大衆演劇の入り口から[其之三十九] 
松山で話題の“大衆演劇バー”に行っ
てきました!

「今の大衆演劇って、めちゃくちゃ本格的なことをやってるんですよ。しっかりしたエンタメが観られて、かつ楽しく食べて飲めるという場所を作りたかったんです!」
愛媛県松山市の大衆演劇バー「.K」(ドットケイ)は、そんな一念でスタートしたという。オーナーの澤村(さわむら)かずま座長(37)が話してくれた。
「.K」は2019年7月1日にオープン。松山の二番町という繁華街のど真ん中に、大衆演劇の和を基調とした舞踊ショーを見せる、前代未聞のバーが誕生した。コアな大衆演劇ファンの間でも大きな話題を集めた。というのはオーナーのかずま座長は、2019年2月まで大衆演劇の劇団「春陽座(はるひざ)」の座長の一人を務めていた、現役バリバリの役者さんなのだ。
今年(2020年)の2月下旬、筆者は松山に飛んだ。オープンから半年以上が経っても、大衆演劇ファンに加えて、地元のお客さんで賑わっていると聞く。人気の理由を知りたかった。そしてなぜ、劇団を離れた座長が選んだ次の舞台は、バーという形式だったのか。
開店時間の20:00に合わせてお店へ。伊予鉄道「大街道」の駅から徒歩6分ほどの超好立地だ。NICC二番町ビルの3Fに「大衆演劇BAR『.K』」の文字が見える。
ビルの入り口には「.K」のバルーンがあり、迷わずに済む。
入り口。座長の名前入りタペストリーが飾られている。
テーブル席が並び、その奥に舞台がある。
落ち着いて飲めるカウンター席も。
中へ入ると、広い!お店のWEBサイトで見ていた写真の印象以上に、広々とした空間に驚いた。
「.K」チラシ。
お店の概要を説明しておくと、まず料金システムは90分制。入店から90分を1セットと計算し、1セット2,000円(ワンドリンク付)で楽しめる。筆者の場合は20:00入店だったので、21:30までが1セットだ。延長料金は30分/1,000円。
メインである舞踊ショーは20:30、22:00、23:30と一日に3回行われる(土曜日のみ1:30にも4回目の舞踊ショーを行っている)。
20:30になると1回目の舞踊ショーが始まった。
澤村かずま座長(女形)
大きな笑顔が座長のトレードマーク。
今度は和風でしっとりと。
舞踊ショーは写真・動画撮影OK!SNS掲載も推奨している。
かずま座長が女形で、着物や鬘を次々に変えて出てくる。可愛い女の子風、姐さん風、物語を感じさせるような舞踊も。基本は和風だが、曲はポップスから演歌まで幅広い。客席と数メートルしか離れていない超至近距離で、お客さんにバッチリ目線を合わせて弾けるように笑う。その笑顔につられて、自然に手拍子したくなる。
凝った照明で舞台の表情が変わる。
衣装替えの合間には編集された映像が流れる。空白の時間がなく、ショーのテンポが速い。
そして印象的だったのは、舞台装置の凝り方だ。壁いっぱいに映し出される映像と、照明技術を駆使した華やかな光が舞台を彩っていく。舞踊の内容に合わせてイメージ映像も流れた。相当力を入れていることが見て取れた。
かずま座長にそれを伝えると、「こういうお店で、新しく進化した大衆演劇を見せたのは多分俺が日本初になると思います。ここが重要なんですよ!」と頷いてくれた。そのまま、インタビューになだれ込んだ。
■オーナー・澤村かずま座長「“今”の大衆演劇の良さを伝えたい」
俺は18歳で大衆演劇の世界に入って、18年間旅回りの舞台に立っていました。そのうち6年間は、座長を務めさせてもらいました。まず知ってほしいのは、大衆演劇はこの十数年でものすごく進化したんです。特に照明、機材。これだけのクオリティの舞踊ショーを、俺一人でできるのはなんでかって言ったら、全部プログラミングしてるからです。GOってボタンを押したら、全部一気に動くっていうことが可能になったんです。
――まさに最新の大衆演劇ですね。
そうでしょ? でも、大衆演劇ってすごく古くさい印象を持ってる人が多いんですよ。いわゆるドサ周りで、舞台の中身も古いままっていう。メディアがいまだにそういう伝え方をするせいで、そのイメージがメジャーなまま。この店は、今の大衆演劇の良さ、それも一流の劇団の良さを多くの人に分かってもらえる場所でやったらどうなんだろうって勝負してみたら、本当にウケた!っていう感じです。
――ここで大衆演劇を初体験するお客さんも多いのでしょうか。
こういうお店出したら、大衆演劇を知ってるお客さんばっかりになると思うでしょ。うちは逆です。
――逆ですか!
