生瀬勝久×藤木直人が挑む「見たら元
気になれる」恋愛狂騒劇 KERA CROS
S 第二弾『グッドバイ』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが新たに創り上げるシリーズ・KERA CROSS。第一弾『フローズン・ビーチ』(鈴木裕美演出)に続き、第二弾の『グッドバイ』が2020年1月〜2月に上演される。
本作は、太宰治の未完の遺作小説「グッドバイ」をベースに、KERAが全く新たなドラマとして書いた作品で、2015年にKERA自身の演出で上演、第23回読売演劇大賞において最優秀作品賞、およびKERAが優秀演出家賞、小池栄子が最優秀女優賞を受賞、さらに平成27年度芸術選奨においてKERAが文部科学大臣賞を受賞するなど、高い評価を受けた。
今回、この作品の演出に挑むのは、初演に深く感銘を受けたという生瀬勝久。2009年に上演された『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』以来の舞台演出となる。そして、妻子がありながら愛人が10人もいるという不埒な男・主人公の田島周二には、映像のみならず、蜷川幸雄演出作品など舞台でもその存在感を示している藤木直人。そんな二人がどのような思いで今作に挑むのか、話を聞いた。
初演を見ていたときはまさか自分がやるとは想像もしなかった
左から 藤木直人、生瀬勝久
ーー今作で生瀬さんは演出と出演、藤木さんは主演されますが、今の心境を教えてください。
生瀬:僕はこれまで、KERAさんの作品に出演しているし、観客としてもたくさん見てきました。その中でも一番印象深くて好きだったのが、この『グッドバイ』だったんです。今回、演出のお話しをいただいたとき、実は最初は別の作品でオファーが来ていました。でも、「もし作品を選べるのであれば『グッドバイ』をやりたい」と希望を出してみたら、OKをもらえて。この作品は、初演を見に行ったときにあまりにも興奮して、終演後にKERAさんと(小池)栄子ちゃんと(緒川)たまきちゃんと4人で食事に行って、そこで感想を延々と熱く語って。「これは絶対に再演してくださいよ」なんて言っていたら、まさか自分が演出することになるとは思っていませんでした。最初は演出だけ、という話でしたが、「出演もできる?」と後から聞かれて、「出演します」とお返事しました。
ーー演出と出演、両方をやることはご自身にとって負担にはならないのでしょうか。
生瀬:好きだからね、お芝居が。だから全然です。昔劇団をやっていたときに、作・演出・出演というケースもありましたし、あまりストレスは感じないです。自分が出ていた方が舞台上のリズムをコントロールできるというか、自分がタクトを振れる感じもあるので、出演していた方がやりやすい部分もあるんですよ。
ーー藤木さんは主人公の田島役でのご出演です。
藤木:2014年に『海辺のカフカ』に出演してから、2017年の音楽劇『魔都夜曲』まで連続して舞台に出演していたのですが、その後はちょっと舞台から遠ざかっていて。離れてしまうと舞台に立つのが怖くなるところもありますから、そろそろ舞台をやりたいな、と思っていました。この作品は僕も初演を見ているのですが、太宰治が原作ということで「どれだけ重たい作品なんだろう」と思いながら行ったら、舞台でこんなに笑いが起きるんだ、と驚いたくらいで。客席がすごく笑っていましたね。中でもキヌ子のキャラが凄まじくて、それを小池さんが見事に怪演されていたのが強く印象に残っています。他の出演者の皆さんも実力のある方々でしたから、台本以外にも個人のパワーで笑いを取る場面が沢山あって、本当に笑いの絶えない作品でした。ですから今回のお話しをいただいたときは、ぜひとも参加したいと思いました。
藤木直人
生瀬:でも、初演の舞台を見ていたときは「まさか自分が」だよね。
藤木:いやもう、自分が出演するなんて想像すらしていないです。僕は舞台を見ながら「この役やりたい」とか「どうやって演じてみたい」なんて思ったことがなくて、純粋に「ああ面白い作品だな」って楽しんでいるので。
