TENDOUJIが音楽愛とバンド愛によって
辿り着き、作り上げた光景は

TENDOUJI TOUR PINEAPPLE 2019-2020 2020.2.14 LIQUIDROOM
「TENDOUJIは売れるわけないバンドです。だって、28歳で会社辞めて、英語のバンド始めるなんておかしいですよ。でも意外と、想像を超えたことが起こるんじゃないかと思ってるんですね」
「俺は(何かを始めるには)いつからでも遅くないってことを体現したい。俺たちは変なバンドですけど、バレンタインにこんなバンドを観に来るなんて、あなたたちも変ですよ。クレイジーです。でも、変人は世界を変えると思ってます」
TENDOUJI Photo by MOTO
アンコール4曲目「GROUPEEEEE」を演奏する直前、モリタナオヒコ(Gt/Vo)はそんなふうに語っていた。2014年、中学生の同級生同士で結成されたバンド、TENDOUJI。仕事に就き、社会に出た彼らは“好きな友達と一緒に好きなことを思いっきりやる”場所を求めるなかで、最終的にバンドを組むことにしたのだという。結成から6年が経ち、辿り着いたツアーファイナル・リキッドルーム公演は満を持してのソールドアウト。当時の彼らからしたら夢のまた夢みたいな話かもしれないが、あの頃から何も変わっていなかったからこそ――「バンドって楽しい!」「音楽って最高!」というピュアな感情が今でもバンドの真ん中にあるからこそ、こうして多くの人を巻き込むことができたのだろう。
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昨年11月から始まった対バン8本+ワンマン7本の全国ツアー『TENDOUJI TOUR PINEAPPLE 2019-2020』。ステージにはパイナップル型のビニールバルーンが置いてあるが、ツアータイトルに因んだ事柄はそれだけで、そもそもこのツアータイトル自体にも特に意味はないとのことだ。ライブ映像とオフショットでツアーを振り返るオープニングムービーのあと、“ARE YOU READY?”の文字がプロジェクタースクリーンに映り、あちこちから大きな歓声が上がる。そしてメンバー4人が登場。
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1曲目の「Kids in the Dark」、その最初の一音からしてフロア前列の沸騰っぷりがすごかった。後ろから見ていると、ジャンプした観客の頭が飛び出るタイミングや間隔が見事にバラバラである。何ならそこまで飛び跳ねたりはせず、お酒を片手にリラックスして観ている人もいる。TENDOUJIのツアーでは動画・写真撮影もOKで、特にこのツアーではファンの撮った動画を基にMVを制作する企画もやっているため、スマホを構えている人も多い。こうして見ると、同じ曲を前にしても、人それぞれ違う盛り上がり方をしているのがよく分かる。この自由さこそがTENDOUJIのライブの醍醐味だろう。ライブの楽しみ方なんて、本来誰から強制されるものでもないし、あなたが自分自身で前以って決めておく必要もない。何だか叫びたくなったから叫んでみた、胸が熱くなった次の瞬間には気づいたら腕が上がっていた、あの曲を聴けたのが嬉しすぎて逆に声が出なかった。このフロアにはそういうのしかない。
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続く「Killing Heads」ではフロアから上がる声を受け取ったメンバーが全開の笑顔を見せる。お返しと言わんばかりに、「Space weekend」は出だしからアサノケンジ(Gt/Vo)の歌うメロディがスコーンと突き抜け、ヨシダタカマサ(Ba)がお立ち台の上でフレーズを弾きながらアピールし、オオイナオユキ(Dr)のスネア連打が観る者の気持ちをさらに焚きつけた。バンドが曲間を繋いでいる間にアサノが「最後まで楽しんで」的な挨拶をするが、後ろで鳴っているバンドの音がかなりデカいため、その全容は聞き取れない。そんな前のめりなテンションも好ましい。
