加藤和樹×木村達成インタビュー「お
互いに助け合っていくしかない」 名
作『ウエスト・サイド・ストーリー』
リフ役で競演

豊洲のIHIステージアラウンド東京にて、2019年8月よりキャストを代えて連続上演中の名作ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』。2020年4月1日(水)からは、その連続上演のラストを飾るSeason3が公演の運びとなる。主人公トニーの親友であるジェッツのリーダー、リフをダブルキャストで演じる加藤和樹と木村達成に、舞台への意気込みを聞いた。
ーー『ウエスト・サイド・ストーリー』にリフ役で登場です。
加藤:頑張るしかないです。僕自身、この名作に携われる機会が来るとは思ってもいなくて。ましてや、ダンスに苦手意識があって、今まであまりやって来なかったのが、ダンスありきの作品に出るということで、人生最大の挑戦だなと思っています。
木村:ダンスの振りの意味以上の、自分の中での考えを表現できるよう、役を演じていきたいと思っていて。とても大きな劇場ですが、限られた人数であの空間を埋めなくてはいけない。自分の中でかみ砕きながらいろいろなものを提示していけたらと思います。
加藤:ダンスについては、昨年末から早めに振付をしていただいて。この間も達成と一緒に教えてもらっていたんですが、人よりできない分、みんなと同じペースでやっていては間に合わないと思って。バレエのレッスンにも通ったり、自分の中にないものを取り入れていくという作業を進めています。
加藤和樹
木村:使ったことのない筋肉も使いますし、「刺す」ってよく言われるんですけれども、それって何? という感じで(笑)。足の運び方を、地面を刺すようにということだと思うんですけれど、そんな感じで用語がいろいろと……。でも加藤さん、ダンスは踊れないみたいに言ってますけど、この間一緒にレッスン受けた感じだと、何が踊れないんだという感じで(笑)。
加藤:それはその前から取り組んでいたから。あなたの呑み込みの早さは異常だよ(笑)。
木村:プレッシャーですよ。
加藤:こうやってお互いに助け合っていくしかないんです(笑)。そのことが本当に大事。お互い課題なのは、呑み込むだけじゃなくて、かみ砕いて、自分のものにして、ただ踊っているということではなくて、身体表現として見せなくてはいけないということ。Season3では、アンサンブルの皆さんがほとんどSeason1にも出演されていた方々なので、経験値の差はどうしても出てしまう。そこをみんなにサポートしてもらいながら、ズレが生じないよう、一体感も大切にしていきたいです。ジェッツを率いているのはやはりリフなので、その説得力というところまでもっていかなくてはいけないというプレッシャーはあります。
木村:みんなと仲良くなるというところからきっちりやっていかないと。
加藤:この話、僕たちから始まるからね。
ーーリフと言えば、名曲「Cool」を担当する役どころです。
加藤:歌稽古がまだなので、今回のための新しい訳詞をメロディに乗せて歌うということをしてみてどんな感じになるのか、それはこれからの作業ですね。
木村:曲自体、ホントにすごくクールですよね。上がりすぎず、落ち着き過ぎず、でもパッションが常にある、みたいな。曲の中でずっと流れる血液のようなものがないと、途中で止まってしまう感じになってしまうと思いますし。その血液のひとつとなるのが、ダンスでの表現だったり、後ろに控えているメンバーの存在でもあると思います。この前、振り付けしてもらって思ったのが、さんざん踊った後に歌ったりするというのが、自分の中でどれだけきちんとできているかということ。そして、リーダー感、この曲で見せるポイントなどがたくさんあって、目指すものも高みにあるので、練習が必要だなと思います。
加藤:今のところ見えないよね(苦笑)。
木村:雲がかかっていて目視できないですよね(苦笑)。
木村達成
ーーリフの男性像についてはいかがですか。
木村:この話の中でとても重要になってくるのは、敵対心をもっているライバルがいるというのは、意気投合しているメンバーがいるからこそということ。僕たちがシャークスと争えば争うほど、トニーとマリアの禁断の愛が非常に明確に表現できると思いますので。そして、リフはとても仲間思いで、重要なときにはしっかり先頭に立つ人物。そのリーダーとしての存在感、判断力などが必要になってくる。リーダー感っていろいろあると思うんですけど、何かひとつでも自分なりのものを、ジェッツのメンバーと一緒に見つけていけたらいいなと思います。
