スロウカーブの挑戦とGONZO魂 “弧
を描く謎の決め球”のようなアニメを
つくりたい

 テレビアニメや劇場アニメなど、毎クール多くのアニメ宣伝を手がけているスロウカーブ(http://www.slowcurve.co.jp/ )。エンディングのテロップで名前を見かけた人も多いのではないだろうか。同社は、「+Ultra」枠で1~3月に放送された「revisions リヴィジョンズ」からアニメプロデュースを手がけており、その後も、ポリゴン・ピクチュアズ制作の劇場アニメ「HUMAN LOST 人間失格」(11月29日公開)、「カゲプロ」のじんと「エウレカセブン」の佐藤大がタッグを組む「LISTENERS(リスナーズ)」と意欲的なオリジナルタイトルが控えている。

 同社プロデュースチームの中心メンバーである尾畑聡明氏(写真右)と橋本太知氏は、ふたりともGONZO出身。前述した3タイトルは、エッジのきいた作風や世界市場への志向など、往年のGONZO作品を思わせるところもある。宣伝からアニメプロデュースに乗り出した経緯をうかがうべく、7月下旬、東京・神保町の書店街からほど近いオフィスを訪ねた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
尾畑:こう言ったらなんですけど、我々に話を聞きにくるのはちょっと物好きですよね。
――いえいえいえ。
尾畑:アニメビジネスを専門にされている数土直志さん(https://anime.eiga.com/news/column/sudo_business/ )からいろいろ聞かれたことはありましたが、今回のように記事にまでなるのはもう少し先のことかなと思っていました。
橋本:スロウカーブ単体へのインタビューは、これがほぼ初めてですよね。
――媒体として日頃お世話になっているスロウカーブさんが、「revisions リヴィジョンズ」で“企画・プロデュース”としてクレジットされているのを見て驚きまして、その後、立て続けに発表されたオリジナルタイトルにも注目していました。
尾畑:ありがとうございます。
――アニメのプロデュースをはじめようと思われたきっかけから聞かせてください。
尾畑:そうですね……。アニメの宣伝をやるなかで、基本的には「こういう作品があるから宣伝してほしい」と話をいただくのですが、場合によっては「ターゲットを考えてください」「この作品の強みを掘り出して考えてみてください」と踏み込んだところまでお手伝いすることも多かったんです。そうしたときに「おやっ」と思った瞬間があって、「誰に届けるかを決めないでつくっていることもあるのかな」という疑問が生じたんですよ。例えば、「黒烏龍茶」はどういう人に飲ませたいかを決めてつくっているじゃないですか。
――なるほど。体脂肪が気になる人に向けてというコンセプトで商品開発されているわけですものね。
尾畑:宣伝の仕事はとても楽しくて、より良い宣伝をするためにクリエイティブのほうまで深く入らせていただくことが増えてきたときに、「誰に何を届けるか」を決めたうえで、自分たちが宣伝として届けていくことをやっていきたいなと思うようになっていったんです。もちろん、アニメをつくること自体も非常に面白そうだなっていうのもあったんですけれど。そんなときに、橋本がウチにきたんですよ。
橋本:4年前のことですね。スロウカーブのプロデュースチームが立ち上がったときのコアメンバーは、尾畑、僕、高篠(秀一)で、3人ともGONZO出身なんですよ。2008~09年に放送されたテレビアニメ「ドルアーガの塔」(※第1期「ドルアーガの塔~the Aegis of URUK~」、第2期「~the Sword of URUK~」)をつくったときのメインのプロデュースチームでもあって、その後はみんなバラバラになりましたが、僕と尾畑はその後もいろいろと話をしていまして。僕はGONZOを抜けたあとサテライトに行って、「劇場版マクロスF サヨナラノツバサ」のアニメーションプロデューサーなどをやっていたんですけれど。
――そうなんですね。