お客さんの2割が大衆演劇ファン。残り8割は大衆演劇を知らない人です。知り合いに紹介されたとか、あとたまたま通りかかって入ってくるお客さんも多いですよ。夜は街中、暗いじゃないですか。だから外から店内の様子が見える所を、あえて選んだんですよ。暗い中でこの店だけはピカピカに光ってるから(笑)、みんなナニコレ?って思うやろって。
――初めてご覧になった方からは、どんな反応が返ってきますか?
「すごいな、ここ!」って言ってくれて嬉しかったですね。昔は松山にも4つぐらい、大衆演劇を観られる温泉があったんですよ。だから、温泉で昔観て以来だよっていうお客さんは多いです。大衆演劇の印象がそのときのままなので、この店で観て、その変化にビックリするみたいですね。
――90分2000円というリーズナブルな値段も魅力です。正直、このお値段を聞いたとき、この一等地でやっていけるのかと思いました。
座長 やっていけるんです!(笑)やっぱり大衆演劇は、「安さ」っていう入口があることが大事だと思うので。おかげ様で、半年やってこれました。昨年7月にお店をオープンするまでは、もう意地しかありませんでした。やるって決めたんだからやろうって。松山は俺の地元なんですよ。18歳まで住んでて、18年経って帰ってきました。もはやタイムスリップです。知り合いもいなかったです。でも店を作ることによって、この半年でめちゃくちゃ知り合いができました。600枚の名刺が無くなりました(笑)。
――色んな人に今の大衆演劇の良さを知ってもらう。旅回りを経て、かずま座長の夢は「.K」で実現したんですね。
春陽座の座長をしていたときも、「.K」のオーナーとしても、とにかく人を楽しませたいという俺の根っこは同じです。そしていつも思うのは、大衆演劇に偏見を持っている人たちに、大衆演劇って変なものじゃないんだよっていうのを伝えたい。
――そんなにまだ偏見が強いですか。
強いです。これはこうして裸一貫で臨んで、リアルな声が聴けるようになって、俺も初めて分かったことです。ほんまに、誰も知らないです。この世界を。
――このお店があることで、大衆演劇の世界のイメージも変わっていくと信じます。
「.K」は、“大衆演劇の可能性”を形にした店です。大衆演劇を知らない方たちに来店してもらうことで、大衆演劇ってこんなに進化してるんだってことを、もっと、もっと知ってもらいたい。これを大阪や東京でできるくらいの資金源はありませんでしたが(笑)、松山は良いところです!ぜひ来てください。
座長の左はスタッフのユウイチロウさん、右はユカさん。
舞踊ショーの終わりには、座長がスタッフさんと一緒に挨拶をしてくれた。
「本日はお越しいただきありがとうございました。まだできてから年数の浅いお店ですが、どうぞご贔屓ください!」
時間帯の良さと広さから、結婚式の二次会で利用する人も多いという。大人数はもちろん、友達同士で来ても楽しめるだろう。舞踊ショー+飲食で2,000~3,000円台に収められるコスパが嬉しい。もちろん一人でフラッと来て、美しい舞台に癒されるのも良い。
最後に特筆すべきは、お酒だけでなく食事メニューが充実していること。
玉ねぎが溶け込んだ、座長特製カレー。
筆者が食べたのはカレーライス(500円)だった。座長が「冷めないうちにどうぞ」と勧めてくれるので、失礼していただくと…。お、美味しい!!お世辞抜きで専門店のカレーよりも美味しい。甘くて優しい味だ。
「俺、調理師免許持ってるんですよ。店の料理は、自分で作ってるものも多いです」
他に食事メニューは親子丼(500円)やカツ丼(600円)など。
出張や旅行で松山を訪れた際、夜は何をしようかなと思ったら、ぜひ二番町の大衆演劇バーを訪れてほしい。ぴかぴかの笑顔で、座長があなたを待っている。

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • PunkyFineのそれでいきましょう!~V-MUSICジェネシス日記~
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜

ギャラリー

  • Tsubasa Shimada presents / 「Wet Crate」
  • SUPER★DRAGON / 「楽楽★PAINT」
  • Yun*chi / 「Yun*chiのモヤモヤモヤ」
  • OLDCODEX / 「WHY I PAINT ~なぜボクがえをかくのか~」
  • 魔法少女になり隊 / 「魔法少女になり隊明治のあったりなかったり」
  • みねこ美根 / 「映画の指輪のつくり方」
  • 嘘とカメレオン / 「猫を抱いて蝶と泳ぐ」
  • エドガー・サリヴァン / 「東京文化びと探訪」

新着