最新ライブ・フィルム公開で振返る、
ピンク・フロイドとロジャー・ウォー
ターズの偉業

Pink Floyd(ピンク・フロイド)の主要メンバーとして活躍し、現在はソロとして活動しているRoger Waters(ロジャー・ウォーターズ)の最新ライヴ・フィルム『Roger Waters Us + Them』が遂に日本上陸を果たすことが決定した。
このライヴ・フィルムは、10月2日と6日に全世界60か国以上の約3,000もの映画館で上映されたもので、日本ではそのタイミングで上映はされなかったのだが、遂に11月30日(土)に全国16都市17ヶ所の映画館で1夜限りのプレミア上映が行われることとなった。
2014年には、2011年から3年間もの間続いたロングツアー「The Wall」を記録したライブ・フィルム『Roger Waters The Wall』を、ロジャー・ウォーターズ本人とショーン・エヴァンスが共同監督として一本の映画としてまとめあげ、今回と同じく1日限りの全世界公開という方法で公開している。
今作も前作と同様に監督はロジャー・ウォーターズ本人とショーン・エヴァンスが務め、2017年から2018年にかけて行われたワールド・ツアー「Us + Them」を映画としてまとめ上げた。撮影は、2018年6月18日、19日、22日、23日のアムステルダムのジッゴ・ドーム(Ziggo Dome)で行われている。
ピンク・フロイド時代に引けを取らない豪華なステージ・プロダクションで多くのピンク・フロイド時代の楽曲も披露されたこの「Us + Them」ツアーは、残念ながら日本での公演はないまま終了してしまったが、大スクリーンで追体験が出来る機会は本当に貴重なもの。
第76回ベネチア国際映画祭で初演され、10月2日と6日に全世界60か国以上の約3,000もの映画館で上映された後、ここ日本では11月30日(土)に全国16都市17ヶ所の映画館で公開されることとなったこのライブ・フィルム上映決定に際して、一度、Pink Floydとロジャー・ウォーターズの歩みや彼らの成し遂げた偉業を振り帰ることにしてみたい。これによって、このライブ・フィルムをより楽しめることになるだろう。
Pink Floydとは
ピンク・フロイドは、1965年に、ロジャー・ウォーターズ(B)、Richard Wright(リチャード・ライト)(Key)、Nick Mason(ニック・メイソン)(Dr)を母体にしたバンドにSyd Barrett(シド・バレット)(G, Vo)が加わることによって結成された。ちなみに、バンド名は、シド・バレットのアイディアで、ピンク・アンダーソン、フロイド・カウンシルという2人のブルースマンから取られた。
1967年にシングル「Arnold Layne(アーノルド・レーン)」でデビューし、全英チャートの20位に達するヒットとなる。次作のシングル「See Emily Play(シー・エミリー・プレイ)」は全英トップ10入りを果たし、シド・バレットのペンによるこの2曲によって、一躍、注目のバンドとなった。
同年、ファースト・アルバム『The Piper at the Gates of Dawn(邦題:夜明けの口笛吹き)』を発表。サイケデリック・ロックの名盤として名高いこのアルバムを主導し実質的なリーダーであったシド・バレットは、アルバム発表後に精神に不調をきたしてしまい、バンドを脱退することとなる。
この際に、シド・バレットと学生時代からの付き合いのあるDavid Gilmour(デヴィッド・ギルモア)(G, Vo)が加入し、1968年にはセカンド・アルバム『A Saucerful Of Secrets(邦題:神秘)』を発表し再出発をきることとなる。
以降、1969年に『Soundtrack from the Film More(邦題:モア)』、ライブ盤とスタジオ盤の2枚組である『Ummagumma(ウマグマ)』、1970年には23分を超える大作の表題曲を含む『Atom Heart Mother(邦題:原子心母)』、1971年には全英チャート3位に輝いた『Meddle(邦題:おせっかい)』を発表していき、順調にバンドのキャリアを積むこととなる。デビュー時の音楽性であったサイケデリックな側面はシドの脱退により影を潜めて行き、より実験的で、一曲の尺も長くなり、各楽器のアレンジメントも複雑になるなど、サウンドの驚異的な深化を遂げ、プログレッシブ・ロックと呼ばれるスタイルを独自に作り上げていった。