橋本:サテライト在籍時も、「AKB0048」をゲーム化するときに相談するなど、尾畑との繋がりはずっとありまして。当時のことでよく覚えているのが、「ドルアーガの塔」の第1期と第2期の間に、クロスメディア展開としてオンラインゲームと共同発表したとき、「この座組やスキームは間違っていないから、この先もっとやっていけるんじゃないか」という話をしたことです。実際、尾畑はスロウカーブでもゲームとアニメを繋いでいくような仕事をしていました。で、4年前に一緒にオリジナルアニメをやりたいよねと話して、その過程で「HUMAN LOST 人間失格」のもとになる企画ができて尾畑に預けたんですよ。
――「revisions リヴィジョンズ」より、「HUMAN LOST 人間失格」のほうが企画は先だったのですね。
尾畑:そうなんです。
橋本:「HUMAN LOST 人間失格」にいいスタッフが集まって、ビジネス的な座組もかたまる状況になったところで、本格的に一緒にやろうと僕はスロウカーブに移ってきたんです。そのあたりから、アニメの企画・プロデュースから、衣つきの「製作」の部分までトータルでやっていく今のかたちがはじまった感じですね。
――橋本さんはGONZO時代にテレビアニメ「SPEED GRAPHER」(05)や「巌窟王」(04)のプロデューサーをされていますよね。この頃のGONZO作品が特に好きでした。
橋本:ありがとうございます。
――とんがった作品が多くて、「SPEED GRAPHER」も当時かっこいいなと思いながら見ていました。コザキユースケさんは「SPEED GRAPHER」「HUMAN LOST 人間失格」ともにキャラ原案をされていて、こんなところで繋がっているんだと思いました。橋本さんは、GONZO時代に脚本の仕事もされていますよね。
橋本:はい。アニメ「ゲートキーパーズ21」(02)のシナリオを書かせてもらいました。
――尾畑さんは、そんな橋本さんがつくった企画を見て、これはいけると思って動かれたわけですよね。
尾畑:GONZOのときから彼の立てる企画やアイデアは、いい意味で狂っていましたから(笑)。僕もそういうのが好きでしたし、「HUMAN LOST 人間失格」のもとになった企画を見たときも「面白いのがきたな」という感覚がありました。最初にお話したように、宣伝の仕事をしているなかで「自分たちでもバットを振ってみたい」と思っているときに、橋本との企画話が進んだのは大きなきっかけになって、そこから一気にアクセルを踏んだ感じです。
――急に話が進んだわけですね。
橋本:僕の知るかぎり、尾畑はいちばん(企画の)実現力の高い人でした。「HUMAN LOST 人間失格」の企画も、普通だったら「面白いねえ、アッハッハ」と笑い飛ばして横にやられるもののひとつでしょうけど、まさかそれがかたちになるなんてと思いましたから。僕自身、「やれるんだ。すごい!」となって、じゃあ合流しましょうと。そんな感じでした。
(c)リヴィジョンズ製作委員会――橋本さんが合流されて、そこからはじめに世にでる「revisions リヴィジョンズ」の企画もでてきたわけですね。
尾畑:そうですね。せっかくなのでもう少し細かくいいますと、「HUMAN LOST 人間失格」の前に「revisions リヴィジョンズ」の原型となるような企画もずっとやっていたんですよ。それが変わっていって、今の「revisions リヴィジョンズ」になりまして。
橋本:そうですね。
尾畑:続けて発表したので急にしかけたと思われがちですが、4年ぐらい前から大事につくってきたものが実を結びつつあるというのが本当のところなんです。
橋本:「revisions リヴィジョンズ」の企画は、2015年頃にはスキームや座組は大体あって、16年頃から具体的に動いていた記憶があります。僕が書いた企画内容を谷口悟朗さんに見ていただいて監督として参加していただけることになってから、谷口さんや深見(真)さんの意見が入り、当初とはまったく違うものに昇華されていきました。
