『はい!丸尾不動産です。』兵動大樹
が演出家にも内緒のボケをぶちかます
?! 桂吉弥は冒頭から勝負を賭ける
ーーSPICEだけに明かした舞台裏

11月30日(土)大阪・ABCホールで、いよいよ初日の幕が開く舞台『はい!丸尾不動産です。〜本日、家に化けて出ます〜』。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
1作目『本日、家をシェアします』から密着取材をおこなっているSPICEでは、公演が直前に迫る同作の稽古場へまたまた独占潜入。今回は、前作に引き続いて主演を務める関西きっての人気者、お笑い芸人・兵動大樹と落語家・桂吉弥のインタビューを中心にお届けする。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
今作は、オープニングからピリッとした空気が漂う。老人福祉の救世主として注目されている男・林田(吉弥)が、母親・光子の自宅で彼女の遺体を発見。母親を失った悲しみと、そして何やら複雑な事情もはらんだ様子で頭を抱える。だがこのシリアスなムードが、軽妙さが持ち味の不動産営業マン・菅谷(兵動)の登場で笑いへと転化する。見事な展開なのだが、一方でバランスを一歩でも踏み違えると「ここは笑って良いのか」と観客が戸惑ってしまいそうな、スリリングでチャレンジングな場面となっている。
桂吉弥
吉弥:前作では、一件落着かと思いきや、最後にみんなが毒入りの日本酒を飲んじゃって「あっ、やっちゃった!」と笑える感じで終わるじゃないですか。でも、僕の知り合いの中に「あれからどうなったの。みんな助かったのか」と最後まで真剣に向き合う人がいたんです。お客さんにはそうやって、設定や仕掛けの隅々まで疑問を持って観てくださる人がいるので、舞台は本当に隙がないなと思いました。だから今回のオープニングは、どう受け取られるのか。母親が死んでいるわけだし、たとえ無残な状況ではなく、のちに若かりし姿で化けて出てくるといっても、やっぱり遺体がずっとそこにあって、その中で物語が進むので。「おばあちゃんはとりあえず大丈夫そうだけど、逆に生きている側の方が大変だぞ」いう内容面がうまく伝わってほしいです。
桂吉弥
吉弥はこの場面で、舞台という「観客に見えるもの」と、落語の「目に浮かぶもの」の違いを考えたという。
吉弥:落語は噺(はなし)で物語を進めるので、何も見えないし、想像してもらうことになります。たとえば、落語に「らくだ」という演目があるじゃないですか。あれも登場人物のラクダがすでに死んでいるところから始まるけど、遺体が見えていないから、良い感じでお客さんは忘れて話に乗っていける。「亡くなってるんやから、笑われへんわ」とはならないんですよね。でも『本日、家に化けて出ます』は遺体がずっと舞台上に置いてありますから。そういう意味でどう受け取られるんでしょうね。
菅谷と林田の初対面から始まる、笑いをまじえた押し問答は、そのあと光子が生前懇意にしていた訪問販売員・角田(佐藤太一郎)も巻き込んでいく。この一場面には、全体尺の4分の1に相当するほど時間が割かれているのだが決して長さを感じさせない。その要因の一つは、菅谷に扮した兵動の臨機応変な芝居がこの場面を豊かに広げているからだ。
兵動大樹
兵動:いや、でも初日であの場面をスベッたら、千秋楽はめちゃくちゃ短くなっているかもしれません(笑)。そこは一度やってみて、お客さんの雰囲気を見て毎回考えていく感じですね。今回の菅谷は好き勝手にいらんことばかりする役なので、そこは面白く感じてもらえるはず。どこまでやるかは演出家の木村淳さんとその都度、ジャッジしていくことになりそうです。今は稽古をやりすぎていて、あの場面は一つひとつの動作が長なっているんです。やっぱり自分としては笑えることは引き伸ばしたくなるので。もしお客さんが僕を乗せてしまったら、稽古時の1.5倍はやってしまうかも(笑)。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
兵動の芝居に関しては、前作以上に自由度が感じられる。もちろん台本というフォーマットに全てのっとってのものなのだが、それでも演出家の木村が常々口にしている「その役として、台詞や動きをつけてほしい」という要求通り、菅谷として自由に発言し、笑わせている感があるのだ。

兵動大樹

兵動:ちょっとやりすぎているところは確かにあると思うんです。だけど、光子をからかうシーンにしても、さきてぃ(清井咲希)のイラつく顔が見たいからやっているんですよね。ああいう顔って、たこやきレインボーのときは見せないはずなので。
吉弥に関しても、前作時は不慣れな舞台芝居とあって「お客さんがどう反応してくれるだろうか」という不安が先行していたそうだが、今回は板の感触を楽しみながら踏んでいる様子が見て取れる。
桂吉弥
吉弥:まさにそうなんです。兵動さんや、あと妻・早苗役の三船美佳さんたちと、お芝居の中で喋っているのがすごく楽しい。みんなが涙をためている目、怒っているときの顔、それらを見てこちらもスッと台詞が出てくるようになりました。前作のときは「どうしよう」「うまくできるかな」というのがまず頭にあったけど、今は「この人と喋ったら、どんなふうになるかな」という気持ちの方が大きいんです。だから幕が開くのが待ち遠しい。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
この日の通し稽古でも、木村からは「細かい部分の修正はありますが、大きいところはもう言うことはほとんどありません。お芝居も素晴らしいです」とキャスト陣に賛辞をおくった。逆に兵動が「(光子が発明したA.Iロボットの)MITSUの喋り方なのですが、このままでいきますか?」とさらに作品を良く見せるためのきっかけを作り、太一郎も「確かに、このままだと後半のお芝居が止まってしまう気がするんです」と乗る一幕も。
木村 淳(カンテレ)
木村も「うん、そうですよね。あの場面は人と人の会話が重要になるから、MITSUの喋り方で止まってしまう感はありましたね。よし、明日もう一度声を録り直そうか」と耳を傾けた。各界の売れっ子たちが集まり、全員が真剣になって舞台を作り上げている姿は、本番前ながら早くも心揺さぶられるところがあった。
兵動大樹
兵動:実はね、ラストでもう一つ、ボケの提案があるんですよ。でも、木村さんにはまだ言っていないんです。もしそれを言ったら、木村さんにめちゃくちゃ怒られる気がするんですよ! 最後の最後で、木村さんにシバキまわされるんちゃうかなって(笑)。前作の千秋楽でも、カーテンコールで史上最速のダメだしを受けましたから。だから、これについてはまだ言えてないんですけど。もしそれをやる根性があれば一番大事なところで、しでかしてやりたいと思っています。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
兵動、吉弥ともに「お客さんに早く観てもらいたい」と気持ちが抑えきれない様子。きっとそれは、共演する三船美佳、佐藤太一郎、清井咲希、明石陸、演出の木村をはじめとするスタッフも同じ想いだろう。一座のムードは良い形でピークに達しつつある。あとは本番を待つのみだ。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

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