新国立劇場 2020/2021シーズンライン
アップ説明会<吉田都・バレエ&ダン
ス部門次期芸術監督編>~ 初年度は
古典を中心にしつつ「チャレンジも」

2020年1月9日、新国立劇場で2020/2021シーズンのラインアップ発表が行われた。バレエ&ダンス部門では次期シーズンから芸術監督として就任する元英国ロイヤルバレエ団の吉田都が登壇。冒頭でダンサーのさらなるレベルの向上や振付家の発掘・育成、ダンサーの環境整備など、在任中の目標を語ったうえで、新シーズンのラインアップを発表。バレエ公演ではすでに告知されているピーター・ライト振付『白鳥の湖』のほか、バレエでは『くるみ割り人形』、ニューイヤーバレエと吉田都セレクションの2つのトリプルビル、『コッペリア』、『ライモンダ』が、ダンス公演では中村恩恵✕首藤康之✕新国立劇場バレエ団『Shakespeare THE SONNETS』、「ダンス・コンサート 舞姫と牧神たちの午後 2021」、Co.山田うん『オバケッタ』が上演される。
吉田都=英国、というイメージを覆し、古典が多めでありながらも新制作のコンテンポラリー作品を交えたバランスの取れたプログラムで、一部発表されたキャストでは長年ペアを組んできた小野絢子と福岡雄大をあえて別のダンサーと組ませるなど、新しい時代を感じさせるフレッシュなものともなっている。「チャレンジ」という言葉もしばしば口にしながら、今後の目標などを語った、吉田次期芸術監督の会見と懇親会の様子をレポートする。(文章中敬称略)
(撮影:西原朋未)
■古典で基礎力向上を目指す。フレッシュなキャストに感じる新時代
ラインナップ発表ではまず新国立劇場常務理事の村田直樹が2020/2021シーズンから舞踊芸術監督に就任する吉田都次期芸術監督を紹介し、「劇場としては全力で次期芸術監督を支えていく所存」と語った。
続いて登壇した吉田次期芸術監督はまず、1997年に新国立劇場バレエ団の開場記念公演『眠れる森の美女』で主演した縁にふれながら「身の引き締まる思い」と挨拶。初年度の演目を選ぶにあたり1年目は「基礎の大切さ、テクニックの向上、体力的にハードな全幕物を踊ることによるスタミナ強化の意味も含め、古典作品を重視したラインナップとした。作品への理解などを含め、大原現監督が重視している表現力の向上についても引き続き踏襲していく」と述べた。
シーズン開始演目としてピーター・ライト版『白鳥の湖』を選んだ理由については「登場人物の個性が明確で、観る側、踊る側ともども非常にわかりやすい」ことを挙げ、懇親会ではゲストティーチャーとして自身も在籍したバーミンガム・ロイヤル・バレエ団から、元プリンシパルの佐久間奈緒を招聘することも明らかにした。
「ニューイヤーバレエ」では『パキータ』、バランシン振付『デュオ・コンチェルタント』、元芸術監督であるデイヴィッド・ビントレー振付『ペンギン・カフェ』を上演する。『パキータ』は新国立劇場バレエ団では2003年初演以来18年ぶりの上演。『デュオ・コンチェルタント』は新制作、『ペンギン・カフェ』は2013年以来の上演となる人気作品だ。
(撮影:西原朋未)
さらに「チャレンジの要素を入れた」というプログラムが「吉田都セレクション」。ハンス・ファン・マーネン振付『ファイヴ・タンゴ』 [新制作] 、デヴィッド・ドウソン振付『A Million Kisses to my Skin』 [新制作]、バランシン振付『 テーマとヴァリエーション』の3作品が組まれている。「古典作品はバレエ団のレベルを維持するために重要だが、世界的にコンテンポラリー作品の比重が高まり、古典とコンテンポラリーの両方を踊れるダンサーが求められているのも理解している。ダンサーにとっては(双方を踊るのは)大変なことである一方、踊りのボキャブラリーが増えることにつながる」と語る。『ファイヴ・タンゴ』 は70年代の作品だが、現在でもヨーロッパ各地のバレエ団で取り入れられている作品としてチョイス。『A Million Kisses to my Skin』は「現在活躍している振付家との仕事をするのはダンサーにとっても刺激となる機会であり、踊りの内容ともどもチャレンジに繋がる」として選出した。
ローラン・プティ振付『コッペリア』には世界的なダンサー、フリオ・ボッカがゲストティーチャーとして参加予定。シーズン最後は2004年の初演時に吉田自身がゲストとして踊った牧阿佐美版『ライモンダ』で華やかに締めくくる。またキャストは『白鳥の湖』で米沢唯&福岡雄大、小野絢子&渡邊峻郁、『コッペリア』で小野絢子&渡邊峻郁、木村優里&福岡雄大、『ライモンダ』で米沢唯&福岡雄大、小野絢子&奥村康祐とフレッシュな組み合わせが発表された。「ダンサー達にも話を聞いたうえで、あえて組み合わせを変えた。新たな化学反応を期待したい」と話す。