加藤:稽古に入ってから見えてくる部分もたくさんあると思うんですけど、争いの中で生まれるパッションというものが、この作品の見どころのひとつでもあると思うんです。その中で、いち早くそこから抜け出さなくてはいけない、自立してお互いを認め合わなきゃいけないと思っているのがトニーで、リフもある意味諭されるわけで……。でも、リフもそのことをどこかでわかっている気がしていて。
木村:それは思いますね。
加藤:ホントは大人にならなきゃいけないんだけれど、もう取り返しがつかない、引くに引けないっていうところがある。大人にもなりきれず、子供とも言えない、そういう歯がゆさ、もどかしさってあるじゃないですか。誰もがそういうところで葛藤していると思うんです。でも、お互い、人種も違うし、争うことでしか自分を見つけられないという中で生きている。そこの情熱だけではなくて、そういうことでしか自分たちの存在意義を見つけられない悲しさだったり、そんなメッセージも、これまでこの作品を観てきて感じたことなんですが、リフは本当にその狭間に立っている人間だと思うんです。だからこそ、「Cool」で、クールになれという言葉をかけられるんじゃないかなと思って。でも、その中で一番情熱的に燃え上がったのは多分彼だと思うんです。冷静と情熱の間じゃないですが、そんな部分をリフとして表現できればいいのかなと思います。どの作品でもそうですけど、出演者とのチームワークの良さは絶対舞台にでると思うので、それをリフとしても大切にしたいです。これだけチーム力があって、ぶつかり合っていく作品なので、相手を知る必要もあるし、稽古以外の時間の過ごし方もとても大事になってくると思います。
(左から)加藤和樹、木村達成
ーー今回、作品のオーディションを受けられた理由は?
木村:この劇場で戦ってみたいという思いがありました。
加藤:わかる。
木村:大きな空間で、歌も、セリフも、一語一句明確に観客に届けたいなと思って。そこに、ダンスの表現も加え、自分の中で完成させてみたいということがあって……。表現として、自分にとっては新たな挑戦にもなる作品だと思いました。
加藤:僕は、「Cool」という曲が非常に魅力的だなと思ったのと、役的にはリフよりベルナルドの方が合うんじゃないと思う方もいると思うんです。ただ、僕はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で、(『ウエスト・サイド・ストーリー』においてはベルナルドに相当する)ティボルトを演じているので、そことは違うところに挑戦したいと思って。リフには激しいダンス・ナンバーがあることも分かっていましたが、できないことをできないままにしたくないという思いで、この作品に携わりたいと考えました。360度客席が回るこの劇場には僕も何度も足を運んでいますが、世界に二つしかない(日本とオランダのみ)その劇場のステージにチャレンジできる機会は役者としてなかなかないことなので、その魅力もやはりありました。
ーーSeason3は、トニー役を浦井健治さんと柿澤勇人さんが務められる他、ミュージカル界で活躍するキャストが顔を揃えています。
加藤:アンサンブルの皆さんの多くがSeason1に出演していたというのもとても心強いですし、浦井さんとカッキー(柿澤)さんのお二人は僕もよく知っていて、みんなでおもしろい芝居を作れるんじゃないかなという期待感はすごくあります。ベルナルドの二人、Oguriさんと有澤樟太郎さんは初めてなんですが、一番近くでぶつかり合う相手だと思うので、稽古に入ってからいろいろなやりとりをして、新たな刺激を受けていきたいです。マリア役の二人、桜井玲香さんと伊原六花さんも初めてなので、新たな風を感じたい。アニータ役が、ソニンと(夢咲)ねねのダブルキャストというのも非常におもしろいなと。きっと二人とも全然違う色のアニータになると思うので、楽しみですね。
木村:僕は加藤さんと樟太郎と知り合いなだけで、あとは初めましての方々なんです。トニー役のお二人はもちろん、Season1にも出ていたアンサンブルの皆さんの存在は頼もしいですし。リフを演じるということで、ちょっととがった発言をしちゃうとすると、誰が誰でも関係ないというか。作品が料理だとすると、それぞれの役者がそれを彩る具材で、うまい役者だけを集めたからといっておもしろい舞台になるかはわからない。でも、その化学反応って無数にあるわけで、今回のキャストに選んでいただけたということは、自分の中でプラスに考えたときに、新たな風を吹かせるというか、いい味を出したい、いい刺激を与えていきたいと思いますし。こういうヤツが出てきたんだと思ってもらえれば幸いです。
加藤:僕は達成のそういうところ好きだよ(笑)。
(左から)加藤和樹、木村達成
ーーこれまでのこの作品との接点は?
