Yogee New Waves自主企画『Dreamin’
Night vol.6』ーー共に新しい時代を
牽引するSuchmosと繰り広げた一夜限
りのイベント

Yogee New Waves presents『Dreamin’ Night vol.6』2019.12.4(WED)東京・新木場コースト
間もなく訪れる2020年の幕開けを前にして、いわゆるテン年代後半の日本のミュージックシーンを語るときに欠かすことのできない2組の重要バンド、SuchmosとYogee New Wavesの対バンが実現した。12月4日(水)、新木場コーストで開催されたYogee New Wavesの自主企画イベント『Dreamin’ Night vol.6』だ。
この日のステージで、角舘健悟(Vo.Gt)は、「一体、シティポップって何だったんだろう?」と問いかけ、「俺たちはシティポップだけど、あいつら(Suchmos)は違うから」と語る場面があった。たしかに2010年代に登場した、80年代シティポップの文脈や、ブラックミュージックにもとづくアプローチ、海外ポップシーンのトレンドを敏感に取り入れた新世代ミュージシャンたちは、新しい時代のシティポップ(ネオシティポップ)ブームとして括られ、そこで頻繁に名前が挙がったのが、Suchmosであり、Yogee New Wavesだった。今、それをシティポップブームと呼ぶかどうかは別の問題だが、そんな2組が、2015年に新代田FEVERで行なわれた「vol.2」以来、再び『Dreamin' Night』で共演した意味は、とても大きいと思うのだ。それぞれのバンドが飛躍を遂げ、変化や進化を重ねながら、ブームを超えて、それぞれのやり方で自分たちの音楽を突き詰めていく、その姿勢が、同じイベントだからこそ強く浮彫りになるからだ。前置きが長くなったが、以下のテキストでは、そんなふうに新しい時代を牽引する2組が繰り広げた一夜限りのイベントをレポートする。
Suchmos
まず、Suchmosがイベントの口火を切った。先日、念願だった横浜スタジアムでのワンマンライブを成功させた彼らにとって、やや手狭にも感じる約キャパ2,500人の会場。そのステージに、YONCE(Vo)、TAIKING(Gt)、HSU(Ba)、OK(Dr)、TAIHEI(Key)、KCEE(DJ)の6人が並び立つだけで圧巻だ。
TAIKING(Gt)(Suchmos)
オープニングは、最新アルバム『THE ANYMAL』収録のダウナーな「In The Zoo」。陰りを帯びた壮大なサウンド。深いリヴァーヴを効かせたYONCEのボーカルには、「救ってよロックミュージック」と、内面の葛藤を吐き出すような心の叫びが綴られる。重厚で美しいコーラスから始まった音源未発表の新曲「藍情」では、TAIKINGの渋いギターが哀愁を誘った。

HSU(Ba)(Suchmos)
TAIHEI(Key)(Suchmos)

続けて、「東京のみなさんの前でやるのはお久しぶりです」と、YONCEがソウルフルなアドリブの歌で伝え、HSUの跳ねるベースと、TAIHEIのループする鍵盤が心地好いグルーヴを生んだ「TOBACCO」、巨大なミラーボールの光に包まれた「MINT」など、中盤は初期Suchmosを象徴する楽曲たちで、フロアをゆったりと踊らせていく。

OK(Dr)(Suchmos)
KCEE(DJ)(Suchmos)

