Amelieが迎えた「3度目の渋谷クアト
ロ」ーー泥臭く何度でもスタートライ
ンに立ち続けるAmelieにしか作れない
景色

Amelie『アイデンティティ Release Tour 2019-2020』2020.1.18(SAT)渋谷CLUB QUATTRO
Amelieにとって、渋谷CLUB QUATTROというライブ会場には特別な想いがある。初めて Amelieがそのステージでワンマンを行なったのは、2017年。当時、チケットをソールドアウトさせることができなかった悔しさから、リベンジと称して、翌2018年のツアーでも、ファイナルに渋谷クアトロを選んだ。だが、そのときもソールドアウトすることはできず、三度目の正直になるのか、二度あることは三度あるのか、そんな様々な想いを胸に抱きながら臨んだのが、先日1月18日(土)に渋谷クアトロで開催された『アイデンティティ Release Tour 2019-2020』のツアーファイナルだった。残念ながら、この日もソールドアウトさせることはできなかったのだが(とはいえ、会場はパンパンに見えた)、メンバーの表情はとても晴れやかだった。そのステージで、ボーカルのmickは、「いままで「埋めるんだ」ばっかり頑張っちゃって、それが目標みたいになってた。でも、人数とか、数字とか、そういうことばかり考える自分にハッとして。つまらないなと思った。今は歌いたいことがあって、伝えたいことがあって、音楽をやってる。だから、今が最強なの。みんなの前で音楽ができることが嬉しいです」と話した。当然、悔しさはある。だが、それ以上に「今、目の前にいるお客さんと、最高の時間を楽しむ」という原点に返ったこの日のライブは、ありのままの自分で人間らしい感情を描く、Amelieにしか作れない景色が広がっていた。

Amelie

会場にSEが流れ出し、直人(Gt)、あっきー(Ba)、アサケン(Dr)とmickが登場すると、ピアノのみの伴奏で歌い出した「Entrance」から、ライブは始まった。フロアに集まったお客さんを出迎えるように鳴らされたウェルカム感のあるサウンドが、「かけがえのない時間」の始まりを賑やかに告げると、続く、バンド結成の地=埼玉・越谷市への想いを綴った「カントリーロード」で、アサケンが疾走感あふれるビートを繰り出し、フロアの熱狂を一気に加速させた。「みんなで過去最強のライブを作っていきたい!」。

Amelie

mickの力強い意気込みを挟み、赤と白のライティングが激しく明滅するなか、あっきーの荒ぶるベースラインが炸裂した「ゼロじゃない」、バンドと、それを取り巻くみんなで未来を切り拓いてゆく決意を綴った「WONDER」のあと、直人の狂騒的なギターがフロアを揺らしたダンスナンバー「メグリメグル」では、mickは最前列の柵へと身を乗り出して、「踊れ!踊れ!」とお客さんを全力で煽る。序盤からペース配分など一切なし。今回のツアーは、Amelieにとっては初の東名阪ワンマンだったが、その名古屋も、大阪も、良いテンションで駆け抜けてきたであろうことが想像できる、絶好調の滑り出しだった。
Amelie
「いかがだろうか? Amelieのライブは」。mickの問いかけに、「サイコー!」というお客さんの声が飛んだ最初のMCでは、あと10日ほどで結成9周年に突入することに触れ、積み重ねてきた時間をしみじみと振り返ったメンバー。かねてから「免許とるとる詐欺を言っていたあっきーが、ついに免許をとりました!」と報告して会場の笑いを誘うと、中盤、ここではないどこかへ連れ出すような温かなポップソング「月の裏まで」や、心に空いた空洞をバウムクーヘンに例えたバンドの新機軸「バウムクーヘン」から、序盤のアッパーな勢いは一転して、ミディアムナンバーが続いた。この2曲を含めて、2019年にAmelieがリリースした楽曲たちは、いままで以上に音源としてのクオリティを高めることを重視して取り組んだと、メンバーはインタビューで明かしている。これまでのパブリックイメージすら壊すアプローチにも挑戦し、より豊かなアレンジで喜怒哀楽を表現した新しい楽曲が加わったことで、この日のライブはぐっと説得力が増していた。そういうロックバンドとしての良い循環が今のAmelieにはあるのだ。

Amelie

クラシカルなピアノのフレーズにのせて、「永遠なんてないのはわかっているけれど、やっぱり何十年先も、みんなとハッピーな時間を共有できたら。そんな願いを込めて」と伝えてから歌ったバラード曲「君といま生きている」、2015年の全国デビューアルバム『グッバイ&ハロー』のリード曲であり、久々に披露された「グッバイハロー」のあと、ライブは後半戦に向けて、再び熱いテンションへと切り替わっていった。当たり前じゃないこの瞬間を祝福するように駆け抜けた「キセキ」、会場が大きなシンガロングで包まれた「手紙」や「君が為に鐘は鳴る」、ミラーボールの光が会場を美しく照らした「step!」。楽曲に込めた想いが、この場所にいる人たちに間違いなく届くようにと懸命な姿で投げかけたあと、ラスト2曲を残して、mickがギターを弾きながら、冒頭で書いた「3度目のクアトロ」に対する想いを語りかけた。
Amelie
そして、「ありのままの自分が美しいと思った」「これからはもっと自分が好きな自分でいたい」と伝え、その想いを楽曲へと託した「アイデンティティの証明」へと繋ぐ。すべての迷いを断ち切るような攻撃的なバンドサウンドのなかで、未完成でも自分らしくあればいいと吐露する心境。その歌の終わりに、mickは「悔しくないわけないだろ!」と叫んだ。そして、その勢いのまま、新しい自分への生まれ変わりを宣言するように「朝は来る」、今、自分自身の戦う場所としての「東京」をテーマにした「東京」、そして「フルスピードで」で本編は終演。悔しさを呑み込み、それでも笑い合う日々を求めて、何度でもスタートラインに立ち続ける泥臭いメッセージは、まさにその生き方を地でゆくAmelieらしいフィナーレだった。
Amelie
アンコールでは、4月22日にミニアルバム『シネマクラブ』をリリースすることを発表すると、そこに収録される新曲「雨よ降れ」がいち早く披露された。海外のピアノエモ系のバンドを彷彿とさせる瑞々しく美しいバンドサウンドには強い生命力が宿り、歌詞には<自分の足で歩こうと思うんだ>という力強いフレーズが聞き取れた。今までのAmelieにはないタイプの楽曲だ。そして、最後に、mickが「みんなの孤独に寄り添うバンド添えたら」と、バンドが目指す在り方について真摯に伝えると、「Amelieの歌はみんな心にずっとあるから。そのためには、ずっと(Amelieを)続けられるように頑張りたい。大好きです。ありがとう!」と感謝の言葉を重ねて、最後は、ライブという場所で伝えてこそ意味を持つ「ヒーロー」で締めくくった。
Amelie
なお、この日のライブでは、新作『シネマクラブ』を引っさげたリリースツアー『シネマクラブ Release Tour 2020 ~Amelie Road to 10th Anniversary~』の開催も発表された。早くも2021年に迎える結成10周年を意識したサブタイトルを付けていることからも、今のAmelieは前しか見ていない、そんなモードを強く感じる。ありのままの自分を信じることで、葛藤から吹っ切れた2020年のAmelieは、今バンド史上最大に研ぎ澄まされている。
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取材・文=秦理絵 撮影=白石達也

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