金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第19回 1973年は
プログレ絶頂期&『日本沈没』の年

■金属恵比須が遂にオーケストラ&五木ひろしと夢の共演
『小松左京音楽祭』が2019年11月30日(土)に、成城学園 澤柳記念講堂で開催される(主催:小松左京音楽祭実行委員会、共催:スリーシェルズ)。
フル・オーケストラ編成で、『日本沈没』の1973年映画版、テレビドラマ版、そしてラジオ版の3ヴァージョンを再現するという前代未聞のコンサートだ。さらに、小松左京原作の『エスパイ』、『宇宙人ピピ』なども演奏され、小松本人がメガホンをとった『さよならジュピター』や、なぜか『ゴジラ』もセット・リストに入っている(理由は公演会場所蔵のピアノが作曲者・伊福部昭と深い繋がりがあるからだという)。
そのような歴史的な出来事を彩る演奏を担うのはオーケストラ・トリプティーク。そしてそのフル・オーケストラ体制に加え、バンド・セクションに選ばれたのが、なんと金属恵比須なのだ。初のオーケストラとの共演である。
佐藤勝作曲の、オーケストラによる壮大なアレンジの映画版。
田中正史作曲の、シンセサイザーを前面に押し出したラジオ版。
廣瀬健次郎作曲の、フュージョン色の強いテレビ版。
すべてに金属恵比須が参加する。そして特筆すべきはテレビ版の主題歌「明日の愛」「小鳥」を歌った五木ひろしのゲスト出演。筒美京平作曲のこの2曲をフル・オーケストラと金属恵比須で再現することとなった。これは前代未聞、オーケストラ、プログレ、歌謡曲の融合である。
さらに「戦争を知らない子供たち」で有名な杉田二郎の出演も決定、『さよならジュピター』の挿入歌を再現する。
小松左京 (提供=イオ)
■金属恵比須、担当楽器を総入れ替え
今回、金属恵比須として参加するのは3名。
キーボードの宮嶋健一はベースを担当。
ベースの栗谷秀貴はギターの担当。
ギターである筆者はキーボードの担当。
非常にわかりにくいが、パート・チェンジをしての演奏となる。一つずつ楽器をずらしたおかしな編成だが、宮嶋は自身のバンド「ロマネスコ」においてベースを担当しており、栗谷はそもそもギタリストでありギターの講師も務めている。そして筆者も宮嶋加入以前の金属恵比須ではほぼ半分以上のキーボード・パートを弾いており、以前加入していた「内核の波」というバンドでもキーボードを担当していた。次の映像を見ればよくわかるはずだ。後ろ側には無数のキーボードが並べられている。これはすべて筆者の持ち物なのだ。
【動画】内核の波 / Please!

ちなみに、一生懸命弁当を食べているのが筆者である。キーボードを弾いていない曲で恐縮であるが、この“食のパフォーマンス”は、YESのコンサートで「海洋地形学の物語」に不服だったリック・ウエイクマン(Key)が演奏しながらカレーを食べていた、という伝説的エピソードへのオマージュだった。
……ということで、昨今の金属恵比須に馴染のある方には少々奇異に感じられるかもしれないが、それぞれ違った楽器を持っても変わらぬ熱量のあるパフォーマンスが繰り広げられること必至である。なお、筆者の弁当パフォーマンスはさすがにオーケストラの前では自粛しておく。あしからず。
■シンフォニーをつくろうとして妥協したのが「紅葉狩」だった
思い返すこと25年以上前。中学1年の時にエマーソン・レイク&パーマー(ELP)にハマり、1977年「ワークス・ライヴ」の「海賊」の演奏に度肝を抜かれた。
【動画】Emerson, Lake & Palmer - Pirates - Live In Montreal, 1977