「死ぬときに『あぁ、楽しかった』と言って死にたい」(生瀬)
ーー生瀬さんと藤木さんは、2008年に藤木さんにとって初舞台となった『冬の絵空』で共演されていますが、そのときの印象はいかがでしたか。
生瀬:『冬の絵空』のとき、演出はスズカツさん(鈴木勝秀)だったから、僕から藤木くんに直接何かアドバイスしたり、ということはありませんでしたが、思うところはあったんです。だから、今回は僕が演出ということで、藤木くんのいいところを引き出したいというか、彼にやってほしいことがあるんですよ。彼もいい年になってきたので、今回、ここでもう一つステップアップするいい機会になって欲しいと思っています。
ーー生瀬さんは最近、映像でご活躍を目にすることが非常に多いですが、今年に入られてから舞台のお仕事はされていませんね。
生瀬:僕はお芝居を始めて三十数年経ちますが、今年は一本も舞台の仕事がなかったんです。それは舞台を休もうと思ったとかではなくて、たまたまなんですが、だからこそ、舞台に対しての思いというか、やりたいことがすごく溜まってるんです。それで来年に向けてワークショップをやってみたり、いろいろと準備をしているので、今作がとっても楽しみなんですよね。
生瀬勝久
ーー生瀬さんが初演をご覧になったときに『グッドバイ』に強く心を魅かれたのは、具体的にどういうところだったのでしょうか。
生瀬:ハッピーエンドだったからですね。僕は死ぬときに、それがたとえどんな死に方でも「あぁ、楽しかった」と言って死にたい、そういう生き方をしたい、と思っています。例えば病気でも、最後は苦しいけど振り返ってみると楽しかったね、という気持ちで最後を締めくくりたいです。
ーー藤木さんは田島という役については、どう思われますか。
藤木:現代ではなかなか成り立たないですよね、コンプライアンス的に。
生瀬:いや、こういう人いるよ、絶対いる。しかも幸せだと思うよ。
藤木:え?幸せですか?あれだけ大勢いてすべて対等に愛してあげるというのは難しい気がしますけど……。
生瀬:難しいし体力もいるし、だけど全員が好きなんだよね。ひとりひとりに真剣になって、この人が好き、というときは他の人のことを忘れてるんですよ。彼の言うことは、全部本心だから。僕も昔、あなたのこと好き、って言っておきながら電車に乗ったらもう忘れちゃって、なんてことしてたな。だから田島には共感できますよ(笑)。
藤木:田島の役作りについては、生瀬さんに全面的に指導していただきます(笑)。
藤木直人
「演劇は個人技じゃなくて、関係性」(生瀬)
ーー初演がKERAさんの演出でしたから、今回は生瀬さんがどのような演出をされるのか、非常に興味深いです。
生瀬:演劇は個人技じゃなくて、関係性で成り立っているものですから、そのカンパニーの中でどういうものを創るかが重要になってきます。アイディアはいくつかありますが、稽古が始まる前の現段階で描いている理想みたいなものは特にないんですよ。台本はKERAさんが書いた面白いものが既にありますから、セリフを信じて、そのセリフの思いでやってもらえればいいんです。面白いことをやってやろう、ではなくて、台本に書いてあるように、登場人物が真剣に困っている姿を見せることができれば面白くなります。本人は周囲が見えていなくて、本気で苦しんで、本気で愛しているから、観客に「この人馬鹿だな」と思わせることができて面白いんです。
ーー先ほど、藤木さんのステップアップの機会になれたら、というお話しをされていましたが、具体的に藤木さんのどういった面を引き出したいとお考えでしょうか。
生瀬:藤木くんはビジュアル的にとってもスマートだし、彼が困る役って今までそんなになかったと思うので、「藤木くんってこういう役もとってもキュートだね」「藤木くんの田島は抜群だよね」と思ってもらえるように持っていきたいと思っています。もうそこは演出家の責任ですから、信じて疑わずにやっていただきたいですね。
