムが咳払いで始まるのは、異例中の異例に違いない。曲名も勘案すれば、常識や慣例への拒絶の身振りとみなしたほうがいいだろう。

拒絶のテーマは、他の楽曲にも広く見られる。先述した『死んでるみたいに眠ってる』は、「法律を破りたい」という衝撃的な一節で始まり、車を盗むことに長けた「非行青少年」のディーン・モリアーティを歌う。また、彼と一緒に歌われるホールデンは、サリンジャーの小説『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で語り手を務める少年の名前であり、やはり社会に反抗する若者のアイコンである。

さらに、『とどめを刺して』は、本心を偽る過去の自分自身を拒絶しようとする。自分につく嘘、というテーマは『バケモノ』という過去の楽曲にも見られたが、新アルバムでは、そういう自分に対する拒絶の身振りがより明瞭になった。曲調はアップテンポでスピーディ。フルスロットルで疾走する歌には悲愴感も漂い、余韻が痛い。

こうしてamazarashiは、過去を旅しながら、過去を拒絶してゆく。今を生きようと、もがきつづける。


ストーリーの先へ

移動と拒絶。『拒否オロジー』で始まり『未来になれなかったあの夜に』で終わる『ボイコット』のストーリーは、この2つのテーマに貫かれていると考えることができる。
(『未来になれなかったあの夜に』MV)

だが注意してほしい。アルバム『ボイコット』を締めくくるのは、『未来になれなかったあの夜に』ではない。新曲『そういう人になりたいぜ』である。

『そういう人になりたいぜ』は、いわば、ストーリーの先にある。これまでのamazarashiの物語の先にある。現在進行形の、今まさに移動しているamazarashiの歌である。歌われるのは、つらいほど優しい、愛とさえ呼ばれない愛。ストーリーを超えた愛。過去でも未来でもない、今ここにある愛。

個人的な感想だが、『ボイコット』のラスト3曲の展開は、amazarashi史上、最高だった。物語はいつも、終わらせ方が難しい。映画も、小説も、アルバムも。だがこんな方法があったのかと、技巧にも感銘を受けた。この技巧が、3曲の印象をさらに深めてくれる。

先述したように、新アルバムを聴く人たちは、amazarashiの過去巡りの旅に同行してゆくことになる。だがぼくは聴き終えたとき、まったく逆のことが起きていたことに気づき、はっとした。ぼく自身の過去巡りの旅に、amazarashiが同行してくれていたのだ。

過去に苦しむすべての人よ。動け、拒絶しろ、先へ行け。傍らにはamazarashiがいる。


<関連情報>

・amazarashi official HP
・amazarashi twitter
・amazarashi Instagram
・amazarashi facebook

<『ボイコット』リリース情報>
初回生産限定盤A
[2CD+Blu-ray+特殊パッケージ,NOte 小説「雨天決行」封入]
価格:¥4,800+税 / 品番:AICL-3850~3853

初回生産限定盤B
[2CD+DVD+特殊パッケージ,NOte 小説「雨天決行」封入]
価格:¥4,300+税 / 品番:AICL-3854~3857

通常盤
[CD]
価格:¥3,000+税 / 品番:AICL-3858

<ドームツアー情報>

amazarashi Live Tour 2020 「ボイコット」
前売 ¥6,500(税込) / 当日 ¥7,500(税込)

≪ツアースケジュール≫
●2020/4/28(火) 大阪・グランキューブ大阪 (大阪国際会議場)
OPEN/START 18:00/19:00

●2020/4/29(水・祝) 大阪・グランキューブ大阪(大阪国際会議場)
OPEN/START 15:00/16:00
問い合わせ キョードーインフォメーション 0570-200-888

●2020/5/4(月・祝) 福岡・福岡サンパレス
OPEN/START 16:00/17:00
問い合わせ キョードー西日本 0570-09-2424

●2020/5/6(水・祝)愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
OPEN/START 16:00/17:00
問い合わせ サンデーフォークプロモーション 052-320-9100

●2020/5/10(日) 北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)
OPEN/START 16:00/17:00
問い合わせ ウエス 011-614-9999

●2020/5/19(火)東京・東京国際フォーラム ホールA
OPEN/START 18:00/19:00

●2020/5/20(水)東京・東京国際フォーラム ホールA
OPEN/START 18:00/19:00
問い合わせ クリエイティブマン 03-3499-6669

●2020/5/24(日) 青森・リンクステーションホール青森 (青森市文化会館)
OPEN/START 16:00/17:00
問い合わせ キョードー東北 022-217-7788

amazarashi新アルバム『ボイコット』―動け、拒絶しろ、先へ行けはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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