ACIDMAN 新たな驚きと発見に満ちた
、17年越しの名盤『創』再現ツアー

ACIDMAN LIVE TOUR“創、再現” 2019.12.12 新木場STUDIO COAST
ACIDMANのファースト・アルバムであり、ゼロ年代のロックを語るときに絶対に外せない名盤『創』。そのアナログ・リリースと連動し、全国6会場を巡る『ACIDMAN LIVE TOUR“創、再現”』のファイナル公演が、12月12日、東京・新木場STUDIO COASTで行われた。17年前、日本のロック・シーンに投げ込まれた衝撃が、2019年という「未来」にどう響くのか。歴史に刻まれる夜が始まる。
ACIDMAN 撮影=AZUSA TAKADA
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
オープニングSE「8 to 1 Completed」から、佐藤雅俊の強烈に歪んだベースが口火を切る「造花が笑う」、そして大木伸夫のギターが爆音で不協和音コードを叩きつける「Free White」へ。いきなりのラウド&ファスト・チューン二連発に、フロアが激しく沸騰する。目が眩むような、白、赤、青のライトの激しい明滅。近年はスロー・チューンを1曲目に置くことも多いが、後先考えず最初から飛ばすACIDMANはやはり格別だ。
ACIDMAN 撮影=AZUSA TAKADA
「僕たちの音楽がそれぞれの人生の一部になっている。それが僕たちの宝物です」
満員のフロアを見渡して「感慨深いです」と言った大木の言葉に、17年間の重みがにじむ。胸のすくようなエイトビート・チューン「シンプルストーリー」から「SILENCE」、「バックグラウンド」と、徐々にスピードをコントロールしながらライブは進む。新木場STUDIO COASTは音の良さに定評あるハコだが、今日は特に浦山一悟のドラムがクリア&タイトに響いて、爆音を浴びているだけで気持ちいい。極めつけは「to live」で、一悟と佐藤のソリッドなビート、大木のキレキレのカッティング、言葉のつぶてを吐き出すような歌、全てがパーフェクト。バンド最初期に作られた「to live」の頃から、ACIDMANはすでにACIDMANだったと納得する、時を超え心騒ぐ曲だ。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
もう年だからね、ゆっくりな曲をやります――。大木が軽口を叩いてオーディエンスを和ませたあと、中盤はスロー/ミドル・チューンを並べてしっとりと。ループするビートが心地よいインスト曲「at」から、サイケデリックなスロー・パートとアップ・テンポのパートが交錯する「spaced out」へ。浮遊感あるミドル・テンポの「酸化空」から、メランコリックな美しいメロディが光る「香路」へ。ラウドなギター・ロックを基本にしつつ、ここまで魅力的なバリエーションを備えたバンドは、当時も今も稀少であることを改めて実感する。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
一悟がマイクを握り、お馴染みのダジャレを交えたゆるいMCで盛り上げると、ライブはそろそろ後半だ。大木が17年前、『創』を作った頃の心境をしゃべりだす。あの頃はとんがっていた。世の中を斜めに見ていた。世界なんて滅べばいいと思っていた。でも本当は光を求めていた――。「そんな歌です」と言って歌った「今、透明か」の、崇高なほどの感動。ステージからあふれ出す強烈な光と、フロア全員のクラップを見ながら、大木が「光」という言葉に込めた思いの深さが、やっとわかった気がする。それが何より嬉しい。このツアーはノスタルジーじゃない、本当に再発見、新たな驚きの連続だ。
ACIDMAN 撮影=AZUSA TAKADA
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
一悟の高らかなカウントから始まる「アレグロ」、そして「赤橙」と、定番中の定番曲を2曲続けて。「アレグロ」のひたひた押し寄せる高揚感、「赤橙」のシュールな絵画のような幻想的な世界観は、何年たっても決して色褪せることはない。「揺れる球体」は、ACIDMANとしては異色のラップ・ミクスチャー風の曲調だが、当時の時代背景と、メンバーの若さを感じさせるという意味で興味深い1曲。今聴くととても新鮮だ。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
ここで大木が、今日のセットリストの種明かしをしてくれた。『創』リリース当時のツアー、2002年11月29日の東京・ON AIR WEST(当時)のセトリと、全く同じであること。「揺れる球体」が本編最後の曲で、ここからがアンコールだったこと。そこで新曲「飛光」を初披露したこと――。「東京、残りの時間、全部出し切れますか!」と叫ぶ声に、今日一番の歓声が上がった。爆発的な盛り上がりを見せる「飛光」、そして間髪入れず「培養スマッシュパーティー」へ。七色に輝くバックライトが、強烈なハレーションを引き起こす。爆音でギターをかき鳴らしながら大木が叫ぶ。「17年やってこれたのは、みなさん一人一人のおかげです。感謝してます。そんなみんなのための歌、『Your Song!』」 金色のテープが宙を舞い、フロアから無数の拳が上がる。激しくも美しい、素晴らしい一体感。
ACIDMAN 撮影=AZUSA TAKADA
ACIDMAN 撮影=AZUSA TAKADA
「世界を斜めに見ていた大木少年が、もう少し世界を信じてもいいかなと思った。そう思わせてくれたのはみなさんです。これからもポジティブなメッセージを歌っていこうと思います」
新曲をやります。あの時と同じように――。17年前、『創』の次の扉を開ける新曲は「飛光」だったが、2019年、『ACIDMAN LIVE TOUR“創、再現”』のアンコールで初披露されたのは「灰色の街」という曲だった。リリースは現時点で未定だが、すでにSNSでは「#灰色の街」プロジェクトと題したファン参加型の企画が展開されている、ACIDMANにとって今一番大切な1曲。せつなく美しいメロディをたたえた、力強いミドル・ロック・バラード。「世界は歌になってく」――サビの歌詞が耳に残って離れない。これがACIDMANの、未来への第一歩になる。
ACIDMAN 撮影=AZUSA TAKADA
ここまでの5公演はここで終了だったが、やはりファイナル、このままでは終わらない。最後にもうひと暴れ、フロアがカオスと化した「ある証明」は、ACIDMANから長年支えてくれたファンへのプレゼントだ。そう、『ACIDMAN LIVE TOUR“創、再現”』は、過去の再現という名の新発見と共に、バンドとファンの絆を、もう一度しっかりと結び直すツアーでもあった。「もっともっと、やりたいことが増えました」と、大木は言った。バンドのエンジンに、また新たな燃料が投げ込まれた。ACIDMANの2020年はもう始まっている。

文=宮本英夫 撮影=AZUSA TAKADA、Taka"nekoze_photo"
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"

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