【ライブレポート】他に例のない音楽
イベント<SHIBUYA SHOWCASE FEST>

1O月3日から5日にかけて、音楽イベント<SHIBUYA SHOWCASE FEST 2019>が行われた。
あらゆるタイプの音楽イベントが揃ってる東京でも、これは他に例のない類の内容だった。なぜならイベントの中心人物は長く日本に住んでいるフランス人で出演者は世界中から集まる若手ミュージシャン、なのだから。

世界のインディーズ・レーベルが日本という世界第二位の音楽市場にアーティストを売り込むための場を提供する、という趣旨のこのイベント。スタートは2017年だという。そして昨年はじめて観戦して強烈な印象を持った。よく知っている渋谷のライヴハウスが1時間刻みぐらいで次から次へと異なる国のムードに包まれるのだ。アジアのイスラム系の国のメタルバンドが出たときは客席にヒジャブで髪を隠した女性ファンが押しかける、といった具合に。

今年は2日間、観戦した。まず初日はフランスのLivingstoneから。シンプルな3ピース・バンドだが一聴して違うのは音の配分。あくまでも歌が鮮明に聴こえるぐらいに楽器の音が抑えられている。ゆえに全員のプレイも余すことなく届いてくる。これは彼らに限らず向こうのバンドと日本のバンドの大きな違いだろう。感じとしてはボーカルの弾き語りにベースとドラムがくっついた態。実際、ボーカリストはエレキをアコギのように指でつまびいていた。
▲Livingstone
BO-PEEP


続いてBO-PEEP。歌をかき消すぐらいの爆音で速いテンポ、という部分ではいかにも日本のバンド。ただ自分たちの音楽への没入具合では今回見た全ての出演者の中でトップだったかもしれない。ヨーロッパ・ツアーに向けて入手したという新しいギターのストラップが何回もはずれていたミカ。それでも微動もしない歌とパフォーマンスが音楽への入り方を証明していた。また午前中の音楽関係者向けカンファレンス (於・東武ホテル)で講演したプロデューサーのリー・ポパが昨年彼女たちのアルバムを手がけたよしみでステージに上がり、お客さんをアオる一幕もあった。

3番手はAlone and meという名義の女性ソロ・ボーカル。といっても単なる弾き語りとかではなくルーパーを使った一人バンド・パフォーマンス。色んな奏法のギターや声をその場でどんどん重ねていく様を見せつつのライヴだ。この手のやり方って反復する音の積み重ねで終わってしまう人が多いけど、彼女の場合はちゃんと曲が展開していくより高度な方向性。しかもズッと座っていながらも手足を大きく動かしての身振り手振りも伴っていた。ここ数年で100回以上の公演をやっているというのがうなづけるスキルの持ち主だった。
▲Alone and me
▲MAREO


翌10月4日は“ラテンアメリカ・ナイト”というくくり。トップバッターはSantiago Valenciaというチリのシンガーだ。本人はスーツに身を固め、バックバンドのメンバーは全員が揃いのストライプの服。レパートリーはラテンな曲だけではなく古き良きロックンロールなどもあり。そしてそこでは本人が往年のロカビリー歌手的なパフォーマンスも見せてしまう、という芸人風なノリが微笑ましい内容だった。

続いてはブラジル在住のNicola Son。何気にハミングで1曲通したサウンド・チェックがすでにお客さんの気持ちをキャッチ。いざ本番が始まるといかにもラテンなライヴという感じで場内はグングン盛り上がった。カップルでダンスする人なんかも出て。ちなみに彼の本来のバックバンドは手続きの遅れか出国できなかったようで、今回は日本在住の友人ドラマーと日本人のベース、サックスがサポートを務めていた。そんなことともものともせず平然とお客さんをノセてしまうところに場数を感じた。

3番手は日本のアコースティック・ギター・デュオEscalera al Cielo。彼らの音源と比べると演奏の荒さがやや目立ったが、それでも2本のギターで出来ることの幅はとてもおもしろかった。一瞬にして一方がボディを叩いてパーカッションになったり、共に弦を弾きながらも緩急自在な音量やハーモニーの変化があったり。ラテン音楽へのボキャブラリーの広さも注目だった。

見に行けなかった最終日は“アコースティック・ポップ・ナイト”というくくりだったそうだが、全体として<フジロック>のメニューをライブハウスにぎゅっと凝縮したかのような多彩さ。しかも当日でも2000円という敷居の低さ。音楽関係者はもちろんだが日本の音楽ファン、そして日本のミュージシャンにこそ見て欲しい内容だと思った。間違いなく普段気づかない何かを感じさせてくれるコンテンツだから。

取材・文◎今津甲
撮影◎M IICA

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