(C)Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

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【映画コラム】ジュディ・ガーランド
に成り切ったレニー・ゼルウィガーを
見るための映画『ジュディ 虹の彼方
に』

 ミス・ショービジネスと呼ばれた往年の名女優ジュディ・ガーランドの人生の舞台裏を、彼女が47歳で亡くなる半年前の1968年冬のロンドン公演前後の日々を中心に、過去の回想も交えながら描く。
 本作は、何と言っても、ジュディを演じたレニー・ゼルウィガーが圧巻だ。メーキャップ、付け鼻、ダークブラウンのウィッグの力を借りたとはいえ、渾身(こんしん)の演技と見事な歌声で、晩年のジュディに成り切っている。だから本作に関しては、そうしたゼルウィガーの姿を見るだけでもう十分だと思えるほどだ。事実、彼女は本作で、『コールド マウンテン』(04)で助演賞を獲得して以来、2度目のアカデミー賞(主演賞)を受賞した。
 ただ、本作の原作は実話を基にした舞台劇なのだが、いくらジュディがゲイたちのアイコンになっているからといって、彼女とゲイカップルとのエピソードを入れたり(これは多分創作だと思う)、確かに感動的ではあるが、ラストの観客による「オーバー・ザ・レインボー=虹の彼方に」の合唱(こちらは別のライブで実際に起こった出来事らしい)を入れたりした点には、作為の跡が見えてかえって興ざめさせられるところもある。
 さて、本作が描いた68年以前のジュディについて記してみたい。2歳で初舞台を踏んだ彼女は、17歳で出演した『オズの魔法使』(39)で注目を集め、『若草の頃』(44)『イースター・パレード』(48)などでハリウッドを代表するミュージカル女優となった。ところが、彼女にはその天賦の才とは裏腹に、気まぐれでヒステリックで、情緒不安定なところがあったという。やがて酒や睡眠薬を多用し始めた彼女をMGMは解雇する。
 そして、『スタア誕生』(54)で奇跡の復活を遂げ、アカデミー賞は確実と言われながら、『喝采』のグレース・ケリーにさらわれた。そのショックで、彼女の精神状態はボロボロになったという。その点、アカデミー賞に裏切られたジュディを演じてゼルウィガーがオスカーを得たのは皮肉な感じがする。
 晩年は体が弱り、孤独で愛に飢え、不眠症でアルコールと薬物に依存し、住む家もなく、ハリウッドでは見向きもされなくなっていた。本作が描いたのはこの頃のジュディなのだ。
 こうした、アメリカのスターの黄昏をイギリス人監督(本作はルパート・グールド)が描くこと。あるいは、アメリカで尾羽打ち枯らし、渡った先のイギリスでも一度は倒れながら、一瞬の輝きを見せる姿などは、往年の喜劇コンビ、ローレル&ハーディの最後のイギリス公演の様子を描いた『僕たちのラストステージ』(18)と重なるところがある。
 また、こうしたバックステージものを見るたびに、どちらの側から描くのか、あるいは思い入れるのかで、その人物や周囲の人々の描写や評価は異なるものだとも感じる。だから、もはや故人が圧倒的に多いのだが、MGMの重役ルイス・B・メイヤーや、共演作が多かったミッキー・ルーニーをはじめとするジュディの関係者たち、元夫たち、ライザ・ミネリも含めた子どもたちが、本作を見たらどう感じるのだろうかなどと、つい思ってしまうのだ。(田中雄二)

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