MONKEY MAJIKの
ハイブリッドロックの本質を
『thank you.』から考える
日本語詞の巧みな操り方
《I wanna fly/Fly me up so high/Take me to the skies/I won't get by/いつまでも君の声が僕の心で響く/If you can't believe me take me home》(M6「fly」)。
上記が典型である。日本で作られた楽曲の中に英語が出て来ることは珍しいものではない。というか、2000年代ともなるとそれが普通だったと言える。パンクでは全編英語詞がスタンダードだったほどだ。だが、それも日本語詞の中に英語詞が出て来る場合であって、英語詞の中での日本語詞…というとそれほど頻出することではなかったと思う。「fly」は発売当時、全国のFM33局でパワープレイを獲得しているのだが、ラジオから流れてきた「fly」を初めて聴いた知り合いが、“洋楽かと思って聴いていたら、いきなり《いつまでも》と日本語が出て来てびっくりした”と言っていたことを個人的には思い出す。
いや、それにしても、仏語や独語、北京語、広東語、ハングルとかが混じっているならまだしも、混ぜ具合が違っても英語を混ぜるのはハイブリッドとは言い難い…という指摘もあるかもしれない。分からなくもない。よって、そのMONKEY MAJIKの英日混合詞の特徴をもう一段階深堀りすると──日本語詞のメロディーへの乗せ方が絶妙かつスムーズであることが挙げられると思う。英語詞はMaynardとBlaiseが、日本語詞はTAXが作っている。それぞれが各言語のネイティブなだけあって当然おかしな箇所は見受けられないし、音符への言葉の乗せ方も実に巧みだ。筆者は日本語以外喋れないので、正直言って英語詞についてはよく分からないけれども、日本語のイントネーションに不自然なところをあまり感じないのである。M6「fly」の《いつまでも君の声が》が顕著であろう。この他にも気付いたところをいくつか挙げると──。
《日差しが強くなるほどに動き出す僕の心/訳なく流れる汗君の手を取る/静寂から抜け出して迷わず行こう/夏の風に押されてあの場所へと…》(M2「another day」)。
《わがままを言って困らせないでよね》《一人じゃヤダって、脹れてみせるけど》《Down 理解はしてる。君の気持ちあの日のまま》(M11「STAY」)。
《もしも一つだけ願いが叶うなら/僕らの育てた花が咲くことを》《二人の出会いが重なるように/夢のつぼみをつけるのさ》(M12「種」)。
M2「another day」の歌はやはりラップ的でもあって、あまりメロディーの抑揚がないところも日本語的と言えるかもしれないが、《訳なく》《夏の》辺りのイントネーションを強調しているところに──何と言うか、日本語への敬意のようなものすら感じるのである。
Maynardは外国語指導助手として東北地方の小中学校で英語を教えていたというから早い時期から日本語は話せていたのだろうし、Blaiseにしても日本語で会話しているのをテレビで拝見したこともあるので、両名とも流暢に日本語を操れることは分かる。だが、そうは言っても彼らの母国語は英語と仏語であるからして(※カナダは二言語主義)、日本語を話す様子は、ぎこちないとは思わないが、少なくともメジャーデビューの時点では、日本語が母国語ではない人の話す日本語といった感じであったことは否めない。
それが悪いと言うことではなく、日本語が母国語ではない人が日本語で歌うと、かつてThe Policeの「De Do Do Do, De Da Da Da」(1980年)の日本語詞版であったり、Styxの「Mr.Roboto」(1983年)がそうであったように、発音やイントネーションが微妙に感じられるものだ。その微妙な感じが楽曲のおもしろさにもなっているのでこれもまた否定するものではないのだが、日本語のネイティブにとっては違和感があることは確かだろう。しかしながら、MONKEY MAJIKの楽曲でそれをあまり感じないのは、ヴォーカルふたりの語学力はもちろんのこと、日本語歌詞の作詞センスが絶妙であるからではないかと思う。
J-POPのマナーへの敬意
それが親しみやすさ、ポップさにつながっていると思われる。まぁ、M10はそれを徹底したがゆえに…だろうか、サビでの日本語がやや外国人的になってしまっているように思えるのはちょっと残念な気がしなくもないが、それにしても一般的にはその発音だけでは感情の起伏に乏しいと言われる日本語にエモーションを与えることには成功していると思う。そう考えると、それも十分にハイブリッドな要素と言えるのかもしれない。
さて、これは個人的な感想になるが、最後にもうひとつ。そうした加日混合のバンドがそれぞれの音楽的バックボーンも上手く融合、昇華させたものが(少なくとも『thank you.』における)MONKEY MAJIKの特徴であり、それが彼らのハイブリッドロックと言えると思う。ただ、あえて分析すればそういうことであって、それは決して小難しいものではないということを強調したい(そもそも本稿は“・”の位置にイチャモンを付けているようなものであるし…)。端的にそれが分かるのはタイム。
『thank you.』は全12曲で収録時間42分程度、M6「fly」が4分を超えるが、あとはどれも3分程度である。短けりゃいいというものではないだろうが、少なくとも流行歌、大衆歌は聴きやすいほうがいい──というか、聴きやすいから流行歌、大衆歌になるのだ。そこもまたMONKEY MAJIKの優れたところであり、その点もハイブリッドと言えるのかもしれない。
TEXT:帆苅智之