ロック・バンドがオーケストラを引き連れ豪華なアンサンブルでまるで映画音楽のような楽曲を奏でている。これをやりたい。
中学では毎年10月に合唱発表会という行事があった。杉並公会堂(四人囃子の初舞台会場でもある)を貸し切り、クラスごとに合唱を披露する。そして最後に吹奏楽部が演奏をして締めるのであるが、そこに金属恵比須(前身)が吹奏楽部とともに舞台に立つということを毎年妄想していた。風呂の湯船につかりながら。
しかしあっという間に中学の3年間が過ぎる。オーケストラではなく吹奏楽ではあったものの、ロック・バンドとそれ以外の楽器との共演の夢は潰えた。なお、当時のオリジナル曲のレパートリーは「行け行け暴走族」と「豚」。仮に共演しても「海賊」には遠く及ばぬコンセプトの曲ではあったけれども。
そんな憧れを持ちながらも、やはりオーケストラへの憧れは消えず、大学のころにはワーグナーにハマり、『ニーベルングの指環』のような壮大でシンフォニックなオペラをロックでやってみたいと思った時期もある。それが後の「紅葉狩」となるが、オペラにはならなかったものの、能や歌舞伎の台本を歌詞に絡め、オーケストラの音を再現するメロトロンの音をふんだんに使って粉骨砕身した憶えがある。つまり、中学時代に憧れたオーケストラとの共演の“できそこない”が『紅葉狩』だったわけだ。
11/27発売の金属恵比須 新譜『シン・紅葉狩』 ジャケット
■映画好きでサントラ好き
なぜここまでオーケストラのシンフォニックな曲に憧れていたかといえば、映画音楽が好きだったからだろうと今になって思う。
映画好きの両親はのべつ映画を見ていた記憶がある。その中でも戦争映画『バルジ大作戦』のテーマ(ベンジャミン・フランケル)と『スター・ウォーズ』(ジョン・ウィリアムズ)が大好きで、ビデオでオープニングばかり繰り返し見ていた。レコード屋で最初に立ち寄っていたのはロックコーナーではなくサントラコーナーだった。高校生になると横溝正史の金田一耕助シリーズにハマり、大野雄二『犬神家の一族』(オーケストラではないが)、芥川也寸志『八つ墓村』を聞きまくった。
この頃には金属恵比須の活動も本格的になっており、ライヴの登場音楽で使われた音楽もほとんどが映画音楽だった。記憶に残っているものを列挙してみる。
・ダース・ベイダーのマーチ(『スター・ウォーズ』ジョン・ウィリアムズ)98年
・怪獣総進撃マーチ(『怪獣総進撃』伊福部昭)98年
・天河伝説殺人事件テーマ(『天河伝説殺人事件』宮下富実夫谷川賢作)99年(※谷川氏ご本人にお会いし、サントラを購入)
・愛のバラード(『犬神家の一族』大野雄二)00年
・呪われた血の終焉(『八つ墓村』芥川也寸志)12~16年
・武田信玄メインテーマ(『武田信玄』山本直純)16年
・風馬(『おんな城主直虎』菅野よう子)17年
・真田丸メインテーマ(『真田丸』服部隆之)18~19年
高校時代には音楽だけでなく、映画自体もつくってみたいと監督を志し、庵野秀明監督にお見せしたりもしたが、あまりの才能のなさに落胆し、それ以来手を引いている。
映画で印象的だったのが、幼稚園時代に見た『新幹線大爆破』と『日本沈没』だった。ともに日常生活が恐怖のどん底に陥れられるパニック映画だったが、とりわけ『日本沈没』は強烈で、トラウマとなったぐらいだ。火災で壊滅する首都高、沈没する日本に残ろうとする田所博士。幼稚園生には刺激が強すぎた。当時近所にあった保険会社の看板「大東京火災」(現:あいおい損保)を見ては、父に、「東京が火で燃えちゃうの?」と恐れながら聞いていたぐらいだ。どうやら「日本、沈没」「大東京、火災」と同列に捉えていたらしく、映画のタイトルと間違えていた。
■1973年はプログレの年
このように、オーケストラ愛、サントラ愛、映画愛にあふれた筆者にお声をかけていただいたのが、今回の小松左京音楽祭実行委員会の主要メンバーのひとりで、スリーシェルズのプロデューサーを務める西耕一氏である。西氏曰く、「日本沈没にはプログレを感じる」ということで金属恵比須に白羽の矢が立ったとのこと。
たしかに発表されたのは1973年。イギリスではプログレというジャンルが頂点を極めた年である。イエス『イエスソングス』『海洋地形学の物語』、キング・クリムゾン『太陽と戦慄』、ピンク・フロイド『狂気』、ELP『恐怖の頭脳改革』、ジェネシス『月影の騎士』が発表されている。
このエッセンスを取り入れ、何とか“日本”を“沈没”させたいものだ。プレッシャーに負けて筆者が“沈没”しないよう歯を食いしばるばかりである。
西耕一(左端)とオーケストラ・トリプティーク

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