藤木:生瀬さんの演出を受けるのは本当に楽しみです。ドラマの現場だと、スタッフさんは僕よりも若い人が多くて、だからお芝居に対して何か言われることもあまりなくて。もちろん自分なりに役について考えたりしていますが、自分の考えとは違うベクトルが存在するんだ、というのを生瀬さんが教えてくださるのは心強いですし、役者として演技の引き出しが増えるのであればそんなに素晴らしい経験はないと思っています。
生瀬:やっぱり役者さんだから、自分で役のベースを考えてくると思うんですけど、それを崩すのが多分演出家としての僕の仕事だと思います。僕の場合はスタンダードを崩すのが自分のやり方でもあるので、違うアプローチの可能性を探りたいなという思いがあります。正直、僕自身もどうなるのかわからないですよ。このキャストですし。
生瀬勝久
藤木:すごくいろんなジャンルの方が集まっていますよね。
生瀬:キャスティングはもう百点満点ですね。まず、ソニンさん。会ったことないです(笑)。じゃあなぜキャスティングしたのかというと、いろんな方のソニンさんのイメージと評価を総合したら、いける、と。会ったことないのはソニンさんだけで、あとはみなさん、オーディションやコネクションです(笑)。
藤木:僕は初めての人ばかりです。
生瀬:僕好みのキャスティングで、みんなそれぞれにいいですよ。能條さんはオーディションだったのですが、会って「この人だ」って思うくらいすごかったです。MIOとYAEは「タンスにゴン」のCMを見て、絶対に共演したい!と思ったんです。
第一弾として公開されたメインビジュアル
「太宰さん、KERAさん、生瀬さん。こんなに豪華なリレーはない」(藤木)
ーー今作はKERA CROSSの第二弾ですが、KERA CROSSという企画についてはどのように思われていますか。
生瀬:KERAさんの懐が深いんだな、と思います。自分が書いたものを人に渡すというのは、なかなかの度胸が必要というか、不安もあると思います。その辺KERAさんがどういう思いで「やっていいよ」と言ったのか、聞いてみたいですね。まあでも「自分よりは面白くできないだろうな」という自信がどこかにあるんじゃないですかね? 僕だったら、自分の作品を他の人が演出するのを見るのは嫌ですもん。KERAさんが今作を見に来たときに「やっぱり俺がやった初演の方が面白かったな」って思うのか、泣いて帰るのか、どう思うかですよね。僕は演出家としてKERAさんの足元にも及びませんけど……泣いて帰ればいいのに(笑)。
藤木:そういうふうに思うものなんですか?やっぱり演出をしていると、舞台の見方が変わってくるんですかね。
生瀬:それはあるね。ドラマでもなんでも、お芝居を素直に見られなくなってきていて、ストーリーを単体で見て、役者も単体で見るから、総合の作品としては見られない。
藤木:細分化して見ちゃうんですね。
藤木直人
生瀬:でも今は、本当にワクワク感しかないです。早く稽古初日を迎えていろんなことが具体的になっていけばいいのにな、と思っています。僕はあまり段取りを決めないので、フレキシブルにいろんなものが変わっていけばいいと思うし、良いアイディアがあればそれを採用、みたいな作り方になるでしょうね。
ーー稽古が始まらないことには、具体的なことはまだわからないですね。
生瀬:わからない。なにしろ、ソニンさんにもまだ会ってないからね。会ってみて、ものすごくお互い合わなかったらどうしよう(笑)。
ーーでは、公演に向けてのメッセージをお願いします。
藤木:太宰治さんから始まって、KERAさんが後に書いたものを、生瀬さんが演出する、こんな豪華なリレーはないと思いますし、単純に楽しめる、笑える作品なので、令和になって初めて迎える新年の笑い初めにぜひ『グッドバイ』を選んで欲しいと思います。
生瀬:観た次の日に元気になりますよ、という、それが僕のお芝居をやる原動力なので、そういう舞台を作りたいと思っています。元気になりたい方はぜひ劇場に足をお運びください。
左から 生瀬勝久、藤木直人
取材・文=久田絢子 撮影=敷地沙織

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