 「HUMAN LOST 人間失格」も同じで、最初に「太宰治の『人間失格』をダークヒーローものにする」というコンセプトがあって、その段階で一応お話のかたちもつくってはいたのですが、そこから本広克行さん、冲方丁さん、木崎文智さんのもとに預けられ、さらにコンセプトアートの富安健一郎さんのチームとの話し合いで進化していき、今のかたちになっているんです。
――「revisions リヴィジョンズ」は、VFXやフォトリアル系のCGアニメのイメージが強い白組がテレビシリーズでセルルックの3DCGに挑戦するところも興味深かったです。なぜ白組さんだったのでしょうか。
橋本:エンカレッジフィルムズと白組が共同制作した「えとたま」(15)の原作者のひとりであるやまけんさんはGONZO時代からの古い知り合いで、やまけんさんから、「白組さん、絶対にいいよ」という話を聞いたのがきっかけです。
尾畑:そうして白組プロデューサーの井出和哉さんとお話したところ、ちょうど白組さんもヤングアダルト向けの作品を増やしていきたいと考えられていたんですよね。こちらの考えとピタリとあってラッキーでした。
――「revisions リヴィジョンズ」が1~3月にオンエアされて、視聴者からの反応こみで、いろいろな反響があったと思います。初のプロデュース作品を世にだして、どんな手ごたえがありましたか。
尾畑:僕の気持ちとしては、「すがすがしい」の一言でした。とにかくバットを思いきり振れた実感がありましたので、やりきった充実感がすごくあって。大きな実りがありましたし勉強にもなりました。本当にやってよかったという気持ちがあって、クリエイターの皆さん、フジテレビさんなどのビジネスパートナーの方々には感謝の一言に尽きます。
――シリーズ構成として参加した橋本さんはいかがでしたか。
橋本:結果としてシリーズ構成として関わらせていただくことになり、夢がかなった感じでした。GONZO時代に「ゲートキーパーズ21」でシナリオを書いたことがあるとお話しましたが、あの作品はシナリオライターの山口宏さんが原作・脚本・監督をされていて、山口さんは僕の師匠のような人なんです。あのときは、ほぼできあがっている話をシナリオにまとめる作業に近かったのですが、「revisions リヴィジョンズ」はスタッフの皆さんの意見を踏まえながら、自分で実際に筆を動かしました。これまでプロデューサーとして関わってきた作品とはまた違った感慨が非常にありましたし、何よりうれしかったですね。お客さんからの反応についても、僕たちがつくりながら感じたことは、やっぱり伝わるものなんだなとも思いました。
――お話をうかがっていると、クリエイティブ面のアイデアや脚本に関する部分は橋本さんを中心にやられていて、企画を実現させるためにプロデューサーとして各社や制作スタジオとやりとりされるのが尾畑さんという役割分担をされているようですね。
尾畑:大きく分けるとそうですね。
橋本:尾畑との企画づくりは、座組やビジネス面のシチュエーションが先に提示されて、「このストライクゾーンにはまるようなもの(企画)を投げろ」という状況で、僕をふくめたスタッフたちでいろいろな球を投げていくかたちが多いです。現在発表されている3作品は、そんなことをしているうちに固まっていった企画でもあって、みんなが足りないパーツをもち寄っていくなかで、上手い具合にはまっていったということです。
――コアメンバー3人のひとりである高篠さんは、どんな役割をされているのでしょう。
尾畑:事業計画や契約面などバックヤードを主にやってもらっています。一方で彼はアニメが大好きなので、クリエイティブ面にも関与していて、いろいろなアイデアをもらっています。
――お三方とも、少しずつ重なりながらも、それぞれに違った部分を担っているのですね。
橋本:そうですね。僕もアニメが大好きですが、高篠のように今現在のアニメにどっぷりという感じでもないので、プライムなフィールドを志向している彼に上手く補完してもらっている部分もあります。