その彼らのサウンドの完成を決定づけたのは、1973年に発表された歴史的名盤『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』だ。このアルバムは、全世界で現在までに5,000万枚以上を売り上げ、全米1位、全英2位を始めとして各国のチャートを席巻。ここ日本でもオリコンチャートの2位を記録した。いまだに売れ続けているこの作品は、ロングセラーのギネス記録をも獲得している。曲間のほぼ存在しないトータルな流れと、緻密に練り上げれらたアレンジメントが織りなすトータル・コンセプト・アルバムとして、一つのロックのスタイルを確立したと言っても過言ではない。また、ヒプノシスの作り上げたシンプルで美しいアート・ワークは、見たことのない人はいないであろうと思われるほど有名なもの。
その後1975年に歴史的名曲として知られる表題曲を含む『Wish You Were Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい)』、1976年『Animals(アニマルズ)』、1979年には全26曲・2枚組の壮大なコンセプト・アルバム『The Wall(ザ・ウォール)』と歴史的名盤を発表し、その評価はゆるぎないものとなった。また、壮大なスケールで展開されるライブ・ツアーは圧倒的な印象を残し、アルバムとライブの両方で高い評価を得ている。特に、ステージ上に実際に巨大な壁を築き、客席とバンドを完全に遮断してしまうという壮大なスケールで展開されたコンセプチュアルな『The Wall』のライブ・ツアー(1980年に開催された)は伝説となり、その後、ソロとなったロジャー・ウォーターズによって、2010年から2013年にかけての大規模ツアーで再現がなされている。
アルバムとライブの両面で頂点を極めたバンドは、1983年の『Final Cut(ファイナル・カット)』の発表後にロジャー・ウォーターズが脱退を表明し、これによって活動がストップ。このまま解散かと思われたが、結局、デヴィッド・ギルモアを中心として3人体制で継続し、1987年『A Momentary Lapse of Reason(邦題:鬱)』、94年『The Division Bell(邦題:対)』を発表。その後、2014年に発表された『The Endless River(邦題:永遠(TOWA)』をもってバンドの活動の終了がアナウンスされた。
Roger WatersのPink Floyd後の活躍
ロジャー・ウォーターズは、英国ケンブリッジ出身の1943年9月6日生まれ。Pink Floydの“頭脳”とも呼ばれており、ほぼすべての楽曲の詞曲を手掛けるソングライターでもある。しかし彼の才はそれだけにとどまらずに1973年発表の歴史的名盤『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』以降のアルバム・コンセプトを成立させ、一枚のアルバムに緻密で壮大なストーリーを編み出したのはロジャー・ウォーターズなのだ。サウンド面はバンドとしてメンバー4人で担っていたが、Pink Floydのもう一面の重要な要素であるコンセプチュアルであるという側面は、すべてロジャー・ウォーターズが担っていたと言っていい。
1983年の『Final Cut(ファイナル・カット)』の発表後に「やれることはやりつくした」とバンドを脱退したロジャー・ウォーターズは、ソロとして1984年『The Pros And Cons Of Hitch Hiking(邦題:ヒッチハイクの賛否両論)』、1987年『Radio KAOS』、1992年『Amused To Death(邦題:死滅遊戯)』を発表。多くの著名なゲストを迎えて制作されたこれらのアルバムはいずれも評価が高く、ソロ・アーティストとしてのキャリアを築いている。
ライブ活動としては、1990年にベルリンの壁が崩壊した際にはベルリンにて大規模な『ザ・ウォール』の再現コンサートを開催。20万人を動員し、世界中でTV放送されたことでも話題となった。
2002年にはソロとして初めての来日公演が実現。筆者も参加したが、決して広くない東京国際フォーラム・ホールAで今までのPink Floyd時代の楽曲やソロの曲を惜しげもなく再現する様は圧巻だった。ただ、会場は満員ではなく、また個人的な感想だが、ロジャー本人もその時期の活動に満足していないのではないか、という感じがした記憶が強く残ったのも確かだった。
その後、2005年に「Live8」での突然のPink Floydの再結成が行われ、世界をあっと驚かせた。この一夜限りの再結成以降ロジャーの活動は目覚ましいものとなり、2006年にはアルバム『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』を完全再現するライブ・ツアー「The Dark Side of the Moon Live」を開催して好評を博し、ツアーは2008年まで続いた。
