【坂本真綾 インタビュー】
今ここにあるものに
意識をもっと向けられたら
物事をシンプルに
理解できるかもしれない
私にとっての今日だけの音楽は
最初からポケットに入っていた
大沢伸一さんとも初めてになるのですが、MONDO GROSSOの音楽も聴いていらっしゃったんですか?
高校生くらいの時から聴いてましたし、最近の満島ひかりさんをフィーチャリングした「ラビリンス」も素敵だと思っていて。でも、接点がなかったし、おいそれとお願いできるような方ではないと思っていました。ところが、私の担当ディレクターが大沢さんの楽曲が好きで、私と大沢さんの組み合わせを見るのが夢だとずいぶん前から言っていたので、ダメもとでノックしてみたという感じです。
大沢さん作曲の「ホーキングの空に」は息が特徴で、声がすごく近くに感じる音像になっていますよね。何か録り方が違ったり?
録り方はいつもと同じですが、ある意味でヴォーカルも楽器のひとつとしてとらえているところがあったのではないかと思います。大沢さんのミックスはすごく立体的で、近い場面や空から降ってくるような場面があったり、エレクトロニックにグルッと取り囲まれるようなところもあって、プラネタリウムみたいだと思いました。目を閉じて聴くと、歌詞とも重なってとても宇宙感があると思います。
作詞は一倉 宏さんですが、以前にもご一緒されてましたね。
16年くらい前にNHK『みんなのうた』で「うちゅうひこうしのうた」という曲を歌って、その時の作詞が一倉さんでした。本職はコピーライターで、宇宙を語りながら内面に触れるところはとても一倉さんらしいです。同じメロディーのリフレインに、印象的な言葉を散りばめてくださいました。
Aメロ・Bメロ・サビみたいな、はっきりとした構成ではない感じの曲ですが、そういうところで難しいとかはなかったですか?
分かりやすい盛り上がりがないだけに、歌う側としては世界を作るのが難しかったです。ただ、大沢さんも歌入れに立ち会って、細かく指示をくださったのでスムースでした。
元キリンジの堀込泰行さんも初めてですね。
何年か前にキリンジの堀込高樹さんには書いていただいたことがあるのですが、泰行さんとはまだご一緒させていただいたことがなかったし、泰行さんも歌詞がすごく好きなので作詞作曲でお願いしました。泰行さんの最近のアルバム『What A Wonderful World』は新しい一面が見えてすごく素敵ですけど、この「火曜日」はどこかキリンジのデビュー当時に通じる王道のバラードで、私としてはとても懐かしい気持ちになりました。
別れた日が火曜日だったという切ない歌詞で、7日に1度切なくなるみたいな。
そんなにしょっちゅう切なくはならないと思いますけど(笑)。ふと思い出すと、火曜日だったくらいの感じじゃないですか。泰行さんらしいとても繊細な世界観で…打ち合わせの時大学ノートにメモを取りながら話を聞いてくださった姿がかわいいかったです(笑)。泰行さんご自身が仮歌を歌ったデモも本当に素敵だったので、いつかセルフカバーとして歌ってほしいです。
ラストには坂本さん自身が作詞作曲した「今日だけの音楽」が収録されていますが、これは最後に作ったのですか?
締め切りはもっと早かったのですが、図らずともそうなりました(笑)。自分で書くことは早い段階で決めていたものの、どんな曲にするかはギリギリまで定まっていなくて。みなさんが書いてくださった曲がどれもすごすぎて、それらをまとめる曲は荷が重いと思って、どうしようと思ったりもしました。そういうものをひと通り乗り越えたあと、自分の中から出てくる本当に誰のものでもない自分だけの音楽がそこにあれば、むしろ素朴なほうがいいんじゃないかと、なるべく格好付けず、小手先ではないシンプルな曲にしようという気持ちで作りました。結果的に私にとっての“今日だけの音楽”は、最初からポケットに入っていた素朴なものであったというショートストーリーの流れに、上手く収めることができたと思います。
ピアノを弾きながら作ったのですか?
はい。最初に《歌え 今日だけの音楽を》と歌っているリフレインが出てきて、これを曲のエンディングにする前提で作っていきました。サビのフレーズは1曲目の「はじまり」にも出てくるのですが、オーバーチュアを付けることも最初からイメージしていて。夢の中で聴いた音楽を思い出そうとすると、掻き消されてしまうようなものにしたいという構想のもとに作りました。
取材:榑林史章