(c) 1st PLACE・スロウカーブ・Story Riders/LISTENERS 製作委員会――現状タイトルと、じんさん、佐藤大さんのお名前のみがでている「LISTENERS」についても聞かせてください。音楽がテーマで、おふたりがメインというだけでワクワクする感じがありますが(https://anime.eiga.com/news/108758/ )。
橋本:「マクロスF」の劇場版が終わったぐらいのタイミングで、じん君から次回作はロボットものでやってみたいという話をもらったのが企画の発端でした。そこから紆余曲折があるうちに、僕がスロウカーブに移るぐらいのタイミングで、新たにもう一回やり直そうという話になり、リブートしたのが「LISTENERS」です。
 と言いつつも、最初からロックをはじめとする音楽とアニメを、今までにないかたちで重ねることを追求する、ある種のオルタナティブなものの集大成を出そうという狙いはありました。じん君も佐藤さんも、そうした部分でのオーソリティーですし、僕自身もプロデューサーとして「マクロスF」や「巌窟王」「SPEED GRAPHER」で音楽とアニメの融合にチャレンジしてきたつもりでしたので。あと僕は昔アマチュアバンドマンだったこともありまして。
――そうなんですか。
橋本:はい(笑)。ぶらぶらしながらバンドをやっていた時期もありました。そんなこともあって、音楽とアニメは、ある意味同じようなところにあるものではないかという考えは昔からもっていて、そこは3人の間で共通するところでもありました。そこから作品としてどうまとめていこうという話になり……なので、企画としては「LISTENERS」がいちばん古いとも言えます。
 その後、「HUMAN LOST 人間失格」の企画が本格的に立ち上がり、僕がスロウカーブに移ったあたりから、じん君が所属する1st PLACE代表の村山(久美子)さんともお話して正式に次回作をお手伝いさせてもらえることになり、あらためて佐藤大さん率いるStory Ridersともお話して、スロウカーブをふくめた3社で、企画が成立するまで持ち出しで頑張ろうとやりはじめたのが、本格的なスタートでした。そこからクライアント各社をまわっていくなかで中身も変わっていき、昨年春にDMM社のコミットを受けてからガッと進みはじめた感じです。
――「LISTENERS」の企画を聞いて、尾畑さんはどう思われましたか。
尾畑:「絶対にやりたい」と思いました。話を聞いた時点ではラフのイラストだけがあって、それを見せてもらいながら一言二言説明を聞いただけで、もう一目ぼれみたいになり、ウチで進めようと決めました。
橋本:尾畑が加わるまで、アイデアはあって企画メンバーもいたんですけど、それを実現するための具体的なルートがなかったんです。そこにスロウカーブが関わることになって具体的に進みはじめたという。
――ひとつの企画が上手く転がることによって、他の企画も連動してまわりだすじゃないですけれど。
尾畑:そうだったのかもしれませんね。こういう言い方はあまりよくないのかもしれませんが、ビジネスとして作品をつくるときに「年間何本やらなければいけない」みたいな考え方もあるじゃないですか。
――はい。
尾畑:僕らはそういう考え方ではやっていなくて、「やりたいからやる」なんですよね。だから、こういう企画が舞い込んでくるのかなと思ったことがあります。
――「LISTENERS」は、キャラ原案をpomodorosa(ポモドロサ)さんという方が担当されていて、この方も音楽をやられているそうですね。
橋本:pomodorosaさんはもともとCM音楽のアレンジジャーなどをされている方なんですよ。菅野よう子さんが手がけられたCM音楽などで数多くアレンジを担当していて、「スペース☆ダンディ」に楽曲提供もされています。
――謎の方だなと思っていました。
橋本:ほんとに不思議な方ですよ。男前で絵が上手くて音楽もできる。そんなずるい人がいるんだ(笑)、と思いましたから。「LISTENERS」は今後いろいろ情報がでていきますので、楽しみにしていただければと思います。

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