加藤:けっこう昔ですが、映画版を見ていました。オーディションに向けて映画をまた見直して、Season1も観に行って。映画は昔見た印象と違って、あれ……こんなに踊ってたっけ? と思いました。昔は、ダンスとして見るというより、中身、争いの部分を重点的に見ていたんだろうなと思って……。印象深いダンスはもちろん覚えていましたが。大人になってから見るとまた違うんだなって。感じることもまた違って、すごく悲しいなって思うところも。自分がその立場だったらいったい何ができたんだろうとか。今度は実際に自分が演じるわけですから、その世界に入ったときに自分が何を感じるかというのが、今とても楽しみです。
木村:僕は映画は見ていなくて、昨年の来日キャスト版を観ました。圧巻だったのはもちろんなんですが、自分が演じる上の課題として、この大きな劇場、360度客席が回る空間を埋めることの大変さを考えてしまいました。この劇場でやってよかったと言われる作品にしたいなと思うんですよね。だからもう日々稽古です。頑張ります。
ーー加藤さんから見て木村さんの印象は?
木村:ナイフみたいにとがってますよね。って、自分で言うなって感じですね(笑)。
加藤:(笑)とか言ってますけど、すごい甘えん坊だし、人懐っこくって憎めないヤツだなって、『ファントム』で初めて共演して思ったので。人一倍、芝居に対する貪欲さがあって、自分に足りないものもよくわかっているし、それを分析して乗り越えていこうとする力がすごくある役者だなと思いました。
木村:人の意見を聞きすぎるんですよ(笑)。聞きすぎて自分がわからなくなる。僕は僕でいいんだっていう。
加藤:何回も言ったよね(笑)。気にしすぎるんだって君は。
木村:リフとしての取材は全部とがって発言してますよね(笑)。キャラクターを作らないと追いつかないという。
加藤:分かりやすすぎる(笑)。
加藤和樹
ーー木村さんから見て加藤さんの印象は?
木村:すべてが魅力的です。ダブルキャストの相手が加藤さんで、心強くて。初めましてだと気を遣って時間も使ってしまうので。ホントに助けてもらうときは助けてもらおうと思ってますし。でも、よーいドンでスタートしても、役の突き詰め方ってそれぞれなので、違う方向になっていくと思いますけど。あと、すごく懐の深い人だなと思うんです。心も広いですし、リフにぴったりだなと思う。心の広さ、マインドといったものが超リフだなと。包み込む能力がすごいなと思うので。それが役者としての魅力につながっていますよね。僕は突き放しちゃうから。切れ味鋭くて(笑)。以上です!