そんな中、終盤に披露された「Hit Me, Thunder」(『THE ANYMAL』収録曲)は鮮烈だった。重々しいピアノを軸にした古いブルースの味わい。それは、冒頭の「In The Zoo」や「藍情」に並び、今のSuchmosのモードを顕著に表すナンバーだ。これまでのパブリックイメージを塗り替え、その瞬間ごとに自分たちが表現すべき音楽へと貪欲に飛び込んでいく、そんなSuchmosの「今」を感じると、なぜ彼らが新しい時代を切り拓くバンドになり得たのか、その理由がはっきりとわかる気がする。彼らは時代に媚びず、ゆえに時代に愛されるのだな、と。
YONCE(Vo)(Suchmos)
そんなライブを締めくくったのは、メンバーの息遣いを感じる繊細なバンドサウンドで届けた「Life Easy」。自分の信じるものを胸に人生をラフに楽しもう。その歌から感じる温かいメッセージは、演奏が終わったあとにも消えない余韻を残してくれた。
Yogee New Waves
カーペンターズの「We've Only Just Begun(愛のプレリュード)」を、ヴィブラフォン奏者・ビリー・ウッテンがカバーした音源がSEとして流れ出すと、美しい電飾が彩るステージにYogee New Wavesが現れた。バンドロゴと大都会のビル群が描かれたバックドロップの前に、角舘、竹村郁哉(Gt)、上野恒星(Ba)、粕谷哲司(Dr)が並び立ち、1曲目に披露されたのは「Megumi no Amen」。竹村が繰り出す粒だったギターの煌めきとノスタルジックなメロディ。音で景色を描くYogeeの雄弁なポップミュージックは、鳴り出した瞬間ここではないどこかへと連れ出してくれる。
Yogee New Waves
<ピカピカに光る 銀色のミラーボールよ>というフレーズに合わせ、会場のミラーボールが強い光を放った「Summer」に続き、「アーユーレディー? レッツゴー!」の掛け声で突入した「Good Night Station」では、サポートのパーカッション・松井泉とキーボード・高野勲も加わり、より厚みの増したグルーヴが開放的なムードを作り上げた。
角舘健悟(Vo.Gt)(Yogee New Waves)
そして、浮遊感のあるシンセとパーカッシブなリズムにのせて届けたのは、この日、リリースになった最新EP「to the MOON e.p.」のタイトルトラック「to the moon」だ。2014年の1stアルバム『PARAISO』に始まり、2017年の『WAVES』に加えて、今年3月に発表された『BLUEHARLEM』に至り、「島三部作」を完結させた彼らは、最新作「to the MOON e.p.」で月を目指した。そんな新作EPのレコ発イベントでもあるこの日は、今、様々な音楽をバンドの血肉として新しいフェーズへと進んでいるYogeeの一端を感じられるライブでもあったと思う。
粕谷哲司(Dr)(Yogee New Waves)
最初のMCでは、「ただいま東京。長いアジアツアーから帰ってきました!」と、角舘。中国をはじめ、台湾、タイ、マレーシアを含む全都市を巡るアジアツアーから帰国したばかりということもあり、「中華料理は好きだけど、帰ってきて冷凍していたシチューを食べたら、めっちゃ美味しかった」と会場を和ませた。さらに「今日はすげえハッピーな気持ちでいっぱいです」と、ホームタウンである日本のファンの前だからこそリラックスした表情を見せると、「Climax Night」では、スタンドマイクをステージ際へと移動し、少しでもお客さんを近くに感じられる距離で歌う。続けて、「HOW DO YOU FEEL?」へ。中盤は、ゆったりとしたナンバーに酔いしれるチルタイムだった。
竹村郁哉(Gt)(Yogee New Waves)
「Vol.2」以来の『Dreamin' Night』での共演となるSuchmosについて、「(久々に楽屋で)一緒にくだらない話をして。幼馴染ってこういう感じなんだなと思った」という角舘。さらに、自分たちが鳴らす音楽について、冒頭に書いたとおり、「俺たちはシティポップだから」と伝えると、「シティポップっていうのは、都会に対するニヒリズムというか、都会に住んでるからこそ感じる都会の美しくないところを歌にしてるものだと思います。俺は音楽をやってるときだけ、都会の窮屈さから逃れられると気づいた。だから、それを聴いてみんなが少しでも「今日の山手線はつまらなくなかった」と思えたら、すげえ最高だなと思って音楽やってます」と語った。
上野恒星(Ba)(Yogee New Waves)
「これから終盤戦なので、乗り遅れないようにいきましょう!」という言葉を合図に、軽快なシャッフルビートを刻んだ「あしたてんきになれ」(「to the MOON e.p.」収録))に続けて、パーカッシブなリズムが太陽の照りつける夏空の下へと誘うような「CAN YOU FEEL IT」へと突入すると、ライブはクライマックスに向けて熱狂を加速させていった。間髪入れずに繋いだ「Bluemin' Days」では、<花束をあげよう 踊る君に>というフレーズに、角舘が「Suchmosに!」と加えれば、フロアは割れんばかりの歓声に包まれる。乾いた心が潤っていくような、ぽっかり空いた心の穴が満たされていくような心地好い時間。これが永遠に続いたら、と夢想してしまう最高のライブを締めくくったのは、「Ride on Wave」だった。ステージから溢れる美しい光。盛大なシンガロング。メンバーが次々に繰り出すソロ回しが喝采を呼ぶなか、言いようのない幸福感に包まれてライブは幕を閉じた。
Yogee New Waves
アンコールでは、「Suchmosとは、(今まで)少し対バンをしたけど、そういう時間の中で見つけたラブリーなやつをやります」と伝え、フロアから自然とシンガロングが巻き起こった「Like Sixteen Candles」、さらに「ロックロールってのはいくつになっても最高っすね!」という角舘のやんちゃな言葉とともに届けた「Good Bye」の2曲を披露して、3時間にわたる『Dreamin’ Night vol.6』は終演。都会の喧騒から抜け出すことのできるYogee New Wavesのライブだが、最後には、再び現実と向き合うための別れの歌で見送ってくれるところが、とても優しかった。
取材・文=秦理絵 撮影=Naruki Yamaguchi

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