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「NINJA BOX」を終えると最初のMC。自由に楽しんでほしい旨を伝えるなかでヨシダが「歌ってもいいし……」と言うと、一部の観客が「よっしゃー!」と喜びの声を上げ、場内がさらに和やかな空気になる。ここまでのパーティー感ある空気から一転、「Something」~「June song」のブロックではミドル~スローテンポの曲が主に演奏され、照明もトーンダウン。メロディの美しさが一層際立ち、そこに滲むノスタルジーが一気に匂い立つ。ボーカル陣の低~中音域の歌声、声質のまろやかさも聴いていて心地よい。フェスや対バンイベントなど、尺の短いライブではこういう曲を披露する機会も少ないのだろう、このブロックを終えたあと、アサノが「いいですね、ワンマンは。たくさんの人に見守られながらたくさんの曲ができるっていうのは」と噛み締めていた。
2度目のMCでは、この日がバレンタインであることに触れ、「万が一チョコを持ってくる人がいるかもしれないから」と物販付近にカゴを設置していることを報告。「でも見た限り野郎が多いんだよなあ……」とモリタが懸念していたように、「持ってきた人ー?」と尋ねてみたものの挙手した人は残念ながら少数。「少なっ! いや、知ってたよ!?」と笑いつつ、「その分、歓声で返してください!」と締める。
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そうして「LIFE-SIZE」からライブ後半戦へ。こうしてライブを観ていると改めて実感するのだが、TENDOUJIの曲にはどうもセオリー通りには行かないような節がある。例えば「Get Up!!」は、A~Bメロで散々盛り上げておいてサビに入った途端、アンサンブルが一気にミニマルになる。「COCO」はド頭から銅鑼が鳴り、チャイニーズなフレーズが始まるというなかなかぶっ飛んだ曲だが、銅鑼を実際ライブハウスに持ってきてしまうのがめちゃくちゃウケる。しかし「Get Up!!」はあそこで一旦一歩引くからこそ、サビ後半で思いっきり鳴らした時の爆発力が倍増する。「COCO」で銅鑼を叩くスタッフはタイミングが若干拍からずれているが、それもひっくるめてみんなで笑い合いながら楽しみ合うあの時間は、何物にも代えがたいものだった。銅鑼を持ってこなければ、あのときのみんなの笑顔は生まれなかっただろう。モリタの言葉を借りるとすれば、確かにこのバンドには“変な”ポイントがたくさんある。しかしだからこそTENDOUJIがいいのだという人がこれだけたくさんいる。
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「D.T.A」終了後、アサノが鳴らすカッティングのコードが半音ずつ上がっていき、みんなで「イェーイ!」と声を合わせる。そうして始まった「Peace Bomb」の幸福感ったらこの上ない。演奏中、モリタが息を切らしながら「この曲はね、みんなで歌えたらと思って作りました! あなた方の顔、見えてますよ!」と声を張り上げる。当日0時に配信リリースされた「HEARTBEAT」では新曲にもかわらず大きなシンガロングが起こり、続く「HAPPY MAN」がフロアの熱量をさらに押し上げた。
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本編最後の曲「THE DAY」を目前に、モリタが「今日後ろから前まで見てて、みんなのことを誇りに思いました」と改めて観客に伝えた。「一生遊んでいたい」という気持ちからバンドを始めた日のことや、バンドマン同士で渋谷のカフェに集まって他愛もない話をしていた日のことなど、昔を振り返るMCが多かったのは、今目の前で熱狂するオーディエンスの姿から、あの頃の自分たちと同じような何かを感じ取ったからなのかもしれない。そして彼らオーディエンスをそういう気持ちにさせたのは、紛れもなく今さっきまでのバンドの演奏である。そんなステージ-フロア間の感情の交わし合いが、TENDOUJIのライブを他にはないものにさせているのだ。
この日初めて彼らのライブを観た身として思ったのは、ライブハウスに来ても手放しで楽しめず、どこか閉塞感を覚えているという人は、TENDOUJIのライブに行ってみたらいいんじゃないかということ。今からだって大丈夫?って、そんなの決まっているでしょう。いつからでも遅くないのは我々観衆の方だって同じなのだから。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=MOTO
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