加藤:おもしろいな(笑)。
木村:僕……あいつ、いつか問題起こすんじゃないかみたいな、やらかす感がリフとしてありますよね(笑)。
加藤:仲間のために、誰よりも率先して前に出るタイプなので、達成は年齢的にも若いですし、そのあたり、勢いでやれそうだなと。もちろん、だからと言って何も考えていないわけではなくて、ちゃんと頭の中で計算ができる役者です。周りの目を気にする人って絶対そういうところがあるんです。逆に僕なんかは全然気にしない分、もっと気にしろって言われるんですけど(笑)。達成のリフは、周りをよく見て、仲間に慕われる感じ、仲間の上に立つというより同じラインに立って引っ張っていく感じになるんじゃないかなと思います。
ーーどんなところに作品の魅力を感じますか。
木村:若者の、大人たちに言えない悩みであるとか、心の叫びみたいなものが、若いがゆえの暴力になっていく。仲間に対する愛のために戦うわけですが、そのあたりはジェッツもシャークスもお互い様なんです。どちらが悪いわけでもなくて、最終的に、正義とは何なのかすごく考えさせられる作品だなと感じています。
加藤:ひとつはダンスですね。あの時代の、バレエがベースにあるジャズダンスがあって、ダンスで描かれる彼らの心情が魅力だと思います。それと、若者たちがぶつける行きどころのない怒りや叫び、悩みがあって、でも、そんな中にも生まれる愛がある。愛に罪はないわけで、たとえ人種が違っても理解し合えるんじゃないかという普遍的なメッセージがあって、それはどの時代でも人々に届くものなんじゃないかなと思います。日本人にはなかなかなじみがなかったりする部分もあると思うんですが、例えば、身分の差ということはいつの時代も、気づいていないだけで、あるものだとも思うんです。届けたいという風におこがましくは思わないですけれど、苦しんでいる人たちだったりが観たときに、何か気づくものがあるといいなという風に思ってやりたいです。
木村:映画版も含め、本当に長い間愛されてきたストーリーですが、今の僕たちにしかできない舞台にしたいなと思います。Season3までさまざまなキャストで上演できるということは、それだけ作品の奥深さがあるということだとも思うので、まだまだ革新的なものが表現できるんじゃないかなと、訴えかけ続けていきたいです。そのためにも、リフとしてしっかり舞台に立っていたいと思っています。
木村達成
ーー「Cool」以外でも名曲揃いの作品です。
木村:トニーとマリアが歌う歌、全部素敵です。
加藤:「Tonight」を聞くと、『ウエスト・サイド・ストーリー』だなと思うよね。絶対に誰もが耳にしたことのある曲だと思うし。
木村:いい曲ですよね。
加藤:五重唱(Quintet)でも流れて。あそこ、リフは関われないんだけど(笑)。あれだけ耳に残るメロディが、あの激しいやりとりの中で流れる。トニーとマリアの愛の象徴ですよね。
木村:二人の愛や葛藤の歌が素敵だし、それが輝くのは、リフやベルナルドの存在あってこそだとも思うし。
加藤:周りがあってこそ引き立つというか。
木村:禁断の愛を周りがどう見せるかですよね。
ーー360度客席が回る劇場への意気込みを改めてお聞かせください。
木村:劇場の床が硬くて、踊るのが大変らしいんです。ケガには気をつけないと。
加藤:Season1観劇のとき確かめたら、確かに硬くて。衝撃も吸収しないし、あまりダンス向きの床じゃない、そんな中ですばらしいパフォーマンスをしてきたキャストはすごいですし、その分、しっかりケアもしている。どの作品でもそうなんですけど、支え合いが大切で、その絆がより深く結ばれる作品なのかなという感じがしています。
木村:僕、身体のケアってあんまりしてこなかったから、今回はちゃんとしないと。そういう意味でも成長させてくれる劇場、作品かもしれないです。
(左から)加藤和樹、木村達成

■加藤和樹
ヘアメイク:江夏智也(raftel)
スタイリング:立山功
ジャケット、パンツ/The Viridi-anne(The Viridi-anne tel 03-5447-2100)、
カットソー、靴/CHORD NUMBER EIGHT(GARDEN TOKYO & THE OPEN ATELIER tel 03-3405-5075)
■木村達成
ヘアメイク:馬場麻子
スタイリング:部坂尚吾(江東衣裳)
ニット¥20,000(BATONER / BATONER 03-6434-7007)、
パンツ¥36,000(T-MICHAEL / UNIT&GUEST 03-5725-1160)
※価格はすべて税抜き表示
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=福岡諒祠

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