そして、2011年にはアルバム『The Wall』を完全再現して伝説となっていた1980年の「The Wall Live」を再演。3年間をかけて世界を回ることとなったこの大規模ツアーは、2012年の興行収入で史最も成功したツアーの一つとなった。このツアーは、ロジャー・ウォーターズ本人とショーン・エヴァンスが共同監督として一本の映画としてまとめあげられ、2014年にライブ・フィルム『Roger Waters The Wall』として1日限りの全世界公開という方法で公開されている。
筆者は、2011年にアテネで行われた「The Wall Live」に参加。奇しくもこのアテネ公演は映画が撮影されたライブであり、物々しいボディチェックと、携帯等一切持ち込み禁止という厳しい撮影用の規制が敷かれていた。アテネオリンピックが開催されたアリーナでのライブは、内容が進行するにつれて巨大という言葉では言い表せないほど大きな壁がステージ上に築かれていき、完全に客席とステージを遮断し、最後にはその壁が崩壊するという演出。また、築かれた壁はそもまま巨大なスクリーンとなり、様々な映像がタイトなバンドの演奏とシンクロし、その一大エンタテイメントとしてのステージングには度肝を抜かれた。それは、2002年に日本で観たロジャー・ウォーターズとはまったく別人の、まさに伝説のPink Floydの"頭脳”が息を吹き返したと言っていい瞬間だった。
その後、映画の全世界公開時には、なぜか東京では板橋のシネコンの小さな劇場でしか公開されなかったのだが、映画のクオリティの高さには舌を巻いた。実はアルバム『The Wall』は1982年にアルバムの世界観を映像化した映画となって公開されている(アラン・パーカー監督作)のだが、その映画を凌ぐ作品に仕上がっていることにとても驚いた記憶がある。
「US+THEM」ツアーと、ライヴ・フィルム『ロジャー・ウォーターズ US+THEM』
3年間に及んだ「The Wall Live」と、それを映画化した『Roger Waters The Wall』で再びシーンの最前線に戻ってきたロジャー・ウォーターズは、2017年に25年ぶりのニュー・アルバム『Is This The Life We Really Want?(イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?)』をリリース。プロデューサーにはレディオヘッドなどで知られるナイジェル・ゴッドリッチを起用し、バックのメンバーもナイジェル・ゴッドリッチ・ファミリーと言える面々を起用し、サウンドの若返りに成功した。
このアルバムの発売を機に、2017年5月から再び大規模な世界ツアーとなった「US+THEM」ツアーがスタート。新作からの選曲はもちろんのこと、Pink Flloydの名盤『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』『Wish You Were Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい)』、『Animals(アニマルズ)』、『The Wall(ザ・ウォール)』の代表曲が惜しげもなく披露されていくこのツアーはすぐに話題となり、2018年12月までの約1年半に渡り北米、豪州、ニュージーランド、欧州、ロシア、南米、中南米を回ることとなり、全156回の公演で230万人の動員を記録するツアーとなった。
そして、このツアーを撮影しまとめ上げたのが、最新ライヴ・フィルム『ロジャー・ウォーターズ US+THEM』だ。この長いコラムでバンドとロジャー・ウォーターズの活動を振り返ってきたが、この最新ライヴ・フィルム『ロジャー・ウォーターズ US+THEM』はまさに、50年以上に渡る彼の活動の集大成と言っていいものだということがわかっていただけたと思う。
日本での公開は世界同時公開ではないが、前回と比べても格段に公開される劇場の数が増え、数段グレードアップしたイベントとしての一夜限りのプレミア上映となる。
映画館で、ピンク・フロイドとロジャー・ウォーターズのスケール感を満喫したい。
なお、イープラスでは、2次先行として2019年10月19日(土)12:00[正午]~ 10月26日(土)23:59まで、プレイガイド先行受付(抽選)のイープラス プレオーダーを行うことになっている。

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