ダンス公演では『Shakespeare THE SONNETS』を再演。中村恩恵&首藤康之により初演された作品を、今回は小野絢子&渡邊峻郁、米沢唯&首藤康之のペアで上演する。日本のコンテンポラリーダンスの共演であるダンス・コンサート「舞姫と牧神たちの午後 2021」では「Dance to the Future 2019」で上演された貝川鐵夫振付『Danae』が再登場するほか、2005年「舞姫と牧神たちの午後」にて初演された平山素子&中川 賢振付『Butterfly』を新国立劇場バレエ団が上演する。なお2020年8月に上演されるオペラ・バレエ・演劇3部門合同による「子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ Super Angels スーパーエンジェル」では、バレエ団の貝川が振付を担当し、6人のダンサーが参加予定だ。
(撮影:西原朋未)
■バレエに向き合った真摯な姿勢で育成に向かう。技術向上と可能な限りの環境の改善を
引き続き行われた懇親会では、吉田次期芸術監督は「(芸術監督となって)やりたいことはたくさんある」と語る。
そのうちの一つがダンサーの環境の整備で、「踊りだけに集中できる環境があるからこそアーティストが育つ。予算などの問題もありすぐに対応できるものではないのは重々承知しているが、リハーサルルームを増やしたい。リハーサルの合間にダンサーがストレッチをしたり、身体を動かすジムなどの設備がどこか一角にあれば、ダンサーのスタミナの維持などにもつながる。ジムやピラティス、ジャイロトニックなど、個人的に体を鍛えているダンサーもいるが、できればそうした環境を内部に作っていきたいとも思う。世界から見ると日本では設備等々も含め、まだ遅れている面はあるが、提案だけはし続けていきたい」と話す。
そうした状況も踏まえたうえで、ダンサーの指導については「日々のお稽古の内容をより濃くしたい。基礎を見直しも含め、今ある環境の中で効率よくやれれば」という。そのため日常のクラスレッスンのためのゲストティーチャー招聘も考えており、「呼びたい人はたくさんいる。できるだけ多くの先生にダンサー達を鍛えてほしい」というように、講師陣のリストアップも進んでいるようだ。また「表現の部分や、古典を踊る上での舞台上のマナーなど、気になるところはたくさんある。踊りの技術も大事だが、バレエはテクニックだけで踊るものでもない。そうしたところも教えていきたい」とも。さらに「リハーサルに入念に時間をかけ、ダンサーの身体に振りが入った状態で舞台に立てるように指導していきたい」と語る姿には、現役時代に己に厳しく真摯に、日々バレエに取り組んできた「吉田都」を彷彿とさせる。「吉田都」は指導者となっても「吉田都」であると、思わせられた。
(撮影:西原朋未)
■振付家の発掘・育成やバレエ学校への夢も。「吉田都」にできることも積極的に
吉田次期芸術監督は「英国ロイヤルバレエ団は、劇場の歴史は長くはないが、優秀な振付家を育て、素晴らしい作品を世界に発信したことで世界三大バレエと言われるまでに成長した」と語るように、日本人振付家の発掘・育成も目標の一つに掲げており、「在任中に日本人振付家による新作の上演ができれば」とも。2020/2021シーズンのダンス公演には、恒例となっている新国立劇場バレエ団ダンサーの振付作品を発表する「Dance to the Future」が含まれていないが、これは次シーズンに復活の予定だ。
さらに観客動員数の増加も吉田次期芸術監督が考える課題。将来の観客である子供への公演のほか、バレエに興味はあるが敷居が高いと考えている、いわば潜在的需要の見込める観客を取り込むため「例えば私(吉田都)のプレトーク付きイベントやリハーサル見学、クラスレッスン見学など、バレエに興味を持ってもらうイベントなどにも取り組みたい。ライヴビューイングなどもできれば。多様な角度から将来の観客を取り込んで行きたい」とアイデアを語る。このほか日本バレエスタイルを学ぶバレエ学校の設立、バレエを通しての社会貢献など、アイデアや展望は次から次へと出てくる。「自分が海外で培ったもの、得たものをバレエ団のために活かしたい」という吉田次期芸術監督とバレエ団のチャレンジに期待したい。
(撮影:西原朋未)
取材・文=西原朋未

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